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第四章 愚王と愚妹の破滅へのカウントダウン
第三十六話 ミーシャ・フィンドラルの愚行 終?
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わたしは眼前の魔力水晶石をじっと見つめていた。
時刻は夜――。
場所は王宮の最上階にある結界部屋の中だ。
現在、主核の魔力水晶石は緑色に発光していた。
けれど、わたしが姉を追い落として〈防国姫〉となってからというもの、この魔力水晶石の発光度合いがどんどん落ちているような気がする。
だが、今はもうそんなことはどうでもいい。
わたしは奥歯を軋ませながら、両手の拳を強く握り締める。
アルベルトの辺境派遣にアントンが関わっていたことを知ったわたしは、あの豚に嫌々ながらも抱かれたあとにすぐさま魔術技師庁へと向かった。
そしてアルベルトの安否を確認したのだが、魔術技師庁によると辺境へ派遣されたアルベルトたちからの報告が一切途絶えたらしい。
それどころか、辺境地域は現在進行形で大変なことになっていると聞かされた。
魔力水晶石が次々と誤作動を起こし、一部の地域では魔力水晶石が近くにある街の住民たちが原因不明の暴徒と化しているという。
それだけではない。
実際に死傷者も多く出ていて、魔術技師庁もそうだが王宮にも多数の報告書や事態を沈静化させてほしいという嘆願書が寄せられているとも聞いたのである。
すべてが初めて知ったことだった。
〈防国姫〉の仕事自体は政治とはほぼ無関係だったため、アントンがわたしのことを考えて事情を伏せていたということは十分に考えられる。
しかし、一瞬でもそう思ったわたしはすぐに否定した。
あのアントンにそのような他者を配慮する心などない。
アントンは本当に辺境地域のことなどどうでもよく、それどころか国中が暴徒によって戦場と化したとしても、実際に王宮にまで被害がなければ我関せずと動かないに違いない。
なぜなら、アントン・カスケードは本物の無能だからだ。
幸運にもカスケード王国の王太子という身分として生まれ、先代国王の急死によって現国王になっただけで、この国の未来を託すほどの才能も頭も力も何一つ持ち合わせていない。
だからこそ、御しやすいと思った。
わたしの身体を餌にして満足させれば、簡単に傀儡にできると踏んだのである。
事実、そうなった。
アントンはわたしの言う通りに姉のアメリアと婚約破棄し、王宮からもさっさと追い出してくれた。
実家には前もってわたしが手を回していたため、姉のアメリアは実家からも勘当されて無一文になった。
王都の治療施設にもアントンとわたしの「アメリア・フィンドラルを雇うべからず」のお達しが触れ回っていたこともあって、早々に姉のアメリアは王都からどこかへと消えたこともわかっている。
おそらく、今頃は相当に大変な目に遭っているだろう。
どこかの田舎町で売春婦になっているか、もしくは人知れず行き倒れている可能性もあった。
ざまあみろ、と何度ほくそ笑んだことだろう。
子供の頃から何かと目の上のコブだった糞姉が視界から消え去ったとき、わたしは得も言われぬ快感を味わったことを今でも鮮明に覚えている。
そして本当の愛すべき男性を見つけたこともあって、わたしの今後の人生はすべて順風満帆で何の心配もいらないと思った。
怖いぐらい順調だった。
そう、すべてにおいて順調だったのだ。
「クソがッ!」
わたしは魔力水晶石の表面を蹴りつける。
糞姉を消したことでわたしとアルベルトの薔薇色の未来が待っていたはずなのに、ここにきてアントンの勝手な真似のせいですべてが狂ってしまった。
正直なところ、アルベルトが辺境の地でどうなっているか想像もつかない。
無事でいるのだろうか。
いや、絶対に無事なはずだ。
わたしは何度も魔力水晶石の表面を蹴りつけたあと、今度は自分の額を魔力水晶石の表面に打ちつけた。
つう、と額から血が垂れてくる。
それでも今のわたしには関係なかった。
頭の中にあるのはアルベルトの安否のこと、そしてアントン・カスケードを今すぐにでも殺したいという負の感情だけだった。
許さない!
あの豚野郎は絶対に許さない!
わたしは下唇も強く噛み締め、脳内でアントンの身体を刃物で切り刻んだ。
泣き叫ぶアントンを前に、それでも想像のわたしはアントンの身体を刃物で刺していく。
それほどアントンに対するわたしの殺意は上昇の一途を辿っていた。
同時にアルベルトの最悪な事態も考えてしまう。
絶対に大丈夫だとは思っていても、辺境地域の惨状を考えるとどうなっているかわからない。
魔術技師庁には無理を言って早馬を走らせてもらったが、それでもアルベルトが向かった地域までは往復に1週間以上はかかる。
アントン・カスケードを今すぐ殺したい!
アルベルト・ウォーケンの安否を知りたい!
わたしの脳内は今までの人生で1度もないほどのパニックの極みに達していた。
アントンの顔とアルベルトの顔がぐるぐると脳内で回っている。
どうしよう!
どうすればいい!
何をしたらいい?
何をすればいい?
アントンをすぐに刃物で殺す?
ダメだ、そんなことをすればわたしは捕まってすぐに死罪になる!
アルベルトの向かった辺境へ行く?
ダメだ、そんなことをする理由が今のわたしにはない!
みすみす自分たちの密通を周囲に広めるようなものだ!
わたしは魔力水晶石の表面に額をピタリとつける。
大理石のような冷たさと固さを持つ魔力水晶石を感じながら、自分が何をすればいいのか自問自答する。
いや、本当のところはわかっていた。
わたしはカスケード王国の〈防国姫〉だ。
ならば、この主核の魔力水晶石に魔力を流し続け、カスケード王国全体に疫病などを防ぐ結界を張ることがわたしの役目――。
はん、とわたしは鼻で笑った。
「今そんなことに集中できるわけないでしょう!」
わたしは喉が裂けんばかりに吼えた。
アントンへの憎しみとアルベルトへの愛しさが狂おしいほどに交じっている中、もはや今のわたしには〈防国姫〉としての仕事への活力は微塵もなかった。
もはや〈防国姫〉としての仕事などどうでもいい。
アントンを自然死に見せかけて殺し、アルベルトの安否を確認するために裏で密かに行動する。
それだけが今のわたしに残された、生きる希望そのものだった。
となると、まずはアントンのほうから処理をしよう。
あの糞姉の存在は忌々しかったものの、医術や薬学の知識はさすがに表立って否定できないほど優れていた。
そんな糞姉が最低限に残していった秘薬のレシピ。
巷に流れている上級回復薬よりも優れ、それこそ材料の混合比を間違えば強力な劇薬にもなり得る薬を作れるレシピ。
そのレシピに反してわざと誤った薬を使い、アントンを徐々に自然死に見せかけて毒殺する。
数週間、数ヶ月、それこそ年単位をかけてじっくりと服用させて殺すのだ。
もちろん、そのときにはアルベルトはこの王都に帰還しているはずだ。
いや、絶対に帰還している。
アルベルトはアントンとは違う本物の天才だ。
まさに神に選ばれた存在であり、そんな簡単に死んだりするはずがない。
などとわたしが自分自身に言い聞かせた直後だった。
ふとわたしは気がついた。
わたしはガバッと魔力水晶石から顔を離す。
「――――――――ッ!」
わたしは声にならない声を上げた。
先ほどまで緑色に発光していた魔力水晶石が、毒々しいほどの紫色に発光していたのだ。
そして、その紫色に発光していた魔力水晶石の発光色は見る見るうちにまた別の色へと変貌していく。
それは、夜の海を連想させるほどの濃暗色だった。
あまりの不気味さにわたしがたじろいだのも束の間、濃暗色なった魔力水晶石から何かが噴き出した。
霧である。
魔力水晶石の表面からは濃暗色の大量の霧が放出され、瞬く間にわたしの身体は不気味な霧に飲み込まれてしまう。
何これ!
だ、誰か助けて!
あ……アルベ……。
やがて、わたしの意識は深い闇の中へと落ちて行った。
時刻は夜――。
場所は王宮の最上階にある結界部屋の中だ。
現在、主核の魔力水晶石は緑色に発光していた。
けれど、わたしが姉を追い落として〈防国姫〉となってからというもの、この魔力水晶石の発光度合いがどんどん落ちているような気がする。
だが、今はもうそんなことはどうでもいい。
わたしは奥歯を軋ませながら、両手の拳を強く握り締める。
アルベルトの辺境派遣にアントンが関わっていたことを知ったわたしは、あの豚に嫌々ながらも抱かれたあとにすぐさま魔術技師庁へと向かった。
そしてアルベルトの安否を確認したのだが、魔術技師庁によると辺境へ派遣されたアルベルトたちからの報告が一切途絶えたらしい。
それどころか、辺境地域は現在進行形で大変なことになっていると聞かされた。
魔力水晶石が次々と誤作動を起こし、一部の地域では魔力水晶石が近くにある街の住民たちが原因不明の暴徒と化しているという。
それだけではない。
実際に死傷者も多く出ていて、魔術技師庁もそうだが王宮にも多数の報告書や事態を沈静化させてほしいという嘆願書が寄せられているとも聞いたのである。
すべてが初めて知ったことだった。
〈防国姫〉の仕事自体は政治とはほぼ無関係だったため、アントンがわたしのことを考えて事情を伏せていたということは十分に考えられる。
しかし、一瞬でもそう思ったわたしはすぐに否定した。
あのアントンにそのような他者を配慮する心などない。
アントンは本当に辺境地域のことなどどうでもよく、それどころか国中が暴徒によって戦場と化したとしても、実際に王宮にまで被害がなければ我関せずと動かないに違いない。
なぜなら、アントン・カスケードは本物の無能だからだ。
幸運にもカスケード王国の王太子という身分として生まれ、先代国王の急死によって現国王になっただけで、この国の未来を託すほどの才能も頭も力も何一つ持ち合わせていない。
だからこそ、御しやすいと思った。
わたしの身体を餌にして満足させれば、簡単に傀儡にできると踏んだのである。
事実、そうなった。
アントンはわたしの言う通りに姉のアメリアと婚約破棄し、王宮からもさっさと追い出してくれた。
実家には前もってわたしが手を回していたため、姉のアメリアは実家からも勘当されて無一文になった。
王都の治療施設にもアントンとわたしの「アメリア・フィンドラルを雇うべからず」のお達しが触れ回っていたこともあって、早々に姉のアメリアは王都からどこかへと消えたこともわかっている。
おそらく、今頃は相当に大変な目に遭っているだろう。
どこかの田舎町で売春婦になっているか、もしくは人知れず行き倒れている可能性もあった。
ざまあみろ、と何度ほくそ笑んだことだろう。
子供の頃から何かと目の上のコブだった糞姉が視界から消え去ったとき、わたしは得も言われぬ快感を味わったことを今でも鮮明に覚えている。
そして本当の愛すべき男性を見つけたこともあって、わたしの今後の人生はすべて順風満帆で何の心配もいらないと思った。
怖いぐらい順調だった。
そう、すべてにおいて順調だったのだ。
「クソがッ!」
わたしは魔力水晶石の表面を蹴りつける。
糞姉を消したことでわたしとアルベルトの薔薇色の未来が待っていたはずなのに、ここにきてアントンの勝手な真似のせいですべてが狂ってしまった。
正直なところ、アルベルトが辺境の地でどうなっているか想像もつかない。
無事でいるのだろうか。
いや、絶対に無事なはずだ。
わたしは何度も魔力水晶石の表面を蹴りつけたあと、今度は自分の額を魔力水晶石の表面に打ちつけた。
つう、と額から血が垂れてくる。
それでも今のわたしには関係なかった。
頭の中にあるのはアルベルトの安否のこと、そしてアントン・カスケードを今すぐにでも殺したいという負の感情だけだった。
許さない!
あの豚野郎は絶対に許さない!
わたしは下唇も強く噛み締め、脳内でアントンの身体を刃物で切り刻んだ。
泣き叫ぶアントンを前に、それでも想像のわたしはアントンの身体を刃物で刺していく。
それほどアントンに対するわたしの殺意は上昇の一途を辿っていた。
同時にアルベルトの最悪な事態も考えてしまう。
絶対に大丈夫だとは思っていても、辺境地域の惨状を考えるとどうなっているかわからない。
魔術技師庁には無理を言って早馬を走らせてもらったが、それでもアルベルトが向かった地域までは往復に1週間以上はかかる。
アントン・カスケードを今すぐ殺したい!
アルベルト・ウォーケンの安否を知りたい!
わたしの脳内は今までの人生で1度もないほどのパニックの極みに達していた。
アントンの顔とアルベルトの顔がぐるぐると脳内で回っている。
どうしよう!
どうすればいい!
何をしたらいい?
何をすればいい?
アントンをすぐに刃物で殺す?
ダメだ、そんなことをすればわたしは捕まってすぐに死罪になる!
アルベルトの向かった辺境へ行く?
ダメだ、そんなことをする理由が今のわたしにはない!
みすみす自分たちの密通を周囲に広めるようなものだ!
わたしは魔力水晶石の表面に額をピタリとつける。
大理石のような冷たさと固さを持つ魔力水晶石を感じながら、自分が何をすればいいのか自問自答する。
いや、本当のところはわかっていた。
わたしはカスケード王国の〈防国姫〉だ。
ならば、この主核の魔力水晶石に魔力を流し続け、カスケード王国全体に疫病などを防ぐ結界を張ることがわたしの役目――。
はん、とわたしは鼻で笑った。
「今そんなことに集中できるわけないでしょう!」
わたしは喉が裂けんばかりに吼えた。
アントンへの憎しみとアルベルトへの愛しさが狂おしいほどに交じっている中、もはや今のわたしには〈防国姫〉としての仕事への活力は微塵もなかった。
もはや〈防国姫〉としての仕事などどうでもいい。
アントンを自然死に見せかけて殺し、アルベルトの安否を確認するために裏で密かに行動する。
それだけが今のわたしに残された、生きる希望そのものだった。
となると、まずはアントンのほうから処理をしよう。
あの糞姉の存在は忌々しかったものの、医術や薬学の知識はさすがに表立って否定できないほど優れていた。
そんな糞姉が最低限に残していった秘薬のレシピ。
巷に流れている上級回復薬よりも優れ、それこそ材料の混合比を間違えば強力な劇薬にもなり得る薬を作れるレシピ。
そのレシピに反してわざと誤った薬を使い、アントンを徐々に自然死に見せかけて毒殺する。
数週間、数ヶ月、それこそ年単位をかけてじっくりと服用させて殺すのだ。
もちろん、そのときにはアルベルトはこの王都に帰還しているはずだ。
いや、絶対に帰還している。
アルベルトはアントンとは違う本物の天才だ。
まさに神に選ばれた存在であり、そんな簡単に死んだりするはずがない。
などとわたしが自分自身に言い聞かせた直後だった。
ふとわたしは気がついた。
わたしはガバッと魔力水晶石から顔を離す。
「――――――――ッ!」
わたしは声にならない声を上げた。
先ほどまで緑色に発光していた魔力水晶石が、毒々しいほどの紫色に発光していたのだ。
そして、その紫色に発光していた魔力水晶石の発光色は見る見るうちにまた別の色へと変貌していく。
それは、夜の海を連想させるほどの濃暗色だった。
あまりの不気味さにわたしがたじろいだのも束の間、濃暗色なった魔力水晶石から何かが噴き出した。
霧である。
魔力水晶石の表面からは濃暗色の大量の霧が放出され、瞬く間にわたしの身体は不気味な霧に飲み込まれてしまう。
何これ!
だ、誰か助けて!
あ……アルベ……。
やがて、わたしの意識は深い闇の中へと落ちて行った。
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