あやかし警察おとり捜査課

紫音みけ🐾新刊2月中旬発売!

文字の大きさ
38 / 51
第四章

栗丘瑛太という人間は

しおりを挟む
 
          ◯


 ——言っておきますけど、私は納得してませんからね。あなたと私が相棒同士だなんて。

 ——お、俺だって、お前みたいな嫌味な奴とは願い下げだ!

 二十年前。
 若き日の御影京介と栗丘瑛太は、毎日のようにいがみ合っていた。

 共にあやかしを霊視する能力を持つ彼らは、あやかし退治を主とする部署『特例災害対策室』に所属し、二人一組で捜査に当たるよう上から言いつけられていた。

 しかし性格は真逆。
 常に冷静沈着で慎重派の御影と、直感で動くタイプの栗丘。
 互いに口を開けば衝突してばかりで、捜査も思うように進まない日がほとんどだった。

 ——にしても、お前と組むようになってから、あやかしに遭遇する回数自体が減ってる気がするぞ。一体どうなってるんだ?

 ——血が不味いそうですよ。私の血は、あやかしの口には合わないそうです。あやかしも選り好みをするみたいですから、あえて私に近づかないようにしているのかもしれません。

 ——げぇ。あやかしにも好き嫌いってあるんだな。そういや俺、昔から血を吸われまくってたけど、もしかして味が良いのかなぁ。

 人間の味は千差万別で、あやかしの好む味を持つ人間は特に狙われやすいという報告もある。

 ——いっそ、あなたがおとりになればいいんじゃないですか? あなたがエサになってくれている間に、私は安全な場所から標的を狙い撃ちますから。

 もちろん、それは冗談で言ったつもりだった。
 頭が使えないなら体を張れ、という皮肉を込めて、御影は嫌味たっぷりにからかっただけなのに、

 ——いいな、それ!

 と、栗丘はぱっと顔を輝かせて言った。

 ——は? いや。冗談に決まってるでしょう、そんなの。

 ——やってみようぜ、それ。早くあやかしを捕まえないと、被害はどんどん広がっていくもんな。

 ——なに本気にしてるんですか。囮捜査なんて、そんな危険なことをさせられるわけないでしょう。

 ——だーいじょうぶだって。俺はそんなヤワじゃないし。それに、いざとなったらお前が助けてくれるんだろ?

 栗丘瑛太という男は、まるで人を疑うことを知らない人間だった。
 まだ出会ったばかりで相性も悪い、ただの仕事仲間という関係の相手に、なぜこうも簡単に自分の命を預けられるのか、御影には理解できなかった。

 ——俺が誘き寄せて、お前が撃つ。完璧じゃねーか。名付けて、『あやかし警察おとり捜査課』ってな。はははっ!

 栗丘は、自分が「良い」と思ったことは「良い」と言う。
 自分の感じたままに動き、隠し事もしない。

 仕事に対しても、それは同じだった。
 目の前で困っている人がいれば放って置けない。たとえ上の命令に背いても、常に自分の大切なものを貫こうとする人間だった。

 ——あなたって、馬鹿みたいにまっすぐですよね。

 ——馬鹿は余計だろ!

 御影が軽口を叩く度に、栗丘は子どもみたいにムッとする。
 その素直な反応が面白くて、御影は思わずくすりと笑ってしまう。
 そんな彼を見て、栗丘もまた「へへっ」と嬉しそうに笑うのだった。


          ◯


「昔の御影は、それはもう無愛想でな。加えてあの顔だから、常に近寄りがたいオーラがあった。でも栗丘は……君の父親だけは、彼に対して遠慮がなかった。だからこそ御影も、少しずつ心を開いてくれたのかもしれない」

 暗い廊下を進みながら、平泉はどこか遠い目をして言った。

 午前一時半。
 マツリカと共に主治医から手術の説明を受けた彼は、栗丘たちを連れてタクシー乗り場へと向かっていた。

 御影はまだ眠っている。容態は安定しているが、意識が回復するまではまだ時間がかかるということで、四人はひとまず帰路に就くことになった。

 マツリカのことは平泉が自家用車で送ることになり、栗丘と絢永の二人はタクシーへと乗り込む。

「諸々の報告は、私の方で何とかする。だから君たちは、今は自分たちのことだけを考えていなさい」

 警視庁のトップである平泉が、御影のバックに付いていたのは大きかった。
 思えば今まで御影が自由に行動できていたのも、ひとえに彼のおかげだったのかもしれない。

 タクシーが発進すると、栗丘と絢永は再び二人きりになった。厳密に言えば車内には運転手も乗っているが、どうやら寡黙なタイプのようで、必要最低限のこと以外は話しかけてこない。

「御影さん、無事で良かったよな」

 ぽつりと、栗丘は呟くように言った。

 こうして絢永に話しかけるのは、もう何時間ぶりになるだろうか。
 最後に話したのは、あやかしに憑かれた絢永がこちらに銃を向けて、涙を流した時だった。

 ——さようなら、栗丘センパイ。

 彼はその手で、銃を撃った。
 被弾したのは御影だったが、その弾丸は、あきらかに栗丘の心臓を狙っていた。

「栗丘センパイ」

 久方ぶりに、その呼び名を耳にする。
 栗丘が見ると、絢永は窓の外を眺めたまま、

「久しぶりに、あなたの家に寄ってもいいですか」

 窓に映る彼の顔からは、明確な感情を読み取ることはできない。

「ああ。もちろん」

 栗丘は二つ返事で了承した。

 たとえ彼が再びこちらに銃を向けたとしても、構わない。
 栗丘はもう一度、彼と正面から向き合って話がしたかった。
 
しおりを挟む
感想 8

あなたにおすすめの小説

白苑後宮の薬膳女官

絹乃
キャラ文芸
白苑(はくえん)後宮には、先代の薬膳女官が侍女に毒を盛ったという疑惑が今も残っていた。先代は瑞雪(ルイシュエ)の叔母である。叔母の濡れ衣を晴らすため、瑞雪は偽名を使い新たな薬膳女官として働いていた。 ある日、幼帝は瑞雪に勅命を下した。「病弱な皇后候補の少女を薬膳で救え」と。瑞雪の相棒となるのは、幼帝の護衛である寡黙な武官、星宇(シンユィ)。だが、元気を取り戻しはじめた少女が毒に倒れる。再び薬膳女官への疑いが向けられる中、瑞雪は星宇の揺るぎない信頼を支えに、後宮に渦巻く陰謀へ踏み込んでいく。 薬膳と毒が導く真相、叔母にかけられた冤罪の影。 静かに心を近づける薬膳女官と武官が紡ぐ、後宮ミステリー。

烏の王と宵の花嫁

水川サキ
キャラ文芸
吸血鬼の末裔として生まれた華族の娘、月夜は家族から虐げられ孤独に生きていた。 唯一の慰めは、年に一度届く〈からす〉からの手紙。 その送り主は太陽の化身と称される上級華族、縁樹だった。 ある日、姉の縁談相手を誤って傷つけた月夜は、父に遊郭へ売られそうになり屋敷を脱出するが、陽の下で倒れてしまう。 死を覚悟した瞬間〈からす〉の正体である縁樹が現れ、互いの思惑から契約結婚を結ぶことになる。 ※初出2024年7月

《完結》「パパはいますか?」ある日、夫に似た子供が訪ねて来た。

ヴァンドール
恋愛
嫁いですぐに夫は戦地に赴いた。すると突然一人の男の子が訪ねて来た「パパはいますか?」 その子供の顔は戦地に行った夫にそっくりだった。

あばらやカフェの魔法使い

紫音みけ🐾新刊2月中旬発売!
キャラ文芸
ある雨の日、幼馴染とケンカをした女子高生・絵馬(えま)は、ひとり泣いていたところを美しい青年に助けられる。暗い森の奥でボロボロのカフェを営んでいるという彼の正体は、実は魔法使いだった。彼の魔法と優しさに助けられ、少しずつ元気を取り戻していく絵馬。しかし、魔法の力を使うには代償が必要で……?ほんのり切ない現代ファンタジー。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

後宮の手かざし皇后〜盲目のお飾り皇后が持つ波動の力〜

二位関りをん
キャラ文芸
龍の国の若き皇帝・浩明に5大名家の娘である美華が皇后として嫁いできた。しかし美華は病により目が見えなくなっていた。 そんな美華を冷たくあしらう浩明。婚儀の夜、美華の目の前で彼女付きの女官が心臓発作に倒れてしまう。 その時。美華は慌てること無く駆け寄り、女官に手をかざすと女官は元気になる。 どうも美華には不思議な力があるようで…?

遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。

沼野 花
恋愛
私は、夫にも子供にも選ばれなかった。 その事実だけを抱え、離縁を突きつけ、家を出た。 そこで待っていたのは、最悪の出来事―― けれど同時に、人生の扉がひらく瞬間でもあった。 夫は愛人と共に好きに生きればいい。 今さら「本当に愛していたのは君だ」と言われても、裏切ったあなたを許すことはできない。 でも、子供たちの心だけは、必ず取り戻す。 妻にも母にもなれなかった伯爵夫人イネス。 過去を悔いながらも、愛を手に入れることを決めた彼女が辿り着いた先には――

オヤジ栽培〜癒しのオヤジを咲かせましょう〜

草加奈呼
キャラ文芸
会社員である草木好子《くさきよしこ》は、 毎日多忙な日々を送り心身ともに疲れきっていた。 ある日、仕事帰りに着物姿の女性に出会い、花の種をもらう。 「植物にはリラックス効果があるの」そう言われて花の種を育ててみると…… 生えてきたのは植物ではなく、人間!? 咲くのは、なぜか皆〝オヤジ〟ばかり。 人型植物と人間が交差する日常の中で描かれる、 家族、別れ、再生。 ほんのり不思議で、少しだけ怖く、 それでも最後には、どこかあたたかい。 人型植物《オヤジ》たちが咲かせる群像劇(オムニバス)形式の物語。 あなたは、どんな花《オヤジ》を咲かせますか? またいいオヤジが思いついたらどんどん増やしていきます!

処理中です...