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3話 『人間との出会い』
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「――今だ! 一斉に攻撃を仕掛けろ!――第六魔法・ファイアーエスターク」
声の聞こえた方向へと向かうと、光が見えてきた。
いや、正確には炎というべきか。大規模な火事が起きているのかと錯覚するほどの大きな炎の柱が、少し離れたこの場所からでも視認できた。
まるでファンタジー世界。
否、ここは本物のファンタジー世界だった。
岩場から覗くと、そこは漫画の世界だった。炎や雷が飛び交い、俺が寝ていた場所と同じ洞窟だとは思えないほどに戦闘している周囲一体は輝いていた。
「アイラは引き続きディオの回復。エラファスはあと少しだけ奴らの注意を引き付けてくれ! ――特大魔法がもう少しで打てるっ!」
「「「りょーかい!」」」
見当たる人間はざっと四人。
それぞれ役割をこなして戦闘しているようだが、ディオって女の子が戦闘不能になったているらしい。地面に倒れている彼女に向けて、アイラと呼ばれた少女は両手を広げている。
奥を見るとこむぎたちの同族だと予想できる姿をした獣が数匹、いや、下手したら数十匹単位でいた。
応戦している人間の周りにも何匹かの死体があることを踏まえると、結構長い時間こうして戦っていることが分かる。
――グラァァァァアアア!
さっきの異様な空気の出処がこの雄叫びでわかった。
群れの中心にいるあいつだ。
こむぎが子供だと思えるほどに大きい。あっちの世界でこいつより大きい生物が果たして存在するのか。
こむぎを狼で例えるなら、あいつは太古の昔に存在していた恐竜だ。
あいつを見ると狼なんて比べ物にならないほどの威圧感に気圧される。
「ネアくん! 私ももう魔力が!」
「すまない、あと少しで魔法が使え――グハッ!」
「うそ、ネアくん……大丈夫!? エラファス!」
「あいよ!」
指示を出していたネアという黒髪の男の腕が、獣の長い爪による斬撃によって負傷する。
アイラの呼び声に全てを察したのか。ネアを庇うようにエラファスは獣を押し退け、前に出た。
回復対象をネアに変えようとする少女に、ネアは小さく手を振る。
「ぼ、僕は大丈夫だから。ディオへの回復はやめないでくれ」
ゲームでいう役職的に、エラファスという体の大きい男はタンクという立ち位置だろうか。その隣にいるアイラはヒーラーか?
そしてネアは魔法使いといったところ。炎や雷もネアが出している魔法みたいだ。
いやいや、観察している場合ではなかった。
「そろそろ行った方がいいな――お前ら、出てこい」
「わふん!」
これが本当にあいつと同じ種族なのだろうか。
助けに入って勝てる気がしないのが今の本音だ。そんな俺の気持ちを察したのか、こむぎが強く地面を踏みつけた。
どうやらやる気みたいだ。
「元々仲間だろ、殺れるか?」
聞くまでもないのか、こむぎたちは俺の前に出た。
あのボスはこむぎたちに任せて、俺もネアという男の援護に入るとしよう。
「じゃあお前ら、行け!」
俺の合図でこむぎたちが駆ける。
これが初陣である。目覚めて間もない俺だが、そんなことは関係ない。異世界転生して、寝起きで欠伸している暇なんて普通はないだろう。
「な、なんですかこれ!」
「黒い、レッドウルフだと……?」
「エラファス、なんか矛盾してるじゃないですか!」
「俺だって分かるわけないだろう!」
目の前にいる状況に一瞬の戸惑いを見せたアイラとエラファスがそんな掛け合いをする。
「うそ、私たちですら苦戦したレッドウルフがこんな簡単に……」
こいつらはレッドウルフというのか。
こむぎに見なれたせいであまり気に留めなかったが、言われてみれば全員赤い体毛をしている。
「黒い方は俺のペットなんで気にしないでください」
「あ、あなたは?」
ネアが腕の傷口を抑えながら聞いてきた。
損傷が酷いらしい。口からも吐血していて痛々しい。
「俺は、アイルです。アイル・エンリア。あの、そこら辺にあるレッドウルフを借りてもいいですか?」
「か、借りる? えっと、何をするか分からないけど、いいよ……?」
「助かります、多勢に無勢なので――」
――『目覚めろ』
その言葉と同時、死んでいた数匹のレッドウルフの体からから黒い煙が巻き上がる。
「この能力はなんだ……ア、アルトくん、君の天職(ギフテッド・ワークス)は一体なにか聞いてもいいかいっ?」
「えっと、一応《付与術師》みたいです」
「『みたい』? はは、おかしいな言い回しをするな。でも、すごい。君のおかげでレッドウルフがあんなにも簡単に……」
最前線を駆け抜けるのは『あさがお』だった。
小さい体を生かした俊敏な動き。その速さは俺の予想を遥かに上回っている。
目にも止まらぬ速度でレッドウルフの首を爪で確実に狙っている。
――『目覚めろ』
――『目覚めろ』
――『目覚めろ』
時間と共に増えていく死体に何度も《死霊術師》の能力を施す。
これがこの能力の真骨頂である。
多勢に無勢だった不利な状況は、気付けばレッドウルフのボスだけを残して一変していた。
「す、すごい……」
アイラが驚きの声を漏らす。
赤い軍勢は黒い軍勢に変わっていた。オセロだったらほぼ王手だな。
俺が仕掛けた初戦闘だったが、正直アイラと同じ感想を持っていた。
「まだ終わってないですよ」
「……アルトくん、僕も特大魔法を使えるようになった。けど、もう少しを威力をあげたいんだ。……その、助けてもらった身で頼むことではないんだけど、僕に『魔力付与(エンチャント)』してくれないかい」
「えっと、使えるなら使ってあげたい気持ちはあるんだけど。なんていうか、使い方教えてもらっても、いいですか?」
「「「え?」」」
まぁそんな反応されるよね。分かってたよ。
けど、全員で同時にそんな反応しなくてもいいじゃないか。
「そうだね。一般的なアドバイスをするなら、普通に詠唱すればいいと、思う。すまない、僕も自分の天職(ギフテッド・ワークス)以外の知識はないんだ」
詠唱とは《死霊術師》で言うところの『目覚めろ』的な一言だろうか?
「俺の友達の付与術師は『魔力付与(エンチャント)』する時に、『来たれよ神の御加護、森羅万象を無に帰す魔力の根源、その真価を我が目に映したまえ!』と叫んでいたな」
いや、全然違うじゃん。
思ってたよりもThe・ファンタジーみたいな詠唱じゃん。
しかも詠唱がそこそこ長いせいで、言い終わる前に殺されそうだよな。
――グラァァァアアアァ
ずっと戦っているこむぎたちの攻撃が届いていないのか、唯一の生き残りにして、ボスのレッドウルフが再び雄叫びをあげた。
こむぎの雄叫びよりも威力は数段高く、その雄叫びだけで黒い軍勢の大半が吹き飛ばされ、煙と化した。
「――攻撃が来る前にお願いしますっ!」
羞恥心を拭って、エラファスのアドバイス通りに俺は一言一句間違えることなく詠唱してみる事にした。
「わかったよ! 言えばいいんでしょ!?――『来たれよ神の御加護、森羅万象を無に帰す魔力の根源、その真価を我が目に映したまえ!』」
そのまま復唱するだけでよかったらしい。
赤い色の光がネアの体を包み込んだ。
「すごい! こんなにも魔力が漲ってくるなんて……よく分からない力を使うとは思っていたけど、《付与術師》としての力も本物じゃないか!」
ネアが驚きの声を上げた。俺の能力の影響かは分からないが、傷口が少しだけ修復されているような気がする。
自分の魔力を人に与える。
バフスキル的なものだろうか?
「エラファス、みんなを衝撃から護ってくれ」
「おうよ、『龍神の加護』」
ネアが立ち上がる。
エラファスの詠唱で、俺を含めた四人を緑色の光が覆った。
それを確認し、ネアは詠唱した。
俺もそれに合わせて死霊術師の能力を解除した。
俺の軍勢と戦っていたレッドウルフが、黒い影の中から露わになる。
そしてそれを的として放たられる大魔法。
――『第三魔法・グラビランス』
虚空に現れた黒い球体。
空間を引き裂くような轟音と、衝撃波を四方八方に放ちながら、それはゆっくりとレッドウルフへと放れた。
そして逃げる間もなく、レッドウルフの体にそれは接触した。
あさがおほどの俊敏さがあれば当たらなかったと思うが、その巨躯にはそれを可能にする力はなかったらしい。
体が半分ほど消えた状態で、最後のレッドウルフが地面へと倒れた。
「はぁはぁ、倒せた……なんとお礼をしたらいいのか。正直僕たちだけではこの群れですら倒すことなどできなかった。本当にありがとう」
「助かった、ありがとう」
「本当にありがとうございましたっ」
ネアの言葉に続いて、エラファス、そしてアイラが頭を下げた。
結局ボスを倒したのはネアだ。こむぎたちだけであいつを倒せていたかと言われたら怪しい。
ボスの雄叫びで俺の軍勢の大半消えてたし……
「いや、ボスを倒したのはあなたです。僕は何もしてないんで気にしないください」
「そのボスだって『魔力付与(エンチャント)』のおかげで倒せました。何かお礼をさせてください。命を助けてもらった恩を受けたままでは、僕たちは納得して明日を迎えられません」
「そう言われてもなぁ。……あ、強いて言うなら俺のことは他の人に話さないでほしいかな? あとこの洞窟の出口教えてもらえます?」
「そんなことでいいの……?」
「はい、お願いします」
「では、約束しましょう。アルトさんのことは誰にも話さないし、洞窟の出口へ安全にご案内させてもらいます!」
「そんな大袈裟じゃなくてもいいんだけど……」
ネアからすれば大したことではないのかもしれないが、こんな場所にいきなり転生させられた俺からすれば、出口を知っている人間が目の前にいることに感激すらしてしまう。
ましてや言語が通じて、なんか優しい感じの人だった。これが超陽キャのオラオラ系だったらこの戦いも知らないフリして逃げてたところだった。よかった。
「では、行きましょう! もしかしたら奥からレッドウルフ以外にも出てくるかもしれない。それに僕の仲間も気絶してしまっている。早く地上に戻ってゆっくりと治療をしないといけない……」
「そうだね、俺も早くここから出たいかも。――あ、一つ忘れ物。少し待ってもらっていい?」
「えっと、大丈夫ですけど?」
不思議そうな顔を浮かべるネア。
「ただ待たせるのはあれだし、アイラさんはその子の治療をしておいてあげて」
「え、あ、えっと、もう回復できるほどの魔力が……」
戸惑うアイラに俺は『魔力付与(エンチャント)』を施した。それが俺の天職の本来の役目みたいだし。
あくまで俺の中の魔力を渡しているだろうから、渡しすぎるのもよくはない気はするけど。でもまだ魔力が尽きる感じはない。
「これでどう?」
「ま、魔力がっ! これだけの魔力があれば!」
本調子に戻ったらしい。
「じゃあ待っててください」
「は、はい」
ネアの許可をもらったことだし、奥に見える半身しか残ってないレッドウルフのボスの方へと俺は向かった。
「あれは何をしてるんだ?」
「僕に分かるわけないでしょう」
――『目覚めろ』
「うわ! なんだあれ!」
「僕も聞きたいよ! なんだよあれ! エラファスの友達の《付与術師》もあんなことができるのか!?」
「で、できるわけないだろう!」
なんか後ろでネアとエラファスで漫才のような会話が繰り広げられているが、まぁ口外しないと約束してくれたし隠す必要もないだろう。
それにしても、こむぎたちは頭が無くても死霊術師の能力を使えたけど、首から胸辺りまでの半身がないレッドウルフにも能力が使えるとは思わなかった。
「――んで能力で生き返ったら元通り、ね」
ほんと、自分でもなんだこれって思う能力である。
未だに《固有スキル:無からの覚醒(ネクロマンス)》について全く分からないが、それに関しては今後解明していくとして――、
「見てください! この私に懐いてますよ!?」
戻るとさっき消したはずのこすもすがアイラと戯れていた。
五匹の中で一番毛量が多く、もふもふしているのが特徴的なこすもす。触れば虜になる気持ちもよく分かる。
「この子連れて帰っていいですか!?」
「ダメです」
「毎日散歩も行きます!」
「ダメです」
「あ、じゃあじゃあ!」
「何を言ってもあげませんから!」
「うぅ……」
俺の決死の反対に、アイラも不服そうではあるけど諦めた様子。
こすもすは俺のお気に入りでもあるからそう簡単に渡さない。
とはいえ、本当に懐いているらしい。確かに意志を持ってアイラの方へ寄って行っている気はする。しっぽも揺れている。
こいつは犬か!
だがそんな大はしゃぎしている少女の隣には、先程よりも顔がやつれたように見えるネアが苦笑いで立っていた。
「待たせちゃってすみません」
「は、はい……」
「ちょっとアルトくんの見たことの無い力にびっくりしただけです」
「大丈夫ですか?」
「あ、はい。僕のことは気にしなくて大丈夫ですよ、行きましょう……」
口調が敬語に変わった。
何が何だか分からないが、驚かせてしまったらしい。死霊術師の能力は不用意に人に見せないようにしよう。
まぁ、何はともあれ。
洞窟からの脱出。
俺の転生物語の第一歩である。
声の聞こえた方向へと向かうと、光が見えてきた。
いや、正確には炎というべきか。大規模な火事が起きているのかと錯覚するほどの大きな炎の柱が、少し離れたこの場所からでも視認できた。
まるでファンタジー世界。
否、ここは本物のファンタジー世界だった。
岩場から覗くと、そこは漫画の世界だった。炎や雷が飛び交い、俺が寝ていた場所と同じ洞窟だとは思えないほどに戦闘している周囲一体は輝いていた。
「アイラは引き続きディオの回復。エラファスはあと少しだけ奴らの注意を引き付けてくれ! ――特大魔法がもう少しで打てるっ!」
「「「りょーかい!」」」
見当たる人間はざっと四人。
それぞれ役割をこなして戦闘しているようだが、ディオって女の子が戦闘不能になったているらしい。地面に倒れている彼女に向けて、アイラと呼ばれた少女は両手を広げている。
奥を見るとこむぎたちの同族だと予想できる姿をした獣が数匹、いや、下手したら数十匹単位でいた。
応戦している人間の周りにも何匹かの死体があることを踏まえると、結構長い時間こうして戦っていることが分かる。
――グラァァァァアアア!
さっきの異様な空気の出処がこの雄叫びでわかった。
群れの中心にいるあいつだ。
こむぎが子供だと思えるほどに大きい。あっちの世界でこいつより大きい生物が果たして存在するのか。
こむぎを狼で例えるなら、あいつは太古の昔に存在していた恐竜だ。
あいつを見ると狼なんて比べ物にならないほどの威圧感に気圧される。
「ネアくん! 私ももう魔力が!」
「すまない、あと少しで魔法が使え――グハッ!」
「うそ、ネアくん……大丈夫!? エラファス!」
「あいよ!」
指示を出していたネアという黒髪の男の腕が、獣の長い爪による斬撃によって負傷する。
アイラの呼び声に全てを察したのか。ネアを庇うようにエラファスは獣を押し退け、前に出た。
回復対象をネアに変えようとする少女に、ネアは小さく手を振る。
「ぼ、僕は大丈夫だから。ディオへの回復はやめないでくれ」
ゲームでいう役職的に、エラファスという体の大きい男はタンクという立ち位置だろうか。その隣にいるアイラはヒーラーか?
そしてネアは魔法使いといったところ。炎や雷もネアが出している魔法みたいだ。
いやいや、観察している場合ではなかった。
「そろそろ行った方がいいな――お前ら、出てこい」
「わふん!」
これが本当にあいつと同じ種族なのだろうか。
助けに入って勝てる気がしないのが今の本音だ。そんな俺の気持ちを察したのか、こむぎが強く地面を踏みつけた。
どうやらやる気みたいだ。
「元々仲間だろ、殺れるか?」
聞くまでもないのか、こむぎたちは俺の前に出た。
あのボスはこむぎたちに任せて、俺もネアという男の援護に入るとしよう。
「じゃあお前ら、行け!」
俺の合図でこむぎたちが駆ける。
これが初陣である。目覚めて間もない俺だが、そんなことは関係ない。異世界転生して、寝起きで欠伸している暇なんて普通はないだろう。
「な、なんですかこれ!」
「黒い、レッドウルフだと……?」
「エラファス、なんか矛盾してるじゃないですか!」
「俺だって分かるわけないだろう!」
目の前にいる状況に一瞬の戸惑いを見せたアイラとエラファスがそんな掛け合いをする。
「うそ、私たちですら苦戦したレッドウルフがこんな簡単に……」
こいつらはレッドウルフというのか。
こむぎに見なれたせいであまり気に留めなかったが、言われてみれば全員赤い体毛をしている。
「黒い方は俺のペットなんで気にしないでください」
「あ、あなたは?」
ネアが腕の傷口を抑えながら聞いてきた。
損傷が酷いらしい。口からも吐血していて痛々しい。
「俺は、アイルです。アイル・エンリア。あの、そこら辺にあるレッドウルフを借りてもいいですか?」
「か、借りる? えっと、何をするか分からないけど、いいよ……?」
「助かります、多勢に無勢なので――」
――『目覚めろ』
その言葉と同時、死んでいた数匹のレッドウルフの体からから黒い煙が巻き上がる。
「この能力はなんだ……ア、アルトくん、君の天職(ギフテッド・ワークス)は一体なにか聞いてもいいかいっ?」
「えっと、一応《付与術師》みたいです」
「『みたい』? はは、おかしいな言い回しをするな。でも、すごい。君のおかげでレッドウルフがあんなにも簡単に……」
最前線を駆け抜けるのは『あさがお』だった。
小さい体を生かした俊敏な動き。その速さは俺の予想を遥かに上回っている。
目にも止まらぬ速度でレッドウルフの首を爪で確実に狙っている。
――『目覚めろ』
――『目覚めろ』
――『目覚めろ』
時間と共に増えていく死体に何度も《死霊術師》の能力を施す。
これがこの能力の真骨頂である。
多勢に無勢だった不利な状況は、気付けばレッドウルフのボスだけを残して一変していた。
「す、すごい……」
アイラが驚きの声を漏らす。
赤い軍勢は黒い軍勢に変わっていた。オセロだったらほぼ王手だな。
俺が仕掛けた初戦闘だったが、正直アイラと同じ感想を持っていた。
「まだ終わってないですよ」
「……アルトくん、僕も特大魔法を使えるようになった。けど、もう少しを威力をあげたいんだ。……その、助けてもらった身で頼むことではないんだけど、僕に『魔力付与(エンチャント)』してくれないかい」
「えっと、使えるなら使ってあげたい気持ちはあるんだけど。なんていうか、使い方教えてもらっても、いいですか?」
「「「え?」」」
まぁそんな反応されるよね。分かってたよ。
けど、全員で同時にそんな反応しなくてもいいじゃないか。
「そうだね。一般的なアドバイスをするなら、普通に詠唱すればいいと、思う。すまない、僕も自分の天職(ギフテッド・ワークス)以外の知識はないんだ」
詠唱とは《死霊術師》で言うところの『目覚めろ』的な一言だろうか?
「俺の友達の付与術師は『魔力付与(エンチャント)』する時に、『来たれよ神の御加護、森羅万象を無に帰す魔力の根源、その真価を我が目に映したまえ!』と叫んでいたな」
いや、全然違うじゃん。
思ってたよりもThe・ファンタジーみたいな詠唱じゃん。
しかも詠唱がそこそこ長いせいで、言い終わる前に殺されそうだよな。
――グラァァァアアアァ
ずっと戦っているこむぎたちの攻撃が届いていないのか、唯一の生き残りにして、ボスのレッドウルフが再び雄叫びをあげた。
こむぎの雄叫びよりも威力は数段高く、その雄叫びだけで黒い軍勢の大半が吹き飛ばされ、煙と化した。
「――攻撃が来る前にお願いしますっ!」
羞恥心を拭って、エラファスのアドバイス通りに俺は一言一句間違えることなく詠唱してみる事にした。
「わかったよ! 言えばいいんでしょ!?――『来たれよ神の御加護、森羅万象を無に帰す魔力の根源、その真価を我が目に映したまえ!』」
そのまま復唱するだけでよかったらしい。
赤い色の光がネアの体を包み込んだ。
「すごい! こんなにも魔力が漲ってくるなんて……よく分からない力を使うとは思っていたけど、《付与術師》としての力も本物じゃないか!」
ネアが驚きの声を上げた。俺の能力の影響かは分からないが、傷口が少しだけ修復されているような気がする。
自分の魔力を人に与える。
バフスキル的なものだろうか?
「エラファス、みんなを衝撃から護ってくれ」
「おうよ、『龍神の加護』」
ネアが立ち上がる。
エラファスの詠唱で、俺を含めた四人を緑色の光が覆った。
それを確認し、ネアは詠唱した。
俺もそれに合わせて死霊術師の能力を解除した。
俺の軍勢と戦っていたレッドウルフが、黒い影の中から露わになる。
そしてそれを的として放たられる大魔法。
――『第三魔法・グラビランス』
虚空に現れた黒い球体。
空間を引き裂くような轟音と、衝撃波を四方八方に放ちながら、それはゆっくりとレッドウルフへと放れた。
そして逃げる間もなく、レッドウルフの体にそれは接触した。
あさがおほどの俊敏さがあれば当たらなかったと思うが、その巨躯にはそれを可能にする力はなかったらしい。
体が半分ほど消えた状態で、最後のレッドウルフが地面へと倒れた。
「はぁはぁ、倒せた……なんとお礼をしたらいいのか。正直僕たちだけではこの群れですら倒すことなどできなかった。本当にありがとう」
「助かった、ありがとう」
「本当にありがとうございましたっ」
ネアの言葉に続いて、エラファス、そしてアイラが頭を下げた。
結局ボスを倒したのはネアだ。こむぎたちだけであいつを倒せていたかと言われたら怪しい。
ボスの雄叫びで俺の軍勢の大半消えてたし……
「いや、ボスを倒したのはあなたです。僕は何もしてないんで気にしないください」
「そのボスだって『魔力付与(エンチャント)』のおかげで倒せました。何かお礼をさせてください。命を助けてもらった恩を受けたままでは、僕たちは納得して明日を迎えられません」
「そう言われてもなぁ。……あ、強いて言うなら俺のことは他の人に話さないでほしいかな? あとこの洞窟の出口教えてもらえます?」
「そんなことでいいの……?」
「はい、お願いします」
「では、約束しましょう。アルトさんのことは誰にも話さないし、洞窟の出口へ安全にご案内させてもらいます!」
「そんな大袈裟じゃなくてもいいんだけど……」
ネアからすれば大したことではないのかもしれないが、こんな場所にいきなり転生させられた俺からすれば、出口を知っている人間が目の前にいることに感激すらしてしまう。
ましてや言語が通じて、なんか優しい感じの人だった。これが超陽キャのオラオラ系だったらこの戦いも知らないフリして逃げてたところだった。よかった。
「では、行きましょう! もしかしたら奥からレッドウルフ以外にも出てくるかもしれない。それに僕の仲間も気絶してしまっている。早く地上に戻ってゆっくりと治療をしないといけない……」
「そうだね、俺も早くここから出たいかも。――あ、一つ忘れ物。少し待ってもらっていい?」
「えっと、大丈夫ですけど?」
不思議そうな顔を浮かべるネア。
「ただ待たせるのはあれだし、アイラさんはその子の治療をしておいてあげて」
「え、あ、えっと、もう回復できるほどの魔力が……」
戸惑うアイラに俺は『魔力付与(エンチャント)』を施した。それが俺の天職の本来の役目みたいだし。
あくまで俺の中の魔力を渡しているだろうから、渡しすぎるのもよくはない気はするけど。でもまだ魔力が尽きる感じはない。
「これでどう?」
「ま、魔力がっ! これだけの魔力があれば!」
本調子に戻ったらしい。
「じゃあ待っててください」
「は、はい」
ネアの許可をもらったことだし、奥に見える半身しか残ってないレッドウルフのボスの方へと俺は向かった。
「あれは何をしてるんだ?」
「僕に分かるわけないでしょう」
――『目覚めろ』
「うわ! なんだあれ!」
「僕も聞きたいよ! なんだよあれ! エラファスの友達の《付与術師》もあんなことができるのか!?」
「で、できるわけないだろう!」
なんか後ろでネアとエラファスで漫才のような会話が繰り広げられているが、まぁ口外しないと約束してくれたし隠す必要もないだろう。
それにしても、こむぎたちは頭が無くても死霊術師の能力を使えたけど、首から胸辺りまでの半身がないレッドウルフにも能力が使えるとは思わなかった。
「――んで能力で生き返ったら元通り、ね」
ほんと、自分でもなんだこれって思う能力である。
未だに《固有スキル:無からの覚醒(ネクロマンス)》について全く分からないが、それに関しては今後解明していくとして――、
「見てください! この私に懐いてますよ!?」
戻るとさっき消したはずのこすもすがアイラと戯れていた。
五匹の中で一番毛量が多く、もふもふしているのが特徴的なこすもす。触れば虜になる気持ちもよく分かる。
「この子連れて帰っていいですか!?」
「ダメです」
「毎日散歩も行きます!」
「ダメです」
「あ、じゃあじゃあ!」
「何を言ってもあげませんから!」
「うぅ……」
俺の決死の反対に、アイラも不服そうではあるけど諦めた様子。
こすもすは俺のお気に入りでもあるからそう簡単に渡さない。
とはいえ、本当に懐いているらしい。確かに意志を持ってアイラの方へ寄って行っている気はする。しっぽも揺れている。
こいつは犬か!
だがそんな大はしゃぎしている少女の隣には、先程よりも顔がやつれたように見えるネアが苦笑いで立っていた。
「待たせちゃってすみません」
「は、はい……」
「ちょっとアルトくんの見たことの無い力にびっくりしただけです」
「大丈夫ですか?」
「あ、はい。僕のことは気にしなくて大丈夫ですよ、行きましょう……」
口調が敬語に変わった。
何が何だか分からないが、驚かせてしまったらしい。死霊術師の能力は不用意に人に見せないようにしよう。
まぁ、何はともあれ。
洞窟からの脱出。
俺の転生物語の第一歩である。
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没落ルートの悪役貴族に転生した俺が【鑑定】と【人心掌握】のWスキルで順風満帆な勝ち組ハーレムルートを歩むまで
六志麻あさ
ファンタジー
才能Sランクの逸材たちよ、俺のもとに集え――。
乙女ゲーム『花乙女の誓約』の悪役令息ディオンに転生した俺。
ゲーム内では必ず没落する運命のディオンだが、俺はゲーム知識に加え二つのスキル【鑑定】と【人心掌握】を駆使して領地改革に乗り出す。
有能な人材を発掘・登用し、ヒロインたちとの絆を深めてハーレムを築きつつ領主としても有能ムーブを連発して、領地をみるみる発展させていく。
前世ではロクな思い出がない俺だけど、これからは全てが報われる勝ち組人生が待っている――。
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