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12【完結】新しい物語のはじまり
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──五日後。
私は家に戻り、学園にも復帰した。
いつもの美術室。レインと向かい合っておしゃべりも弾む。愛おしい時間。
「メルキオは海外留学ですって」
「そう……」
彼もティオラも、もう学園にはいない。
「リア、家はどう? もう大丈夫?」
「うん、まあね」
父は公爵家からの抗議書を受け取って、ティオラと祖父を領地へ戻そうとした。
その途端、ティオラが大暴れ。
使用人が何人もケガをして……結局、彼女は急遽医療施設に送られたらしい。
『怖かった! ティオラに悪魔が取り憑いたと思ったわ!』
これはマーベリーが私に教えてくれた話。
その後のティオラの世話は、領地で暮らす彼女の家族が見る。
私の家族は今後一切ティオラとは関わらない。
そしてティオラの素顔を知った祖父。
血圧が上がって、その場で倒れたそうだ。
祖父は黙って領地行きを承諾した。
『でもね、最後まで “あんなラクガキは絵とは認めん!” って言ってたのよ。ホント頑固!』
らしいと言えば、らしい。私とマーベリーは顔を見合わせて笑った。
父も兄も、今は驚くほど穏やかだ。
家族の気遣いに慣れていない私は、戸惑ってしまうほどに。
「それで、レインの方は? マーキス様とはどうなの?」
「関係ないわ。ティオラの元婚約者なんて、絶対お断り」
口ではそう言いつつ、レインの表情がちょっとだけ照れている。
ジークの話では、マーキス様はレインにすっかり夢中らしい。
「レインと義理の姉妹になれたら、うれしいな」
「そ、そういうのは嬉しいけど! マーキス様はないから!」
……マーキス様の恋路は、なかなか険しそうだ。
卒業まで、あと半年。
ここでレインと過ごせる日々も、残り少なくなってきた。
けれど、私たちにはもう次の夢がある。――卒業したら、ファンシーショップ一号店を開くこと。
* * *
季節が変わり、卒業も間近になった頃。
私とジークは正式に婚約した。
ガルシオ侯爵夫人はリッチモンド老公爵夫人の娘。
ティオラの件もあって不安だったけれど、侯爵家の人々は温かく迎えてくれた。
「僕は最初から、リアとの婚約を望んでいたからね」
「私は全然知らなかったわ」
あの頃の偶然が、今では運命のように思える。
レインに誘われて行った雑貨屋で、おばあ様と出会い、
スケッチブックの絵がきっかけで、ジークと出会った。
「きっと僕とリアは、そういう運命のもとに転生してきたんだよ。この世界に」
「あのね(私は前世バツイチなの。)ジークは浮気しないよね?」
「しないよ、絶対リアをしあわせにするよ」
そう言ってジークは、私にそっとキスをした。
* * *
その日、ついに――ファンシーショップ一号店が完成したと聞いて、私はレインと一緒に訪れた。
可愛らしい外装の建物を見上げて、思わず歓声がこぼれる。
大きな窓から中をのぞくと、棚がきれいに並び、内装もすでに仕上がっていた。
あとは、商品を並べるだけ。
「楽しみね! ああ、早く、人形たちを並べたいわ!」
レインの作った人形をもとに、職人たちが大量生産を進めている。
私の描いた絵からは、商会が次々と新しいグッズを作り出してくれる。
それを、誰かが手に取ってくれる――そう思うだけで胸がいっぱいになる。
前世の私は、ただの普通の人だった。
この世界を変えるような力も、特別な才能もない。
──でも、なんだか分かった気がする。
私がこの世界に来た“意味”が。
この世界は、まだどこか不完全なパズルみたい。
そこに私が「ファンシーショップ」というピースをはめ込んだ。
前世で大好きだった“可愛いもの”を、この世界に届けること――それがきっと、私の役目。
そしてジークも。
映画好きだった彼は、仕事の合間に舞台のシナリオを書いて、この世界に物語を広めている。
二人で記憶を手繰り寄せて、楽しいものをたくさん作っていきたい。
一つひとつ、パズルを埋めるように。
「大好きな人たちと一緒に、この世界をもっと楽しくしていきたいわ」
「いいわね、人生楽しまなきゃ!」
そう言い合いながら、扉の前に立ったそのとき――
「あっ!」
店の鍵を持っていないことに気づいた。
「入れないの? 残念~」
「おばあ様に鍵をもらいに行きましょう」
そう言って帰ろうとしたところへ、ジークとマーキスが駆けつけた。
「やはりここに来てた。鍵、預かって来たよ」
「ありがとう!」
私はジークから鍵を受け取り、そっと回す。
──カチャリ、と音を立てて扉が開いた瞬間、ふわりとペンキの香りが広がった。
胸の奥がじんわりと熱くなる。
ここに、これから夢を詰め込むのだ。
新しい未来に、私たちは今、足を踏み入れた。
**エピローグ ―ファンシーショップ開店の日―**
開店の朝。
窓の外は、春の光に包まれていた。
ショーウィンドウに飾られたレインの人形たちも、まるで微笑んでいるみたい。
棚には、私の絵をもとに作られたグッズが整然と並んでいた。
今日という日がとうとうやってきた。
「リア、準備できた?」
レインの明るい声。
「うん!」
鏡の前で最後に髪を整え、リボンを結ぶ。
扉を開けると、ジークがいつもの笑顔で立っていた。
「変じゃない?」
「素敵だよ。かわいい」
彼が笑うと不安が消えていく。
隣で話しているのはレインとマーキス。
「制服、すごく似合ってる。かわいいよ」
「緊張で心臓が飛び出しそうだわ」
──なんて、すっかりお似合いのカップル。
「行きましょう、レイン。夢の第一歩よ!」
「ええ、頑張ろうね!」
開店時間が近づき、店の前には、もう人の列ができていた。
可愛い子どもたちの待ちわびる声。
家族や学園の友人たちの姿も見える。
ジークが私の手を取った。
「ほら、リア。鍵を」
小さな銀の鍵を、そっと回す。
カラン、とドアベルが鳴った。
胸が高鳴る。
「いらっしゃいませ!」
「リアお姉様、開店おめでとう!」
マーベリーだ。
お祝いの花を抱えたおばあ様も続いて入ってくる。
お客さまを迎えながら、私は思う。
――転生して、絵を描き続けてよかった。
ジークがそっと囁く。
「リア、これからも一緒に世界を彩ろう」
「うん、一緒にね」
ベルがまた、軽やかに鳴った。
笑顔があふれる店内に、春の風が吹き込んでくる。
私たちの新しい物語が、今――始まった。
──おわり。
最後まで読んでくださって、本当にありがとうございました。
私は家に戻り、学園にも復帰した。
いつもの美術室。レインと向かい合っておしゃべりも弾む。愛おしい時間。
「メルキオは海外留学ですって」
「そう……」
彼もティオラも、もう学園にはいない。
「リア、家はどう? もう大丈夫?」
「うん、まあね」
父は公爵家からの抗議書を受け取って、ティオラと祖父を領地へ戻そうとした。
その途端、ティオラが大暴れ。
使用人が何人もケガをして……結局、彼女は急遽医療施設に送られたらしい。
『怖かった! ティオラに悪魔が取り憑いたと思ったわ!』
これはマーベリーが私に教えてくれた話。
その後のティオラの世話は、領地で暮らす彼女の家族が見る。
私の家族は今後一切ティオラとは関わらない。
そしてティオラの素顔を知った祖父。
血圧が上がって、その場で倒れたそうだ。
祖父は黙って領地行きを承諾した。
『でもね、最後まで “あんなラクガキは絵とは認めん!” って言ってたのよ。ホント頑固!』
らしいと言えば、らしい。私とマーベリーは顔を見合わせて笑った。
父も兄も、今は驚くほど穏やかだ。
家族の気遣いに慣れていない私は、戸惑ってしまうほどに。
「それで、レインの方は? マーキス様とはどうなの?」
「関係ないわ。ティオラの元婚約者なんて、絶対お断り」
口ではそう言いつつ、レインの表情がちょっとだけ照れている。
ジークの話では、マーキス様はレインにすっかり夢中らしい。
「レインと義理の姉妹になれたら、うれしいな」
「そ、そういうのは嬉しいけど! マーキス様はないから!」
……マーキス様の恋路は、なかなか険しそうだ。
卒業まで、あと半年。
ここでレインと過ごせる日々も、残り少なくなってきた。
けれど、私たちにはもう次の夢がある。――卒業したら、ファンシーショップ一号店を開くこと。
* * *
季節が変わり、卒業も間近になった頃。
私とジークは正式に婚約した。
ガルシオ侯爵夫人はリッチモンド老公爵夫人の娘。
ティオラの件もあって不安だったけれど、侯爵家の人々は温かく迎えてくれた。
「僕は最初から、リアとの婚約を望んでいたからね」
「私は全然知らなかったわ」
あの頃の偶然が、今では運命のように思える。
レインに誘われて行った雑貨屋で、おばあ様と出会い、
スケッチブックの絵がきっかけで、ジークと出会った。
「きっと僕とリアは、そういう運命のもとに転生してきたんだよ。この世界に」
「あのね(私は前世バツイチなの。)ジークは浮気しないよね?」
「しないよ、絶対リアをしあわせにするよ」
そう言ってジークは、私にそっとキスをした。
* * *
その日、ついに――ファンシーショップ一号店が完成したと聞いて、私はレインと一緒に訪れた。
可愛らしい外装の建物を見上げて、思わず歓声がこぼれる。
大きな窓から中をのぞくと、棚がきれいに並び、内装もすでに仕上がっていた。
あとは、商品を並べるだけ。
「楽しみね! ああ、早く、人形たちを並べたいわ!」
レインの作った人形をもとに、職人たちが大量生産を進めている。
私の描いた絵からは、商会が次々と新しいグッズを作り出してくれる。
それを、誰かが手に取ってくれる――そう思うだけで胸がいっぱいになる。
前世の私は、ただの普通の人だった。
この世界を変えるような力も、特別な才能もない。
──でも、なんだか分かった気がする。
私がこの世界に来た“意味”が。
この世界は、まだどこか不完全なパズルみたい。
そこに私が「ファンシーショップ」というピースをはめ込んだ。
前世で大好きだった“可愛いもの”を、この世界に届けること――それがきっと、私の役目。
そしてジークも。
映画好きだった彼は、仕事の合間に舞台のシナリオを書いて、この世界に物語を広めている。
二人で記憶を手繰り寄せて、楽しいものをたくさん作っていきたい。
一つひとつ、パズルを埋めるように。
「大好きな人たちと一緒に、この世界をもっと楽しくしていきたいわ」
「いいわね、人生楽しまなきゃ!」
そう言い合いながら、扉の前に立ったそのとき――
「あっ!」
店の鍵を持っていないことに気づいた。
「入れないの? 残念~」
「おばあ様に鍵をもらいに行きましょう」
そう言って帰ろうとしたところへ、ジークとマーキスが駆けつけた。
「やはりここに来てた。鍵、預かって来たよ」
「ありがとう!」
私はジークから鍵を受け取り、そっと回す。
──カチャリ、と音を立てて扉が開いた瞬間、ふわりとペンキの香りが広がった。
胸の奥がじんわりと熱くなる。
ここに、これから夢を詰め込むのだ。
新しい未来に、私たちは今、足を踏み入れた。
**エピローグ ―ファンシーショップ開店の日―**
開店の朝。
窓の外は、春の光に包まれていた。
ショーウィンドウに飾られたレインの人形たちも、まるで微笑んでいるみたい。
棚には、私の絵をもとに作られたグッズが整然と並んでいた。
今日という日がとうとうやってきた。
「リア、準備できた?」
レインの明るい声。
「うん!」
鏡の前で最後に髪を整え、リボンを結ぶ。
扉を開けると、ジークがいつもの笑顔で立っていた。
「変じゃない?」
「素敵だよ。かわいい」
彼が笑うと不安が消えていく。
隣で話しているのはレインとマーキス。
「制服、すごく似合ってる。かわいいよ」
「緊張で心臓が飛び出しそうだわ」
──なんて、すっかりお似合いのカップル。
「行きましょう、レイン。夢の第一歩よ!」
「ええ、頑張ろうね!」
開店時間が近づき、店の前には、もう人の列ができていた。
可愛い子どもたちの待ちわびる声。
家族や学園の友人たちの姿も見える。
ジークが私の手を取った。
「ほら、リア。鍵を」
小さな銀の鍵を、そっと回す。
カラン、とドアベルが鳴った。
胸が高鳴る。
「いらっしゃいませ!」
「リアお姉様、開店おめでとう!」
マーベリーだ。
お祝いの花を抱えたおばあ様も続いて入ってくる。
お客さまを迎えながら、私は思う。
――転生して、絵を描き続けてよかった。
ジークがそっと囁く。
「リア、これからも一緒に世界を彩ろう」
「うん、一緒にね」
ベルがまた、軽やかに鳴った。
笑顔があふれる店内に、春の風が吹き込んでくる。
私たちの新しい物語が、今――始まった。
──おわり。
最後まで読んでくださって、本当にありがとうございました。
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ご感想ありがとうございます。とっても嬉しいです😀
その解釈すごくわかります!
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