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第三章
門の向こう側にある真実
しおりを挟む「そう。二人とも、大晦日の夜に家族を失っている。これはただの偶然じゃない。もともと大晦日というのは『百鬼夜行』が起こりやすい日といわれているんだ」
「ひゃっき……?」
栗丘がまたしても首を傾げると、
「百鬼夜行というのは、数多のあやかしが群れを成して襲ってくる現象のことだよ」
御影も栗丘の扱いに慣れてきたのか、間髪入れずにそう補足した。
「大晦日の夜といえば、新しい年が明ける直前の時間帯。一年と一年の境目、いわば『狭間』や『境界』に当たることから、あの世とこの世との境目も曖昧になる。その不安定な空間に発生するのが『門』なんだ」
「門って、このあいだ俺とマツリカが見つけたアレ、ですか?」
先日、マツリカの策略に嵌って廃墟のマンションへと足を踏み入れた栗丘は、そこで『門』の向こうからやってきたあやかしと対峙した。
「あの程度の規模の門が開くのは、そう珍しいことじゃない。どんなあやかしも、必ず門を通ってこちらの世界にやってくるからね。まあ、開く瞬間に出くわすのはかなり稀だけど」
門の開く瞬間を目の当たりにした時のマツリカは、どこか興奮した様子だった。
栗丘の『引き寄せ体質』がなければ、あの門も目の前で開くことはなかったのかもしれない。
「大晦日の夜はあちこちで門が発生して、大量のあやかしが一気にこちらの世界へと雪崩れ込んでくる。それが百鬼夜行さ。でも、大半のあやかしは弱小で取るに足らない、言ってしまえば放置してもほぼ問題のないものばかり。その中で我々が一際警戒しなければならないのは、十年に一度開くといわれる巨大な門の存在なんだ」
「十年に一度?」
そのワードに、栗丘は反応する。
「十年に一度だけ、巨大なあやかしが、その門を通して体の一部だけでもこちらの世界へ干渉してこようとする。その力は強大で、門の発生した周辺では甚大な被害が出ることもある」
「もしかして……俺の両親や絢永の家族は、その巨大なあやかしに喰われたってことですか?」
栗丘の両親が巻き込まれた事件と、絢永の家族が殺された事件は、ちょうど十年ごとに起きている。巨大なあやかしの出現が大晦日の夜だとするなら、間違いない。
しかし御影は、
「そうとも言えるし、違うとも言える。そこのところを詳しく話すのは、君の覚悟を確かめてからにしたいんだけど……」
この期に及んで、なぜか情報の一部を出し惜しみする御影に、栗丘は少なからず苛立ちを覚えた。
「もったいぶらないではっきり言ってくださいよ。なんでそうやっていつも中途半端にはぐらかすようなことするんですか。情報を出し渋ったり、嘘を吐いたり……そんなことされると、さすがに俺も腹を立てるし、あなたのことを信用できなくなりますよ」
先ほどの式神のこともあり、思わず声に棘が混じる。
「私を信用するかしないかは、君の好きにすればいい。私は平気で嘘を吐くし、目的のためなら手段を選ばない。ただ、私にしか知り得ない情報があるというのも確かで、こと君の父親の真相について詳しく知っているのは、おそらくこの世で私ただ一人だけだと思う。だから、これから私の話すことは、君の中でどう受け止めてもらっても構わない。事実として受け入れるのか、あるいは嘘偽りだと否定するのか。どちらにせよ、私の言葉が真であるかどうかなんて、確かめる術はほぼないだろうけどね」
まるで開き直りとも取れるその姿勢に、栗丘はどう対応したものかと迷う。
「もっとも、最初から私の話を聞きたくないのであれば、無理に聞く必要はないよ。真実を追い求めることだけが正解ではないという場合もある。この世の真実なんてロクでもないものばかりだし、知らない方が幸せなことだってたくさんある。夢や憧れ、美しい思い出なんかを余計な真実で汚されたくないという人もいるだろう。都合の悪いことから目を逸らすのも、健全に生きる上では大切なスキルだからね」
「俺は、目を逸らしたくなんかないんです!」
栗丘が声を張り上げると、途端に黙り込んだ御影は、キュー太郎の頭をゆっくりと持ち上げて、栗丘の顔をじっと見つめた。
「俺は真実が知りたいんです。都合の良い嘘なんていりません。たとえ、どれだけ認めたくない真相がそこにあったとしても……受け入れなきゃいけないと思ってます。でないと俺は、俺の両親と本気で向き合えていない気がするんです」
そこまで聞き終えてから、御影はふふっと鼻を鳴らすように笑った。
「本当に君は、父親に似てまっすぐなんだね」
「え?」
「わかった。君の覚悟を確認したから、私も話すよ。心の準備はいいね?」
最後の確認といわんばかりに改めて問われ、栗丘は思わず息をのむ。
「は……はい!」
栗丘の威勢の良い返事に、御影の操る白い獣は、こくりと一つ頷いてから言った。
「単刀直入に言うと、君の父親はまだ生きている」
「…………は?」
のっけから想定外の言葉が飛んできて、栗丘は思わず固まった。
「生きてる? 俺の、父さんが?」
「そう。生きている。けれど、この世にはいない」
「ん? え? この世にはいないって、それって、死んでるってことじゃ……?」
混乱する栗丘を宥めるように、キュー太郎はテーブルから栗丘の膝に飛び移ると、後ろ足だけでその場に立ち上がってじっと見つめてくる。
「まだ死んでないよ。こちらの世界にはいないだけで、彼はあちらの世界で生きている」
あちらの世界、という呼び名を聞いて初めて、栗丘はハッとした。
「二十年前、君の父親は例の巨大なあやかしと対峙し、敗北した。死は免れたものの、あやかしに憑かれて憑代と化した彼は、そのままあちらの世界へ連れて行かれてしまったんだ。そして十年前、彼は憑代として、再びこちらの世界へと戻ってきた。この意味がわかるかい?」
十年に一度現れる、強大な力を持った恐ろしいあやかし。その憑代となった人間の取る行動といえば、考えられるのは一つしかない。
「……まさか」
わずかに全身を震わせる栗丘に、御影は真実を語る。
「十年前に絢永くんの家族を殺したのは、君の父親である栗丘瑛太なんだよ」
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