どうやら転生した異世界では俺だけが《転職》できるらしい。〜職業の固有能力を引き継ぐ《転職》をしまくって無職から最強へと成り上がる〜

月並 瑠花

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12話『耐える時間と深夜の実験』

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 ――俺は今、かなりの苦境に立たされていた。


「くっ......こんなはずじゃなかったのに......」


 メノとの戦いから体を休めておおよそ一週間ほど経っての今日である。

 魔力切れで体にかなりの負担をかけたせいで、一週間部屋で休養していた。その期間、レナードにもかなりの心配をかけたらしい。

 倒れた時は優しく介抱してくれたレナードも、あの戦いを思い出す度に説教してくるようになってしまった。


「あの......」

「無駄口を叩かないでください、アルト様! 今は魔力増強の修行中です! 集中集中集中集中!」

「いや、休憩を......」

「五分前にしましたよね!? そんな休む必要ありませんよ、アルト様!」

「病み上がりなんです......」

 久々の授業再開の日なのに、半日この調子である。
 怒っているのがヒシヒシと伝わってくる。


 ――やっぱり強くなるの諦めようかな......?

 スパルタに拍車をかけるようなレナードの指導方針に、俺の病み上がりの体は悲鳴をあげている。

 そんな苦境である。


「もう一度!」


 鬼の形相のレナードに鞭を打たれ、俺は付与術の継続時間の計測をされていた。
 今のところ五分。それが俺の倒れない程度の限界の時間らしい。

「あの、もう少し魔法らしいことしたいんですけど? なんか地味っていうか......」

「付与術師は基本的に対象の魔力を付与して援護しかできません。それはアルト様も分かっていると思います」

 うん、分かっている。
 身に染みて理解している。

 付与術のみではメノに挑めないことも理解してる。
 こむぎやあさがおがいなければ、俺は単独で戦うことになる。仮に俺一人で戦うなんてことになったら、勝てる見込みなんてゼロだ。

 だからこそ――


「アルト様が今回メノ様に負けた原因は魔力量の少なさです。強くなるにはまず魔力量を増やすこと。その課題が解決してから、他のことに移りましょう」

「まぁ、そうだよねー、分かりましたよ」


 少し拗ねたような態度を取ると、まったく、とレナードに呆れられてしまった。

 無理したことも自覚してるんだけどなぁ。強くなりたいって気持ちだけが先行しすぎて、体が追いつけないらしい。

「あ、そういえば魔法ってまずは想像から始まるんだよね?」

「――? そうですが、アルト様の天職ギフテッド・ワークスは魔法士ではないので努力しても魔法は使えませんよ?」

「それは、うん。わかってるんだけどね」

「はい、じゃあもう一度計測します! 今日中に十分間継続できるように頑張りましょう!」

「いや絶対無理だから本当に無理だから」


 そうして、レナードのスパルタな修行は夜まで続いた。

 実に、地獄であった。

 またあの日のように倒れるかと思ったが、さすがの先生である。そこの見極めはしっかりされていた。

 授業の後はすぐにレナードと二人で夕食を取った。夕食は麺だった。
 魔力の量は体力に比例します!と言われて大量の麺食わされた。吐きそうになった。


 その後、膨れたお腹でお風呂に入った。上がるとメノに呼ばれて個別指導。
 もう深夜と呼べる時間に近い頃合。俺は解放され、やっとの思いで自室に帰ってきた。

 実に忙しない日である。
 家でゲームしかしない日より圧倒的に長く感じるのは勘違いだろうか。


「あぁ、そうだ」

 疲れすぎて忘れていた。
 そう。レナードの授業を受けている時から考えてはいたが、実験的なことをしようと思っていた。


 先程。授業の中で言っていたレナードの言葉。
 ――古の賢者は詠唱から魔法を発明したのではなく、魔法から詠唱を発明したらしい。

 つまりは、魔法ではないが付与術もそれに近いものがあるんじゃなかろうか。
 付与術も魔力を対象に与える能力だが、それは必ずしも人じゃないといけないわけじゃないらしい。

 実際に《無からの覚醒ネクロマンス》で出したこむぎやあさがおにも適応してくれた。


 要するに俺が何を言いたいのか。
 それを今から実践する――、


「まず、ペンを持ってと......」

 次にそのペンに《魔力付与エンチャント》をかける。
 洞窟の中で石にした時とは違う。今は具体的な想像ができる。




「――よしっ! 成功だ!」

 無機物も対象になるらしい。
 右手に持ったペンが魔力の光を纏っている。

 でも問題はここからだ。
 ただペンに魔力を与えたところでこむぎたちのように戦ってくれるわけではない。

 でも、そこに明確な想像を加える。

「そうだな、例えば――『速くなれ』」

 そう言って、俺は窓に向かって軽くペンを投げた。

「――ほえ?」

 それは一瞬の出来事だった。
 一瞬すぎてつい間抜けな声を漏らしてしまった。

 本来の軌道ではペンは重力によってそのまま地面に落ちていくはずだった。

 だが、特殊な魔力をペンに流したことによってそれは有り得ない速度で窓を貫通すると、瞬きの間に夜空の向こうへと消えていった。

「なぁに、これ......」

 放心状態である。
 まさかのまさか。しかもただ『速くなれ』と魔力を付与しただけでこの速度。

 これは人に向けないでおこう。
 そう思って俺は一先ず椅子に座った。

 自分のカバンに凶器が入っていた気分だ。
 まぁ、何はともあれ実験は成功ということだ。

 穴の空いた窓は明日レナードに相談するとしよう......また怒られるんだろうな......。
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