【完結】特別な力で国を守っていた〈防国姫〉の私、愚王と愚妹に王宮追放されたのでスパダリ従者と旅に出ます。一方で愚王と愚妹は破滅する模様

ともボン

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第四章 愚王と愚妹の破滅へのカウントダウン

第三十三話 リヒト・ジークウォルトの奮闘 ② 

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 常人ならば吐き気を催すほどの姿の異形のモノ。

 最初は巨大な肉団子の状態になっていたが、今では頭部が2つある高さ3メートルほどの巨人と化している。

 しかも全身の筋肉が異様に盛り上がっているのだ。

 王宮騎士団の中でも尻込みする騎士が出てきそうな体型である。

 けれど、俺は人型に変形してくれたのは逆に御の字だと思った。

 先ほどの肉団子状だと攻撃方法が不明だったのだが、人型の状態ならばオーガなどの魔物と大して変わらない。

 攻撃方法などいくらでも予測できる。

 しかもあの大きさだと、オーガとは違って動きは鈍いはず。

 などと俺が考えた直後である。

 異形のモノは、2つの雄叫びを上げながら突進してきた。

 俺は目を見開いた。

 予想以上に異形のモノの動きが速かったからだ。

 ドスドスドスという動きではなく、ドンッと一足飛びに跳躍するような勢いで間合いを詰めてくる。

 上等だッ!

 次の瞬間、俺も地面を強く蹴って突進した。

 互いの距離が一気に縮まる。

 そんな中、先手を打ってきたのは異形のモノのほうだった。

 右手を伸ばして俺の身体を掴もうとしてくる。

 遅い!

 俺は勢いを殺さず、異形のモノの掴み攻撃を外側に紙一重で避ける。

 それだけではない。

 俺は避けると同時に長剣を薙ぎ払った。

 相手の脇腹を斬りつける胴払いである。

 長剣を振るった瞬間、俺は両手に伝わってくる感触を想像した。

 それは肉を刃物で切り裂く独特の手応え。

「――――ッ!」

 だが、俺の両手にその手応えは伝わってこなかった。

 代わりに伝わってきたのは、鋼鉄の塊を斬りつけたような鈍く重い感触と音だったのだ。

 俺は小さく舌打ちすると、その場から駆け出して異形のモノと距離を取った。

 直後、俺が今いた場所に突風が吹き荒れる。

 俺は両足を止めると、再び長剣の切っ先を突きつけながら振り返る。

 裏拳だった。

 異形のモノは俺の胴払いを受けたあと、俺の後頭部に向かって右手の裏拳を放っていたのだ。

 もしも俺があの場で立ち止まっていたら、後頭部に裏拳をまともに食らって頭部が粉砕していただろう。

 それほどの威力があったのは、空を切った裏拳で巻き起こった突風で察した。

 そこでようやく気づく。

 俺は異形のモノから自身の長剣へと視線を移した。

 俺の持っていた長剣が、真ん中の部分からポッキリと折れている。

 あの鋼鉄の肉体を斬りつけたときの衝撃に耐えられなかったのだろう。

 俺は折れた長剣を捨てた。

 もともと長剣を使おうと思った理由は、あの異形のモノの肉体に直接触れたくなかったからだ。

 さすがに気持ち悪いことこの上ない。

 だが、刃物が通らない身体ならば仕方がない。

 俺の魔力は自身の肉体にしかまとえず、今のように何らかの武器を使っても武器自体の威力を強化したりはできなかった。

 つまり、どんな武器を使おうと異形のモノにダメージは与えられない。

 誤算とまではいかないが、こうなったら〈魔力発勁マナ・ショット〉で倒すのみ。

 俺は全身にまとわせていた魔力を両手により強めに集中させた。

 そのとき、異形のモノが再び猛進してきた。

 低姿勢のまま滑るように、大量の埃をまき散らせながら。

 俺は身構えた。

 あっという間に間合いが詰まり、異形のモノが攻撃を放ってくる。

 俺が普通の獲物ではないと感じたのだろう。

 異形のモノは先ほどのような掴み攻撃ではなく、両腕を振り回すような攻撃を繰り出してくる。

 俺はそんな攻撃を巧みなフットワークで躱していく。

 とはいえ、躱していただけでは悪戯に時間が過ぎるだけだ。

 なので俺は異形のモノの攻撃の隙を見つけ、一気に懐へと潜り込んだ。

 そして魔力を強めに集中させた両手で攻撃した。

 異形のモノの分厚い胸板に連続突きを放ったのだ。

 ドドンッ!

 という衝撃音が鳴り、異形のモノの肉体は「く」の字になって何歩か後退する。

 ここだ!

 俺はカッと両目を見開き、一気に異形のモノに向かって跳躍した。

 最初の狙いは白髪の老人――神官長のほうだった。

「ハッ!」

 裂帛の気合一閃。

 俺は空中から神官長の顔面に渾身のパンチを打つ。

 ゴシャッ、という歪な音を立てて神官長の顔面が陥没した。

 大量の血と肉片、そして無数の歯が飛び散る。

 俺は体勢を整えるため、異形のモノの肩の部分を踏み台にして再び跳躍。

 異形のモノの後方へとふわりと着地する。

「み、み、み、ミーシャアアアアアアアアアアアアッ!」

 すると異形のモノは身体ごと振り返った。

 残された最後の生首――金髪の青年のほうが喉を裂かんばかりに絶叫する。

 このとき、俺は激しく眉根を寄せた。

 大気を震わせるほどの絶叫に対してではなく、金髪の青年が発した言葉自体を訝しんだ。

 ミーシャだと?
 
 国内を探せば同じ名前の人間はいるだろうが、俺が脳内に思い浮かべた「ミーシャ」という人間はただ1人だけである。

「シャアアアアアアアアアア――――ッ!」

 そうこうしている間に異形のモノが迫ってきた。

 一瞬で現実に引き戻された俺は、ミーシャのことなど頭から消して迎撃する。

 異形のモノは両手の指を絡めると、そのまま振りかぶって両拳を俺の脳天へと振り下ろしてくる。

 しかし、先ほどのような素早さはない。

 神官長の頭部が潰されたことで戦闘力が半減したのだろうか。

 ともかく、戦闘力と素早さが落ちた異形のモノなどもはや俺の敵ではなかった。

 俺は真横に移動して攻撃を回避すると、床に激突した異形のモノの両腕を足場にして駆け上がる。

 狙いはただ1点。

 俺は金髪の青年の頭部に手刀を振り下ろした。

 グシャッ!

 魔力で強化された俺の手刀で脳天を粉砕され、金髪の青年はこの世のものとは思えないほどの断末魔を上げた。

「お前も神の元へ逝け」

 俺は返す手刀で金髪の青年の首を切り落とし、異形のモノの肩口を蹴って地面に降り立つ。

 すぐに後ろから「ドズン」と何かが倒れる音がした。

 振り返ると、2つの首を失った異形のモノの身体が床に倒れていた。

 その身体の近くには金髪の青年の首が転がっており、脳みそを完全に破壊したせいか声どころかピクリとも動かない。

 俺はしばらく異形のモノの身体と、金髪の青年の首だったモノを見ていたが、どちらとも再び動き出す気配はなかった。

 だとしたら、もうここに用はない。

 俺はお嬢さまたちの元へと向かうために足を動かそうとした。

 だが、俺は立ち止まって金髪の青年の首だったモノに顔を向ける。

「なあ、お前の言ったミーシャとは誰のことだったんだ?」

 ぼそりとつぶやいた俺だったが、その答えが返ってくるはずがなかった。

 やがて俺は顔を神殿の奥に向け、お嬢さまたちのあとを追うために走り出した。
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