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32 すべては2年後(ナッシュ視点)
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ウェンディお嬢様は本来は繊細な人。今日は強い女性を演じているようです。以前私が『奥様のような強い人に憧れる』と言ったからでしょう。
「これからはディーって呼んで下さいね」
「分かりました。ディーお嬢様」
「お嬢様はいらないから。髪が伸びたわね・・・退院したら私が切ってあげる」
「お願いします」
お嬢様にはお嬢様の良さがありますが、今日のように積極的に愛情を示してくれる姿も愛おしいです。少し不安な顔をしているのは恐らく旦那様と奥様になんと報告するべきか悩んでいるからだと思われます。そんな不安を煽るように奥様が病室に訪れると彼女の顔は強張りました。
「お母さんどうしてここに」
「ディーこそ何故ここにいるの。私は警備隊からうちの使用人が襲われたと聞いて飛んできたのよ。監視役は骨折、ミエサとナッシュは無事だったみたいね。はぁ~ 監視役を増やしておくべきだったわ」
「ミエサがいたから良かったものの、骨折した彼は油断したみたいですな」
文句を言いながらマックさんも後から入ってきました。
「おっと、私はずっとお嬢様に付いていましたからね。病院に到着するまでず~っと」
「まぁ、気が付かなかったわ」
どうやらマックさんは隠れてお嬢様を見張っていたようです。
「本当にディーは我儘になってしまって、今日ぐらいは大人しくしていればいいのに」
「また私だけが知らなかったのね。ネッドは今日退院だったんでしょう」
「そうよ体調が悪いのに・・・大人しく反省していれば良かったのよ。馬鹿な男だわ」
「体調が悪いのに退院したの?」
「微熱があったらしいわ。主治医が検査の相談をしようとした矢先に事件を起こして逃げたんですって」
そんなの関係ないと言った口ぶりで奥様は説明してくれました。
「エドアルト様にはお帰り頂いたからディーもマックと帰りなさい。私はナッシュに話があるの」
「話って何なの? 私も残るわ!」
「ディーお嬢様、奥様の仰る通りにしましょう」
「でも!」
「ナッシュは安静中なのよ、いい加減休ませてあげた方がいいわ。時間は取らせないから」
「お母さん彼をイジメないでね。ナッシュ、また来ますね」
ディーお嬢様が部屋を出て行くなり奥様はツカツカと緊張する私の傍まで来ると質問を始めました。
「ミエサから聞いたのだけど、ディーとの話し合いはどうなったのかしら?」
「お嬢様には傍で支えて欲しいと言われました。2年待って頂くようお願いしました」
「貴方らしい慎重な答えね。でも本気なのかしら?」
「本気です」
「それならいいわ。エドアルトみたいに傷つけて泣かせたら許さないわよ」
「彼のような方がお嬢様に相応しいのでは?」
これはお嬢様も心配していたので聞かずにはいられません。
「政略結婚なら彼が良いでしょうね。でも、相性は貴方の方が良さそうだわ。フランツも初めから貴方を気に入っていたし」
「認めて頂けますか」
「ええ、でもディーにはまだ内緒よ?」
「どうしてですか?」
「貴方の事で必死になる姿が可愛いのよ。あの子は胸になんでも仕舞っておくタイプで、親のいう事も黙って素直に頷いていたの。それが私と言い争うなんて。貴方と出会ってから少しは強くなったみたいで嬉しいの」
言い争うのが嬉しいとは理解し難いですが奥様は満足そうです。
「でも、内緒にするとお嬢様は怒らないですか?」
「そうね、この件は(仮)合格ということにするわ。すべては2年後ね」
そう言って「お大事にね」と、割合ご機嫌な様子で奥様は帰って行かれました。
「いたたた・・・」
緊張が解けるとヒビいった肋骨が痛くなったのでベッドに横たわりました。
第一関門は突破したようです。次は2年後・・・どうなっているのか。2年前はこんな幸福が舞い込むとは想像もしていませんでした。2年後も幸福でありたい、ディーお嬢様と一緒に。
それから1か月の入院期間中、ディーお嬢様はマックさんと共に何度も来てくれました。
ネッドは感染症を起こして悪化させ宿屋で亡くなっていたそうです。マリフル嬢とソーニア嬢も学園を退学し、これでお嬢様に対する危険要素は無くなりました。
学園の様子や再び留学の申し込みをしたと話すお嬢様は本当に嬉しそうで私もつい口元が綻ぶのでした。
退院するとお嬢様は隣国に留学。完全に治癒した後、私はセカンドハウスを出てゴードンさんの元で仕事を教わり忙しい日常に埋没していきました。
「これからはディーって呼んで下さいね」
「分かりました。ディーお嬢様」
「お嬢様はいらないから。髪が伸びたわね・・・退院したら私が切ってあげる」
「お願いします」
お嬢様にはお嬢様の良さがありますが、今日のように積極的に愛情を示してくれる姿も愛おしいです。少し不安な顔をしているのは恐らく旦那様と奥様になんと報告するべきか悩んでいるからだと思われます。そんな不安を煽るように奥様が病室に訪れると彼女の顔は強張りました。
「お母さんどうしてここに」
「ディーこそ何故ここにいるの。私は警備隊からうちの使用人が襲われたと聞いて飛んできたのよ。監視役は骨折、ミエサとナッシュは無事だったみたいね。はぁ~ 監視役を増やしておくべきだったわ」
「ミエサがいたから良かったものの、骨折した彼は油断したみたいですな」
文句を言いながらマックさんも後から入ってきました。
「おっと、私はずっとお嬢様に付いていましたからね。病院に到着するまでず~っと」
「まぁ、気が付かなかったわ」
どうやらマックさんは隠れてお嬢様を見張っていたようです。
「本当にディーは我儘になってしまって、今日ぐらいは大人しくしていればいいのに」
「また私だけが知らなかったのね。ネッドは今日退院だったんでしょう」
「そうよ体調が悪いのに・・・大人しく反省していれば良かったのよ。馬鹿な男だわ」
「体調が悪いのに退院したの?」
「微熱があったらしいわ。主治医が検査の相談をしようとした矢先に事件を起こして逃げたんですって」
そんなの関係ないと言った口ぶりで奥様は説明してくれました。
「エドアルト様にはお帰り頂いたからディーもマックと帰りなさい。私はナッシュに話があるの」
「話って何なの? 私も残るわ!」
「ディーお嬢様、奥様の仰る通りにしましょう」
「でも!」
「ナッシュは安静中なのよ、いい加減休ませてあげた方がいいわ。時間は取らせないから」
「お母さん彼をイジメないでね。ナッシュ、また来ますね」
ディーお嬢様が部屋を出て行くなり奥様はツカツカと緊張する私の傍まで来ると質問を始めました。
「ミエサから聞いたのだけど、ディーとの話し合いはどうなったのかしら?」
「お嬢様には傍で支えて欲しいと言われました。2年待って頂くようお願いしました」
「貴方らしい慎重な答えね。でも本気なのかしら?」
「本気です」
「それならいいわ。エドアルトみたいに傷つけて泣かせたら許さないわよ」
「彼のような方がお嬢様に相応しいのでは?」
これはお嬢様も心配していたので聞かずにはいられません。
「政略結婚なら彼が良いでしょうね。でも、相性は貴方の方が良さそうだわ。フランツも初めから貴方を気に入っていたし」
「認めて頂けますか」
「ええ、でもディーにはまだ内緒よ?」
「どうしてですか?」
「貴方の事で必死になる姿が可愛いのよ。あの子は胸になんでも仕舞っておくタイプで、親のいう事も黙って素直に頷いていたの。それが私と言い争うなんて。貴方と出会ってから少しは強くなったみたいで嬉しいの」
言い争うのが嬉しいとは理解し難いですが奥様は満足そうです。
「でも、内緒にするとお嬢様は怒らないですか?」
「そうね、この件は(仮)合格ということにするわ。すべては2年後ね」
そう言って「お大事にね」と、割合ご機嫌な様子で奥様は帰って行かれました。
「いたたた・・・」
緊張が解けるとヒビいった肋骨が痛くなったのでベッドに横たわりました。
第一関門は突破したようです。次は2年後・・・どうなっているのか。2年前はこんな幸福が舞い込むとは想像もしていませんでした。2年後も幸福でありたい、ディーお嬢様と一緒に。
それから1か月の入院期間中、ディーお嬢様はマックさんと共に何度も来てくれました。
ネッドは感染症を起こして悪化させ宿屋で亡くなっていたそうです。マリフル嬢とソーニア嬢も学園を退学し、これでお嬢様に対する危険要素は無くなりました。
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