78 / 115
新たなる脅威篇
5 復讐の始まり-4-
しおりを挟む
避難所の前に着陸したのは小型艇のみだった。
残る3隻は滞空している。
(僕たちが乗ってきた艇だ……)
小型艇とはいえ、改めて目の前にするとそれなりの大きさに圧倒される。
特に国境に近いプラトウの民は、日ごろから艦に対して良い印象を持っていない。
「エルドランに戻られると聞き、お迎えにあがりました」
艇長が挨拶を述べた。
「戻るってどういうことだ?」
「来たばっかりじゃねえかよ」
艇を見ないようにしながら避難者たちが言う。
「皇帝の安全を考えてのことです」
従者たちが理解を求める。
以前なら役人に対する無礼ということで斬り捨てていたところだ。
「実は未明より各地でテロが起きているとの報告が入っています。目的は不明ですが、皇帝が狙われる可能性は充分にあります」
「なんでだよ? 暴動が起きる理由なんてねえじゃねえか」
「私たち、やっと静かに暮らせると思ってたのに。復興だってまだまだこれからなのよ? なのにどうして――?」
従者の説明に非難の声が上がる。
現状、ここには中央の情勢はおろか、隣町の情報すらまともに届かない。
つまりほとんどの者は外で何が起こっているかを知らないのだ。
「どうして、ですか……?」
それはシェイドも同じだった。
暴君ペルガモンを打ち倒し、民は快哉を叫んだハズだ。
これから平和な国を造ろうという時に、なぜ暴動が起こるのか理解できない。
「――それは」
イエレドはすぐには答えられない。
ケッセルの供述にもあるように、誰もが新政権を歓迎しているワケではない。
それをそのまま伝えたところでこの少年が納得するだろうか――?
「騒ぎを起こして喜ぶ連中がいるのです。中には皇帝の命を狙う過激な者も……」
「そう、ですか……」
世間知らずの少年は皇帝になったばかりで、やはり世間知らずのままだった。
その”騒ぎを起こして喜ぶ連中”や、”命を狙う過激な者”の行動理念はどう考えても想像もつかない。
「これ以上、御身に危険がおよばないようエルドランに戻らなければなりません」
従者は強い口調で言う。
シェイドは小さく頷いた。
本心では反対しているが、従者たちやライネを巻き込んでいるとなると、ここに留まるワケにもいかない。
「本当、なの…………?」
ライネに支えられながらフェルノーラが歩み寄ってくる。
その表情も声色も不安をたたえていた。
「うん――」
彼は目をそらした。
従者たちはそろってそうすべきだと言う。
不本意なのは彼だけだった。
「なら、ここは……プラトウはどうなるの?」
フェルノーラは震える声で言った。
「生活だってままならないのよ? 賊だってあちこちにいる。あなたたちが来てくれて少しは安心できると思ったのに……」
「僕だって本当は――」
「あなたたちが帰ったら誰がこの町を守るの? 誰が守ってくれるの!?」
彼女はまだ泣いてはいない。
だが声色と小刻みに震える体が涙の代わりになった。
「フェルノーラさん……」
彼女の気持ちがシェイドには痛いほど分かっていた。
同じなのだ。
あの時と。
明日どころか数時間先にはどうなっているか分からないほど、この町は逼迫している。
もはや自力では立ち上がれないほどに疲弊しているのだ。
(あの時は――)
誰もが住む場所を失い、家族を喪い、黙って死ぬか、叛乱に賭けるかしか選択肢はなかった。
最後には誰もが後者を選び、生きる道を目指した。
しかし今回はちがう。
ここで再び生活するために彼らは戻ってきた。
遅鈍ではあるが復興に力を注ぐのも、プラトウで生きようという意志があるからだ。
叛乱を起こす相手はもういない。
彼らにはもう、ここしかないのだ。
「アタシも戻るのに賛成だ」
ライネはシェイドの決断を後押しするように言った。
「アタシたちは護衛で来たけど、だからってみすみすシェイド君を危険に晒すべきじゃない」
この少女は楽天的で自信家だが、軽率ではない。
「………………」
昨日の一件で彼女は力不足を痛感した。
襲撃者の突破を許し、シェイドに怪我を負わせてしまった。
軽傷で済んだがもし爆弾でも持っていて、自滅覚悟でそれを爆発させていたら――?
(それに…………)
尾を引くのはケッセルの件だ。
あれは完全に彼女の失態、慢心が招いたことだった。
もしイエレドが機転を利かせてシェイドを別室に移していなかったら――ケッセルは眠っているシェイドを暗殺しただろう。
「エルドランにいたほうが安全だ……アタシはそう思う」
そう呟くライネは自信を失いつつあった。
――二度も彼を危険に晒した、という事実が重くのしかかる。
(調子の良いことを言っておいて……結局アタシ、何もできてないじゃないか……!)
アシュレイに大口をたたいた自分を呪う。
こうなっては”何があっても守るからシェイドがここにいたいならそうすればいい”などとは言えない。
シェイドが寂しげに目を伏せた、その時、
「あなたたちには分からないのよ!」
悲痛な叫び声が聞こえた。
残る3隻は滞空している。
(僕たちが乗ってきた艇だ……)
小型艇とはいえ、改めて目の前にするとそれなりの大きさに圧倒される。
特に国境に近いプラトウの民は、日ごろから艦に対して良い印象を持っていない。
「エルドランに戻られると聞き、お迎えにあがりました」
艇長が挨拶を述べた。
「戻るってどういうことだ?」
「来たばっかりじゃねえかよ」
艇を見ないようにしながら避難者たちが言う。
「皇帝の安全を考えてのことです」
従者たちが理解を求める。
以前なら役人に対する無礼ということで斬り捨てていたところだ。
「実は未明より各地でテロが起きているとの報告が入っています。目的は不明ですが、皇帝が狙われる可能性は充分にあります」
「なんでだよ? 暴動が起きる理由なんてねえじゃねえか」
「私たち、やっと静かに暮らせると思ってたのに。復興だってまだまだこれからなのよ? なのにどうして――?」
従者の説明に非難の声が上がる。
現状、ここには中央の情勢はおろか、隣町の情報すらまともに届かない。
つまりほとんどの者は外で何が起こっているかを知らないのだ。
「どうして、ですか……?」
それはシェイドも同じだった。
暴君ペルガモンを打ち倒し、民は快哉を叫んだハズだ。
これから平和な国を造ろうという時に、なぜ暴動が起こるのか理解できない。
「――それは」
イエレドはすぐには答えられない。
ケッセルの供述にもあるように、誰もが新政権を歓迎しているワケではない。
それをそのまま伝えたところでこの少年が納得するだろうか――?
「騒ぎを起こして喜ぶ連中がいるのです。中には皇帝の命を狙う過激な者も……」
「そう、ですか……」
世間知らずの少年は皇帝になったばかりで、やはり世間知らずのままだった。
その”騒ぎを起こして喜ぶ連中”や、”命を狙う過激な者”の行動理念はどう考えても想像もつかない。
「これ以上、御身に危険がおよばないようエルドランに戻らなければなりません」
従者は強い口調で言う。
シェイドは小さく頷いた。
本心では反対しているが、従者たちやライネを巻き込んでいるとなると、ここに留まるワケにもいかない。
「本当、なの…………?」
ライネに支えられながらフェルノーラが歩み寄ってくる。
その表情も声色も不安をたたえていた。
「うん――」
彼は目をそらした。
従者たちはそろってそうすべきだと言う。
不本意なのは彼だけだった。
「なら、ここは……プラトウはどうなるの?」
フェルノーラは震える声で言った。
「生活だってままならないのよ? 賊だってあちこちにいる。あなたたちが来てくれて少しは安心できると思ったのに……」
「僕だって本当は――」
「あなたたちが帰ったら誰がこの町を守るの? 誰が守ってくれるの!?」
彼女はまだ泣いてはいない。
だが声色と小刻みに震える体が涙の代わりになった。
「フェルノーラさん……」
彼女の気持ちがシェイドには痛いほど分かっていた。
同じなのだ。
あの時と。
明日どころか数時間先にはどうなっているか分からないほど、この町は逼迫している。
もはや自力では立ち上がれないほどに疲弊しているのだ。
(あの時は――)
誰もが住む場所を失い、家族を喪い、黙って死ぬか、叛乱に賭けるかしか選択肢はなかった。
最後には誰もが後者を選び、生きる道を目指した。
しかし今回はちがう。
ここで再び生活するために彼らは戻ってきた。
遅鈍ではあるが復興に力を注ぐのも、プラトウで生きようという意志があるからだ。
叛乱を起こす相手はもういない。
彼らにはもう、ここしかないのだ。
「アタシも戻るのに賛成だ」
ライネはシェイドの決断を後押しするように言った。
「アタシたちは護衛で来たけど、だからってみすみすシェイド君を危険に晒すべきじゃない」
この少女は楽天的で自信家だが、軽率ではない。
「………………」
昨日の一件で彼女は力不足を痛感した。
襲撃者の突破を許し、シェイドに怪我を負わせてしまった。
軽傷で済んだがもし爆弾でも持っていて、自滅覚悟でそれを爆発させていたら――?
(それに…………)
尾を引くのはケッセルの件だ。
あれは完全に彼女の失態、慢心が招いたことだった。
もしイエレドが機転を利かせてシェイドを別室に移していなかったら――ケッセルは眠っているシェイドを暗殺しただろう。
「エルドランにいたほうが安全だ……アタシはそう思う」
そう呟くライネは自信を失いつつあった。
――二度も彼を危険に晒した、という事実が重くのしかかる。
(調子の良いことを言っておいて……結局アタシ、何もできてないじゃないか……!)
アシュレイに大口をたたいた自分を呪う。
こうなっては”何があっても守るからシェイドがここにいたいならそうすればいい”などとは言えない。
シェイドが寂しげに目を伏せた、その時、
「あなたたちには分からないのよ!」
悲痛な叫び声が聞こえた。
0
あなたにおすすめの小説
熟女愛好家ユウスケの青春(熟女漁り)
MisakiNonagase
恋愛
高校まで勉強一筋で大学デビューをしたユウスケは家庭教師の教え子の母親と不倫交際するが、彼にとって彼女とが初の男女交際。そこでユウスケは自分が熟女好きだと自覚する。それからユウスケは戦略と実戦を重ねて、清潔感と聞き上手を武器にたくさんの熟女と付き合うことになるストーリーです。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件
美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…?
最新章の第五章も夕方18時に更新予定です!
☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。
※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます!
※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。
※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!
嘘つきな君の世界一優しい断罪計画
空色蜻蛉
ファンタジー
誰も傷つけないよう付いた嘘が暴かれる時、誰よりも優しい青年の真実が明らかになる。
悪逆非道な侯爵家に生まれたリトスは、王太子妃を狙っている妹の野望を阻止し、実家を良い感じに没落させて、自分は国外追放されたいな~と考えていた。
軟派で無能な侯爵令息を装い、妹の対抗馬である庶民出身のテレサ嬢を支援したり、裏でいろいろ画策していた。
しかし、リトスの完璧な計画は、国外から招聘された有名な魔術師レイヴンによって徐々に暴かれていく。
リトスとレイヴン、二人の【星瞳の魔術師】が織りなす、オリジナル世界観の異世界ファンタジー物語。
※女性向けハイファンタジー&ブロマンス作品です
恋愛がメインではないので既存の女性向けカテゴリに分類できず・・主役二人の関係性はBLに近いです。
主人公最強、かつ相方も最強で、対等に戦うライバル&相棒です。
主役二人が水戸黄門よろしく事件を恰好よく解決していくお話になります。いっそ文芸の方がいいのかも?
※カクヨム、エブリスタ、Talesで連載中。掲載サイトによって進行がちがいます。
また、番外編の掲載の仕方も各サイトの仕様に合わせて変えています。
異世界で一番の紳士たれ!
だんぞう
ファンタジー
十五歳の誕生日をぼっちで過ごしていた利照はその夜、熱を出して布団にくるまり、目覚めると見知らぬ世界でリテルとして生きていた。
リテルの記憶を参照はできるものの、主観も思考も利照の側にあることに混乱しているさなか、幼馴染のケティが彼のベッドのすぐ隣へと座る。
リテルの記憶の中から彼女との約束を思いだし、戸惑いながらもケティと触れ合った直後、自身の身に降り掛かった災難のため、村人を助けるため、単身、魔女に会いに行くことにした彼は、魔女の館で興奮するほどの学びを体験する。
異世界で優しくされながらも感じる疎外感。命を脅かされる危険な出会い。どこかで元の世界とのつながりを感じながら、時には理不尽な禍に耐えながらも、自分の運命を切り拓いてゆく物語。
転生貴族の領地経営〜現代日本の知識で異世界を豊かにする
初
ファンタジー
ローラシア王国の北のエルラント辺境伯家には天才的な少年、リーゼンしかしその少年は現代日本から転生してきた転生者だった。
リーゼンが洗礼をしたさい、圧倒的な量の加護やスキルが与えられた。その力を見込んだ父の辺境伯は12歳のリーゼンを辺境伯家の領地の北を治める代官とした。
これはそんなリーゼンが異世界の領地を経営し、豊かにしていく物語である。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる