あやかし警察おとり捜査課

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第四章

変化をもたらすもの

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「あなたを、あやかしに喰わせる? できるわけないでしょう、そんなこと」

 御影の案を聞いて、絢永は信じられないといわんばかりに拒否の意を示した。

「お、俺だって反対です! そんなの、御影さんが犠牲になるってことじゃないですか!」

 栗丘も慌てて絢永に同意するが、当の御影はふふっと呑気に笑って言う。

「そう言うと思っていたよ。だから本来なら、君たちには何も知らせずに、私一人で全てを終わらせるべきだった。最初から栗丘くんをこの部署へ招き入れることもせず、絢永くんにも憑代の件は黙ったまま、ひっそりと私が喰われてそれで終わりになるはずだった。もともと、栗丘くんには二十年前の事件の真相を伝えないよう、君のお祖母様にも協力してもらっていたしね」

 それを聞いて、栗丘は病院での祖母の様子を思い出す。

「やっぱり……ばあちゃんが俺にあやかしのことを隠していたのは、わざとだったんですね」

 孫である栗丘の前では、あやかしの話など一度もしなかった祖母。

 しかしその後認知症を患い、もはや孫の存在すら忘れてしまった彼女は、自らの家系が皆あやかしの見える人間であることを口にしてしまった。

「君が父親の二の舞にならないようにと、私とお祖母様との間で決めたことさ。この二十年間、君の周囲には私の血を含ませた札を貼り、できるだけ君をあやかしと接触させないようにしてきた。父親と同じ『引き寄せ体質』である君が、今まであやかしに遭遇する機会が少なかったのはそのためさ」

 今となっては、なぜ気づかなかったのかと栗丘は振り返る。
 自分の知らないところで、自分がいかに人の世話になっていたかを、今さらながらに痛感する。

「どうして、そこまでするんですか。なんで俺なんかのために、あなたがそこまで体を張って……」

「約束したからね、君の父親と」

 そう答える御影の声は、わずかに笑みを溢したような柔らかさがあった。

「彼と私は、お互いを相棒と見込んで約束したんだ。二人のうちのどちらかが、もしもあやかしに憑かれて暴走した時には、残された方が必ずそれを止めると。しかし私は、すでに二度も失敗している。十年前も二十年前も、私は彼を止めることが出来ず、多大な被害を出してしまった。もはやこれ以上の失敗は許されない」

「だからって自分を犠牲にするって言うんですか!? そんなので俺たちが納得できるわけないでしょう!」

「わかっているよ。だからこそ、本来なら君たちに全てを話すべきではなかった。でも、結局は私の身勝手な都合で、予定を狂わせることになってしまった。君のお祖母様との約束を破り、私は君をこの部署へと引き入れた。そして父親の真相を話し、絢永くんにもそれが伝わるように仕向けた。全ては私が勝手にやったことだよ。せっかく二十年も前から用意していたのに、全て水の泡さ」

「それは、どうして」

 絢永が聞く。
 御影はちらりと彼の方を見ると、やがて誰もいない宙を見つめて言った。

「子どもにとっての親という存在が、思ったよりも大きいと気づいたからさ。マツリカがいつも言っていたんだ。自分の親のことを、ちゃんと知りたいって」

 マツリカ。
 彼女は両親が憑代であったことから、自身の出生についても疑問を抱き、悩んでいた。

「私はもともと、家族や親子というものにそれほど思い入れがなかった。だから最初は、栗丘くんにも絢永くんにも、過去の真実を全て伝える必要はないと考えていたんだ。たとえ血の繋がった家族のことでも、知らない方が幸せなことだってある。絢永くんは仇のあやかしさえ退治できればそれでいいし、栗丘くんに至っては二十年前のことをすべて隠蔽してしまえば問題ないと思っていた。でも……マツリカを見ている内に、それは間違いなんじゃないかと思うようになった。たとえどれだけ悲しい現実があったとしても、子どもが親のことを知りたがるのは当たり前のことなんじゃないかって。実際、栗丘くんは二十年前の事件の真相をずっと知りたがっていたしね」

 マツリカと共に暮らす内に、御影に訪れた変化。それは二十年にも及ぶ信念すら揺るがす程の、大きな影響力を持っていたらしい。

「だから私は、君たちの様子を見ながら、少しずつ情報を提供していこうと考えたんだ。君たちが本当にそれを望むなら、たとえロクでもない現実でも、真実を伝えようと。もちろん、正しい判断だったとは口が裂けても言えない。君たちにはたくさん辛い思いをさせてしまったからね。もしも私に少しでも償いができるとしたら、大晦日の夜に体を張ることぐらいしかできないのさ」

「償いなんて、そんなのいりません。俺はずっと真実が知りたかったんです。父のことは、確かにショックでしたけど。それでも、知って後悔はしていません。だから、御影さんにも犠牲になってほしくありません」

「僕も同じです」

 二人の意思を受けて、御影は小さく息を吐く。

「君たちがそう言うと思っていたからこそ、私は二つ目の案を考えたんだ。ただしこれは、君たちにも多大な危険が伴う。成功すれば全員が生きて帰れるかもしれないが、失敗すれば我々は全滅する可能性もある。いわば諸刃もろはの剣さ。出来るなら私は、君たちにはこの先も生き残って、この部署を存続させてほしいと思っている。でも、どちらの案を採用するかは君たちの意思に任せる。今度のクリスマスまでに、返事を考えてきてほしい」
 
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