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61話
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不意打ちとはいえCランク冒険者の肩を食い破ったのは大きい。
だが相手は熟練の冒険者だ。これだけで終わる連中じゃない。
「チッ、油断したなホーク! 下がれ!」
「ぐっ……」
重戦士ガルドが咆哮と共にハルバードを薙ぎ払い、ブラッド・ストーカーを牽制しながら負傷した相棒の前に立ちはだかる。
ホークは痛みに顔を歪めながらも、冷静に止血をしつつバックステップで距離を取ろうとしている。
(立て直される前に……どうする!?)
俺は戦況を高速で分析する。
狙撃手ホークは手傷を負ったがまだ戦意を失っていない。重戦士ガルドは無傷で鉄壁の守りを固めている。
対するこちらはヒーロー・エンシェント・ダイアウルフが多少消耗しているが、ブラッド・ストーカーは無傷だ。
(状況は五分……押し切れるかもしれない!)
俺は戦場の均衡が崩れたのを確信し二体の[R]ランク魔物に猛るような檄を飛ばした。
(行け、ウルフ! ブラッド・ストーカー! 二対二なら負けはない! 連携して畳み掛けろ!)
「ワオォォン!!」
「キシャァッ!!」
二体の捕食者が同時に動いた。 銀色の疾風と、漆黒の影。
相反する色の残像が交差し、Cランク冒険者たちを撹乱する。
「チッ、速えぇぞガルド! さっきまでとは動きが違う!」
「分かってる! ちょこまかと……!」
重戦士ガルドがハルバードを振り回すが、ウルフはそれを紙一重で回避する。 さっきまではホークの狙撃を警戒して動きが制限されていたが、今は違う。
ブラッド・ストーカーがホークを釘付けにしているおかげで、ウルフは本来の野生の勘とスピードを遺憾なく発揮していた。
そしてブラッド・ストーカーは驚異的な変化を見せていた。
「キィィィッ!!」
彼の身体から赤黒いオーラのような湯気が立ち昇っている。
先ほどの奇襲でホークの血を吸った効果──スキル [吸血 (Lv.3)] が発動しているのだ!
(凄い……! HPを回復するだけじゃない。動きのキレが段違いだ!)
吸った血液をエネルギーに変換しSTR(筋力)とAGI(敏捷)が一時的にブーストされている。
その動きは、もはや人間の目では捉えきれない領域に達していた。 影から影へと瞬間移動するように跳ね回り、死角からホークに爪を振るう。
「ぐぅっ……! 速すぎる……! 狙いが定まらねぇ!」
ホークが脂汗を流しながら弓を構えるが、的を絞らせてもらえない。
「ガルド! 一度体勢を立て直すぞ! 円陣を……っ!?」
ホークがガルドの背中へ移動しようと足を踏み出した、その瞬間だった。
「!?」
ホークの膝が不自然に折れ、その場に崩れ落ちた。
「な……足が……動かない……?」
ホークの手から弓が滑り落ちる。
傷口である肩を中心に紫色の不気味な変色が広がっていた。
(そうか──!)
初撃の噛みつき。
そこに含まれていたブラッド・ストーカーの隠し武器── [麻痺の牙 (Lv.1)] の毒が回ったのだ!
「ホーク!? どうした!」
「痺れが……くそっ、毒か……!」
連携の要である後衛が機能不全に陥った。
致命的な隙を歴戦の[R]ヒーロー・エンシェント・ダイアウルフが見逃すはずがない。
「ガウッ!!」
ウルフがガルドの死角へ回り込み、孤立したホークへと牙を向ける。
ガルドが助けようと動けばブラッド・ストーカーが隙を突く。
(形勢逆転だ!)
俺が勝利を確信し、追撃の号令をかけようとしたその時だった。
(一気に押し切れ! 奴らに息をする暇も与えるな!)
「チッ……! 分がわりぃな!」
重戦士ガルドが舌打ちと共に動いた。
彼は麻痺して動けない相棒を見捨てるどころか、ハルバードを大きく振りかぶり──地面に向かって全力で叩きつけた。
「吹き飛べッ! [グランド・スマッシュ]!!」
爆音と共に土砂が舞い上がり、衝撃波がウルフとブラッド・ストーカーを弾き飛ばす。
目くらましだ!
「ずらかるぞ、ホーク!」
ガルドは土煙に紛れてホークを俵担ぎにすると、信じられない速度で背走を始めた。
重装備とは思えない逃げ足の速さ。これぞ場数を踏んだCランクの「引き際」の判断力か。
彼らは不利と悟るや否や、プライドを捨てて生存を選択したのだ。
(逃がすか!)
ウルフが即座に体勢を立て直し、追撃の構えを取る。
手負いの獲物を逃がすわけにはいかない。まだ[王の疾走]の効果時間は残っている。追いつける!
だが──その時、俺の意識の端に悲鳴が引っかかった。
「キャウンッ!?」
「ワオォン……」
(なに!?)
視界の端──ガルドたちが逃走したルート上だ。 そこには混乱から立ち直り、死に物狂いで抵抗する残存冒険者たちの集団がいた。
彼らは生き残るために密集し、数に物を言わせて[N]シャドウウルフや[UC]ファングウルフたちを取り囲んでいた。
「囲め囲め! 一匹ずつ殺せ!」
「親玉がいない間にやっちまえ!」
「ギャンッ!?」
多勢に無勢。連携を分断された部下のウルフたちが、槍や魔法の集中砲火を浴びて悲鳴を上げる。
[N]ランクといえど、数十人に囲まれればひとたまりもない。
(まずい! このままウルフがCランクを追えば取り残された部下たちは全滅する!)
Cランクの首一つと、手塩にかけた部下たちの命。
俺の選択は──一瞬だった。
(追うな、ウルフ! 部下を助けろ!!)
「ガウッ!」
彼は悔しげに一度だけ吠えると、踵を返して包囲されている部下たちの元へと疾走した。
「グルァァァッ!」
銀色の暴風が冒険者たちの包囲網を食い破る。
Cランクには逃げられたが代償として、その場にいた冒険者たちはウルフの怒りの爪によって壊滅した。
(……逃げられたか)
森の奥へと消えていくガルドたちの気配を感じながら俺は歯噛みした。
だが、傷だらけになりながらもウルフに身を寄せ安堵の声を漏らす部下たちを見て思い直す。
「クゥ~ン……」
「グルル(無事か)」
これでよかったんだ。 俺たちは「群れ」だ。
仲間を見捨てて勝利を得ても、それは俺の望むダンジョンじゃない。
Cランクの実力は本物だった。 撤退の判断、足止めのスキル、連携……。
どれをとっても今までの敵とは違う……。
(ウルフ! 深追いはしなくていい。その場の警戒を厳重にしろ! 他の敵が潜んでいるかもしれない)
「ガウッ!」
ウルフの頼もしい返事を聞き、俺はホッと息をつく。
あいつなら大丈夫だ。部下を守るために引く判断もできたんだ、無理はしないだろう。
(後は頼んだぞ……。さて、次はジェネラルの方を見てみよう)
俺はもう一人の英雄に意識をチューニングする。
(視点共有、起動! 接続先──[R]ヒーロー・ゴブリン・ジェネラル!)
フッ、と視界が切り替わる。 ウルフのいた場所から離れた、森の別のエリア。
そこで俺の目に映ったジェネラルの様子は──
♢ ♢ ♢
[現在の拠点状況]
拠点名: (未設定・円形の塔)
階層: 16階建て + 屋上
DP: 10,500
訪問者: 1名(リナ)
召喚中:
総司令官: [R] ヒーロー・ゴブリン・ジェネラル (Lv.20)
狩猟部隊長: [R] ヒーロー・エンシェント・ダイアウルフ (Lv.15)
突撃隊長: [R] オーク・デストロイヤー (Lv.15)
防衛部隊長: [R] スケルトン・バウォーク (Lv.15)
偵察・暗殺: [R] ブラッド・ストーカー (Lv.15)
遊撃・伝令: [R] ベル (Lv.1)
他多数)
侵入者: Cランク冒険者(逃走)、他多数の気配
その他: ウルフ部隊、配下の救助を優先しCランク冒険者の追撃を断念 。
♢ ♢ ♢
(視界が……赤い?)
切り替わったジェネラルの視界。
そこに広がっていたのは、戦場というよりは屠殺場と呼ぶべき凄惨な光景だった。
(なんだ……?この死体の山は……!?)
地面が見えないほどに折り重なる人間の亡骸。血の海。
その中心に、[R]ヒーロー・ゴブリン・ジェネラル率いる部隊──[N]ホブゴブリン・ファイター、[N]ゴブリン・レンジャー、そして今回増援に送った[N]ミノタウロスや[N]ゴーレムたちが立ち尽くしていた。
(ジェネラル、お前がやったのか……? 殲滅しろとは言ったがここまで……)
だが、すぐに違和感に気づく。
勝利したなら上がるはずの勝鬨がない。 それどころか屈強な[N]ミノタウロスが震え、感情を持たないはずの[N]ゴーレムですら後ずさるような気配を見せている。
「グルルル……ッ(総員、動くな! 構えろ!)」
ジェネラルから伝わってくるのはかつてないほどの張り詰めた緊張感と、焦燥。
──違う。
彼らは敵を倒して喜んでいるんじゃない。 目の前の何かに恐怖し、警戒しているんだ。
(違う? じゃあ、一体だれがこんなことを……?)
その時だった。
ドクンッ!!
心臓を鷲掴みにされたような吐き気を催すほどの濃密なプレッシャーが、[視点共有]越しに俺の魂を叩いた。
(っ!? なんだ、この重圧は!?)
ジェネラルの視線が死体の山の頂点へと吸い寄せられる。
そこに──「それ」はいた。
無数の冒険者の死体が作り上げた玉座の上。
全身を返り血で赤く染め上げ佇む一人の男。
(な、なんだあいつは……?)
黒いロングコートを纏い、顔は無機質な鉄仮面で覆われている。
異様なのは足元が血の海だというのに、彼の持つ細剣にもコートの裾にも、返り血の一滴すら付着していないことだ。
血飛沫さえもが彼を恐れて避けたかのように。
(人間、だよな? なんで人間が人間を殺して積み上げてるんだ……?)
仲間割れか? ここにある死体だけで優に20人は下らない。
「グルルル……ッ」
ジェネラルが警戒を露わにし[将軍の魔剣]の切っ先を男に向ける。
だが、鉄仮面の男は動じない。感情の欠落した氷のような声が響いた。
「掃除終了。次はあちらの『ゴミ』ですか」
男の仮面の奥にある双眸がジェネラルたち魔物の部隊を捉える。
そこには敵意も殺意もない。事務的な冷たさだけがあった。
「私にとっては魔物も人間も同じ敵……ダンジョンの宝を奪われては困るのでね……」
(宝を奪われては困る……?)
意味が分からない。宝ってなんだ……?
だが、思考する猶予は与えられなかった。
ドクンッ!!
強烈な殺気が[視点共有]を通して俺の脳髄を直接鷲掴みにする。
直後、俺の脳裏に敵のステータスが強制的に割り込んできた!
♢ ♢ ♢
名前:【処刑人】ゴア・シェルドー
種族: 人間 (暗殺者・B級下位)
Lv: 38 HP: 680/680 | MP: 110/110
STR (筋力): 67
VIT (体力): 54
AGI (敏捷): 98
INT (知力): 52
装備
[処刑人の針(スティンガー)]: 刺突に特化した極細の魔剣。傷口を塞がない呪いが付与されている。
[静寂のロングコート]: 着用者の気配と音を完全に遮断する暗殺用装備。
特技
[瞬歩 (Lv.5)]: 目にも止まらぬ超高速移動。初動の隙が皆無。
[急所必中 (Lv.4)]: 相手の急所を的確に貫く。クリティカル率が極めて高い。
[処刑執行 (Lv.MAX)]: 無力化した相手、または背後からの攻撃時、即死効果を与える。
♢ ♢ ♢
(な……に……?)
俺は戦慄した。
以前遭遇した魔族ヴォルグ(STR 85)には筋力こそ及ばない。 だが、このAGI98という数値はなんだ!?
[R]ヒーロー・エンシェント・ダイアウルフの3倍以上だと……?
(まずい……! ジェネラル、逃げろ!!)
俺の警告が間に合うかどうか。
死体の山の上にいたはずの男の姿がフッ、とかき消えた。
(逃げろ──!!)
俺の絶叫がジェネラルに届くよりも速かった。
いや、速いという次元ですらなかった。
世界から音が消えたような錯覚。
次の瞬間。
ドサッ、ドサッ、ズズゥン……。
ジェネラルの周囲を固めていたはずの[N]ミノタウロス三体と、[N]ゴーレム二体が糸の切れた人形のように崩れ落ちた。
(……え?)
何が起きた?転んだのか?
いや、違う。
ゴロリ、と。 ミノタウロスの牛頭が地面を転がった。
物理耐性を持つはずのゴーレムの岩の首が豆腐のように滑らかに切断され、胴体から滑り落ちた。
(な……!?)
血飛沫さえ遅れて噴き出した。
一瞬だ。瞬きをする暇すらなかった。 屈強な[N]ランクの魔物たちが何もできずに、反応すらできずに一撃で処理されたのだ。
「グルァ……ッ!?」
ジェネラルが愕然と周囲を見渡す。
見えない。剣の軌道はおろか、奴が動いた残像すら[視点共有]を通しても全く見えなかった。
音もなく、気配もなく、
ただ「死」だけがそこに──。
「さぁ……」
冷徹な声が耳元で囁かれたように響く。
気づけば、鉄仮面の男──【処刑人】ゴア・シェルドーはジェネラルの目の前、鼻先が触れるほどの距離に立っていた。
細剣には、脂も血もついていない。
「お前たちは何秒持つかな?薄汚い下等生物どもは……」
仮面の奥の瞳が嘲るように細められた。
だが相手は熟練の冒険者だ。これだけで終わる連中じゃない。
「チッ、油断したなホーク! 下がれ!」
「ぐっ……」
重戦士ガルドが咆哮と共にハルバードを薙ぎ払い、ブラッド・ストーカーを牽制しながら負傷した相棒の前に立ちはだかる。
ホークは痛みに顔を歪めながらも、冷静に止血をしつつバックステップで距離を取ろうとしている。
(立て直される前に……どうする!?)
俺は戦況を高速で分析する。
狙撃手ホークは手傷を負ったがまだ戦意を失っていない。重戦士ガルドは無傷で鉄壁の守りを固めている。
対するこちらはヒーロー・エンシェント・ダイアウルフが多少消耗しているが、ブラッド・ストーカーは無傷だ。
(状況は五分……押し切れるかもしれない!)
俺は戦場の均衡が崩れたのを確信し二体の[R]ランク魔物に猛るような檄を飛ばした。
(行け、ウルフ! ブラッド・ストーカー! 二対二なら負けはない! 連携して畳み掛けろ!)
「ワオォォン!!」
「キシャァッ!!」
二体の捕食者が同時に動いた。 銀色の疾風と、漆黒の影。
相反する色の残像が交差し、Cランク冒険者たちを撹乱する。
「チッ、速えぇぞガルド! さっきまでとは動きが違う!」
「分かってる! ちょこまかと……!」
重戦士ガルドがハルバードを振り回すが、ウルフはそれを紙一重で回避する。 さっきまではホークの狙撃を警戒して動きが制限されていたが、今は違う。
ブラッド・ストーカーがホークを釘付けにしているおかげで、ウルフは本来の野生の勘とスピードを遺憾なく発揮していた。
そしてブラッド・ストーカーは驚異的な変化を見せていた。
「キィィィッ!!」
彼の身体から赤黒いオーラのような湯気が立ち昇っている。
先ほどの奇襲でホークの血を吸った効果──スキル [吸血 (Lv.3)] が発動しているのだ!
(凄い……! HPを回復するだけじゃない。動きのキレが段違いだ!)
吸った血液をエネルギーに変換しSTR(筋力)とAGI(敏捷)が一時的にブーストされている。
その動きは、もはや人間の目では捉えきれない領域に達していた。 影から影へと瞬間移動するように跳ね回り、死角からホークに爪を振るう。
「ぐぅっ……! 速すぎる……! 狙いが定まらねぇ!」
ホークが脂汗を流しながら弓を構えるが、的を絞らせてもらえない。
「ガルド! 一度体勢を立て直すぞ! 円陣を……っ!?」
ホークがガルドの背中へ移動しようと足を踏み出した、その瞬間だった。
「!?」
ホークの膝が不自然に折れ、その場に崩れ落ちた。
「な……足が……動かない……?」
ホークの手から弓が滑り落ちる。
傷口である肩を中心に紫色の不気味な変色が広がっていた。
(そうか──!)
初撃の噛みつき。
そこに含まれていたブラッド・ストーカーの隠し武器── [麻痺の牙 (Lv.1)] の毒が回ったのだ!
「ホーク!? どうした!」
「痺れが……くそっ、毒か……!」
連携の要である後衛が機能不全に陥った。
致命的な隙を歴戦の[R]ヒーロー・エンシェント・ダイアウルフが見逃すはずがない。
「ガウッ!!」
ウルフがガルドの死角へ回り込み、孤立したホークへと牙を向ける。
ガルドが助けようと動けばブラッド・ストーカーが隙を突く。
(形勢逆転だ!)
俺が勝利を確信し、追撃の号令をかけようとしたその時だった。
(一気に押し切れ! 奴らに息をする暇も与えるな!)
「チッ……! 分がわりぃな!」
重戦士ガルドが舌打ちと共に動いた。
彼は麻痺して動けない相棒を見捨てるどころか、ハルバードを大きく振りかぶり──地面に向かって全力で叩きつけた。
「吹き飛べッ! [グランド・スマッシュ]!!」
爆音と共に土砂が舞い上がり、衝撃波がウルフとブラッド・ストーカーを弾き飛ばす。
目くらましだ!
「ずらかるぞ、ホーク!」
ガルドは土煙に紛れてホークを俵担ぎにすると、信じられない速度で背走を始めた。
重装備とは思えない逃げ足の速さ。これぞ場数を踏んだCランクの「引き際」の判断力か。
彼らは不利と悟るや否や、プライドを捨てて生存を選択したのだ。
(逃がすか!)
ウルフが即座に体勢を立て直し、追撃の構えを取る。
手負いの獲物を逃がすわけにはいかない。まだ[王の疾走]の効果時間は残っている。追いつける!
だが──その時、俺の意識の端に悲鳴が引っかかった。
「キャウンッ!?」
「ワオォン……」
(なに!?)
視界の端──ガルドたちが逃走したルート上だ。 そこには混乱から立ち直り、死に物狂いで抵抗する残存冒険者たちの集団がいた。
彼らは生き残るために密集し、数に物を言わせて[N]シャドウウルフや[UC]ファングウルフたちを取り囲んでいた。
「囲め囲め! 一匹ずつ殺せ!」
「親玉がいない間にやっちまえ!」
「ギャンッ!?」
多勢に無勢。連携を分断された部下のウルフたちが、槍や魔法の集中砲火を浴びて悲鳴を上げる。
[N]ランクといえど、数十人に囲まれればひとたまりもない。
(まずい! このままウルフがCランクを追えば取り残された部下たちは全滅する!)
Cランクの首一つと、手塩にかけた部下たちの命。
俺の選択は──一瞬だった。
(追うな、ウルフ! 部下を助けろ!!)
「ガウッ!」
彼は悔しげに一度だけ吠えると、踵を返して包囲されている部下たちの元へと疾走した。
「グルァァァッ!」
銀色の暴風が冒険者たちの包囲網を食い破る。
Cランクには逃げられたが代償として、その場にいた冒険者たちはウルフの怒りの爪によって壊滅した。
(……逃げられたか)
森の奥へと消えていくガルドたちの気配を感じながら俺は歯噛みした。
だが、傷だらけになりながらもウルフに身を寄せ安堵の声を漏らす部下たちを見て思い直す。
「クゥ~ン……」
「グルル(無事か)」
これでよかったんだ。 俺たちは「群れ」だ。
仲間を見捨てて勝利を得ても、それは俺の望むダンジョンじゃない。
Cランクの実力は本物だった。 撤退の判断、足止めのスキル、連携……。
どれをとっても今までの敵とは違う……。
(ウルフ! 深追いはしなくていい。その場の警戒を厳重にしろ! 他の敵が潜んでいるかもしれない)
「ガウッ!」
ウルフの頼もしい返事を聞き、俺はホッと息をつく。
あいつなら大丈夫だ。部下を守るために引く判断もできたんだ、無理はしないだろう。
(後は頼んだぞ……。さて、次はジェネラルの方を見てみよう)
俺はもう一人の英雄に意識をチューニングする。
(視点共有、起動! 接続先──[R]ヒーロー・ゴブリン・ジェネラル!)
フッ、と視界が切り替わる。 ウルフのいた場所から離れた、森の別のエリア。
そこで俺の目に映ったジェネラルの様子は──
♢ ♢ ♢
[現在の拠点状況]
拠点名: (未設定・円形の塔)
階層: 16階建て + 屋上
DP: 10,500
訪問者: 1名(リナ)
召喚中:
総司令官: [R] ヒーロー・ゴブリン・ジェネラル (Lv.20)
狩猟部隊長: [R] ヒーロー・エンシェント・ダイアウルフ (Lv.15)
突撃隊長: [R] オーク・デストロイヤー (Lv.15)
防衛部隊長: [R] スケルトン・バウォーク (Lv.15)
偵察・暗殺: [R] ブラッド・ストーカー (Lv.15)
遊撃・伝令: [R] ベル (Lv.1)
他多数)
侵入者: Cランク冒険者(逃走)、他多数の気配
その他: ウルフ部隊、配下の救助を優先しCランク冒険者の追撃を断念 。
♢ ♢ ♢
(視界が……赤い?)
切り替わったジェネラルの視界。
そこに広がっていたのは、戦場というよりは屠殺場と呼ぶべき凄惨な光景だった。
(なんだ……?この死体の山は……!?)
地面が見えないほどに折り重なる人間の亡骸。血の海。
その中心に、[R]ヒーロー・ゴブリン・ジェネラル率いる部隊──[N]ホブゴブリン・ファイター、[N]ゴブリン・レンジャー、そして今回増援に送った[N]ミノタウロスや[N]ゴーレムたちが立ち尽くしていた。
(ジェネラル、お前がやったのか……? 殲滅しろとは言ったがここまで……)
だが、すぐに違和感に気づく。
勝利したなら上がるはずの勝鬨がない。 それどころか屈強な[N]ミノタウロスが震え、感情を持たないはずの[N]ゴーレムですら後ずさるような気配を見せている。
「グルルル……ッ(総員、動くな! 構えろ!)」
ジェネラルから伝わってくるのはかつてないほどの張り詰めた緊張感と、焦燥。
──違う。
彼らは敵を倒して喜んでいるんじゃない。 目の前の何かに恐怖し、警戒しているんだ。
(違う? じゃあ、一体だれがこんなことを……?)
その時だった。
ドクンッ!!
心臓を鷲掴みにされたような吐き気を催すほどの濃密なプレッシャーが、[視点共有]越しに俺の魂を叩いた。
(っ!? なんだ、この重圧は!?)
ジェネラルの視線が死体の山の頂点へと吸い寄せられる。
そこに──「それ」はいた。
無数の冒険者の死体が作り上げた玉座の上。
全身を返り血で赤く染め上げ佇む一人の男。
(な、なんだあいつは……?)
黒いロングコートを纏い、顔は無機質な鉄仮面で覆われている。
異様なのは足元が血の海だというのに、彼の持つ細剣にもコートの裾にも、返り血の一滴すら付着していないことだ。
血飛沫さえもが彼を恐れて避けたかのように。
(人間、だよな? なんで人間が人間を殺して積み上げてるんだ……?)
仲間割れか? ここにある死体だけで優に20人は下らない。
「グルルル……ッ」
ジェネラルが警戒を露わにし[将軍の魔剣]の切っ先を男に向ける。
だが、鉄仮面の男は動じない。感情の欠落した氷のような声が響いた。
「掃除終了。次はあちらの『ゴミ』ですか」
男の仮面の奥にある双眸がジェネラルたち魔物の部隊を捉える。
そこには敵意も殺意もない。事務的な冷たさだけがあった。
「私にとっては魔物も人間も同じ敵……ダンジョンの宝を奪われては困るのでね……」
(宝を奪われては困る……?)
意味が分からない。宝ってなんだ……?
だが、思考する猶予は与えられなかった。
ドクンッ!!
強烈な殺気が[視点共有]を通して俺の脳髄を直接鷲掴みにする。
直後、俺の脳裏に敵のステータスが強制的に割り込んできた!
♢ ♢ ♢
名前:【処刑人】ゴア・シェルドー
種族: 人間 (暗殺者・B級下位)
Lv: 38 HP: 680/680 | MP: 110/110
STR (筋力): 67
VIT (体力): 54
AGI (敏捷): 98
INT (知力): 52
装備
[処刑人の針(スティンガー)]: 刺突に特化した極細の魔剣。傷口を塞がない呪いが付与されている。
[静寂のロングコート]: 着用者の気配と音を完全に遮断する暗殺用装備。
特技
[瞬歩 (Lv.5)]: 目にも止まらぬ超高速移動。初動の隙が皆無。
[急所必中 (Lv.4)]: 相手の急所を的確に貫く。クリティカル率が極めて高い。
[処刑執行 (Lv.MAX)]: 無力化した相手、または背後からの攻撃時、即死効果を与える。
♢ ♢ ♢
(な……に……?)
俺は戦慄した。
以前遭遇した魔族ヴォルグ(STR 85)には筋力こそ及ばない。 だが、このAGI98という数値はなんだ!?
[R]ヒーロー・エンシェント・ダイアウルフの3倍以上だと……?
(まずい……! ジェネラル、逃げろ!!)
俺の警告が間に合うかどうか。
死体の山の上にいたはずの男の姿がフッ、とかき消えた。
(逃げろ──!!)
俺の絶叫がジェネラルに届くよりも速かった。
いや、速いという次元ですらなかった。
世界から音が消えたような錯覚。
次の瞬間。
ドサッ、ドサッ、ズズゥン……。
ジェネラルの周囲を固めていたはずの[N]ミノタウロス三体と、[N]ゴーレム二体が糸の切れた人形のように崩れ落ちた。
(……え?)
何が起きた?転んだのか?
いや、違う。
ゴロリ、と。 ミノタウロスの牛頭が地面を転がった。
物理耐性を持つはずのゴーレムの岩の首が豆腐のように滑らかに切断され、胴体から滑り落ちた。
(な……!?)
血飛沫さえ遅れて噴き出した。
一瞬だ。瞬きをする暇すらなかった。 屈強な[N]ランクの魔物たちが何もできずに、反応すらできずに一撃で処理されたのだ。
「グルァ……ッ!?」
ジェネラルが愕然と周囲を見渡す。
見えない。剣の軌道はおろか、奴が動いた残像すら[視点共有]を通しても全く見えなかった。
音もなく、気配もなく、
ただ「死」だけがそこに──。
「さぁ……」
冷徹な声が耳元で囁かれたように響く。
気づけば、鉄仮面の男──【処刑人】ゴア・シェルドーはジェネラルの目の前、鼻先が触れるほどの距離に立っていた。
細剣には、脂も血もついていない。
「お前たちは何秒持つかな?薄汚い下等生物どもは……」
仮面の奥の瞳が嘲るように細められた。
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これは、世界の運命と、美味しい野菜と、ペットの散歩に追われる、史上最も騒がしいスローライフ物語である!
『異世界ガチャでユニークスキル全部乗せ!? ポンコツ神と俺の無自覚最強スローライフ』
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> 仕事帰りにファンタジー小説を買った帰り道、不運にも事故死した38歳の男。
気がつくと、目の前には“ポンコツ”と噂される神様がいた——。
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最初はブチギレ寸前だったが、引いたスキルはなんと全部ユニーク!
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「冒険? 魔王? いや、俺は村でのんびり暮らしたいんだけど……」
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第6回カクヨムWeb小説コンテスト中間選考通過作
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転生者のブルーノは絶大な力を持っていたが、その力を隠してダンジョンの荷役として暮らしていた。だが、教会の力で勇者を騙る卑怯下劣な連中に、レットドラゴンから逃げるための生贄として、ボス部屋に放置された。腐敗した教会と冒険者ギルドが結託て偽の勇者パーティーを作り、ぼろ儲けしているのだ。ブルーノは誰が何をしていても気にしないし、自分で狩った美味しいドラゴンを食べて暮らせればよかったのだが、殺されたブルーノの為に教会や冒険者ギルドのマスターを敵対した受付嬢が殺されるのを見過ごせなくて・・・・・・
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異世界に転生した若い男の子レイニーは、王族として生まれ変わり、強力なスキルや魔法を持つ。彼の最大の願望は、人間界で種族を問わずに平和に暮らすこと。前世では得られなかった魔法やスキル、さらに不思議な力が宿るアイテムに強い興味を抱き大喜びの日々を送っていた。
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辺境領主は大貴族に成り上がる! チート知識でのびのび領地経営します
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旧題:転生貴族の領地経営~チート知識を活用して、辺境領主は成り上がる!
トールデント帝国と国境を接していたフレンハイム子爵領の領主バルトハイドは、突如、侵攻を開始した帝国軍から領地を守るためにルッセン砦で迎撃に向かうが、守り切れず戦死してしまう。
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これは転生貴族アクスが領地経営に奮闘し、大貴族へ成りあがる物語。
《作者からのお知らせ!》
※2025/11月中旬、 辺境領主の3巻が刊行となります。
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