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第30話 選択
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不敵な笑みを浮かべたムーナとは対照的に、舞弥は目出し帽の中で表情を引きつらせる。
冗談ではなかった。
自分が銃を向ける相手は敵対する〈発現者〉か明らかな敵意を持つ人間だけと決めている。
天地が逆転しても善良な人間を撃つことなどできない。
「さあ、お前の誠意を見せてくれ。そうでなくてはお前をスカウトした私の顔が立たん」
ムーナに軽く背中を押された舞弥は、逃走するチャンスを窺うどころか瞬く間にピンチに陥ってしまった。
承諾も拒否も選択できない四面楚歌。
ムーナに言われたことを実行した暁には人間として大事なモノを失い、断れば失格の烙印を押されて殺されるだろう。
「どうした? まさか、この期に及んで怖気づいたのか?」
「馬鹿なこと言わないで。怖気づくはずないでしょう」
息巻いた振りをしても状況が一変するはずもなかった。
ごくりと生唾を飲み込んだ舞弥は右手をゆっくりと動かし、九ミリの弾丸を亜音速で発射するベレッタの銃口をオリビアの後頭部に合わせた。
あとはトリガーを引くだけで終わりだ。
頭部を撃たれたオリビアは高い確率で死に、自分は晴れてムーナたちの仲間と認められる。
そうなれば今回の作戦に参加している連中と同様の武器を渡され、会場から自力で逃げ出せるチャンスも巡ってくるに違いない。
(馬鹿じゃないの! そんなことをしたら、あたしは単なる殺人犯に堕ちるのよ!)
銃口を向けていた舞弥は自分自身を激しく罵った。
そうである。
何があろうとオリビアを撃ってはならない。
いや、撃ってはならないのはオリビアだけではなかった。
別室に監禁されている人間たちも同じだ。
オリビアの講演を生で聴くために集まった彼らを殺す理由などない。
そうなると舞弥が取るべき行動は一つ。
腹を括った舞弥はオリビアの後頭部に狙いを定めていた銃口を外すと、一足飛びにムーナに駆け寄って背後を取った。
反撃の隙を与えない迅速さで首に左腕を回して銃口をこめかみに突きつける。
リーダーを人質に取られたシュナや大人兵たちは、一斉に携帯していたAK74の銃口を舞弥に差し向けた。
同時に舞弥は大気を震わすほどの声量で「動くな!」と叫ぶ。
「下手に動いたらムーナの頭を吹き飛ばすわよ! そうなってもいいの!」
英語がわからなかった大人兵たちでも理解できたのだろう。
大人兵たちは舞弥の忠告に大人しく従った。
安全装置を解除してもトリガーに指をかけなかったのだ。
つくづくプロな連中だった。
フィクションである映画とは違い、暴発の恐れがあるトリガーに指をかけ続けるという行為の危険性をよく理解している。
ただし一方でプロとは思えない奇妙な行為も目立った。
ムーナや大人兵たちは、ボール形の手榴弾をベルトからぶらりと吊るしていたのだ。
かつてベトナム戦争では兵士の多くが手榴弾を腰から吊るしていたことで、ジャングルを彷徨っていたときに安全ピンが枝に引っかかって爆発するという事故が多発したと聞く。
そのため現在では不運な爆発を避けるべく、手榴弾を携帯する際には安全ピンが簡単に抜けないようにマガジンポーチのポケットなどに仕舞うのが常識となっている。
にもかかわらず、ムーナたちはこれ見よがしに手榴弾を腰から吊るしていたのだ。
人質に恐怖を与えるための演出だったのだろうか。
「残念だ。こんな形で貴重な即戦力を失うのは私としてはつらいぞ、パク」
ムーナの腰に吊るされていた手榴弾に注目していると、舞弥の耳にムーナの凛然とした声が聞こえてきた。
こめかみに銃口を突きつけられているというのに、ムーナの言動には些かの乱れもない。それどころか、舞弥の行動を楽しんでいるような節が見られた。
「あたしも残念だわ、ムーナ。一飯の恩人がテロリストじゃなかったら、あたしたちはいい友達になれたでしょうね……オリビアさん、立ってください!」
舞弥はムーナを人質に取りつつオリビアに声をかけた。
英語で自分の名前と取るべき行動を指示されたオリビアは、のそりと立ち上がり身体ごと振り返る。
「あなたは英語の他にもヒンドゥー語は話せますよね?」
「え、ええ……」
「じゃあ、彼らにヒンドゥー語で命令してください。持っている銃をすべて床に捨てろと」
「待って。あなたもテロリストの仲間じゃないの?」
「そんなことを説明している暇はありません! 事情は折を見て話しますから、今はあたしの指示に従ってください!」
舞弥の迫力に根負けしたのだろう。
オリビアは大人兵たちを見渡しながらヒンドゥー語で舞弥の要求を伝えた。
すると大人兵たちは躊躇も困惑もせずにAK74を床に投げ捨てた。
サイドアームであったオートマチック拳銃のベレッタも同様に床へ落とす。
舞弥はムーナを人質に取ったままオリビアに歩み寄っていく。
「オリビアさん、重ね重ねすみませんが彼女のライフルを奪ってください。あたしがやろうにも見ての通り両手が塞がっていて無理なんです」
「私が銃を? そんな恐ろしいこと……」
「誰も撃てなんて言っていません。あたしたちの身の安全を守るために、彼女からライフルを奪ってくれるだけでいいんです」
「ああ、そういうことなのね」
オリビアは腫れ物にでも触るようにムーナの両手からAK74を奪い取った。
「ありがとうございます。それではオリビアさんは一足早く壇上から降りてください。すぐにあたしも降りますから」
AK74をしっかりと両手で抱えたオリビアを先に壇上から降ろし、続いて自分も壇上から降りようと数段しかない木製の階段に足をつけたときだ。
「パク、お前に最後のチャンスを与えてやる。私のこめかみに突きつけている拳銃でオリビアを殺せ。そうすれば私に対する反逆行為は水に流してやろう。それに私を裏切ればお前の仇の情報も得られないぞ」
などと言われて素直に寝返る舞弥ではない。
こんな重大事件を引き起こすムーナが父親の仇の情報を持っているとは思えなくなったからだ。
舞弥はムーナを羽交い絞めにしながら階下まで降りると、他の連中の警戒を怠らずに出入り口の扉へと向かう。
先にホールへ降ろしていたオリビアと一緒に慎重な足取りで。
「そうか……ならば仕方ない。お前のことは星の巡り合わせが悪かったと思って諦めよう」
業務用の大型テレビカメラを操作していた大人兵からも遠ざかり、残り十メートルほどで出入り口の扉へ到着するという矢先にそれは起こった。
ムーナの背中が異様に膨らみ、バツンと折り曲げたバネの力を解放させたような音が周囲に鳴り響いたのだ。
同時に舞弥の両足が床から離れて宙を舞う。
予想外の出来事に舞弥は受け身を取ることも忘れて背中から床に叩きつけられた。
(何が起こったの!)
胸に生じた圧迫感と背中に走った激痛を強靭な意志の力で跳ね除け、舞弥は何度か咳き込みながら片膝立ちになった。
すかさずベレッタの銃口をムーナに向ける。
けれども舞弥はトリガーを引くことができなかった。
ムーナの背中からは頑丈な造りの軍服を突き破って四枚の羽翅《はね》が生え出ていたのだ。
鳥の羽ではない。昆虫が持つ半透明な羽翅である。
舞弥は背中に氷塊を詰められたような恐怖を感じた。
人間の身体から昆虫の羽翅が生えることなど生物学的にあり得ない。
唯一、例外を挙げるとするのならそれは……
次の瞬間、張り詰めた弦がぷつりと切れたようにオリビアが絶叫した。
その悲鳴に呼応するようにホール全体が大きく揺れ動く。
地震特有の揺れではない。何かが爆発したときの余波による震動だ。
その証拠にホール全体を襲った強震はすぐにおさまった。
そして、この原因不明の強震が舞弥たちに千載一遇のチャンスを与えた。
ムーナや大人兵たちが平衡感覚を狂わされて転倒したのだ。
時間的には五秒足らずだったものの、戦闘時に五秒もの余裕が生まれれば何でもできる。
片膝立ちだったことで派手に転倒しなかった舞弥は、身体を振り返らせるなり尻餅をついていたオリビアの手を取った。
左手に渾身の力を込めてオリビアを強引に立たせ、数メートル先に点在していた出入り口からの脱出を試みる。
ただしシュナや大人兵たちは戦闘に特化したプロだ。
瞬く間に態勢を整えたシュナと大人兵たちは、舞弥たちに向かってAK74に込められていた弾丸を連射する。
つんざくような連射音に素人のオリビアは悲鳴を上げた。
それでも逃げることに全力を注いでいた舞弥は、オリビアの腕を引っ張りながら扉を蹴って通路へと出た。
何とか傷を負うこともなく、出入り口から離れることに成功してAK74の魔の手から完全に逃れる。
本当ならばすぐにでも逃走したかったが、通路に逃れた舞弥とオリビアを連中が見逃すはずがない。
すぐに自分たちを始末するべく出入り口に群がってくるだろう。
だからこそ、舞弥は少しでも時間を稼ぐための隠し玉を出した。
先ほどムーナの腰から奪っていたボール形の手榴弾である。
舞弥は出入り口から離れるようにオリビアに指示すると、自分は出入り口に近い壁に背中を預けた。
極度の緊張で心臓が早鐘を打つように高鳴っている。
また手榴弾のレバーを握っていた左手の震えが止まらない。
少しでも気を抜けば手から零れてしまいそうだ。
では、みすみすチャンスを棒に振るのか?
答えは否である。
自分とオリビアの命を守るためには実行するしかない。
舞弥は左手に持っていた手榴弾を口元に運ぶと、安全ピンを咥えて一気に引き抜いた。
手榴弾の扱いに慣れていない者は安全ピンを抜いた時点で投げてしまうだろうが、手榴弾が爆発するまでに要する時間は約三、四秒。
正式な訓練を受けたプロならば、着弾と同時に爆発するよう計算して手榴弾を投げる。
だが、このときの舞弥はあえて安全ピンを抜いた直後に手榴弾を手放した。
放り投げたのではない。
ホールの中へそっと転がしたのだ。
上手くいったと確証を得た直後、舞弥はコンクリートの壁から背中を離した。
全身を小刻みに震わせていたオリビアの手を掴んで速やかに現場から離脱する。
手榴弾が爆発した衝撃でホールと通路を結ぶ出入り口の扉と壁が粉々になったのは、舞弥がオリビアを連れて逃走した約三秒後のことだった。
冗談ではなかった。
自分が銃を向ける相手は敵対する〈発現者〉か明らかな敵意を持つ人間だけと決めている。
天地が逆転しても善良な人間を撃つことなどできない。
「さあ、お前の誠意を見せてくれ。そうでなくてはお前をスカウトした私の顔が立たん」
ムーナに軽く背中を押された舞弥は、逃走するチャンスを窺うどころか瞬く間にピンチに陥ってしまった。
承諾も拒否も選択できない四面楚歌。
ムーナに言われたことを実行した暁には人間として大事なモノを失い、断れば失格の烙印を押されて殺されるだろう。
「どうした? まさか、この期に及んで怖気づいたのか?」
「馬鹿なこと言わないで。怖気づくはずないでしょう」
息巻いた振りをしても状況が一変するはずもなかった。
ごくりと生唾を飲み込んだ舞弥は右手をゆっくりと動かし、九ミリの弾丸を亜音速で発射するベレッタの銃口をオリビアの後頭部に合わせた。
あとはトリガーを引くだけで終わりだ。
頭部を撃たれたオリビアは高い確率で死に、自分は晴れてムーナたちの仲間と認められる。
そうなれば今回の作戦に参加している連中と同様の武器を渡され、会場から自力で逃げ出せるチャンスも巡ってくるに違いない。
(馬鹿じゃないの! そんなことをしたら、あたしは単なる殺人犯に堕ちるのよ!)
銃口を向けていた舞弥は自分自身を激しく罵った。
そうである。
何があろうとオリビアを撃ってはならない。
いや、撃ってはならないのはオリビアだけではなかった。
別室に監禁されている人間たちも同じだ。
オリビアの講演を生で聴くために集まった彼らを殺す理由などない。
そうなると舞弥が取るべき行動は一つ。
腹を括った舞弥はオリビアの後頭部に狙いを定めていた銃口を外すと、一足飛びにムーナに駆け寄って背後を取った。
反撃の隙を与えない迅速さで首に左腕を回して銃口をこめかみに突きつける。
リーダーを人質に取られたシュナや大人兵たちは、一斉に携帯していたAK74の銃口を舞弥に差し向けた。
同時に舞弥は大気を震わすほどの声量で「動くな!」と叫ぶ。
「下手に動いたらムーナの頭を吹き飛ばすわよ! そうなってもいいの!」
英語がわからなかった大人兵たちでも理解できたのだろう。
大人兵たちは舞弥の忠告に大人しく従った。
安全装置を解除してもトリガーに指をかけなかったのだ。
つくづくプロな連中だった。
フィクションである映画とは違い、暴発の恐れがあるトリガーに指をかけ続けるという行為の危険性をよく理解している。
ただし一方でプロとは思えない奇妙な行為も目立った。
ムーナや大人兵たちは、ボール形の手榴弾をベルトからぶらりと吊るしていたのだ。
かつてベトナム戦争では兵士の多くが手榴弾を腰から吊るしていたことで、ジャングルを彷徨っていたときに安全ピンが枝に引っかかって爆発するという事故が多発したと聞く。
そのため現在では不運な爆発を避けるべく、手榴弾を携帯する際には安全ピンが簡単に抜けないようにマガジンポーチのポケットなどに仕舞うのが常識となっている。
にもかかわらず、ムーナたちはこれ見よがしに手榴弾を腰から吊るしていたのだ。
人質に恐怖を与えるための演出だったのだろうか。
「残念だ。こんな形で貴重な即戦力を失うのは私としてはつらいぞ、パク」
ムーナの腰に吊るされていた手榴弾に注目していると、舞弥の耳にムーナの凛然とした声が聞こえてきた。
こめかみに銃口を突きつけられているというのに、ムーナの言動には些かの乱れもない。それどころか、舞弥の行動を楽しんでいるような節が見られた。
「あたしも残念だわ、ムーナ。一飯の恩人がテロリストじゃなかったら、あたしたちはいい友達になれたでしょうね……オリビアさん、立ってください!」
舞弥はムーナを人質に取りつつオリビアに声をかけた。
英語で自分の名前と取るべき行動を指示されたオリビアは、のそりと立ち上がり身体ごと振り返る。
「あなたは英語の他にもヒンドゥー語は話せますよね?」
「え、ええ……」
「じゃあ、彼らにヒンドゥー語で命令してください。持っている銃をすべて床に捨てろと」
「待って。あなたもテロリストの仲間じゃないの?」
「そんなことを説明している暇はありません! 事情は折を見て話しますから、今はあたしの指示に従ってください!」
舞弥の迫力に根負けしたのだろう。
オリビアは大人兵たちを見渡しながらヒンドゥー語で舞弥の要求を伝えた。
すると大人兵たちは躊躇も困惑もせずにAK74を床に投げ捨てた。
サイドアームであったオートマチック拳銃のベレッタも同様に床へ落とす。
舞弥はムーナを人質に取ったままオリビアに歩み寄っていく。
「オリビアさん、重ね重ねすみませんが彼女のライフルを奪ってください。あたしがやろうにも見ての通り両手が塞がっていて無理なんです」
「私が銃を? そんな恐ろしいこと……」
「誰も撃てなんて言っていません。あたしたちの身の安全を守るために、彼女からライフルを奪ってくれるだけでいいんです」
「ああ、そういうことなのね」
オリビアは腫れ物にでも触るようにムーナの両手からAK74を奪い取った。
「ありがとうございます。それではオリビアさんは一足早く壇上から降りてください。すぐにあたしも降りますから」
AK74をしっかりと両手で抱えたオリビアを先に壇上から降ろし、続いて自分も壇上から降りようと数段しかない木製の階段に足をつけたときだ。
「パク、お前に最後のチャンスを与えてやる。私のこめかみに突きつけている拳銃でオリビアを殺せ。そうすれば私に対する反逆行為は水に流してやろう。それに私を裏切ればお前の仇の情報も得られないぞ」
などと言われて素直に寝返る舞弥ではない。
こんな重大事件を引き起こすムーナが父親の仇の情報を持っているとは思えなくなったからだ。
舞弥はムーナを羽交い絞めにしながら階下まで降りると、他の連中の警戒を怠らずに出入り口の扉へと向かう。
先にホールへ降ろしていたオリビアと一緒に慎重な足取りで。
「そうか……ならば仕方ない。お前のことは星の巡り合わせが悪かったと思って諦めよう」
業務用の大型テレビカメラを操作していた大人兵からも遠ざかり、残り十メートルほどで出入り口の扉へ到着するという矢先にそれは起こった。
ムーナの背中が異様に膨らみ、バツンと折り曲げたバネの力を解放させたような音が周囲に鳴り響いたのだ。
同時に舞弥の両足が床から離れて宙を舞う。
予想外の出来事に舞弥は受け身を取ることも忘れて背中から床に叩きつけられた。
(何が起こったの!)
胸に生じた圧迫感と背中に走った激痛を強靭な意志の力で跳ね除け、舞弥は何度か咳き込みながら片膝立ちになった。
すかさずベレッタの銃口をムーナに向ける。
けれども舞弥はトリガーを引くことができなかった。
ムーナの背中からは頑丈な造りの軍服を突き破って四枚の羽翅《はね》が生え出ていたのだ。
鳥の羽ではない。昆虫が持つ半透明な羽翅である。
舞弥は背中に氷塊を詰められたような恐怖を感じた。
人間の身体から昆虫の羽翅が生えることなど生物学的にあり得ない。
唯一、例外を挙げるとするのならそれは……
次の瞬間、張り詰めた弦がぷつりと切れたようにオリビアが絶叫した。
その悲鳴に呼応するようにホール全体が大きく揺れ動く。
地震特有の揺れではない。何かが爆発したときの余波による震動だ。
その証拠にホール全体を襲った強震はすぐにおさまった。
そして、この原因不明の強震が舞弥たちに千載一遇のチャンスを与えた。
ムーナや大人兵たちが平衡感覚を狂わされて転倒したのだ。
時間的には五秒足らずだったものの、戦闘時に五秒もの余裕が生まれれば何でもできる。
片膝立ちだったことで派手に転倒しなかった舞弥は、身体を振り返らせるなり尻餅をついていたオリビアの手を取った。
左手に渾身の力を込めてオリビアを強引に立たせ、数メートル先に点在していた出入り口からの脱出を試みる。
ただしシュナや大人兵たちは戦闘に特化したプロだ。
瞬く間に態勢を整えたシュナと大人兵たちは、舞弥たちに向かってAK74に込められていた弾丸を連射する。
つんざくような連射音に素人のオリビアは悲鳴を上げた。
それでも逃げることに全力を注いでいた舞弥は、オリビアの腕を引っ張りながら扉を蹴って通路へと出た。
何とか傷を負うこともなく、出入り口から離れることに成功してAK74の魔の手から完全に逃れる。
本当ならばすぐにでも逃走したかったが、通路に逃れた舞弥とオリビアを連中が見逃すはずがない。
すぐに自分たちを始末するべく出入り口に群がってくるだろう。
だからこそ、舞弥は少しでも時間を稼ぐための隠し玉を出した。
先ほどムーナの腰から奪っていたボール形の手榴弾である。
舞弥は出入り口から離れるようにオリビアに指示すると、自分は出入り口に近い壁に背中を預けた。
極度の緊張で心臓が早鐘を打つように高鳴っている。
また手榴弾のレバーを握っていた左手の震えが止まらない。
少しでも気を抜けば手から零れてしまいそうだ。
では、みすみすチャンスを棒に振るのか?
答えは否である。
自分とオリビアの命を守るためには実行するしかない。
舞弥は左手に持っていた手榴弾を口元に運ぶと、安全ピンを咥えて一気に引き抜いた。
手榴弾の扱いに慣れていない者は安全ピンを抜いた時点で投げてしまうだろうが、手榴弾が爆発するまでに要する時間は約三、四秒。
正式な訓練を受けたプロならば、着弾と同時に爆発するよう計算して手榴弾を投げる。
だが、このときの舞弥はあえて安全ピンを抜いた直後に手榴弾を手放した。
放り投げたのではない。
ホールの中へそっと転がしたのだ。
上手くいったと確証を得た直後、舞弥はコンクリートの壁から背中を離した。
全身を小刻みに震わせていたオリビアの手を掴んで速やかに現場から離脱する。
手榴弾が爆発した衝撃でホールと通路を結ぶ出入り口の扉と壁が粉々になったのは、舞弥がオリビアを連れて逃走した約三秒後のことだった。
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