1 / 10
1
しおりを挟む私は父が嫌いだった。母を蔑ろにし、仕事もせずに愛人達と好き勝手していた父を憎んでさえいた。
今日はそのウェルデス侯爵の告別式。悲しんでいるのは祖父母ぐらいだ、出来の悪い子ほど可愛いと言うもの。
愛人と共に旅行を楽しんでいた父は馬車の事故で亡くなった。誰もが罰が当たったと思っているだろう。
粛々と式は進み、最後のお別れに私は白百合の花を手に父の顔を見た。黒い髪に、閉じられた目は美しい紫、整った顔は多くの女性を虜にしてきた。
「嫌になるほどそっくりね。私はどうしてお母様に似なかったのかしら」
「セアラの性格は夫人にそっくりだからいいじゃないか」
「アヴェル・・・それって褒めてないわよね」
アヴェル(18歳)は私の従兄、幼馴染の彼とは気安い親友のような関係でもある。隣国のジョシュア伯父様の養子で、私の母と同じハニーブロンドに翠の瞳、悔しいことに彼の方が母と親子に見える。
そして──
「夫人は立派な方だ、セアラは褒められているんだよ」
私の隣に立つエリアス様(21歳)は私の最愛の婚約者。
「でもアヴェルの言い方が憎らしいわ・・・」
「彼は素直じゃないからね」
父に一つだけ感謝している。
(エリアス様と婚約させてくれて有難うございました)
白百合を手向けると最後の別れが終わり、父はお墓に埋葬された。
***
父が亡くなって、隠し子を名乗る者、赤子を連れた元愛人が押しかけてきてウェルデス侯爵家は後始末に追われた。
まぁ父はとっくに生殖能力は取り除かれていたので、全員逮捕されたのだけど。
私がウェルデス侯爵家の唯一無二の後継者!
将来はエリアス様が婿養子に来てくれて二人で侯爵家を守っていく予定。
父に代わってウェルデス侯爵家を守ってきたしっかり者の母だが、さすがに心労が重なり倒れてしまった。未熟な私では母には及ばず、助っ人に優秀なアヴェルが来てくれた。
おかげで母もゆっくり静養ができて、アヴェルは母の回復後も残ってガタガタしていたウェルデス侯爵家の立て直しを手伝ってくれた。
昔から母はアヴェルを信頼し、いずれは私の婿にと考えていたが、父が勝手にエリアス様との婚約を決めてしまったのだ。
*
私が9歳の時にドナリアド公爵家三男のエリアス様と婚約が結ばれた。
勝手な父に母は激怒したが、お相手が公爵家では断れず、それよりも銀糸の髪に青い瞳のエリアス様に、私は一目で恋をした。
月2回、親睦のお茶会にエリアス様はウェルデス侯爵家を訪れてくれた。
彼は無口な人で自分から話すことはなく、ただ浮かれたように私だけがお喋りをして、いつしかエリアス様は私に全く興味がない事に気が付いた。
いつもお茶を一杯飲んで帰ってしまう彼を引き止める方法はないだろうか、私に興味を持ってもらいたいと模索を始めた。
その結果、唯一エリアス様が反応したのが〈騎士〉についてだった。
エリアス様は王宮騎士を目指していたが、そもそも彼と婚約の話が出たのもウェルデス侯爵家お抱えの騎士団を率いて頂く為だったのだ。
『私も剣を習ってみたいと思います!』
『ご令嬢が?それは無理かと……』
『剣を扱えるようになれば、お相手をして頂けますか?』
『いいでしょう。侯爵がお許しになるとは思えませんが』
『絶対ですよ? 約束ですよ、エリアス様!』
こんなに長く話したのは初めてで嬉しくて、エリアス様の為に特に興味もない〈剣〉を習うことにしたのだ。
母は最初に反対したが、一度訓練に参加してみて続くようなら良いと許可してくれた。
侯爵の父の許可? ──家にほぼ居ない人なので関係なし。
エリアス様と仲良くなりたくて騎士団の訓練に参加を始めた。
走り込みとストレッチ、木刀の素振り、掌の皮が破れてメイドが悲鳴を上げた等……そんな私の訓練の様子をエリアス様は薄っすらと笑いながら聞いてくれた。
お茶のお代わりをして、少し長く相手をしてくれるようになったのだ。
領地経営と淑女の教育も兼ねていたので毎日ヘトヘトになっていた。反対していた母も『心身ともに強くなりなさい。好きな人と結ばれて幸せになりなさい』と今は応援してくれる。
11歳になると初めて〈剣〉を握らせて貰えて感動した。
『奥様には諦めさせるよう指示があったのですがね……』
騎士団長のウォルフ卿は苦笑いしながら熱心に指導してくれて、エリアス様との距離も少しづつ近づいていった。
235
あなたにおすすめの小説
愛されていたのだと知りました。それは、あなたの愛をなくした時の事でした。
桗梛葉 (たなは)
恋愛
リリナシスと王太子ヴィルトスが婚約をしたのは、2人がまだ幼い頃だった。
それから、ずっと2人は一緒に過ごしていた。
一緒に駆け回って、悪戯をして、叱られる事もあったのに。
いつの間にか、そんな2人の関係は、ひどく冷たくなっていた。
変わってしまったのは、いつだろう。
分からないままリリナシスは、想いを反転させる禁忌薬に手を出してしまう。
******************************************
こちらは、全19話(修正したら予定より6話伸びました🙏)
7/22~7/25の4日間は、1日2話の投稿予定です。以降は、1日1話になります。
婚約者の心変わり? 〜愛する人ができて幸せになれると思っていました〜
冬野月子
恋愛
侯爵令嬢ルイーズは、婚約者であるジュノー大公国の太子アレクサンドが最近とある子爵令嬢と親しくしていることに悩んでいた。
そんなある時、ルイーズの乗った馬車が襲われてしまう。
死を覚悟した前に現れたのは婚約者とよく似た男で、彼に拐われたルイーズは……
それは報われない恋のはずだった
ララ
恋愛
異母妹に全てを奪われた。‥‥ついには命までもーー。どうせ死ぬのなら最期くらい好きにしたっていいでしょう?
私には大好きな人がいる。幼いころの初恋。決して叶うことのない無謀な恋。
それはわかっていたから恐れ多くもこの気持ちを誰にも話すことはなかった。けれど‥‥死ぬと分かった今ならばもう何も怖いものなんてないわ。
忘れてくれたってかまわない。身勝手でしょう。でも許してね。これが最初で最後だから。あなたにこれ以上迷惑をかけることはないわ。
「幼き頃からあなたのことが好きでした。私の初恋です。本当に‥‥本当に大好きでした。ありがとう。そして‥‥さよなら。」
主人公 カミラ・フォーテール
異母妹 リリア・フォーテール
すれ違う思い、私と貴方の恋の行方…
アズやっこ
恋愛
私には婚約者がいる。
婚約者には役目がある。
例え、私との時間が取れなくても、
例え、一人で夜会に行く事になっても、
例え、貴方が彼女を愛していても、
私は貴方を愛してる。
❈ 作者独自の世界観です。
❈ 女性視点、男性視点があります。
❈ ふんわりとした設定なので温かい目でお願いします。
呪いを受けて醜くなっても、婚約者は変わらず愛してくれました
しろねこ。
恋愛
婚約者が倒れた。
そんな連絡を受け、ティタンは急いで彼女の元へと向かう。
そこで見たのはあれほどまでに美しかった彼女の変わり果てた姿だ。
全身包帯で覆われ、顔も見えない。
所々見える皮膚は赤や黒といった色をしている。
「なぜこのようなことに…」
愛する人のこのような姿にティタンはただただ悲しむばかりだ。
同名キャラで複数の話を書いています。
作品により立場や地位、性格が多少変わっていますので、アナザーワールド的に読んで頂ければありがたいです。
この作品は少し古く、設定がまだ凝り固まって無い頃のものです。
皆ちょっと性格違いますが、これもこれでいいかなと載せてみます。
短めの話なのですが、重めな愛です。
お楽しみいただければと思います。
小説家になろうさん、カクヨムさんでもアップしてます!
あなたは愛を誓えますか?
縁 遊
恋愛
婚約者と結婚する未来を疑ったことなんて今まで無かった。
だけど、結婚式当日まで私と会話しようとしない婚約者に神様の前で愛は誓えないと思ってしまったのです。
皆さんはこんな感じでも結婚されているんでしょうか?
でも、実は婚約者にも愛を囁けない理由があったのです。
これはすれ違い愛の物語です。
契約婚しますか?
翔王(とわ)
恋愛
クリスタ侯爵家の長女ミリアーヌの幼なじみで婚約者でもある彼、サイファ伯爵家の次男エドランには愛してる人がいるらしく彼女と結ばれて暮らしたいらしい。
ならば婿に来るか子爵だけど貰うか考えて頂こうじゃないか。
どちらを選んでも援助等はしませんけどね。
こっちも好きにさせて頂きます。
初投稿ですので読みにくいかもしれませんが、お手柔らかにお願いします(>人<;)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる