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十五章 ~毀れる足下~ キンバリーの世界
漢たちの闘い
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ジャグエ家の人間とバシリオ提督は昔からソリが合わなかった。海賊の世界は実力主義で、力を持った者が上にいき、より自由に組織の中で動く。勿論そこにしっかりとした実力の行使と責任を果たす事をせねば、部下もしく他の海賊に粛清されるだけ。それに加え海賊のトップが部下に求められ事には、上に立つものは格好良いことと言うものがある。ソレは容姿の事ではなく男として生き様がイケているという意味。男が惚れる男であるから上に立てる。強いだけでなく粋で皆から愛される男だからこそ皆がついてくるのだ。そういう事情があるだけに、バシリオ提督は今のこの自分の地位に対して強い自信と誇りを持つ。
しかしジャグエ家は元々この地方を治めていた貴族が時代の流れで海賊となった歴史があるだけに血統主義。更に言うと船でなく土地というものに強い執着をもつ。海で活躍するより鉱山で儲ける事の方を喜び、テラの能力者が多いこともあり、皆から【土竜のジャグエ】と言われていた。
まだこの地域を治めているつもりなのか、傲慢な物言いで、他の海賊らに敬意を求める様も皆の笑い草だった。それ故に皆から浮き、孤立した存在だけにオカシナ奴らと組んだ事への察しが遅くなった。海賊皆がジャグエ家を侮っており、何かあればいつでも潰せる相手と思っていた。しかし個でやり合うと、その後の鉱山の利権で揉める可能性もあり、それが厄介だから放置されていた。
バシリオ提督は地の能力でガチガチに固めて戦うジャグエ家相手に、苛立ちを募らせていた。船を動かす時に風読みなどで役に立つ風の能力者の多い自分の海賊団とは相性が悪い敵だったとも言える。
そもそもジャグエの一族は何世代も海賊に苦しめられてきた被害者でもあった事もあり、コチラの攻め方を熟知している事もある。
この島を幾重もの守りを抱えた要塞として作り上げてきたのもそういった歴史があるからだ。まず島そのものを護る為に港には大きな柵で作られた門があり、港町も倉庫街、船員の為の宿泊施設と歓楽街のある地域、その周りに商業街、それらをイチイチ塀で囲み進軍をしにくくしていた。
領城のあるザラキラの街も同じで、幾重にも高い塀で区切られており、攻めるには、領城までの迷路のような通路を通らねばならず、そうやって右往左往している敵を上から矢で狙うというのがジャグエのやり方だった。また彼らは自分の土地に住む人間を使い捨ての駒のようにしか考えておらず守るなんて事もなく盾にする。そういうやり口もバシリオ提督の気に入らない所だった。
また領城には隠し通路が多くそこからコッソリと隠れ攻撃してきたり、逃亡をはかろうとしたりする真似をしてくるから厄介なのだ。
隠し通路に関しては、テラやベントゥスの力を使いしらみつぶしに見つけ、入り口を共鳴結界でと二重の意味で封じてある。堕ちた彼らにそれらが使えない今、彼らは武力を温存しつつ隠れ罠をはりつつ抵抗を続けていて、思うように前にすすめない。
そんな時に一時退却の指示がイサールより出された。地形を予め読んで行き詰まりを感じていたバシリオ提督は渋々了承し部下にソレを伝えた途端に、敵が隠れている建物が潰れるように壊れた。そこに隠れていた敵ごとを潰したようだ。バシリオ提督は辺りに探査術をめぐらせ苦笑する。僅かだが巫の気配がする方向に視線を向け、目を細める。
《敵を、足止めさせた。その隙に後退をしろ!》
イサールの指示にバリシオは肩を竦め、視線を部下に向け、隊を移動させる。
移動とともに生き残っていた敵が毀れた瓦礫の下から這い出てくるが、そこに何かが投げ込まれ爆発する。アグニの力を込めた何かのようだ。
《いたせりつくせりの対応で、痛み入るね~》
《……》
それを投げたであろう巫に言葉を話しかけるが気配は感じたが返事はない。バシリオ提督はニヤリと笑うがそれ以上の言葉をあえてかけなかった。
撤退しながら、バシリオ提督はどうしたものかと考える。
聖戦軍が進軍しながら貼った共鳴結界によりコチラに動けない事もあるが追ってはきていないようだ。というより敵は反撃拠点ごとぶっ飛ばされ、奥からさらに別の部隊が慌て蠢いているのは感じるが、同じように再び攻撃されることを恐れて足を止めている。
実際バシリオ提督の部隊の背後を一人で守り立ちはだかっている何者かの気配を感じる。
亜種討伐の為、離宮に向かっている部隊も合流の為に動いているのを感じる。彼らも共鳴結界内を移動していう為に移動そのものには問題はないだろう。同時に二人しかいないというのに、コチラの堕人より明らかに能力が高い敵をなぎ倒して進むイサールとマグダレンの気配を追う。その桁違いの力に笑うしかない。二人がいくら強いとはいえ、離宮を落とすのはかなり骨なようにも感じる。花街にいた聖人らも合流するとしているが、無邪気で可愛い子供をあんな場所で闘わせてよいものかとも思ってしまう。あの三人の聖人らにとって弱点はあの子供だ。堕人でなくても、バシリオ提督が彼らとやり合わないとならない事態になるとそこを突く。それを前線に出してしまうのは悪手のようにもバシリオ提督には思える。もう一か所の戦場にバシリオ提督は探査術を投げる。ベルナルド神官長の戦い振りをみて感心する。くそ真面目で正義感だけが強いと思っていたが、それだけに闘いにも迷いもなく冷静にそして大胆に軍を指揮していっている。しかも敵を纏めて豪快にアグニの力で滅していく姿が爽快だった。巫の世界の昇進は能力の高さに加え政治力と思っていたが、彼のここ数日の戦いぶりをみているとその認識を改めないといけないとバシリオ提督は感じる。聖騎士である彼は戦う事で、そしてその指導力とカリスマで今の地位を手にいれてきている。海賊からみてもなかなかの漢っぷりである。
《ブラーヴォ!
惚れ惚れする戦いっぷりで、感服します!》
《そういう貴方は、随分苦戦しているようですが》
会ってから嫌味を多く投げかけていただけに、バシリオ提督に対してそんな言葉を返してくる。
《そうなんだよな~こっちの奴らは其方より更にズル賢くて卑劣でそして臆病ときている。だからなかなか面倒くさくてね~》
相手の不意の攻撃をうけた部下を引っ張り助け、その敵を切り滅しながらベルナルド神官長はフンと笑う。ジャグエが自分らの守りを強化するために、花街や職人街を見捨てている為に領城を攻めるのが大変な事になっている事実がある。しかしギルドの方も入り組んだ道で、しかも無作為に火を放つと危険なモノも多いだけに時間がここまでかかったようだ。
《そちらは巣穴も多くて、確かに面倒くさそうだな。しかし鼠や土竜といった害獣の駆除の仕方といったら決まっているでしょうに》
そのあと、具体的な言葉を交わさなくても繋いだ心でバシリオ提督の考えは十分通じているようだ。
《一刻程でコチラはケリをつける》
バシリオ提督は思わずニヤリと笑う。
《その時鼠駆除道具を持ってきてくれると嬉しいな~》《いうまでもない!》
即座に返ってきた言葉に、バシリオ提督は人の悪い顔するが、それは相手を馬鹿にしたのではなく寧ろ好意を覚えてのこと。だがここは心話での会話で表情が見えない状態で良かったのかもしれない。闘いに集中するために会話は切られてしまう。
バシリオ提督は三つの部隊を合流させる事でバランスもかなりよくなり、あがった戦力を実際どう動かすかを素早く頭で計算する。合流したときに何もアイデアをもってないとなると、あの神官長に露骨に顔を顰められ呆れられるだろうから。
《という事で、こちらはこちらで自由にすることにした! だからあんたもそうしてくれ!》
合流地点の変更の指示をだし、バシリオ提督は自分を見守り戦う存在に声をかける。相手の戸惑いの感情だけが返ってくる。
《提督あなたという人は……》
代わりに、イサールからの心話が届く。
《堕ちたジャグエ及び巫様の相手は、俺達下々のものがするべき問題だろ?》
《!?》
《天上人の貴方がたに甘え手を煩わせる事をしてはならない。決着は俺達がつけるべき問題だ。だから神官長と共に俺らで倒す。
アンタらにあのバケモンを託すってこと。四人では心もとないだろ! だから一人そちらに返す》
聖騎士やモンクらは、堕人を相手にしていることもあり、魔の物への殺傷能力の高いアグニと、強い結界を貼れるテラの能力者が多い。その為に巫で構成された離宮を攻めていた部隊とギルドを制圧していた部隊がくれば、結果としてバランスもよくなる。文字通り火力もあがりもっと派手に攻める事が可能となる。
イサールの笑う気配を感じる。バシリオ提督の勝手な作戦変更に対して不快を覚えた訳ではなく、寧ろ楽しんでいるようだ。
《そちらは任せます。
朱鷺! --》
《御意》
イサールが、隠れて動かしていた兵に指示を飛ばす声が漏れ、その瞬間【朱鷺】と呼ばれた存在の気配が消えた。
合流地点にいち早く到着したパシオス提督は、密かに手にいれていた城内の地図を広げて部下と囲む。城内地図だけではなく、張り巡らされている地下通路の情報を目で追いながら、詳細な計画を組み立てていく。
「なるほど、土竜と言われるも頷ける構造だな」
やってきた背後から近づいて来てベルナルド神官長が肩ごしに地図に視線をやりそう話しかけてくる。コチラも出迎えて歓迎な態度を示さなかったが、「待たせたな」とか「無事か」とかいった言葉ではなく即作戦会議に参加している事にバシリオ提督はニヤついてしまう。戦闘してきているだけにいい感じに殺気立っている様子が頼もしいからだ。
「待ちわびたぞ」
そう言うと黒い瞳で睨みつけてくる。寧ろ想定より早かったと言うべきだろう。後方支援の部隊を早めに移動させ、後処理作業を任せつつ提督が求めていたものをかき集めて来てくれてこの一刻と少し超えた時間なのだから。
「貴方へのお土産を探していたのでね」
怒っているようで、冗談を返す余裕はあるようだ。そして職人街で揃えてきた油、薬品らを積んだ台車に視線を向ける。短い会話だけでここまで察して動いてくれた所は流石というべきだろう
「嬉しいねぇ。惚れてしまいそうだ」
ベルナルド神官長は露骨に嫌な顔をして蔑んだ目を向けてくる。神職者は潔癖で特に同性愛といった不純を嫌う。
「おいおい誤解するなよ。俺は男色の気はない。漢として惚れるといったんだ。俺程ではないにしても、あんたもイイ漢だ!」
そう返すと顔を真顔に戻すが、バシリオ提督には相手が照れている事を察する。からかおうとも思ったが、相手が真剣な顔をして地図を見て質問を始めたので、真面目に仕事に戻る事にした。
「このラインまで、共鳴結界勢力下にある」
ベルナルド神官長は頷く。そして地図を指さしながら状況の説明を聞く。街に続く出口は地、風の能力者によってチェックされて入り口は物理的にと共鳴結界にて封鎖されている。
「地下道の気密性はどの程度なのか?」
状況確認を短い言葉で行いながら、バシリオ提督は横目でベルナルド神官長の隊が職人街からかき集めて、この場所に持ち込んだものに視線を向ける。それぞれの部下が協力しそれを仕分け作業している。油だけでなく、職人街だからこそある様々な劇薬。 手を加える事で毒ガスを生み出すものから、爆発するものまで。
最初は害獣駆除のやり方で、地下道に炎と煙を充満させ燻そうと思っていたが、色々と他の攻め方も出来そうである。しかも今、風は領城に向けて吹いている。色々な意味で聖戦軍に有利に働いている。先ほど朱鷺と呼ばれていた人物が、一つの建物を丸ごとぶっつぶし上に炎を放つ。バシリオ提督は人の悪い笑みを浮かべる。
「さてと、派手にやるか」
バシリオ提督に冷めた視線をベルナルド神官長は向ける。真面目な神官長には、提督の態度がどこかふざけているように感じるのだろう。
「派手にするというより、奴らを一人残らず根こそぎ焼き尽くすそれのみでしょう。我々がすべきこと」
「気が合うな。同じ事を考えていた。派手にあのフザケタ奴らをぶっ殺す。地獄の業火でな!」
バリシオ提督は領城の方に視線を向けていた目にギラッとした光が宿る。その目に宿る、ジャグエ家の者に対する確かなる怒りを察しベルナルド神官長はそれ以上言葉を返さずに静かに頷く。仲間を喰らっていった、そして裏切って堕ちた者への同じ怒りを抱えているのを察したからだ。
そのあとは茶化しもなく真剣な作戦会議が行われ、そこに集った聖戦軍の者はそれを実行に移す為に動き出した。
しかしジャグエ家は元々この地方を治めていた貴族が時代の流れで海賊となった歴史があるだけに血統主義。更に言うと船でなく土地というものに強い執着をもつ。海で活躍するより鉱山で儲ける事の方を喜び、テラの能力者が多いこともあり、皆から【土竜のジャグエ】と言われていた。
まだこの地域を治めているつもりなのか、傲慢な物言いで、他の海賊らに敬意を求める様も皆の笑い草だった。それ故に皆から浮き、孤立した存在だけにオカシナ奴らと組んだ事への察しが遅くなった。海賊皆がジャグエ家を侮っており、何かあればいつでも潰せる相手と思っていた。しかし個でやり合うと、その後の鉱山の利権で揉める可能性もあり、それが厄介だから放置されていた。
バシリオ提督は地の能力でガチガチに固めて戦うジャグエ家相手に、苛立ちを募らせていた。船を動かす時に風読みなどで役に立つ風の能力者の多い自分の海賊団とは相性が悪い敵だったとも言える。
そもそもジャグエの一族は何世代も海賊に苦しめられてきた被害者でもあった事もあり、コチラの攻め方を熟知している事もある。
この島を幾重もの守りを抱えた要塞として作り上げてきたのもそういった歴史があるからだ。まず島そのものを護る為に港には大きな柵で作られた門があり、港町も倉庫街、船員の為の宿泊施設と歓楽街のある地域、その周りに商業街、それらをイチイチ塀で囲み進軍をしにくくしていた。
領城のあるザラキラの街も同じで、幾重にも高い塀で区切られており、攻めるには、領城までの迷路のような通路を通らねばならず、そうやって右往左往している敵を上から矢で狙うというのがジャグエのやり方だった。また彼らは自分の土地に住む人間を使い捨ての駒のようにしか考えておらず守るなんて事もなく盾にする。そういうやり口もバシリオ提督の気に入らない所だった。
また領城には隠し通路が多くそこからコッソリと隠れ攻撃してきたり、逃亡をはかろうとしたりする真似をしてくるから厄介なのだ。
隠し通路に関しては、テラやベントゥスの力を使いしらみつぶしに見つけ、入り口を共鳴結界でと二重の意味で封じてある。堕ちた彼らにそれらが使えない今、彼らは武力を温存しつつ隠れ罠をはりつつ抵抗を続けていて、思うように前にすすめない。
そんな時に一時退却の指示がイサールより出された。地形を予め読んで行き詰まりを感じていたバシリオ提督は渋々了承し部下にソレを伝えた途端に、敵が隠れている建物が潰れるように壊れた。そこに隠れていた敵ごとを潰したようだ。バシリオ提督は辺りに探査術をめぐらせ苦笑する。僅かだが巫の気配がする方向に視線を向け、目を細める。
《敵を、足止めさせた。その隙に後退をしろ!》
イサールの指示にバリシオは肩を竦め、視線を部下に向け、隊を移動させる。
移動とともに生き残っていた敵が毀れた瓦礫の下から這い出てくるが、そこに何かが投げ込まれ爆発する。アグニの力を込めた何かのようだ。
《いたせりつくせりの対応で、痛み入るね~》
《……》
それを投げたであろう巫に言葉を話しかけるが気配は感じたが返事はない。バシリオ提督はニヤリと笑うがそれ以上の言葉をあえてかけなかった。
撤退しながら、バシリオ提督はどうしたものかと考える。
聖戦軍が進軍しながら貼った共鳴結界によりコチラに動けない事もあるが追ってはきていないようだ。というより敵は反撃拠点ごとぶっ飛ばされ、奥からさらに別の部隊が慌て蠢いているのは感じるが、同じように再び攻撃されることを恐れて足を止めている。
実際バシリオ提督の部隊の背後を一人で守り立ちはだかっている何者かの気配を感じる。
亜種討伐の為、離宮に向かっている部隊も合流の為に動いているのを感じる。彼らも共鳴結界内を移動していう為に移動そのものには問題はないだろう。同時に二人しかいないというのに、コチラの堕人より明らかに能力が高い敵をなぎ倒して進むイサールとマグダレンの気配を追う。その桁違いの力に笑うしかない。二人がいくら強いとはいえ、離宮を落とすのはかなり骨なようにも感じる。花街にいた聖人らも合流するとしているが、無邪気で可愛い子供をあんな場所で闘わせてよいものかとも思ってしまう。あの三人の聖人らにとって弱点はあの子供だ。堕人でなくても、バシリオ提督が彼らとやり合わないとならない事態になるとそこを突く。それを前線に出してしまうのは悪手のようにもバシリオ提督には思える。もう一か所の戦場にバシリオ提督は探査術を投げる。ベルナルド神官長の戦い振りをみて感心する。くそ真面目で正義感だけが強いと思っていたが、それだけに闘いにも迷いもなく冷静にそして大胆に軍を指揮していっている。しかも敵を纏めて豪快にアグニの力で滅していく姿が爽快だった。巫の世界の昇進は能力の高さに加え政治力と思っていたが、彼のここ数日の戦いぶりをみているとその認識を改めないといけないとバシリオ提督は感じる。聖騎士である彼は戦う事で、そしてその指導力とカリスマで今の地位を手にいれてきている。海賊からみてもなかなかの漢っぷりである。
《ブラーヴォ!
惚れ惚れする戦いっぷりで、感服します!》
《そういう貴方は、随分苦戦しているようですが》
会ってから嫌味を多く投げかけていただけに、バシリオ提督に対してそんな言葉を返してくる。
《そうなんだよな~こっちの奴らは其方より更にズル賢くて卑劣でそして臆病ときている。だからなかなか面倒くさくてね~》
相手の不意の攻撃をうけた部下を引っ張り助け、その敵を切り滅しながらベルナルド神官長はフンと笑う。ジャグエが自分らの守りを強化するために、花街や職人街を見捨てている為に領城を攻めるのが大変な事になっている事実がある。しかしギルドの方も入り組んだ道で、しかも無作為に火を放つと危険なモノも多いだけに時間がここまでかかったようだ。
《そちらは巣穴も多くて、確かに面倒くさそうだな。しかし鼠や土竜といった害獣の駆除の仕方といったら決まっているでしょうに》
そのあと、具体的な言葉を交わさなくても繋いだ心でバシリオ提督の考えは十分通じているようだ。
《一刻程でコチラはケリをつける》
バシリオ提督は思わずニヤリと笑う。
《その時鼠駆除道具を持ってきてくれると嬉しいな~》《いうまでもない!》
即座に返ってきた言葉に、バシリオ提督は人の悪い顔するが、それは相手を馬鹿にしたのではなく寧ろ好意を覚えてのこと。だがここは心話での会話で表情が見えない状態で良かったのかもしれない。闘いに集中するために会話は切られてしまう。
バシリオ提督は三つの部隊を合流させる事でバランスもかなりよくなり、あがった戦力を実際どう動かすかを素早く頭で計算する。合流したときに何もアイデアをもってないとなると、あの神官長に露骨に顔を顰められ呆れられるだろうから。
《という事で、こちらはこちらで自由にすることにした! だからあんたもそうしてくれ!》
合流地点の変更の指示をだし、バシリオ提督は自分を見守り戦う存在に声をかける。相手の戸惑いの感情だけが返ってくる。
《提督あなたという人は……》
代わりに、イサールからの心話が届く。
《堕ちたジャグエ及び巫様の相手は、俺達下々のものがするべき問題だろ?》
《!?》
《天上人の貴方がたに甘え手を煩わせる事をしてはならない。決着は俺達がつけるべき問題だ。だから神官長と共に俺らで倒す。
アンタらにあのバケモンを託すってこと。四人では心もとないだろ! だから一人そちらに返す》
聖騎士やモンクらは、堕人を相手にしていることもあり、魔の物への殺傷能力の高いアグニと、強い結界を貼れるテラの能力者が多い。その為に巫で構成された離宮を攻めていた部隊とギルドを制圧していた部隊がくれば、結果としてバランスもよくなる。文字通り火力もあがりもっと派手に攻める事が可能となる。
イサールの笑う気配を感じる。バシリオ提督の勝手な作戦変更に対して不快を覚えた訳ではなく、寧ろ楽しんでいるようだ。
《そちらは任せます。
朱鷺! --》
《御意》
イサールが、隠れて動かしていた兵に指示を飛ばす声が漏れ、その瞬間【朱鷺】と呼ばれた存在の気配が消えた。
合流地点にいち早く到着したパシオス提督は、密かに手にいれていた城内の地図を広げて部下と囲む。城内地図だけではなく、張り巡らされている地下通路の情報を目で追いながら、詳細な計画を組み立てていく。
「なるほど、土竜と言われるも頷ける構造だな」
やってきた背後から近づいて来てベルナルド神官長が肩ごしに地図に視線をやりそう話しかけてくる。コチラも出迎えて歓迎な態度を示さなかったが、「待たせたな」とか「無事か」とかいった言葉ではなく即作戦会議に参加している事にバシリオ提督はニヤついてしまう。戦闘してきているだけにいい感じに殺気立っている様子が頼もしいからだ。
「待ちわびたぞ」
そう言うと黒い瞳で睨みつけてくる。寧ろ想定より早かったと言うべきだろう。後方支援の部隊を早めに移動させ、後処理作業を任せつつ提督が求めていたものをかき集めて来てくれてこの一刻と少し超えた時間なのだから。
「貴方へのお土産を探していたのでね」
怒っているようで、冗談を返す余裕はあるようだ。そして職人街で揃えてきた油、薬品らを積んだ台車に視線を向ける。短い会話だけでここまで察して動いてくれた所は流石というべきだろう
「嬉しいねぇ。惚れてしまいそうだ」
ベルナルド神官長は露骨に嫌な顔をして蔑んだ目を向けてくる。神職者は潔癖で特に同性愛といった不純を嫌う。
「おいおい誤解するなよ。俺は男色の気はない。漢として惚れるといったんだ。俺程ではないにしても、あんたもイイ漢だ!」
そう返すと顔を真顔に戻すが、バシリオ提督には相手が照れている事を察する。からかおうとも思ったが、相手が真剣な顔をして地図を見て質問を始めたので、真面目に仕事に戻る事にした。
「このラインまで、共鳴結界勢力下にある」
ベルナルド神官長は頷く。そして地図を指さしながら状況の説明を聞く。街に続く出口は地、風の能力者によってチェックされて入り口は物理的にと共鳴結界にて封鎖されている。
「地下道の気密性はどの程度なのか?」
状況確認を短い言葉で行いながら、バシリオ提督は横目でベルナルド神官長の隊が職人街からかき集めて、この場所に持ち込んだものに視線を向ける。それぞれの部下が協力しそれを仕分け作業している。油だけでなく、職人街だからこそある様々な劇薬。 手を加える事で毒ガスを生み出すものから、爆発するものまで。
最初は害獣駆除のやり方で、地下道に炎と煙を充満させ燻そうと思っていたが、色々と他の攻め方も出来そうである。しかも今、風は領城に向けて吹いている。色々な意味で聖戦軍に有利に働いている。先ほど朱鷺と呼ばれていた人物が、一つの建物を丸ごとぶっつぶし上に炎を放つ。バシリオ提督は人の悪い笑みを浮かべる。
「さてと、派手にやるか」
バシリオ提督に冷めた視線をベルナルド神官長は向ける。真面目な神官長には、提督の態度がどこかふざけているように感じるのだろう。
「派手にするというより、奴らを一人残らず根こそぎ焼き尽くすそれのみでしょう。我々がすべきこと」
「気が合うな。同じ事を考えていた。派手にあのフザケタ奴らをぶっ殺す。地獄の業火でな!」
バリシオ提督は領城の方に視線を向けていた目にギラッとした光が宿る。その目に宿る、ジャグエ家の者に対する確かなる怒りを察しベルナルド神官長はそれ以上言葉を返さずに静かに頷く。仲間を喰らっていった、そして裏切って堕ちた者への同じ怒りを抱えているのを察したからだ。
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