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第一章
4・銀髪の軍人
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厄介者の娘を嫁に出した蘇芳家は、やれやれと笑っていた。
「これでやっと食い扶持が一人減った。家の中も広くなって、全く、気楽だわあ」
後妻として入ったキイロの義母はそういって、どう見ても若い娘向けの豪勢な着物を羽織って笑っていた。
その着物は、キイロの夫になる男が用意したものだったのだが、当然知らせるつもりも着せるつもりも毛頭なかった。
「ったく、あんなひ弱な娘に、たいそうなお着物を用意されたこと!勿体ないったらありゃしない!」
貢物は着物だけではなかった。
花嫁に必要な調度品、道具の数々、衣装もなにもかも、皇帝に嫁いでもおかしくないほどのものを用意されていた。
だが、そのひとつとして、本来の持ち主であるキイロに伝わることはなかった。
「そんな事をして、どうなっても知らないぞ」
義母の実の息子である、キイロの義兄は舌打ちした。
(調子に乗り過ぎだ)
確かに自分の母が、この蘇芳家に入り込んだのはうまくやったほうだと思うが、そもそもが下民の成り上がり、というより色街からの出身なのだから、あまり派手にやると出自がバレる。
(せっかく、出世の糸口を掴んだというのに)
蘇芳家の息子なら、望んでいた軍へも入る事が出来る。
やっとの思いで貧乏暮らしから抜け出せたのに、この母親は調子に乗り過ぎて、結局こんな有様だ。
(遅かれ早かれ、バレるには違いない)
面倒は嫌だなと思い、まずは身内の権限で、義妹の結婚の挨拶にでも顔を出しておくか、自分まで仲間扱いされちゃたまったもんじゃない。
そう思って立ち上がった。
「あら、どこに行くの」
「ちょっと仕事を思い出した」
「義妹の結婚式当日なのに?」
そういって母親はゲラゲラ笑っていた。
(まさか、帰って来はしないだろうが)
義妹の事ではない、義妹の夫になる男の事だ。
いまは遠い国で戦っているはずで、まさか結婚式程度で家に帰って来るなんてことはあるまいが、それでもこの母親と一緒だと出世の足かせになってしまうかもしれない。
「確認だけだよ。すぐに帰るから」
「そうかい!アンタも大変だねえ!でももうあの不細工な娘もいないんだ!今度はアンタの番だねえ!きっと良いところのお嬢さんを見つけてあげるからねえ!」
そういって母は笑うが、無理だろうなと思った。
軍に所属して分かった。
ここの連中の、情報の扱いは恐ろしいほどだ。
まだ女学校を出る前のキイロを強引に嫁に迎えたのも、この家での扱いが相手にバレてしまったからだろう。
(俺は巻き込まれたくない)
弱い存在だからこそ知っている。
うまく世渡りをしないとどうしようもない事に。
家を抜け出し、裏口から外へ出たその時だった。
一台の黒塗りの馬車が通り過ぎた。
(―――――あの馬車は!)
軍に所属しているからこそ知っている。
地味な風に見えるがあれは限られた一部の軍属の人間にしか許されない馬車だ。
慌てて陰から様子を伺うと、馬車は蘇芳家の前に止まった。
(まさか、本当に帰ってきたのか?)
驚き、誰が降りてくるのかを隠れて見ていると、馬車の扉が開けられ、誰かが降りて来た。
息が止まるほど、美しい男だった。
白い肌は軍に属していると信じられない程美しく、長い銀の髪が風に揺れ、まるで絹糸のようだった。
銀の髪と軍服がまた見事に似合っていて、正装のはずなのに、映画の撮影かと思う程だった。
数々の功績をたたえる勲章も、彼にあってはあくまで彼の飾りにしかならず、それでも軽薄さはひとつもなかった。
馬車から降りる所作ひとつとっても、ため息が出る程で、たまたま通りすがった人々は、思わず足を止め、目を見張った。
(どうしてここに?!)
いくら自分の結婚式とはいえ、あの男が帰って来るとは思わなかった。
慌てて身を隠し、激しくなる動悸を押さえながら、なぜ我が家に来たのか、想像してぞっとした。
(あんなに立派な嫁入り道具を用意してやったのに、しみったれた汚い白無垢なんかを着せてやったから)
美しい外見に似合わず冷酷無比な男だというのは聞いている。
自分の母の様子を思い出し、その冷酷な男が怒髪衝天となるのが想像できて、まずは義妹の方へ向かおうと、慌てて駆け出した。
「これでやっと食い扶持が一人減った。家の中も広くなって、全く、気楽だわあ」
後妻として入ったキイロの義母はそういって、どう見ても若い娘向けの豪勢な着物を羽織って笑っていた。
その着物は、キイロの夫になる男が用意したものだったのだが、当然知らせるつもりも着せるつもりも毛頭なかった。
「ったく、あんなひ弱な娘に、たいそうなお着物を用意されたこと!勿体ないったらありゃしない!」
貢物は着物だけではなかった。
花嫁に必要な調度品、道具の数々、衣装もなにもかも、皇帝に嫁いでもおかしくないほどのものを用意されていた。
だが、そのひとつとして、本来の持ち主であるキイロに伝わることはなかった。
「そんな事をして、どうなっても知らないぞ」
義母の実の息子である、キイロの義兄は舌打ちした。
(調子に乗り過ぎだ)
確かに自分の母が、この蘇芳家に入り込んだのはうまくやったほうだと思うが、そもそもが下民の成り上がり、というより色街からの出身なのだから、あまり派手にやると出自がバレる。
(せっかく、出世の糸口を掴んだというのに)
蘇芳家の息子なら、望んでいた軍へも入る事が出来る。
やっとの思いで貧乏暮らしから抜け出せたのに、この母親は調子に乗り過ぎて、結局こんな有様だ。
(遅かれ早かれ、バレるには違いない)
面倒は嫌だなと思い、まずは身内の権限で、義妹の結婚の挨拶にでも顔を出しておくか、自分まで仲間扱いされちゃたまったもんじゃない。
そう思って立ち上がった。
「あら、どこに行くの」
「ちょっと仕事を思い出した」
「義妹の結婚式当日なのに?」
そういって母親はゲラゲラ笑っていた。
(まさか、帰って来はしないだろうが)
義妹の事ではない、義妹の夫になる男の事だ。
いまは遠い国で戦っているはずで、まさか結婚式程度で家に帰って来るなんてことはあるまいが、それでもこの母親と一緒だと出世の足かせになってしまうかもしれない。
「確認だけだよ。すぐに帰るから」
「そうかい!アンタも大変だねえ!でももうあの不細工な娘もいないんだ!今度はアンタの番だねえ!きっと良いところのお嬢さんを見つけてあげるからねえ!」
そういって母は笑うが、無理だろうなと思った。
軍に所属して分かった。
ここの連中の、情報の扱いは恐ろしいほどだ。
まだ女学校を出る前のキイロを強引に嫁に迎えたのも、この家での扱いが相手にバレてしまったからだろう。
(俺は巻き込まれたくない)
弱い存在だからこそ知っている。
うまく世渡りをしないとどうしようもない事に。
家を抜け出し、裏口から外へ出たその時だった。
一台の黒塗りの馬車が通り過ぎた。
(―――――あの馬車は!)
軍に所属しているからこそ知っている。
地味な風に見えるがあれは限られた一部の軍属の人間にしか許されない馬車だ。
慌てて陰から様子を伺うと、馬車は蘇芳家の前に止まった。
(まさか、本当に帰ってきたのか?)
驚き、誰が降りてくるのかを隠れて見ていると、馬車の扉が開けられ、誰かが降りて来た。
息が止まるほど、美しい男だった。
白い肌は軍に属していると信じられない程美しく、長い銀の髪が風に揺れ、まるで絹糸のようだった。
銀の髪と軍服がまた見事に似合っていて、正装のはずなのに、映画の撮影かと思う程だった。
数々の功績をたたえる勲章も、彼にあってはあくまで彼の飾りにしかならず、それでも軽薄さはひとつもなかった。
馬車から降りる所作ひとつとっても、ため息が出る程で、たまたま通りすがった人々は、思わず足を止め、目を見張った。
(どうしてここに?!)
いくら自分の結婚式とはいえ、あの男が帰って来るとは思わなかった。
慌てて身を隠し、激しくなる動悸を押さえながら、なぜ我が家に来たのか、想像してぞっとした。
(あんなに立派な嫁入り道具を用意してやったのに、しみったれた汚い白無垢なんかを着せてやったから)
美しい外見に似合わず冷酷無比な男だというのは聞いている。
自分の母の様子を思い出し、その冷酷な男が怒髪衝天となるのが想像できて、まずは義妹の方へ向かおうと、慌てて駆け出した。
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