蒼き流れの中で

白い黒猫

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六章 ~雛は巣の外にいる~ カロルの世界

ベッドの脇での攻防

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 天蓋式のベッドがボワンとした柔らかい明かりに包まれる、ソーリスは改めて、ベッドの上で動かず横たわっているマレの姿を観察する。愛され過ぎてやや腫れた唇は少し開き。淡い蒼い瞳はトロンと蕩けままボンヤリとソーリスを映している。そして胯間はどちらの体液か分からぬもので濡れていた。

 気絶したわけではなく、ソーリスに与えられ注がれた多すぎるファクルタースによって極度の気酔いをしている状態なのだ。互いの能力を高める為の交気は、儀式としてノービリスとアミークス、ノービリス同士でもよく行われる事だが、性行為もそれに近い効果がある。行う二人の能力に差があるほど、弱い方の人物は相手の気にあてられて酔う。ソーリスの場合あえてファクルタースを注ぐ行為を抱きながら行っているために、マレはいつもソーリスのファクルタースにあてられてグッタリとなってしまう。マレが急激にその能力を高め成長が遅くなっていったのも、そこに理由があった。
 濡れた瞳はソーリスを映しているが、何も見ていない。ソーリスのファクルタースに身体中の細胞を浸蝕され翻弄されている状態だからだ。思考することも出来なければ感情を動かす事もできず、細胞レベルで犯される壮絶な苦痛とそれを上回る快楽により、陶酔感に漂うことしかできない。まさにソーリスのファクルタースを、ただ感じる事だけが出来る事なのだ。ソーリスはこの状態のマレを眺める事が溜まらなく好きであった。この状況の時は、完全にマレは自分だけのモノになっていると感じるから愛しくて溜まらない。再び身体を寄せその頬を撫でる。本能的な動作なのだろうが、マレは撫でる手に甘えるような仕草を見せ、唇を撫でるソーリスの親指を舐める。
 この状況を作り上げるまでがなかなか難しい、注いだファクルタースが少なかったら、理性が働く分苦痛の方を強く感じるようで、のたうち回る、多すぎると身体がついていけないのか意識を飛ばし、しばらく目を覚ますことすら出来なくなる。大抵の場合やり過ぎてマレが寝込む事になる。

 ソーリスは優しくマレを見つめながら、マレの舌が与える感覚を楽しむ。ふと目の端に光るものを感じ、そちらへと目をやると、少し開いた天蓋の先にある床にソレはあった。この部屋に連れ込まれたときにマレが必死で外した石の填った指輪である。
 ソーリスは抱いていたマレをそっとベッドに置き、天蓋を開けベッドの外に出る。その濃い色を持つ石から感じるファクルタースで察するまでもなく、それがクラーテールの能力を篭めた石であることを知っている。クラーテールと繋がっている石をつけたまま、ソーリスに抱かれる事をマレは嫌がる。マレはいつもその前にこの指輪を外す。普段ならサイドテーブルに置くだけの余裕を与えているのだが、今日はいささか強引だった為に外してベッドの外に出すのだけが精一杯だったのだろう。
 ソーリスはそっとしゃがんでその指輪を拾いテーブルにおいてやろうとするがソーリスが手にとって立ち上がった瞬間に弾けるようにファクルタースが溢れ出す。ソーリスは即座に結界をはる。掌の指輪から激しい炎が吹き出すがソーリスが貼った結界に阻まれ球体の中で揺れる。
《クラーテール、危ないぞ。指輪が床に落ちていたから、拾ってやっただけだろう?》
 クラーテールが石を媒体にソーリスという触媒を利用し攻撃をしかけてきたようだ。指輪を通じてクラーテールに呼びかける。
《貴様が、その指輪を触るな》
 激しいクラーテールの怒りが伝わってくる。『貴様』なんて呼び方される事にソーリスは笑う。そんな暴言を吐かれるなんて長く生きてきているが余りないからである。
《悪かった、今後は注意しよう。まあ丁度良かった、お前に話したい事があったからな》
 ソーリスは南の土地にファクルタースを放ち、懐かしき気配を探る。クラーテールが湖の所でコチラを睨むように立っているのを感じた。ソーリスの探る気を察したのだろうクラーテールは警戒する。
《……》
《そんなに睨むな、マレとお前がコソコソ指輪で対話している事は分かっている。それは許してやっているだろう?》
 掌の指輪がますます激しい炎を放つ。
《俺はソレを止めるつもりもないし、むしろ思う存分楽しんでもらいたいと思っている。ただし分かっているな? 直に接触するのは止めてもらおう。その権利はもうお前には無い》
 クラーテールの唇がニヤリと笑うように歪むのを感じる。笑っているのではない。極度の怒りがその表情をさせているのだろう。
《今という時間をせいぜい楽しめ! お前達の時間を。今はお前に貸してやる。だが、マレの未来は俺が貰う。感じているだろう? マレはお前を置いて未来に進む》
 ソーリスはそれだけを言い、指輪をテーブルに置く。その途端に石は力をなくし静かになる。能力を持つ人物が触れていないと、この石は単なる石ころになる。
 湖の所で怒り狂っているクラーテールの様子を感じ、ソーリスは嗤う。その事に満足し、クラーテールへの興味もなくし気配を探る事もやめた。
 テーブルの上にあった水差しを持ち上げグラスに注ぎ、一口その水を飲み冷たさを楽しむ、そして満足気にフーと息を吐いた瞬間、背後で何かが弾けるような音がして、振りかえる

 ベッドの天蓋が、激しくはためき、吹き荒れる力でボロボロと散っていく。マレがゆっくり上半身だけで起き上がりソーリスを見つめている。部屋の中の気温が異様に上昇していく。マレの銀の髪がファクルタースの熱によって起こる風で激しく靡いた。その淡い蒼の瞳は切れ上がり、口角がクイっと上がる。
「クラーテール、悪戯が過ぎるぞ、人の寝室にまで入ってくるとは、それとも、お前も一緒に楽しみたいのか? 三人でやるか?」
 マレの姿をしていても、ソーリスはソレが誰なのかを間違える事はない。何故、このようなあり得ない状況が起こったのかは理解できないが、その現象が事実目の前で起きている事は判断できた。その表情、そして発せられるファクルタースはクラーテールのものである。異様な状況で明らかに激憤している相手に、なだめるどころかさらに怒らせる事を言ってしまうのがソーリスである。クラーテールがいくら暴れようが、ソーリスにかすり傷を負わせる事も無理だろう。ただ気になるのは、現在クラーテールが必要以上にマレに接触している事だけである。さっさとマレの身体から追い出したいというのが本音である。その為に態と煽ってクラーテールから情報を聞き出し状況を把握する事を試みていた。二人の接触で起こるはずの咎術が発動していない事にも驚いてはいた。

 クラーテールが顔を思いっきり顰める。その途端にベッドが激しく炎を上げ燃え上がる。燃えさかる炎をもろともせず、ソーリスはベッドに近付きゆっくりとマレの姿をしたクラーテールをベッドから抱き上げ、炎から離れた手前の床に下ろす。自分が放った炎で焼かれるほど間抜けではないだろうが、クラーテールは今自分の身体ではなくマレの身体で力を使っている。マレの身体がクラーテールの能力にどれほど順応出来るのかが分からないからだ。
 全裸のマレは、起き上がる事も出来ずへたり込んだままで顔を上げソーリスを睨み付ける。ソーリスはさすがにクラーテールを同情してしまった。愛する者が他の人物に抱かれ腰が立たないほど責め立てられたらしいという状況を、このように実感として味わうというのはどれ程の屈辱なのだろうかと。マレの体内からソーリスが注いだ精が垂れて床を塗らす。
(まあ、それもクラーテールが勝手にしかけてきた事、自業自得ともいうべきか?)
 クラーテールを最も宥めるのが上手いマレは、今意識がまともに働いていない状況だけに頼るわけにもいかない。だからこそ、このようにマレの身体を乗っ取るという暴挙も出来たのだろう。どうしたものかとソーリスは悩む。マレとの契約もあり、クラーテールとやり合うわけにもいかない。かといってマレの身体を攻撃するか? そうなるとマレの身体を守るためにさらに居座り続けるだろう。睨み付けているマレの姿をしたクラーテールの身体がボワンと揺れソーリスに向かって激しい炎が放たれる。ソーリスはそれをまるで虫を祓うかのようにいなす。
「クラーテール、駄々をこねるのはやめろ。それにその身体で暴れるな。マレに負担がかかる」
 マレの名を出した事で、ますます怒らせたようだ、さらに激しい攻撃を放ってくる。満身創痍のマレの身体で、ここまでの事をしてくるとなると、流石にソーリスも眉を顰めざるを得ない。どういう意味であれ、あまり長くこの二人を接触させ続ける訳にもいかない。いままでの努力が無駄になる。
(どうする? クラーテールが余計に暴れるのは覚悟しマレの身体を拘束し封じ込めるか?)
 そう考え近付いた時、クラーテールがいる湖の所に異変を感じる。テラのファクルタースが放たれクラーテールの身体が吹き飛び湖に落ち水柱が起こった。その途端にマレの身体が崩れるように揺れる。ソーリスは慌ててマレを受け止め抱きしめた。
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