愛する義兄に憎まれています

ミカン♬

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後編

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 執事の報告に私は立ち上がりサロンを出て、お客様を出迎える為にエントランスに向かった。

 そこには藍色の髪に青い目の、眼鏡がちょっと神経質に見えるが、美しい男性が待っていた。

「お待ちしていましたわ。ノアール様」

「こんにちはフィーナ様。今日を楽しみにしていました」

 ピンクの薔薇の花束を渡されて、私達は頷きあった。



 ノアール様をサロンにお通しすると、義兄は目を見開いた。

「紹介しますわ。私の婚約者になられるノアール様。エイロン伯爵家のご令息ですわ」

「ノアール・エイロンです。本日はお招きを頂きまして光栄です」

 両親も立ち上がって歓迎する。

「ああ、ノアール殿、待っていたよ」

「ディナーにご招待したのよ。ね、フィーナ」



「どうしてノアールが?婚約だって?いつそんな・・・」

 義兄は信じられないという顔をしてノアール様を睨みつける。


「どうぞお掛けになって、ノアール様」

 彼を隣に座らせて、私達は手を握り合った。


「だって、ルクス兄様との婚姻が無くなったでしょう?優秀なお婿さんを探したら、なんとノアール様にはまだ婚約者も決まっていなかったの」

「私は幼少よりフィーナ様をお慕いして、今まで恋人すら存在しません」


「まぁ幼少から?フィーナをそんなに慕ってくれているなんて」

 母が明るい声でノアール様に温かな目を向ける。



「そんな!嘘だ・・・ノアールはフィーナと接点など無かったはずだ!」

「アンギナス侯爵家のフィーナ様を知らない男性はいないでしょう。まさかルクス様が婚約者候補を降りるなんて、本当に幸運でした」

「ノアール様、私と一緒に侯爵家を守って下さいね」

「もちろんです。フィーナ様も大切にして幸せにします」



 今ノアール様は王宮の財政担当役を担っている。

 彼は学生時代から義兄の目の上のだ。

 いつも一歩先を、義兄より抜きん出ているノアール様は、義兄の天敵。

 義兄がノアール様に誇れるのは地位のみ。





「さてそろそろ、終わろうか。私は仕事が忙しい、失礼するよ」

 父が立ち上がると「何かお手伝いをさせて下さい」とノアール様が申し出た。

「そうだねルクスからの引継ぎもあるから、一緒に来てくれたまえ」

「かしこまりました」

 二人がサロンから出ていくのをルクスは肩を震わせながら見送った。


「ミモザ嬢、あなたももうお帰りなさい。ルクスも荷物を纏めなさい」

 母が立ち上がり、義兄の恋人紹介は終わってしまった。



「フィーナ、これが君のやり方か・・・・そんなに私が憎いか」

「いいえ、愛していましたわお兄様。だからもう一緒にはいられないの」


「フィーナ様、どうかルクス様を許してください。私がいけないのです!」

「あなたは全然悪くないわミモザ様。どうぞお幸せに。私もノアール様と幸せになりますから、ほほほほほほ」

 高笑いを残して私はサロンを去った。


(これでいいのよ)


 ただ胸が痛んだ。

「二人に同情なんかされるより憎まれる方がいい」



 あの日、ルクスお兄様と子爵令嬢との婚約の話を両親から聞かされて、私の心は闇に染まった。

 泣いて、苦しくて、子爵令嬢を消してしまいたいと思った。



 二日間、学園も休んで考え続け、ノアール様に手紙を出した。

 それは私からの婚約を求めるものだった。

 彼はすぐに私を訪ね『ずっとお慕いしていました』と告白してくれた。


『嘘でも嬉しいわ』

『本当です。貴方が結婚して幸福になるのを見届けてから、私も相手を探そうと思っていました』

 真剣なノアール様に、私も本心を打ち明けた。

『ルクス様に憎まれたいのですか?いいでしょう協力しましょう。でもフィーナ様、その後は、どうか私を好きになって下さい』

『時間がかかるかもしれませんが?』

『構いません、いつまでもお待ちします。貴方を愛しています』


 こうして、義兄が子爵令嬢を紹介する日に、私もノアール様を紹介しようと企んだ。




 両親にもノアール様との婚約を認めてもらい、私は義兄と決別した。



 翌日義兄は執事に見送られて実家に戻された。

 子爵家に婿入りするのか、もっと良い家柄に実家から出されるのか、もう私には関係ない。


 また零れ落ちる涙に、心に残った義兄を綺麗に追い出して、ノアール様で満たせるよう努力しようと自分に言い聞かせる。


 だって私は愛した義兄に憎まれているのだから。




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