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第三章
21・あなただけを
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「八塩についてはいま調べさせておる最中じゃ。どういう目にあったのか、それからにはなるが、なに、生活に不自由のない程度にはできるじゃろう」
「どうして、そんなに」
戸惑う梅花に、当主は告げた。
「曲がりなりにも薄氷の嫁を守ったその恩には足りないくらいであろう。さらに、その子供」
「母さま」
「おっと失敬。つまりは我々は嫁を守って貰った恩がある。そのお返しじゃ」
梅花は驚き、頭を下げた。
「ありがとうございます!ありがとうございます」
そしてキイロの手をぎゅっと握った。
「あなた本当に良かったわ!ずっとおかしいと思っていたの!こんなに優しいのに、どうしてあんな家にいるんだろうって。ご両親はあんまりだって。でもあなたがこんな大きなおうちにいるなら、もう安心ね。私のことまで、ううん、わたしの家族まで助けて貰えるなんて」
キイロは意味が分からなかったが、朧が微笑んだ。
「いまから私たちが説明します。では、八塩のお嬢さんは、うちの担当からお話を伺ってください。あなたの話と、うちの話のすり合わせが必要です。よろしいでしょうか?」
「はい!」
「では、別室でお話を伺わせてください」
朧が指図すると、担当の男が頭を下げた。
「ではお話を」
「ええ」
梅花が別室に連れていかれると、朧はキイロの肩を抱く。
「では、あなたはこちらへ」
「え、ええ?」
「子供も一緒に。彼女を預かって良いですね?母さま」
「好きにおし。ああ、そうじゃ。その娘、名前を縛られておるのはお前は」
「当然気づいておりました」
朧が言うと、当主は「そうか」と満足そうに微笑んだ。
朧に連れられて一緒に当主の部屋を出て、キイロはまた長い廊下を一緒について歩く。
「あの」
「別室へ向かいます。そのほうがきっと、話がしやすい」
そういうと、屋敷の奥、離れのような場所へ案内された。
ふと下を見ると、そこは池の上にある部屋で、足元を水が流れていた。
部屋に入ると四方が美しい絵のかかれた衝立で囲まれた品の良い和室で、足元には見事な、ただよく判らない漢詩の描かれた絨毯が敷かれ、中華風の造作の丸いテーブルと椅子が何客かあった。
「どうぞ」
朧にすすめられ、キイロは椅子に腰を下ろし、朧はキイロの向かいに腰を下ろした。
落ち着かず、部屋の中を見渡すと朧が「どうしました?」と声をかける。
「いえ、さっきまであまりに広いお部屋だったので、このくらいだと落ち着くな、なんて」
「そうですか。あの部屋は特に特別な場所ですからね」
朧が小さく笑い、キイロはちょっとほっとした。
それにしても、なんでだろうという疑問が湧いてくる。
そもそも、キイロは目の前のこの男をよく知らない。
会った事もないし、嫁入りするというのに名前すら知らなかった。
しかも嫁入り当日に、火事にはあうわ、子供は拾うわ、その後に事情を調べれば子供を誘拐されそうになるし、乱闘に巻き込まれるし。
「―――――さて、やっと落ち着いてあなたとお話ができますね」
朧が言って、微笑んだ。
目の前の男に、ついキイロは顔が赤くなる。
というのも、この人からは、とてもいい香りがする。
長い銀色の髪は絹糸みたいだし、武骨なはずの軍服も乱れたどころもなく、まるでおろしたてみたいだし、それに白い手袋がまたよく似合っている。
(どうして私なんかと?)
この人ならきっともっと美しい、深窓のご令嬢とか女優でも手に入るだろうに。
「まずは、あなたが無事で良かった。それだけは心から感謝しています」
キイロはなんとなく頷いた。
「それから、いろんなことを、様々なことをあなたに内緒で行ってきた事をお詫びさせてください」
そういって朧は立ち上がり、深々と頭を下げる。
「い、いえ、大丈夫です、そんな」
「いえ、なにもかも私の不徳の致すところ。あなたを絶対に妻に迎えたいと焦るあまり、逆に隙を作ってしまった。結果、あなたを危険な目に何度も合わせてしまった」
それでも、と朧は言う。
「それでも、あなたを妻に迎えたかった私をお許し下さい。どうしてもそれだけは、譲れないのです」
「どうして、そんなに」
戸惑う梅花に、当主は告げた。
「曲がりなりにも薄氷の嫁を守ったその恩には足りないくらいであろう。さらに、その子供」
「母さま」
「おっと失敬。つまりは我々は嫁を守って貰った恩がある。そのお返しじゃ」
梅花は驚き、頭を下げた。
「ありがとうございます!ありがとうございます」
そしてキイロの手をぎゅっと握った。
「あなた本当に良かったわ!ずっとおかしいと思っていたの!こんなに優しいのに、どうしてあんな家にいるんだろうって。ご両親はあんまりだって。でもあなたがこんな大きなおうちにいるなら、もう安心ね。私のことまで、ううん、わたしの家族まで助けて貰えるなんて」
キイロは意味が分からなかったが、朧が微笑んだ。
「いまから私たちが説明します。では、八塩のお嬢さんは、うちの担当からお話を伺ってください。あなたの話と、うちの話のすり合わせが必要です。よろしいでしょうか?」
「はい!」
「では、別室でお話を伺わせてください」
朧が指図すると、担当の男が頭を下げた。
「ではお話を」
「ええ」
梅花が別室に連れていかれると、朧はキイロの肩を抱く。
「では、あなたはこちらへ」
「え、ええ?」
「子供も一緒に。彼女を預かって良いですね?母さま」
「好きにおし。ああ、そうじゃ。その娘、名前を縛られておるのはお前は」
「当然気づいておりました」
朧が言うと、当主は「そうか」と満足そうに微笑んだ。
朧に連れられて一緒に当主の部屋を出て、キイロはまた長い廊下を一緒について歩く。
「あの」
「別室へ向かいます。そのほうがきっと、話がしやすい」
そういうと、屋敷の奥、離れのような場所へ案内された。
ふと下を見ると、そこは池の上にある部屋で、足元を水が流れていた。
部屋に入ると四方が美しい絵のかかれた衝立で囲まれた品の良い和室で、足元には見事な、ただよく判らない漢詩の描かれた絨毯が敷かれ、中華風の造作の丸いテーブルと椅子が何客かあった。
「どうぞ」
朧にすすめられ、キイロは椅子に腰を下ろし、朧はキイロの向かいに腰を下ろした。
落ち着かず、部屋の中を見渡すと朧が「どうしました?」と声をかける。
「いえ、さっきまであまりに広いお部屋だったので、このくらいだと落ち着くな、なんて」
「そうですか。あの部屋は特に特別な場所ですからね」
朧が小さく笑い、キイロはちょっとほっとした。
それにしても、なんでだろうという疑問が湧いてくる。
そもそも、キイロは目の前のこの男をよく知らない。
会った事もないし、嫁入りするというのに名前すら知らなかった。
しかも嫁入り当日に、火事にはあうわ、子供は拾うわ、その後に事情を調べれば子供を誘拐されそうになるし、乱闘に巻き込まれるし。
「―――――さて、やっと落ち着いてあなたとお話ができますね」
朧が言って、微笑んだ。
目の前の男に、ついキイロは顔が赤くなる。
というのも、この人からは、とてもいい香りがする。
長い銀色の髪は絹糸みたいだし、武骨なはずの軍服も乱れたどころもなく、まるでおろしたてみたいだし、それに白い手袋がまたよく似合っている。
(どうして私なんかと?)
この人ならきっともっと美しい、深窓のご令嬢とか女優でも手に入るだろうに。
「まずは、あなたが無事で良かった。それだけは心から感謝しています」
キイロはなんとなく頷いた。
「それから、いろんなことを、様々なことをあなたに内緒で行ってきた事をお詫びさせてください」
そういって朧は立ち上がり、深々と頭を下げる。
「い、いえ、大丈夫です、そんな」
「いえ、なにもかも私の不徳の致すところ。あなたを絶対に妻に迎えたいと焦るあまり、逆に隙を作ってしまった。結果、あなたを危険な目に何度も合わせてしまった」
それでも、と朧は言う。
「それでも、あなたを妻に迎えたかった私をお許し下さい。どうしてもそれだけは、譲れないのです」
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