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台風、怪獣 01
しおりを挟む「何も残って無いじゃない……」
「でもカップ麺はまだ結構あるけど」
「停電したら電気止まるし、私の家は電気ポットしかないからお湯沸かせないわよ」
「う、うちのヤカン貸してやろうか、あぁ?」
「何で喧嘩腰なの?」
突然のレイがまるで猫のように威嚇するから困る。
「だって極々自然に平民を煽るから……。ブルジョワが、革命したろか?」
「ってか電気ポット程度で平民気取らないで」
「あれめっっっっっちゃ電気代かかるんですよ! やれやれこれだから蝶よ花よと大切に育てられたお嬢様は世間知らずでござんすねぇ」
「はいはい、でも電気ポットの方が便利でしょ?」
「便利、それで全部解決するわけじゃありません。あのね、ヤカンのピー! って鳴く喧しい音を知らない? あの音を聴いたお湯は滅茶苦茶美味しく感じるんだよ」「同じお湯よ」「電気で温められた湯なんか”気持ち”が籠もってない」
「ってかヤカンあってもガス、水道が止まったらカップ麺食べられないじゃない」
「確かに……あ、でもカップ麺って水でも食べれるって聞いたことあるよ。なんか冷たい水でもしばらく待てば麺も柔らかくなるから大丈夫らしい」
「……それは、最終手段よ、きっと」
──超大型台風が三連休に来襲するので、私とレイは私の家に泊まり、台風を凌ぐことになった。で、三日間は外出不可と予想されるため、飲食物を購入しに近くのスーパーを訪れた。
しかし、まるで激しい台風が通り過ぎたかのように、めぼしい食べ物は何も残っていない。カップ麺も高くて癖の強そうな味だけ。
「見てよ、水はこの巨大なペットボトルが残ってる!」
「待って違う、それはお酒!」
「え、うわ!? ホントだ……。紛らわしいなぁ、全く! こんなん未成年に酒買わせるための罠だよ」
レイは憤慨しながら重々しくお酒を元の位置に戻した。飲料水はブラックのコーヒー系はペットボトルで残っているけど、ジュースやお茶は軒並み売り切れだった。でも、紙パックの紅茶は少し残っていたので、とりあえずカゴに入れる。
お菓子コーナーに向かうと、やはりここも粗方売り切れている。
「ちょっとお高く留まってる感じ──まるで調子コイてる時のサクラのようなお菓子はまだ残ってるね」
「あら、私が好きなお菓子ばかりじゃない。どれでも好きなの選んでいいわよ」
「ひぃ、今度は菓子でマウント取りやがった──。いつも100円の大増量!って昔からだろ! って感じで量だけが取り柄のスナックを食べてるような人に向かって簡単に食わせるようなセリフ吐いてさ……残酷過ぎない?」
「いいから選べ」
「へいへい……」
レイは不貞腐れた顔しながらここぞとばかりに高いお菓子ばかり選ぶ。まぁ美味しいからいいけど。
「あとこれも……はいどう見ても完全に食べ物ですね」
「どこがよ、くまたん!」
「あ、あれぇ、ホントだ気づかなかった~。へぇ、なるほどふむふむなんかオマケで人形がついてるらしいね、まぁ腹の足しにはなるかななるねなりまする」
「オマケはガムでしょ! ってかなんかたくさん押し込められてるし……」
私が隙を見せた瞬間、レイはすっからかんのお菓子コーナーで強い存在感を放つくまたんフィギュア付きの食玩をカゴに入れる。一地方のゆるキャラの癖にこうしてグッズやお菓子を売りつける生命力に驚く。でも相変わらず不人気というか、この期に及んで売れ残っている姿は哀愁を漂わせて可哀想だとは思うわ。しかし、小さなガム一つ程度でカゴの中に入る資格は無いわ。
「あぁぁ元の場所に戻さないで~」
「ってかこれあんたの部屋で見たことあるし、この前シークレット・レア当てたってゴロゴロ転がりながら喜んでいたじゃない」
「全部揃ってないの。こいつ、ほらこの斑模様の一つがハートのくまたんが居ないの。同じ! って顔しないで~。くまたんのアイデンティティである模様を敢えて一つ変えるその勇気にマジ脱帽! あ、サクラ逃げるな」
レイはばっと両手を広げて立ち塞がる。
「ねぇ私の言うこと聞かないなら……やるぞ」
「どうぞ」
「──あ、いやまだ何やるって待って言ってないでしょ! やるぞ、あのね、私が……このJKが、ダダこねる──ダダこねこねするぞ」ダダこねこねするぞ、という訳の分からない言い方だけど妙な愛らしさに胸が震える。
「許可する」
「し、しないでしょ、普通! おい止めろ。ほら、床でゴロゴロ転がりまくって喚くんだよ、いいんですか、許可しても」
「やれ」
「ちょ、え~ちょっと、うー……あの私がね、買って~~って喚くんだよ! いいのか?」
「レイならできる」
「ちがちが違う、そうじゃない。そういう話をしているんじゃないんだよ。ってかサクラってあまり人の心ねぇよな。ウソウソ、サクラ様ほど寛大で心のクソでかい人間は居らんよ」「知ってる」「おま──へぇ、そうでやんす。その優しさをほんのちょっぴりで良いから私に分けてくれませんかね」
「ガムは──だめ、お腹にたまらないでしょ?」
「じゃあこれは!!」
──やられた。
くまたんフィギュアは囮。本命の──くまたんシール付きのスナック菓子をこれみよがしに私に見せつける。
「ガムと違ってお腹たまりまくりだね。あれれ、断るのかい? ん? ん? サクラちゃん。断るならさっきと話が違うねぇ~。矛盾するぞ、お?」
「わかったから、カゴに入れなさい」
「やった~」
「一個」
「ケチ」「は?」「ャップも買いましょうか!」「おい、今ので誤魔化せないでしょ。文字ならケチャップっぽいけど声だとケチとヤップよ」
「わかった、わかったからレジ向かおう」
レイは私の言動を封鎖するように腕を組み、ぎゅっと手を握る。
店内の妙な寒さと異なり、レイのピリピリ痺れる感触がむず痒くて、でもなんか心地良いから困る。ホントは台風が訪れると知って少し恐いけど、こうしてレイがしがみつてくれるから幾分か紛れるから嬉しい。
☆★☆★
お会計を済まし、外に出る。
すると、ぐぉぉおおおお! と獣の唸りのような風が吹いた。嵐の前の静けさというよりかは、これから到来する台風の恐ろしさを誇示するようでゾクッと冷や汗をかく気分。
「やば~。ねぇ早くサクラんち向かおうぜ」
「そ、そうね……」
「サクラびびってるでしょ」
「驚いただけよ。そういうレイは? 妙にウキウキしてる顔だけど、それも空元気じゃないの」
「わかんない。けど──ワクワクしてる。なんか非日常なイベント発生な気がしない?」
「まぁわかるけど……」
「イベント発生、という言葉で期待と緊張が入り混じった顔するな。ソシャゲじゃないんだぞ」
私達は購入した袋を抱えるようにしながら帰路につく。
本来なら感覚的にレイ家にお泊りする順番だったのに、レイは急遽サクラ家に避難しよう! と言い出した。
「どうしてウチなの?」
「もちろん頑丈そうだから」
「そこまで変わらないでしょ?」
「我が家であの巨大過ぎる台風を耐えきれるとは思えないよ。きっとバリバリ~って屋根が剥がされた後、もう跡形もないほどボロボロにされちゃうんだ……」
「ホント大げさ。というか、レイのお母さんは?」
「大丈夫。強いし。それに仕事で泊まる予定だから問題ないよ、って悲痛な通知がさっき入っていた」
……久しぶりにレイのベッドでレイの匂いに包まれながら眠りにつけると思ったのに。私は内心肩を落とす。まぁ私のベッドでもレイとは一緒に寝るけど、最近は疲れてるからレイの香りに包まれながらリフレッシュしたかったのに……。
「風強くなってきたわ……」
「そろそろ飛ばされるね」
「何が?」
「私」
「はい」
「私、軽いからさ、傘持ったらぴゅ~~~って吹き飛ばされる」
「えぇ」
「サクラは……大丈夫そうだな」
「どうして?」
「だってふと……あぁ、ごめんなんでないよ」
「……あんたに連れられて何度もラーメン通ったからよ」
「あっ! すぐ人のせいにする! 今日は替え玉楽勝じゃない! って大量に食いやがって」
「あれは美味しくてつい……。ってか数キロの違いで飛ぶ飛ばない関係ないわよ」
「でも傘で風を受けるんだから少しの重さが生死を分ける」
レイは持っていた大きな傘をバサっと広げた。そんなことしてると本当に飛ばされるわよ、と注意しようとした時だった。
──びゅゥゥウウウッ!!
風が吹き荒れる。
体が叩かれるような凄まじい風圧に大きくよろめく。
「サ、サクラ~~」
「──レイ!?」
浮いていた。
嘘でしょ──とある種の感動を覚えた。大きな傘は風を受け止めて風船のように膨れ上がり、レイは空に吸い寄せられるかのように飛んでいる。ふわ~っと宙に浮いていた。レイは傘にしがみつき、やや回転しながらも私をじっと見つめている。私も目の前で発生した現象に理解が追いつけないけど、レイも間抜けな顔して困惑している。
「助けて~~~」
──連れ去られる。
レイが、どこかに……それだけは駄目よ!
そこではっと我に返った。
荷物を地面に置き、レイに向かって駆ける。
私は無我夢中でレイに飛びついていた。レイの腰辺りを掴むとペキッ! と軽く音が鳴ってレイが落ち、地面に尻もちをついた。口をあんぐりと開きながら私と傘を交互に何度も眺めている。
「あ、あ、あ……」
「もぉっっ……なに、して……と、飛ぶなんて……ふふ……」
「はぁ……はぁ……」
「ありえ……そんな……ふふふふっ」
「ひぃひぃひぃ……」
「あっはははははは!」
「わ、笑うな……。びっくりしてるの。もう少しで空、空に向かって……はぁぁぁぁ……」
「駄目、なんか……あははは……ごめん笑いが、止まらないわ…ひひ………ははは!」
傘にしがみついて空を舞うレイの姿と、今こうして放心状態でカクカク震えているレイがツボに入り、しばらく爆笑してしまった。
「はぁ……はぁ……ふぅ。とにかく、大丈夫だったようね」
「お尻痛い」
「それくらい我慢しなさい。はぁ……ホント驚いた。空飛ぶとか、冗談でも辞めなさいよ」
「……あ、折れてる」
「足とか?」
「傘……」
レイの重みと風圧に耐えきれなかったのか、レイの大きな傘の骨が折れていた。
「やべぇ……お母さんのなのに。結構値段するやつ。しかも無断で持ち出してしまった」
「空飛んだら折れたって言えば許してくれるわよ」
「そうだね~ってんなわけあるかい! 嘘つくな! って余計怒られるぅ。あ、動画とか撮ってない?」
「そんな暇無かったわよ」
「え~~、なんで!?」
「あんたを助けるためでしょ!」
☆★☆★
//続く
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