私の婚約者様は今日も幼馴染という犬を連れて来ます

ミカン♬

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 半年が過ぎ、ニールについては幼馴染を犬と認識し優先する変人ですがその他は文句はありません。お金持ちのイケメンだし、私を特に邪険に扱う事もなく紳士的です。

 今月の私の誕生日も可愛いイヤリングを贈られてとても嬉しかったです。

 しかし、頂いたイヤリングがヘレナと色違いのお揃いだったので私はひどく傷つきました。

「私が選んだのよ~ これ、前から欲しかったんだわん!」

 イヤリングを指で触りながら、ヘレナめ・・・絶対に私を挑発してますよね?

「あ~いや~、僕はセンスがないから、ヘレナに選んでもらったんだよ。そしたらちゃっかり自分の分も買っていたんだ」

「そうですか。ヘレナとお揃いで嬉しいですよ・・・」

「サーシャならそう言ってくれると思ったわん!」


 それにしてもニールは本当にヘレナを犬と思っているのでしょうか。

 ロナンとハインツは『ニールはサーシャと結婚してヘレナを愛人にするつもりなんじゃないの?』と言います。

 確かに、なんだか二人の様子も嘘くさい茶番に見えてきます。

 父からはニールを絶対に逃がすなと言われましたが、これ以上ヘレナの態度を許し、婚約者の私を蔑ろにするようならニールとの婚約は考え直したいと思い始めました。

 ここにきて漸く私はこの婚約が失敗だったと気付いたのです。




 悩んだ挙句ニールに手紙を書きました。

 二人だけの時間を大切にして親睦を深めたい、もっと貴方の事を知りたいと伝えたのです。

 しかしニールからの返事は「ヘレナを除け者にしないで受け入れてやって欲しい。君の手紙でヘレナはとても傷ついている。彼女は僕の大切な幼馴染なんだ。彼女は君の事が大好きなんだよ」というものでした。

 この時点で彼への愛情は冷めつつありましたが、やはりヘレナが優先なんだと思うと少し悲しい気持ちになりました。

 お付き合いを始めてまだ半年です。婚約を解消しても今ならまだお互いに傷は浅いでしょう。


 私はニールの返事を父に見せて「ニールは幼馴染を愛人にする気ですわ! 私は彼とは結婚したくありません」と訴えました。

「うむ・・・ロナンからも件の令嬢の話は聞いている。出向いて話し合ってこよう。私に任せなさい」

 そんな父の心強い言葉に私はこれで婚約は解消されると胸を撫でおろしました。

 ニール様は嫌いではありませんがあの駄犬だけはダメです。お利口な犬だとしてもやっぱり無理です。

 いや、犬ですって? あれはどう見てもニールに恋する乙女です。犬ではないのです!


 ****


「やっと目が覚めたんだって? バカだなぁ」
 今日はハインツが私をバカにしに来ています。

 彼は弟に会いに来るだけではなく、姉のお使いで貧乏な我が家に差し入れも届けてくれるのです。

 お肉とか、父のお酒や私が好きなスィーツなど。優しい姉なのです。

「あれ、今日はジンジャークッキーなの?」

「嫌いだったか? やっぱりチョコレートが良かったかな」

「これは姉の差し入れよね?」

「ああ・・・今日は俺が好きなの買って届けて欲しいって言われて・・・俺が買った」

「そうなんだ、嫌いじゃないわよ。プレーンの方が好きなの」

「俺はこっちが好きなんだから良いだろう!」

 ハインツってば何故怒ってるのよ、ヘンな子。ロナンはなんでクスクス笑ってるの? 



 ニールへの恋心で半年間我慢していましたがハインツの言う通り私は目が覚めたのです。

 しかし・・・・

 話し合いに出向いた父は「婚約は継続だ」と私を絶望させました。

「な、な、なぜです・・・?」

「あの幼馴染は・・・犬なんだそうだ」

「ぁぁあもう・・・お父様までバカ言わないで下さい!」

「ニールはお前との婚姻を望んでいると言った。婚姻すればヘレナはいずれ夫妻が領地に連れていくそうだ」

「そんな・・・私達はまだ16歳です。婚姻まで数年・・・その間にあのヘレナが既成事実を作ってしまうかもしれません」

「そうなれば婚約破棄だな。あっちの責任で」

「悠長なことを・・・本当にニールが私との婚姻を望んでいると思うのですか?」

「そう言ってたぞ。夫妻もヘレナを嫁にする気は無いそうだ。ちゃんと約束もしてきたぞ。今後はヘレナをお前に会わせないと。だから安心しろ」

「安心なんてできません」

「後日ニールを招待するから二人だけでよく話し合うんだ」

 そう言って父は話を打ち切りました。



 イヌスキー伯爵夫妻も息子ニールの嫁にするならば、犬よりは貧乏な男爵令嬢の方がマシだと考えているのでしょう。

 どうすれば良いのでしょうか、ニールと結婚しても私はトイプードル扱いされるかもしれません。

 だって彼は人間と犬の区別がつかないのですもの。



 どうしたものかと考えた末、名案を思い付きました。

「そうだ、私も犬を飼えばいいんだわ!」

 令息を飼うわけではないですよ? 正真正銘の犬を飼うのです!


 ペットショップに向かうと・・・「居た!」ポメラニアンがいました。

 なんて高額・・・・・。

 でも背に腹は代えられません。今の私にはポメラニアンが必要なのです。
 コツコツ貯めたお小遣いを全部つぎ込みますわ!


 真っ白な毛がフワフワでツンとしたお鼻の可愛いこと。
 潤んだ瞳が訴えています「ワンワン・・・(私を買ってちょうだい)」と。

「マスターこの子を買います!」

「女の子ですよ。生後3か月です」

「お世話用品一式も買いますわ。届けてくださる?」

「毎度有難うございます!」


 こうしてポメラニアンが我が家にやってきました。

 名前はリリです。

「うわぁ可愛いな!」

 ロナンも父もハインツもリリに夢中です。お散歩も欠かさず、犬友も出来ました。
 おかげでリリは人見知りのしないワンちゃんになりました。

 ニールが愛用している香水も買ってリリに覚えさせました。

「ほら、この匂いがするとオヤツが食べられるのよ」

「ワン!」

「ニールの匂い=オヤツ」とリリの頭に叩き込んだのです。



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