【完結】特別な力で国を守っていた〈防国姫〉の私、愚王と愚妹に王宮追放されたのでスパダリ従者と旅に出ます。一方で愚王と愚妹は破滅する模様

ともボン

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第一章 愚王と愚妹による婚約破棄

第八話   復讐よりも希望の旅路へ

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「わ、わかったからこれ以上人目を引きつけるのはやめて! ほら、さっさと立ってちょうだい!」

 言うや否や、リヒトはすくっと立ち上がった。

 そのまま私の元へ歩み寄ってきて、口の端を鋭角に吊り上げる。

「確かに言質をいただきましたよ、アメリアお嬢さま」

 私はその言葉で我に返った。

 こ、この男……わざと私が断れない状況を作り出したわね。

 リヒトは「言っておきますが、もう却下はなしですよ」と片目でウインクをしてみせる。

 私はどっと肩を落とした。

「まったく、あなたは子供の頃からそうね。本当に自分の我がままを押し通すのが上手い」

「誉め言葉と受け取っておきます。それよりも――」

 急にリヒトの表情とテンションが一変した。

 今まで陽気だった顔が、急に決闘場に赴く騎士のような顔つきになる。

「あのアントン・カスケードはどうします? 殺しますか?」

 私はキョトンとなった。
 
 リヒトの言っていることがわからなかったからだ。

「俺がフィンドラル家の護衛騎士を辞めた1番の理由がそれです。あの馬鹿国王はお嬢さまとの婚約を公衆の面前で破棄したばかりか、この国に必要な〈防国姫〉の任も解いて王宮から追放した。そればかりか、追放したお嬢さまがこの王都の医療施設で働けないようにお達しを出したのです。ならば生かしておく必要はありません。お嬢さまを侮辱した罪は、それこそ死でつぐなって貰わなければ」

「リヒト!」

 私は黒パンを落としてリヒトの口を両手の掌で塞ぐと、あらん限りの力を振り絞って自分の身体ごとリヒトを路地裏へと押しやる。

 私よりも頭1つ分は背が高く、傍目には華奢に見えても実はしなやかで鍛えられた肉体を持つリヒトの身体を押しやるのは大変だったが、あんな往来でアントンさまの殺害予告などをリヒトに喋らせるわけにはいかなかった。

「俺は本気ですよ。あなたのためなら、この命など微塵も惜しくはない」

 ドキッと私の心臓が高鳴った。

 どこまでも吸い込まれそうな黒瞳に見つめられ、私は二の句が継げなくなってしまった。

 久しぶりに間近で見るリヒトの顔は、同じ17歳とは思えないほど大人びていたからだ。

 それだけではない。

 やや太めの凛々しい目眉。

 きりりと通った鼻筋。

 先端に向かうほどシャープになっているあごのライン。

 ありきたりな表現だが、リヒトを表現するのにはハンサムという言葉が1番としっくりくる。

「お嬢さまから許可さえいただければ、すぐにこのままアントン・カスケードの命を奪いに向かいます。幸いにもまだ俺がフィンドラル家の護衛騎士を辞めたことは王宮騎士団には知られていません。今なら王宮内に簡単に入ってアントン・カスケードに近づけます」

 リヒトは本気だった。

 本気で私のためにアントンさまの命を奪いに行こうとしている。

「ついでにミーシャさま……いえ、ミーシャのやつも殺りましょうか? 昔から何かと陰険な性格をしていましたが、お嬢さまと同じ防病魔法の力に目覚めたとわかったときからそれを隠さないようになったともメイドたちから聞きました。きっとアントンに何かと指図したのはミーシャでしょう」

「リヒト……もういいの」

 私は小さく首を左右に振った。

「どのみち、今さら何を言っても無駄よ。それにああ見えてミーシャにも良いところはある。アントンさまもそうだけど、殺すなんて絶対にダメなことだわ」

「しかし、悔しくはないのですか?」

「悔しくないと言えば嘘になるわね……でも、復讐なんてしても虚しいだけよ。それよりも、私のためにあなたの命まで危険に晒させるほうが嫌」

 掛け値なしの本音だった。

 実際に行動に移さなくても、私のために自分の命を投げ出すと本気で言ってくれたリヒトの言葉が嬉しかった。

「第一、私には復讐よりもやるべきことができた。〈放浪医師〉として辺境や田舎の怪我人や病人を治す旅に出るという希望がね」

 私が胸を張って宣言すると、リヒトは「さすがです」とうなずいた。

「あんな小物どもの復讐よりも、か弱い者たちの希望のために生きる――その高貴な志こそアメリアお嬢さまの魅力。このリヒト・ジークウォルト、たとえお嬢さまの向かう先が地獄だろうとお供いたします……ですが、その前に」
 
 リヒトは革袋の中から包み紙にくるまれた何かを取り出した。

 その何かを私に差し出してくる。

「どんな行動を取るにせよ、今後は俺の前で拾い食いはなしですよ」

 包み紙にくるまれていたのは、小麦粉のみで焼かれた白パンだった。

 私は火が出るほど顔が真っ赤になる。

 そんな私を見て、リヒトは屈託のない笑顔を向けてきたのだった。
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