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第30話 ギャングの道祖神
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「はあ~、これは思ったよりナンギ(難儀)なことになりそうさぁ」
武琉は件の場所にくるなり、強烈な負の雰囲気を醸し出している建物を見上げた。
以前にも足を運んだことがある旧校舎である。
時刻は午後7時30分を過ぎているだろう。
雲の切れ目から降り注ぐ淡い燐光が、黒ずんでいるはずの外観を青白く染め上げていた。
一通り旧校舎の外観を見つめると、次に武琉はもう一度だけ視線を下に向けた。
旧校舎の入り口前には、数人の男たちが仲よく眠っている姿があった。
鷺乃宮学園指定の学生服を着ていた男たち。
当然だが一般生徒ではない。
脱色した髪や煌びやかな装飾品を身につけており、校則違反も甚だしかった。
間違いなく〈ギャング〉の人間たちだ。
こんな時間に旧校舎にいること自体、そうであることを明確に示唆している。
しかし、それでも不可解な点は多数見受けられた。
〈ギャング〉に属する男たちは身体の様々な箇所を骨折していたのだ。
腕や足はもちろんのこと、中には肩を脱臼させられている男もいた。
武琉は目線を細めて昏倒している男たちを睥睨する。
〈ギャング〉たちは相当な技量を持つ相手にやられたのだろう。
地面に残っている摺り足気味の足跡や、男たちの怪我の具合からそれは十分に見て取れた。
相手はたった1人。
それもおそらくは……
「ナンギ(難儀)やっさぁ」
子供に悪戯された人形のようになっていた合計3人の〈ギャング〉たちを一望すると、武琉は作物を枯らす南風よりも恐ろしい腥風を纏いつつ旧校舎の中へと入っていく。
昇降口を通り抜けて頼りない音を奏でる廊下へと躍り出る。
周囲はやはり薄暗く埃臭い匂いが充満していた。
それでも咳き込むほどではない。
浅く呼吸を続けていれば特に気にならないほどだ。
「取り敢えず上かな」
旧校舎はとっくの昔に電気の供給がストップした場所だ。
それに時刻も時刻だったから10メートル前方はまったく見えない。
だが、運よく曇り空が晴れてくれたお陰で窓ガラスを通して月光が降り注いでくる。
その光を電灯の代わりにして武琉は歩を進めていくと、やがて武琉の目の前に上の階へと続く階段が見えてきた。
そこで武琉は一旦立ち止まり、周囲をざっと見渡す。
「ふむ」
やはり羽美は上の階にいるのだろう。
武琉は周囲の様子を視認して得心した。
ここにも〈ギャング〉たちの姿があった。
学生服をだらしなく着込んだ4人の男たちが、階段の中で白目を剥いて昏倒している。
正面玄関前に倒れていた〈ギャング〉たちもそうだったが、階段の中で気絶していた男たちも同様の痕跡が見られた。
曰く、万が一目覚めても身動きが取れないよう四肢を折られているのだ。
まるで道祖神である。
〈ギャング〉たちの身体が道標となり、後からきた人間をある場所まで誘導しているかのように思えた。
だとすれば〈ギャング〉たちを倒した相手は自分がくることを知っていたのだろうか。
知った上でこうして誘導しているのだとしたら。
「まあ、ホロホロソーン(うろうろ歩く)しなくてもいいな」
常人ならば場の雰囲気に中てられて一目散に逃げ出したくなる状況だっただろう。
にもかかわらず、武琉は返って都合がよいと判断した。
本校舎の3分の1にも満たない敷地面積を有する旧校舎だったが、それでも1つ1つ部屋を見て回るのは骨が折れる。
だが、こうして気絶した〈ギャング〉が道標となっているのならば話は別だ。
武琉はただ〈ギャング〉たちの姿を見つければいい。
気絶している〈ギャング〉たちを避け、武琉は静かな足取りで二階へと進んだ。
1メートル進むごとに目線を教室の扉へ合わせ、不意の襲撃に用心する。
また曲がり角を見つければ大きく間隔を取って待ち伏せを警戒した。
そうこうしている間に武琉は三階へと到着した。
ここにくるまでに目撃した〈ギャング〉たちは合計9人。
もちろん正面玄関口に倒れていた〈ギャング〉たちも合わせてだ。
おそらく、残りの〈ギャング〉たちは五人もいない。
事前の調査で〈ギャング〉は15、6人で構成されているということも判明している。
武琉はギシギシと悲鳴を上げる板張りの床を進み始めた。
そして未だ遭遇していない〈ギャング〉たちのことを考えていると、横切ろうとした教室の様子がふと目に入った。
武琉はぴたりと足を止め、目に止まった教室の中へ踏み入る。
勉強机や椅子を根こそぎ廃された教室内は以外に広く感じられた。
また内と外とを隔てていた窓ガラス越しに、青白い月光が室内を鮮明に照らしている。
だからこそ武琉の目に止まったのだろう。
もしも室内が暗がりに支配されていたら気づかずに通り過ぎた可能性が高かった。
教室内には残りの〈ギャング〉たちがすべて揃っていた。
〈ギャング〉のリーダーである松山剛樹を筆頭に、強面の男たちが一箇所に文字通り山のように積み上げられていた。
不思議な光景であった。
今まで遭遇した〈ギャング〉たちとは違って人間ピラミッドが形成されていたのだ。
だが、武琉が惹かれたのはそんなことではない。
「これは別の人間の仕業だな」
そうである。
一箇所に積み上げられていた剛樹たちは1人として四肢を折られた者はいなかった。
ただ四肢を折られる代わりに全員が顎や鼻骨を粉砕されていたのだ。
やがて武琉はおもむろに天井を見上げた。
無数の穴が穿たれていた天井には剥き出しの配線が蔦のように垂れ下がっている。
そんな天井を見上げつつ武琉はぼそりと呟いた。
「もしもこの階にいないとしたら後は……」
今にも剥がれ落ちてきそうな天井の先に武琉は意識を集中させた。
事実的な最上階である三階のさらに上にある屋上に向けて。
武琉は件の場所にくるなり、強烈な負の雰囲気を醸し出している建物を見上げた。
以前にも足を運んだことがある旧校舎である。
時刻は午後7時30分を過ぎているだろう。
雲の切れ目から降り注ぐ淡い燐光が、黒ずんでいるはずの外観を青白く染め上げていた。
一通り旧校舎の外観を見つめると、次に武琉はもう一度だけ視線を下に向けた。
旧校舎の入り口前には、数人の男たちが仲よく眠っている姿があった。
鷺乃宮学園指定の学生服を着ていた男たち。
当然だが一般生徒ではない。
脱色した髪や煌びやかな装飾品を身につけており、校則違反も甚だしかった。
間違いなく〈ギャング〉の人間たちだ。
こんな時間に旧校舎にいること自体、そうであることを明確に示唆している。
しかし、それでも不可解な点は多数見受けられた。
〈ギャング〉に属する男たちは身体の様々な箇所を骨折していたのだ。
腕や足はもちろんのこと、中には肩を脱臼させられている男もいた。
武琉は目線を細めて昏倒している男たちを睥睨する。
〈ギャング〉たちは相当な技量を持つ相手にやられたのだろう。
地面に残っている摺り足気味の足跡や、男たちの怪我の具合からそれは十分に見て取れた。
相手はたった1人。
それもおそらくは……
「ナンギ(難儀)やっさぁ」
子供に悪戯された人形のようになっていた合計3人の〈ギャング〉たちを一望すると、武琉は作物を枯らす南風よりも恐ろしい腥風を纏いつつ旧校舎の中へと入っていく。
昇降口を通り抜けて頼りない音を奏でる廊下へと躍り出る。
周囲はやはり薄暗く埃臭い匂いが充満していた。
それでも咳き込むほどではない。
浅く呼吸を続けていれば特に気にならないほどだ。
「取り敢えず上かな」
旧校舎はとっくの昔に電気の供給がストップした場所だ。
それに時刻も時刻だったから10メートル前方はまったく見えない。
だが、運よく曇り空が晴れてくれたお陰で窓ガラスを通して月光が降り注いでくる。
その光を電灯の代わりにして武琉は歩を進めていくと、やがて武琉の目の前に上の階へと続く階段が見えてきた。
そこで武琉は一旦立ち止まり、周囲をざっと見渡す。
「ふむ」
やはり羽美は上の階にいるのだろう。
武琉は周囲の様子を視認して得心した。
ここにも〈ギャング〉たちの姿があった。
学生服をだらしなく着込んだ4人の男たちが、階段の中で白目を剥いて昏倒している。
正面玄関前に倒れていた〈ギャング〉たちもそうだったが、階段の中で気絶していた男たちも同様の痕跡が見られた。
曰く、万が一目覚めても身動きが取れないよう四肢を折られているのだ。
まるで道祖神である。
〈ギャング〉たちの身体が道標となり、後からきた人間をある場所まで誘導しているかのように思えた。
だとすれば〈ギャング〉たちを倒した相手は自分がくることを知っていたのだろうか。
知った上でこうして誘導しているのだとしたら。
「まあ、ホロホロソーン(うろうろ歩く)しなくてもいいな」
常人ならば場の雰囲気に中てられて一目散に逃げ出したくなる状況だっただろう。
にもかかわらず、武琉は返って都合がよいと判断した。
本校舎の3分の1にも満たない敷地面積を有する旧校舎だったが、それでも1つ1つ部屋を見て回るのは骨が折れる。
だが、こうして気絶した〈ギャング〉が道標となっているのならば話は別だ。
武琉はただ〈ギャング〉たちの姿を見つければいい。
気絶している〈ギャング〉たちを避け、武琉は静かな足取りで二階へと進んだ。
1メートル進むごとに目線を教室の扉へ合わせ、不意の襲撃に用心する。
また曲がり角を見つければ大きく間隔を取って待ち伏せを警戒した。
そうこうしている間に武琉は三階へと到着した。
ここにくるまでに目撃した〈ギャング〉たちは合計9人。
もちろん正面玄関口に倒れていた〈ギャング〉たちも合わせてだ。
おそらく、残りの〈ギャング〉たちは五人もいない。
事前の調査で〈ギャング〉は15、6人で構成されているということも判明している。
武琉はギシギシと悲鳴を上げる板張りの床を進み始めた。
そして未だ遭遇していない〈ギャング〉たちのことを考えていると、横切ろうとした教室の様子がふと目に入った。
武琉はぴたりと足を止め、目に止まった教室の中へ踏み入る。
勉強机や椅子を根こそぎ廃された教室内は以外に広く感じられた。
また内と外とを隔てていた窓ガラス越しに、青白い月光が室内を鮮明に照らしている。
だからこそ武琉の目に止まったのだろう。
もしも室内が暗がりに支配されていたら気づかずに通り過ぎた可能性が高かった。
教室内には残りの〈ギャング〉たちがすべて揃っていた。
〈ギャング〉のリーダーである松山剛樹を筆頭に、強面の男たちが一箇所に文字通り山のように積み上げられていた。
不思議な光景であった。
今まで遭遇した〈ギャング〉たちとは違って人間ピラミッドが形成されていたのだ。
だが、武琉が惹かれたのはそんなことではない。
「これは別の人間の仕業だな」
そうである。
一箇所に積み上げられていた剛樹たちは1人として四肢を折られた者はいなかった。
ただ四肢を折られる代わりに全員が顎や鼻骨を粉砕されていたのだ。
やがて武琉はおもむろに天井を見上げた。
無数の穴が穿たれていた天井には剥き出しの配線が蔦のように垂れ下がっている。
そんな天井を見上げつつ武琉はぼそりと呟いた。
「もしもこの階にいないとしたら後は……」
今にも剥がれ落ちてきそうな天井の先に武琉は意識を集中させた。
事実的な最上階である三階のさらに上にある屋上に向けて。
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