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雌伏する大毒
3 小さな武装集団-1-
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「どういうことだ?」
ライネは首をかしげた。
「誘拐じゃないってこと?」
シェイドはあいまいに頷く。
「でもこうやって捕まってるけど?」
これが誘拐でないなら何だというんだ、と彼女は釈然としない様子だ。
が、それは彼も同じだった。
「そう、ですよね……でも……」
こちらも要領を得ない。
「やっぱりちがう気がするんです」
「どうちがうんだ?」
問われたシェイドは自分の考えを確かめるように、ゆっくりと話し始めた。
「僕たちがこんな格好をしてるのが、まずヘンだなって――」
彼は自分の胸元を見た。
「普通、誘拐犯は捕まえた人を裸にするんです」
「え……ハダカ……?」
ライネは目を白黒させた。
「はい。何を持っているか分かりませんから。裸にして服も持ち物も全部奪うんです。それを売る人たちもいます」
「あ~、それはアタシがいるからじゃないか? やっぱりさ、か弱い女の子がいるとハダカにするワケにはいかないじゃん?」
「か弱い……?」
「そこ訊き返すのかよ!」
「あ、すみません……!」
からかうつもりなどなかったシェイドはあわてて謝った。
「それに捕まえた人を同じ場所に閉じ込めるのもおかしいです。真面目な誘拐犯なら別々の場所に閉じ込めるハズですよ」
真面目な誘拐犯ってなんだよ、とライネは言おうとしてやめた。
「それはなんとなく分かる。協力されるからだろ?」
「そうです。尋問されたときに調子を合わせたりもできますし。ばらばらにしておいて、他の人を利用するやり方もありますから」
「利用……?」
「そうですね……たとえば秘密にしたいことがあって、”先に白状した奴だけは助けて、他は殺す”みたいに持ちかけるんです。他の誰かが先に白状したら自分は殺されるから、助かりたい人は仲間を裏切って白状してしまうんです」
「ようは駆け引きに使うってワケか」
「はい。使わないとしてもわざわざ同じ場所に押し込めるなんてしません」
「…………」
「それに――」
「まだあるの?」
シェイドはライネの手を見た。
後ろ手にしっかりと縛られているが、その自由を奪っているのは金属製の手錠ではなかった。
「手を縛ってるこれ、革か何かをぐるぐる巻きにしたものですよ。けっこう……きつく締まってますけど」
冷静に言い、彼は部屋の隅に目をやった。
「あそこに木箱があります。こういうのは角にこすりつければ切れるんです」
「あ、摩擦熱か」
「だからちゃんとした誘拐犯は鉄でできた手錠を使うし、何を利用されるか分からないから閉じ込める場所には紙の一枚も置かないものなんです」
ちゃんとした誘拐犯ってなんだよ、とライネは言おうとしてやめた。
「……あの、さ。ちょっと気になってるんだけど」
彼女は少し考えたあと、疑問に思っていたことを訊くことにした。
「シェイド君ってひょっとして誘拐されたこと、ある……?」
「何度かあります」
「マジ……? それでいろいろ詳しいのか……」
「ほとんどはソーマの――友だちの受け売りですけどね」
幼馴染みの名前を出したとき、この少年は少しだけ寂しそうな顔になった。
(この子ってどういう世界で生きてきたんだ……?)
ライネは自分がシェイドに比べてはるかに安全で、ずっと平和な環境に身を置いていたと思い知らされた。
同時に彼の落ち着きぶりに、どうにか元気づけてやろうとしていた自分が空回りしていることにも気付く。
何度も誘拐された経験があるなら、動じなくて当然だ。
きっと対処法も心得ているのだろう、とライネは得心した。
「じゃあ、あいつらは誘拐に慣れてないってこと?」
「かもしれません。きちんとした誘拐犯じゃないと思います」
「きちんとした誘拐犯ってなんだよ……」
ライネはとうとう我慢できずにつぶやいた。
「ん? でもさっき、誘拐犯じゃない気がするって言ってなかった?」
「分かりません……そんな気がしただけで……でも、成り行きというか、仕方なくこんなことをしているような感じがしたんです」
「…………」
ライネはここまでに感じた違和感を振り返った。
誘拐された経験はないが、それを抜きにしても犯人らしくないという印象はあった。
先ほどの二人組にしても、片方はずいぶんとおどおどしていた。
ここに連れてきた数人にも、妙に親切心を覗かせる奴がいた。
このようにたどっていくと、おかしいと感じる点はいくつか思い浮かぶ。
(アタシでもそう思うくらいだから、シェイド君はとっくに気付いてたのかもな)
ライネはちらと彼を見た。
憂えている。
しかしその憂いは自分が置かれている境遇にではなく、仮面たちに対してのものだった。
「で、どうする?」
「……聞いてみたいです。本物の誘拐犯じゃないなら、どうしてこんなことをするのか、って」
「そう言うと思ったよ」
彼女は笑った。
逃げ出すでも報復するでもなく、穏便な方法を試みる。
それがシェイドという少年だった。
「でもまともに話ができるかどうか分からないぜ?」
「その時はまた考えます。とりあえずは――」
「…………?」
何かを決意したような表情の彼は、いつのまにか両手の自由を取り戻していた。
「ライネさん、後ろを向いてください」
「ん?」
「じっとしててくださいね。火傷しないようにしますから」
シェイドは指先に火をともし、手錠を焼き切ろうとした。
が、それより早く、
「ああ、これくらいなら――」
ライネは手首をひねって力を入れると、強引に引きちぎった。
「すごい……」
「一応、こういう訓練も受けてるんだよ。力を入れる方向が大事なんだ」
得意げなライネ。
床に落ちた手錠を見てシェイドはぼそりとつぶやいた。
「…………か弱い?」
ライネは首をかしげた。
「誘拐じゃないってこと?」
シェイドはあいまいに頷く。
「でもこうやって捕まってるけど?」
これが誘拐でないなら何だというんだ、と彼女は釈然としない様子だ。
が、それは彼も同じだった。
「そう、ですよね……でも……」
こちらも要領を得ない。
「やっぱりちがう気がするんです」
「どうちがうんだ?」
問われたシェイドは自分の考えを確かめるように、ゆっくりと話し始めた。
「僕たちがこんな格好をしてるのが、まずヘンだなって――」
彼は自分の胸元を見た。
「普通、誘拐犯は捕まえた人を裸にするんです」
「え……ハダカ……?」
ライネは目を白黒させた。
「はい。何を持っているか分かりませんから。裸にして服も持ち物も全部奪うんです。それを売る人たちもいます」
「あ~、それはアタシがいるからじゃないか? やっぱりさ、か弱い女の子がいるとハダカにするワケにはいかないじゃん?」
「か弱い……?」
「そこ訊き返すのかよ!」
「あ、すみません……!」
からかうつもりなどなかったシェイドはあわてて謝った。
「それに捕まえた人を同じ場所に閉じ込めるのもおかしいです。真面目な誘拐犯なら別々の場所に閉じ込めるハズですよ」
真面目な誘拐犯ってなんだよ、とライネは言おうとしてやめた。
「それはなんとなく分かる。協力されるからだろ?」
「そうです。尋問されたときに調子を合わせたりもできますし。ばらばらにしておいて、他の人を利用するやり方もありますから」
「利用……?」
「そうですね……たとえば秘密にしたいことがあって、”先に白状した奴だけは助けて、他は殺す”みたいに持ちかけるんです。他の誰かが先に白状したら自分は殺されるから、助かりたい人は仲間を裏切って白状してしまうんです」
「ようは駆け引きに使うってワケか」
「はい。使わないとしてもわざわざ同じ場所に押し込めるなんてしません」
「…………」
「それに――」
「まだあるの?」
シェイドはライネの手を見た。
後ろ手にしっかりと縛られているが、その自由を奪っているのは金属製の手錠ではなかった。
「手を縛ってるこれ、革か何かをぐるぐる巻きにしたものですよ。けっこう……きつく締まってますけど」
冷静に言い、彼は部屋の隅に目をやった。
「あそこに木箱があります。こういうのは角にこすりつければ切れるんです」
「あ、摩擦熱か」
「だからちゃんとした誘拐犯は鉄でできた手錠を使うし、何を利用されるか分からないから閉じ込める場所には紙の一枚も置かないものなんです」
ちゃんとした誘拐犯ってなんだよ、とライネは言おうとしてやめた。
「……あの、さ。ちょっと気になってるんだけど」
彼女は少し考えたあと、疑問に思っていたことを訊くことにした。
「シェイド君ってひょっとして誘拐されたこと、ある……?」
「何度かあります」
「マジ……? それでいろいろ詳しいのか……」
「ほとんどはソーマの――友だちの受け売りですけどね」
幼馴染みの名前を出したとき、この少年は少しだけ寂しそうな顔になった。
(この子ってどういう世界で生きてきたんだ……?)
ライネは自分がシェイドに比べてはるかに安全で、ずっと平和な環境に身を置いていたと思い知らされた。
同時に彼の落ち着きぶりに、どうにか元気づけてやろうとしていた自分が空回りしていることにも気付く。
何度も誘拐された経験があるなら、動じなくて当然だ。
きっと対処法も心得ているのだろう、とライネは得心した。
「じゃあ、あいつらは誘拐に慣れてないってこと?」
「かもしれません。きちんとした誘拐犯じゃないと思います」
「きちんとした誘拐犯ってなんだよ……」
ライネはとうとう我慢できずにつぶやいた。
「ん? でもさっき、誘拐犯じゃない気がするって言ってなかった?」
「分かりません……そんな気がしただけで……でも、成り行きというか、仕方なくこんなことをしているような感じがしたんです」
「…………」
ライネはここまでに感じた違和感を振り返った。
誘拐された経験はないが、それを抜きにしても犯人らしくないという印象はあった。
先ほどの二人組にしても、片方はずいぶんとおどおどしていた。
ここに連れてきた数人にも、妙に親切心を覗かせる奴がいた。
このようにたどっていくと、おかしいと感じる点はいくつか思い浮かぶ。
(アタシでもそう思うくらいだから、シェイド君はとっくに気付いてたのかもな)
ライネはちらと彼を見た。
憂えている。
しかしその憂いは自分が置かれている境遇にではなく、仮面たちに対してのものだった。
「で、どうする?」
「……聞いてみたいです。本物の誘拐犯じゃないなら、どうしてこんなことをするのか、って」
「そう言うと思ったよ」
彼女は笑った。
逃げ出すでも報復するでもなく、穏便な方法を試みる。
それがシェイドという少年だった。
「でもまともに話ができるかどうか分からないぜ?」
「その時はまた考えます。とりあえずは――」
「…………?」
何かを決意したような表情の彼は、いつのまにか両手の自由を取り戻していた。
「ライネさん、後ろを向いてください」
「ん?」
「じっとしててくださいね。火傷しないようにしますから」
シェイドは指先に火をともし、手錠を焼き切ろうとした。
が、それより早く、
「ああ、これくらいなら――」
ライネは手首をひねって力を入れると、強引に引きちぎった。
「すごい……」
「一応、こういう訓練も受けてるんだよ。力を入れる方向が大事なんだ」
得意げなライネ。
床に落ちた手錠を見てシェイドはぼそりとつぶやいた。
「…………か弱い?」
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