手の届かない元恋人

深夜

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「ほらな、言っただろ。お前の思い通りには行かないって。」
「........。」

和弥のいない、バーは行かなくてもいい。
だが、どうしても今日は行かなくてはならなかった。
お酒を摂取し、処理しきれていない重い身体を起こしバーへと向かった。和弥を泣かせるまで酷いことをしてしまった自分を咎める奴がいないと、壊れそうになる。
1人でいたら、俺は生きる意味を無くして死にそうになる。
縋る思いで寄った、尚樹にバーテンダーである航はカクテルではなく、水とインスタントのしじみ汁を出した。

「もう俺、死んでもいいや」
「は?お前、和弥さんをまた1人にするんだな。自分勝手な奴だ。」

そう言うと尚樹はカウンターで顔を伏せ、一言も話さずにただいるだけだった。人気俳優のくせにまるで透明人間のようにデカい身体とオーラを出さずにただの一般人化とした尚樹は、いつか痛い目を見て欲しいという気持ちがある航にとって美味しい場面だった。
しかしこのままではぽっくり逝ってもおかしくないくらい精神的に参っている。救いの手を出すつもりはないが、手を出さずにはいられなかった。

「お前さ、自分が何やったか分かってんの?」

尚樹は無言だった。
航はピキリと頭に怒りの筋が入る。
コイツ、分かってねぇな。
和弥さんの気持ちを考えていないと言えば嘘になるが、コイツは勝手に相手の気持ちを決めつけて、それを疑うことをしない。俺が成長すればいい、俺が頑張ればいい、
俺が年下だから和弥さんは気を遣っているんだ。
単にコイツは和弥さんにいつまでも好かれたいと思う半分、
永遠という言葉なんてないと決めつけて、無意識に言い訳を作って逃げているのだ。
ようするに尚樹に必要なのは“覚悟”なのだ。
和弥さんと一緒にいる覚悟が尚樹にはないのだ。

「じゃあさ、お前は今から和弥さんだ。」
「...は?」
「尚樹と和弥さんは付き合っていました。
しかし、ある日急に何も言わずに別れを告げられました。
俺が悪かったのかな、気に障ることしたのかな。まだ好きなのに。そんな不安を抱えてたら突然すきなひとがテレビに出てきた。しかも皮肉にもBLドラマ。いつもテレビ越しで笑ってて、いかにも貴方を過去の人にしましたが、今は幸せですと言っているかのように。それを見たお前ならどう思うんだよ。」
「....最悪だし、納得いかない」

それをやってるんだぜ...お前はと言わんばかりの顔をする航などお構いなしに尚樹は机に顔を伏せている。

「お前は今、それをやってるんだぞ。少しは気持ちが分かったかよ。鈍感馬鹿」

次の瞬間、尚樹は声を出して泣いた。
大泣きという訳ではないが、いい歳してそんな泣かねえだろと思うぐらいには静かに声を出して泣いていた。
ヒクと喉を鳴らし、カウンターが涙で埋め尽くされるのではないかと思うぐらいだ。
突然の事に航は持っていたグラスを落としそうになった。
性格上、他人の気持ちを気づかせる事には慣れているが、慰めることは知らないし、慣れない。
第一に尚樹がこんな泣いたのを見るのは初めてだった。
飲み込みが早いせいか、和弥の気持ちが分かったのか、
まぁどっちもだろう。
ふと昔のことを思い出した。

一応、幼馴染として尚樹の隣にいた。
昔の尚樹は環境には恵まれていたが、目は死んでいて、笑っていても心の底からではないんだろうなって思う所が何回もある。
「お前といる時だけが上手く息が吸えるんだよな」
尚樹に言われた言葉を今でも覚えている。
いつもと変わらない学校の帰り道、尚樹が弱音を吐いた事を見たことない俺は、アイツの口から小さな声で言ったその言葉に対して俺はなんて言ったらいいのか分からなかった。
ネタにするようなことはしなくないし、中途半端な返事もしたくなかったから。
だけど、今なら言える気がする。
航はグラスを拭くのを止め、エプロンを解き、カウンターから出る。俺はバーテンダーとしてじゃなくて、“親友”として接したかった。尚樹の隣に座り、肩をポンと叩く。

「恋愛不器用には一回こうなってもらわないと、
和弥さんもスッキリしないだろ。
これからお前がすべきことは分かったよな。
突っ走って悪い方向に行く時もあるけど、根を見てみるとちゃんと相手のことを想ってたり、自分の芯があるところ、良いと思う。」

「覚悟を持てよ」


そう言うと尚樹は立ち上がり、倍以上のお金を出してお店を後にした。これでアイツがどう行動するのか分からないが
とりあえず尚樹が元々持っていた恋愛のズレを直したし、
良い方向には行くんじゃないかと思う。
あとは尚樹次第だな。
航は二人が上手く行くように願った。






______

自分の仕事を終えた航は一息付いて、カウンターの席に座る。バーテンダーのいないカウンターを見られたら、店長に怒られてしまうが、とりあえず休みたい。

「なんか飲みますか?俺、作ります。」

そう言って目の前に立っていたのは滅多にシフトが被らない年下の男。いつもならいないのになぜいるんだろうか。

「お前、今日入ってたの?シフト今日いなかっただろ」

航が言うと男はお酒を作っていた手を止めて言った。

「航さんが、知らない男と飲んでるって話聞いて飛んできました。誰なんですか、あの男。」

「ただの親友だよ、今、恋に迷える子羊ちゃんだからね。」

「ふーん、そうなんですね。で、航さんは恋に迷ったりしてないんですか?」

「んー?恋ってなに?教えて欲しいな。」

そう言って、男の手を握る。

まぁ、恋には興味がないし、続かないもんだと思うけど、
俺の言葉にこんなに顔を赤くしてる目の前の男と恋をするのも悪くないなと思った。
尚樹が恋愛してるからかな。





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