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第二章
おしえて御影先生!
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翌日。
十一月のスタートとともに新しい部署へと異動した栗丘は、まず手始めに、御影によるあやかし講座を受けることになった。
「名付けて、『おしえて御影先生! 馬鹿でもわかるカンタンあやかし講座』。始まり始まりー」
警視庁舎の会議室。ホワイトボードの前に立つ御影は、パチパチパチと自ら拍手して講座の開始を宣言する。
そんな彼の前で大人しく席に着いているスーツ姿の栗丘は、若干戸惑いながらも控えめな拍手を送る。
さらにその隣に座る絢永は「なんで僕まで付き合わなきゃいけないんだ……」などとブツブツ言っている。
「というわけで。あやかしの性質については昨日の店で話した通りだけど。今日はあやかしの『種類』について説明するね」
「あやかしの、種類?」
栗丘がおうむ返しに聞くと、御影はうんうんと満足そうに頷く。
「あやかしも人間の犯罪者や害獣と同じで、その害悪さにレベルがあってね。そのレベルによって、あやかしは二つの種類に分けられると我々は考えている。言ってしまえば、放っておいてもいいレベルか、そうでないレベルかってこと」
「えっ。人間の犯罪者でも、放っておいていいレベルってあるんですか?」
さっそく話の腰を折る栗丘に、絢永は鬱陶しそうに眼鏡の奥から苛立ちの視線を送る。
「まあ、厳密にはどんな軽犯罪も無視していいわけじゃないんだけどね。たとえばほら、幼い子どもが『バカ』とか『アホ』とか言ってても、侮辱罪だなんて目くじらを立てる大人はそうそういないだろう? そういうレベルだと思ってくれればいいよ」
説明を聞きながら、そういえばこの講座自体にも『馬鹿』という悪口が入っていたな、と栗丘は他人事のように考える。
「あやかしは自分たちの姿が見えないのをいいことに、こっそりと人間に噛みついてその血を啜る。正直、たまに見かける小動物程度の大きさのあやかしなら、別に放っておいてもいいと私は考えている。特に有害な菌や毒を持っているわけじゃないし、傷口も大して気にならない程度だし、実際に栗丘くんだって、あの白いふわふわのことは可愛がっているわけだしね」
そんな御影の言葉に応えるようにして、栗丘の胸ポケットに入っていたキュー太郎は「キュッ!」と一声鳴いて顔を出す。
「ひ弱なあやかしは、我々のような霊視能力のある人間が触れればたちまち消えてしまうくらいの儚い存在だからね。わざわざ囮捜査までして誘き寄せる必要はないと思う。だから我々が相手にするのは、もっと高等で強力で、甚大な被害が予想されるあやかしなんだよ」
言いながら、御影は手元に用意していたパワーポイントを起動させ、部屋の照明を消す。
直後、ホワイトボードに映し出された画像を見て栗丘は絶句した。
そこに映し出されていたのは、あきらかに人の死体だった。
自宅のリビングのような場所で、成人と思しき男性がうつ伏せに倒れている。衣服はズタズタに引き裂かれ、その隙間から覗く皮膚は変色して老木のようになっている。
辺り一面にはあちこちに血の迸った痕があり、男性が何かから逃げ惑いながら絶命した様がありありと想像できた。
「一見、熊か何かに襲われたように見えるんだけどね。実際はこの男性の奥さんに取り憑いていたあやかしの仕業だよ。男性は常日頃から不倫を繰り返していたようでね。奥さんもそれに気づいていたみたいだから、きっとその恨みの心に付け入られたんだと思う。まあ、夫婦間の恨みごとなんてそれだけじゃなかったかもしれないけどね」
「そんな……。あやかしに憑かれた人は、こんな残酷なことまでするんですか?」
わなわなと唇を震わせながら栗丘が問うと、御影は相変わらずの調子で淡々と答える。
「死体が残るならまだマシな方だよ。あやかしの中には、人間を丸呑みにしちゃうような奴もいてね。そういう場合、被害者は失踪扱いのまま事件は迷宮入りしちゃうから困るんだよ。まあどちらにせよ、あやかしの存在を一般人の前で証明できない以上、人が死んでからでは事件の解決には辿り着けない。だからこそ、我々は死人が出る前に動く必要がある。そのためには囮捜査で誘き寄せるのが最も効果的というわけさ」
栗丘は自らが囮になることの危険性について改めて自覚した。
最悪の場合、この男性のように全身をズタズタに引き裂かれて惨殺される可能性もある。
「怖気づいたかい?」
御影が聞いて、隣からは絢永が静かに視線を寄越す。
「いえ……。大丈夫です」
正直なところ、全く怖くないと言えば嘘になる。
けれど、どんな危険を冒してでも、栗丘はあの事件のことが知りたかった。
(父さんも、母さんも、あやかしに殺されたかもしれないんだ)
二十年前に両親が巻き込まれたあの事件。
御影が知っているというその真相。
育ての親である祖母でさえ、その真実を語ることは一度もなかった。
(それに、父さんは……)
二十年前。
爆発の起きた現場から見つかった複数の遺体。変わり果てた母の姿は、まだ幼かった栗丘の目に直に触れさせられることはなかった。
そして、同じく爆発に巻き込まれて死んだといわれている父の遺体は、二十年経った今でもまだ見つかっていない。
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