朝起きるとミミックになっていた ~捕食するためには戦略が必要なんです~

めしめし

文字の大きさ
73 / 120
第4章 7階層攻略編

第73話 獣人族族長

しおりを挟む
僕たちはリリアがレアアイテム「魔人の宝玉」を預けたという獣人に会うために、北西のエリアに向かっていた。
確かにリュウの言う通り、レアアイテム「獣神の宝玉」を異次元収納に保管してからは敵に襲われる頻度は激減した。
もちろん、全くなくなった訳ではない。
単発で襲われることもあるが、今のところそこまで強力な相手には遭遇していない。

目的地に近づくに連れ、テントで野営している獣人たちが増えてきた。
宝物庫で野営…。
とても不思議な感じがするが、このフロアの規模ならそれも仕方がないのだろう。
焚火の後もあるが、どうやって燃料を集めているんだろう…。

野営しているのはほとんどが獣人たちだ。
獣人たちはとにかく戦士風の人たちが多い。
どの戦士たちも鎧は簡素なものだが、持っている武器は大型の物ばかりだ。
内に秘めているパワーの大きさが感じられる。

リリアは彼ら達とは顔見知りのようだ。
彼女に気が付くと獣人たちの方から手を振ってくれる。
中にはリリアに近寄り、食べ物を渡す者までいる。
どうやらリリアがこの地で「魔神の宝玉」を預けたという話は、嘘でなないようだ。

しかしリリアには優しい顔をする獣人たちが、僕やリュウには怒りに満ちた視線を送ってくる。
よそ者、いやミミックを毛嫌いしているのか?
毛嫌い…、というレベルでもないようだ。
彼らの目には憎悪の文字が浮かんでいる。

確かにミミックが多い7階層。
彼らの仲間たちも何人も食べられただろう。
しかし、彼らの目に映る憎悪の念は、ただ単に仲間がやられただけではないような気がする。

リュウに視線を移すと、特に気にする様子が無いばかりかリリアにプライベートの質問攻めをしている。
肝が据わっているのか、無神経なのか。
いずれにしても、僕よりも大物であることに変わりは無い。

北西に進めば進むほど野営をしている獣人たちが増えてきた。
その規模は数百人をゆうに超えていたのだ。
ここまでの獣人たちを統率できる者。
一体、リリアが「魔神の宝玉」を預けた相手とは一体何者なんだろう?
リリアの主人である獣人の戦士の影響力は、どのくらいあるのだろうか?

北西エリアは獣人たちが管理しているエリアだ。
僕が見る限り、獣人たちが待機しているエリアでは戦闘が行われていない。
にもかかわらず、奥へ進めば進むほど獣人たちの張りつめた緊張感が僕にも感じられる。
さらに僕とリュウへの態度も酷くなってきた。
僕らを見かけるだけで、暴言を投げつける者、襲いかかろうとして仲間に止められている獣人もいる。
間違いなく、ミミックと獣人たちの間で何かがあったのだろう。
リリアの目指す人に会えば、何か分かるのだろうか?

「あっ、あそこだ」
リリアが指さしたところは、通路に門番らしき獣人たちが5人ほど立っている大きな部屋のようだ。
マップを確認すると丁度最北西の部屋だった。
他の部屋の4つ分はあろうかという、巨大な一つの部屋となっている。
部屋の奥にリリアが宝玉を預けた獣人がいるらしい。

リリアが門番の所へ向かおうとすると、部屋の中から大男が姿を現した。
僕がかつて敗れた獣人の戦士に匹敵する体格で、無精ひげだらけの顔に似合わない可愛い獣耳が頭の上にぴょこんと立っている。
胸に大きな包帯が巻かれており、傷はまだ新しいのかうっすら紅く染まっている。

相手を丸ごと飲み込むような力強いオーラは、獣人の戦士に匹敵、いやそれ以上だ。
僕は反射的に攻撃態勢を取ってしまっていた。

大男は、ゆっくりと部屋から通路に向かって歩いてくる。
門番たちはその者に気付くと、敬礼しながら道を開けたのだ。

「族長~」
大男に向かって、笑顔でかけていくリリア。
リリアを確認すると、大男の表情が少し緩んだようにも見える。
大男は中年というより、壮年のようだ。
獣人族の年齢の基準はよく分からないが、人間でいうと70歳前後くらいだろう。

族長と呼ばれる男は、リリアから僕たちに視線を移した。
高齢とは思えない鋭い眼光、何もかも見透かされているような深い眼差し。
僕は彼に見つめられているだけで、背筋が凍るような思いに駆られた。

「リリア、お前が預けた宝玉はもうここには無いのだよ。」

「えっ」

族長の言葉に、リリアは言葉を失った。

「お前がここを去ってすぐ、宝玉を儂専用の宝物庫に保管した。
お前も知っての通り、宝物庫は儂の兵の中でも最強の者たちが門番をしていた。
たとえ何人でも奴らを倒して中に入ることは出来ないだろう。」

「じゃあ、どうして!?」

族長は、一旦話を止め、ふぅっと大きく息を吐いた。

「ミミックだ!儂の宝物庫にすでにミミックが入り込んでいたのだ!」
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

最遅で最強のレベルアップ~経験値1000分の1の大器晩成型探索者は勤続10年目10度目のレベルアップで覚醒しました!~

ある中管理職
ファンタジー
 勤続10年目10度目のレベルアップ。  人よりも貰える経験値が極端に少なく、年に1回程度しかレベルアップしない32歳の主人公宮下要は10年掛かりようやくレベル10に到達した。  すると、ハズレスキル【大器晩成】が覚醒。  なんと1回のレベルアップのステータス上昇が通常の1000倍に。  チートスキル【ステータス上昇1000】を得た宮下はこれをきっかけに、今まで出会う事すら想像してこなかったモンスターを討伐。  探索者としての知名度や地位を一気に上げ、勤めていた店は討伐したレアモンスターの肉と素材の販売で大繁盛。  万年Fランクの【永遠の新米おじさん】と言われた宮下の成り上がり劇が今幕を開ける。

自由でいたい無気力男のダンジョン生活

無職無能の自由人
ファンタジー
無気力なおっさんが適当に過ごして楽をする話です。 すごく暇な時にどうぞ。

ダンジョンで有名モデルを助けたら公式配信に映っていたようでバズってしまいました。

夜兎ましろ
ファンタジー
 高校を卒業したばかりの少年――夜見ユウは今まで鍛えてきた自分がダンジョンでも通用するのかを知るために、はじめてのダンジョンへと向かう。もし、上手くいけば冒険者にもなれるかもしれないと考えたからだ。  ダンジョンに足を踏み入れたユウはとある女性が魔物に襲われそうになっているところに遭遇し、魔法などを使って女性を助けたのだが、偶然にもその瞬間がダンジョンの公式配信に映ってしまっており、ユウはバズってしまうことになる。  バズってしまったならしょうがないと思い、ユウは配信活動をはじめることにするのだが、何故か助けた女性と共に配信を始めることになるのだった。

【超速爆速レベルアップ】~俺だけ入れるダンジョンはゴールドメタルスライムの狩り場でした~

シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
ダンジョンが出現し20年。 木崎賢吾、22歳は子どもの頃からダンジョンに憧れていた。 しかし、ダンジョンは最初に足を踏み入れた者の所有物となるため、もうこの世界にはどこを探しても未発見のダンジョンなどないと思われていた。 そんな矢先、バイト帰りに彼が目にしたものは――。 【自分だけのダンジョンを夢見ていた青年のレベリング冒険譚が今幕を開ける!】

【もうダメだ!】貧乏大学生、絶望から一気に成り上がる〜もし、無属性でFランクの俺が異文明の魔道兵器を担いでダンジョンに潜ったら〜

KEINO
ファンタジー
貧乏大学生の探索者はダンジョンに潜り、全てを覆す。 ~あらすじ~ 世界に突如出現した異次元空間「ダンジョン」。 そこから産出される魔石は人類に無限のエネルギーをもたらし、アーティファクトは魔法の力を授けた。 しかし、その恩恵は平等ではなかった。 富と力はダンジョン利権を牛耳る企業と、「属性適性」という特別な才能を持つ「選ばれし者」たちに独占され、世界は新たな格差社会へと変貌していた。 そんな歪んだ現代日本で、及川翔は「無属性」という最底辺の烙印を押された青年だった。 彼には魔法の才能も、富も、未来への希望もない。 あるのは、両親を失った二年前のダンジョン氾濫で、原因不明の昏睡状態に陥った最愛の妹、美咲を救うという、ただ一つの願いだけだった。 妹を治すため、彼は最先端の「魔力生体学」を学ぶが、学費と治療費という冷酷な現実が彼の行く手を阻む。 希望と絶望の狭間で、翔に残された道はただ一つ――危険なダンジョンに潜り、泥臭く魔石を稼ぐこと。 英雄とも呼べるようなSランク探索者が脚光を浴びる華やかな世界とは裏腹に、翔は今日も一人、薄暗いダンジョンの奥へと足を踏み入れる。 これは、神に選ばれなかった「持たざる者」が、絶望的な現実にもがきながら、たった一つの希望を掴むために抗い、やがて世界の真実と向き合う、戦いの物語。 彼の「無属性」の力が、世界を揺るがす光となることを、彼はまだ知らない。 テンプレのダンジョン物を書いてみたくなり、手を出しました。 SF味が増してくるのは結構先の予定です。 スローペースですが、しっかりと世界観を楽しんでもらえる作品になってると思います。 良かったら読んでください!

帰って来た勇者、現代の世界を引っ掻きまわす

黄昏人
ファンタジー
ハヤトは15歳、中学3年生の時に異世界に召喚され、7年の苦労の後、22歳にて魔族と魔王を滅ぼして日本に帰還した。帰還の際には、莫大な財宝を持たされ、さらに身につけた魔法を始めとする能力も保持できたが、マナの濃度の低い地球における能力は限定的なものであった。しかし、それでも圧倒的な体力と戦闘能力、限定的とは言え魔法能力は現代日本を、いや世界を大きく動かすのであった。 4年前に書いたものをリライトして載せてみます。

【完結】神スキル拡大解釈で底辺パーティから成り上がります!

まにゅまにゅ
ファンタジー
平均レベルの低い底辺パーティ『龍炎光牙《りゅうえんこうが》』はオーク一匹倒すのにも命懸けで注目もされていないどこにでもでもいる冒険者たちのチームだった。 そんなある日ようやく資金も貯まり、神殿でお金を払って恩恵《ギフト》を授かるとその恩恵《ギフト》スキルは『拡大解釈』というもの。 その効果は魔法やスキルの内容を拡大解釈し、別の効果を引き起こせる、という神スキルだった。その拡大解釈により色んなものを回復《ヒール》で治したり強化《ブースト》で獲得経験値を増やしたりととんでもない効果を発揮する! 底辺パーティ『龍炎光牙』の大躍進が始まる! 第16回ファンタジー大賞奨励賞受賞作です。

俺は善人にはなれない

気衒い
ファンタジー
とある過去を持つ青年が異世界へ。しかし、神様が転生させてくれた訳でも誰かが王城に召喚した訳でもない。気が付いたら、森の中にいたという状況だった。その後、青年は優秀なステータスと珍しい固有スキルを武器に異世界を渡り歩いていく。そして、道中で沢山の者と出会い、様々な経験をした青年の周りにはいつしか多くの仲間達が集っていた。これはそんな青年が異世界で誰も成し得なかった偉業を達成する物語。

処理中です...