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おまけ ニールの場合
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王立公園で幸せそうなサーシャに会った。
僕は彼女の笑顔が好きだった。
『貴方はトイプードルのように可憐な方ですね』
お見合いの席でそう言うと一瞬彼女はキョトンとして、次にふんわりとした笑顔を見せてくれた。今までお見合いした令嬢は犬に例えると不快な顔をされたが、サーシャは違った。彼女となら婚約しても良いと思えた。
それまでは婚約者なんかいらないと思って、相手のご令嬢達の気持ちも考えずに、ずっとヘレナの我儘な態度も黙認してきた。
愛犬のように傍に置いて保護する────ヘレナとはそんな付き合いをしてきたつもりだ。サーシャだって何も言わないから、分かってくれていると思っていた。
母から『ヘレナは親友の娘だけど、伯爵家を支える手腕は無いから婚姻は許しません』と言われていた。
だから僕はヘレナには恋愛感情は一切なかった。
なのにザーケンナー男爵からは『アザトーイ男爵令嬢を愛人にと考えているのでは?』言われてサーシャとの婚約は解消するよう求められた。
男爵が帰宅した後、両親から『サーシャ嬢の許しを得てきなさい。婚約を解消されたらニールには後継者の資質は無いとして、養子をとる』と宣言された
『どうしてそうなるんです』
『分からないなら、もう結構だ。ヘレナには実家に戻るか、うちの領地に送ってメイドとして働いてもらう』
父にも愛想をつかされて僕は初めて現実を突きつけられた気がした。
『サーシャに会って謝罪し、誤解を解いてきます』
『そうしなさい。ヘレナには早々に出て行ってもらいます』
今までお見合いをダメにしても母は小言を言うだけだったのに、今回はサーシャを気に入ったようで本気で怒っていた。
ヘレナに事情を説明すると泣き出した。
『ニールと離れるなんていやよ!』
ずっと一緒にいたんだ、ヘレナのいない生活は僕にも想像できなかった。
『サーシャの誤解を解いて、一緒にいられるようにおば様にお願いしてもらおうよ。サーシャは優しいから大丈夫、私も頼んでみるわ』
『両親がサーシャには二度とヘレナは会わせないと約束したんだ』
『私が誤解の原因なら、私が解かないと。二人でお願いしましょう』
『そうだね』
この時が運命の分岐点だった。そして僕は間違った道を選択したんだ。
ヘレナは謝罪の場を見事にぶち壊してくれた。
サーシャを怪我させて、僕の愛犬だったポメを手にかけた事も発覚した。
帰りの馬車の中、僕はまだ頭の中が混乱したままだった。
すこし冷静になると後悔で胸が圧し潰されそうになった。
そんな僕にヘレナは『私じゃない・・・だってポメは池で溺れて死んだんでしょう? 私は何もしていないわ』と訴えたが、語るに落ちてしまった。
『溺れた? 誰に聞いたんだい?』
『えっと・・・メイド達が話してたわ。ポメが池で見つかったって』
ポメが死んだ日、母からは庭で突然死したと聞いていた。
溺れたなんて初耳だったのだ。
帰宅して母に問うと『そうよ、ポメは溺れたの。あまりにも可哀そうな姿だったのでニールがショックを受けないように、乾かして突然死だったと誤魔化したのよ』と教えてくれた。
『メイド達は知っていましたか?』
『発見した庭師と一部のメイドしか知らないわ。しっかり口止めしてあった筈よ』
これでヘレナが犯人に間違いないと確信した。
『それより謝罪は上手くいったの? サーシャ嬢の誤解は解けたの?』
ありのままに話すと母は激怒し僕は頬をぶたれた。
『本当に情けない・・・でも目が覚めたのね?』
『はい、馬鹿な息子で申し訳ありません』
両親からは今後の僕の行動次第で将来を決めると、最後のチャンスを与えられた。
*
ヘレナとは決別した。今はもうどうしているのかも知らない。
『お別れだ。僕が与えたものは残して出て行ってくれ。全部処分する』
『ニール、貴方は私がいないとダメなのよ。私は貴方のポメなの。ずっと一緒でしょう?』
別れ際に泣いて縋ってきたが彼女はポメを死なせたんだ。もうヘレナが愛犬だと、ましてや大切な幼馴染だなんて全く思えなかった。
『ヘレナ! あなたは親友の娘だから罪は問わないで上げるわ。でも今からは一切イヌスキー伯爵家に関わらないで! ああ、もっと早くこうしておくべきだったわ』
ヘレナは着ていたドレスだけを与えられ、泣きながら実家に帰って行った。
何度もヘレナから手紙が送られたが破って捨てた。きっとこんなふうにサーシャも僕の手紙は捨てているんだろうと思った。
サーシャからは一度だけ返事を貰った。それが最後だった。
*
「今日は会えて良かった。サーシャは素敵な人だっただろう? ゴール」
「うぉん!」
今の愛犬のゴールはペットショップで売れ残っていた犬だ。世間では小型犬が主流で半年を越えても売れ残り、小さなゲージの中でゴールは大きな体を丸めて眠っていた。
可哀そうで、広い外に出してやりたいと思った。
「さて結構歩いたな。戻ろうか」
いつかサーシャみたいに、婚約者とゴールと一緒に散歩できればいいな。
僕は彼女の笑顔が好きだった。
『貴方はトイプードルのように可憐な方ですね』
お見合いの席でそう言うと一瞬彼女はキョトンとして、次にふんわりとした笑顔を見せてくれた。今までお見合いした令嬢は犬に例えると不快な顔をされたが、サーシャは違った。彼女となら婚約しても良いと思えた。
それまでは婚約者なんかいらないと思って、相手のご令嬢達の気持ちも考えずに、ずっとヘレナの我儘な態度も黙認してきた。
愛犬のように傍に置いて保護する────ヘレナとはそんな付き合いをしてきたつもりだ。サーシャだって何も言わないから、分かってくれていると思っていた。
母から『ヘレナは親友の娘だけど、伯爵家を支える手腕は無いから婚姻は許しません』と言われていた。
だから僕はヘレナには恋愛感情は一切なかった。
なのにザーケンナー男爵からは『アザトーイ男爵令嬢を愛人にと考えているのでは?』言われてサーシャとの婚約は解消するよう求められた。
男爵が帰宅した後、両親から『サーシャ嬢の許しを得てきなさい。婚約を解消されたらニールには後継者の資質は無いとして、養子をとる』と宣言された
『どうしてそうなるんです』
『分からないなら、もう結構だ。ヘレナには実家に戻るか、うちの領地に送ってメイドとして働いてもらう』
父にも愛想をつかされて僕は初めて現実を突きつけられた気がした。
『サーシャに会って謝罪し、誤解を解いてきます』
『そうしなさい。ヘレナには早々に出て行ってもらいます』
今までお見合いをダメにしても母は小言を言うだけだったのに、今回はサーシャを気に入ったようで本気で怒っていた。
ヘレナに事情を説明すると泣き出した。
『ニールと離れるなんていやよ!』
ずっと一緒にいたんだ、ヘレナのいない生活は僕にも想像できなかった。
『サーシャの誤解を解いて、一緒にいられるようにおば様にお願いしてもらおうよ。サーシャは優しいから大丈夫、私も頼んでみるわ』
『両親がサーシャには二度とヘレナは会わせないと約束したんだ』
『私が誤解の原因なら、私が解かないと。二人でお願いしましょう』
『そうだね』
この時が運命の分岐点だった。そして僕は間違った道を選択したんだ。
ヘレナは謝罪の場を見事にぶち壊してくれた。
サーシャを怪我させて、僕の愛犬だったポメを手にかけた事も発覚した。
帰りの馬車の中、僕はまだ頭の中が混乱したままだった。
すこし冷静になると後悔で胸が圧し潰されそうになった。
そんな僕にヘレナは『私じゃない・・・だってポメは池で溺れて死んだんでしょう? 私は何もしていないわ』と訴えたが、語るに落ちてしまった。
『溺れた? 誰に聞いたんだい?』
『えっと・・・メイド達が話してたわ。ポメが池で見つかったって』
ポメが死んだ日、母からは庭で突然死したと聞いていた。
溺れたなんて初耳だったのだ。
帰宅して母に問うと『そうよ、ポメは溺れたの。あまりにも可哀そうな姿だったのでニールがショックを受けないように、乾かして突然死だったと誤魔化したのよ』と教えてくれた。
『メイド達は知っていましたか?』
『発見した庭師と一部のメイドしか知らないわ。しっかり口止めしてあった筈よ』
これでヘレナが犯人に間違いないと確信した。
『それより謝罪は上手くいったの? サーシャ嬢の誤解は解けたの?』
ありのままに話すと母は激怒し僕は頬をぶたれた。
『本当に情けない・・・でも目が覚めたのね?』
『はい、馬鹿な息子で申し訳ありません』
両親からは今後の僕の行動次第で将来を決めると、最後のチャンスを与えられた。
*
ヘレナとは決別した。今はもうどうしているのかも知らない。
『お別れだ。僕が与えたものは残して出て行ってくれ。全部処分する』
『ニール、貴方は私がいないとダメなのよ。私は貴方のポメなの。ずっと一緒でしょう?』
別れ際に泣いて縋ってきたが彼女はポメを死なせたんだ。もうヘレナが愛犬だと、ましてや大切な幼馴染だなんて全く思えなかった。
『ヘレナ! あなたは親友の娘だから罪は問わないで上げるわ。でも今からは一切イヌスキー伯爵家に関わらないで! ああ、もっと早くこうしておくべきだったわ』
ヘレナは着ていたドレスだけを与えられ、泣きながら実家に帰って行った。
何度もヘレナから手紙が送られたが破って捨てた。きっとこんなふうにサーシャも僕の手紙は捨てているんだろうと思った。
サーシャからは一度だけ返事を貰った。それが最後だった。
*
「今日は会えて良かった。サーシャは素敵な人だっただろう? ゴール」
「うぉん!」
今の愛犬のゴールはペットショップで売れ残っていた犬だ。世間では小型犬が主流で半年を越えても売れ残り、小さなゲージの中でゴールは大きな体を丸めて眠っていた。
可哀そうで、広い外に出してやりたいと思った。
「さて結構歩いたな。戻ろうか」
いつかサーシャみたいに、婚約者とゴールと一緒に散歩できればいいな。
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