71 / 101
第十一章
71・おおきな屋敷の中
しおりを挟む
薄氷の屋敷で過ごすことが増え、キイロは日々の生活に慣れつつあった。
(それにしても、なんて広いんだろ)
薄氷の屋敷はすざまじく広く、しかも似たような部屋ばかりなのでいまだに迷ってしまう。
今日も自室に帰ろうと思っているのに案の定、迷ってしまって困り果てた。
「もう、ここは一体どこなの」
多分、キイロの人生で一番おおきなお屋敷に違いない。
どこだ、と考えながら歩いていると、通りすがりの女中が頭を下げた。
「あ、あの、すみません!」
「はい、なんでしょうかムーラン様」
「えーと、……私の部屋はどこなのでしょう?」
「ご案内いたします」
さっとキイロにそう告げてくれるが、キイロはまたやってしまったとやや自己嫌悪だ。
薄氷の屋敷で働く女中は当然仕事中なわけであって、毎日のように迷子になるキイロの面倒をみるわけにはいかないというのに。
「本当にすみません。なかなか覚えられなくて」
「いえ、ムーラン様のご希望は全て通せと言われておりますので」
「はは……」
思わず力なく笑ってしまった。
これまでの生活が嘘のようだと思うのだけど、今の生活も逆の意味で嘘のようだ。
毎日お腹がすいてどうしようもなかった生活から、なんでも好きなものが食べられる生活だ。
(贅沢すぎて逆についていけないわ)
ありがたいのはありがたいけど、どうやって過ごせばいいのか困ってしまう。
毎日の仕事と言えば、りんの面倒を見る事くらいなのだが。
「キイロ―!丁度良かった!探してたのよ」
「梅花」
梅花がいれば安心だ。
もう部屋まで帰れると、キイロは女中に「下がって大丈夫です」と伝えると、女中は頷き、その場を去った。
梅花は風呂敷包みを抱えていた。
風呂敷の中には、瓶が包まれている。
「それなに?」
キイロが尋ねた。
「さっき青白さんがソーダを持ってきてくれたの!りんちゃんにって」
ほら、と梅花が抱えてみせた。
お酒かな、と思ったがソーダが入っているらしい。
「本当に毎日、持ってきてくれるのね」
ソーダ水が気に入ったりんは、毎日のみたい!と駄々をこね、結局朧の親友である青白が毎日、持ってきてくれている。
「できたての瓶詰ソーダ!とってもしゅわしゅわしてるの。キイロも飲みましょうよ!」
「そうねえ。うん、飲みましょうか」
そういって二人で部屋に戻ると、すでにりんが椅子に座って待っていた。
「届いたか!」
「ええ。お待ちかねのソーダですよ」
「待っておったぞ!」
うきうきしながらりんが喜んでいる。
あれから、りんの外見は大人のままだ。
ソーダをグラスに注いで、「いただきます!」と喜んでごくごく飲んでいる。
「ぷはあー!うまい!やはりたまらんな!」
キイロも梅花もソーダを貰い、ちょっとずつ飲んでいく。
「青白さんのソーダはとてもおいしいわね。っていうか、わたし、あんまりソーダってそこまで知らないけど」
貧乏暮らしの長いキイロが言うと、梅花が頷く。
「間違いなく青白さんのソーダが世界で一番おいしいわよ!こんなに炭酸がたくさん入って、ほのかな甘みと上品な香り、人気店なのわかるわ」
ほう、と梅花も満足そうに頷く。
「朧様のおかげで、毎日こんな贅沢をさせて貰って。なんだか申し訳ないわ」
キイロが言うと梅花が「なに言ってんの」と呆れた。
「素直に受け取っていればいいのよ。キイロ、あなたって物凄く苦労していたもの。このくらい当然よ」
「うーん、確かに苦労はそこそこしてると思うけど」
でも、似たような貧乏暮らしの子は、まわりにいくらでもいた。
キイロは家がそれなりの規模なのに、一人だけ、という点はおかしかったが、キイロに子守をさせてくれ、小遣いをわけてくれた近所の若い奥さんらだって決して生活は楽じゃなかった。
「私の場合は、苦労がむくわれたっていうより、本当にたまたま朧様が居たから、でしかないし」
「もう、いいかげんもっと贅沢に慣れなさいよ」
梅花は笑っていたが、ふと、あることを思い出した。
「そういえば、あなたに言おうと思っていたんだけど」
(それにしても、なんて広いんだろ)
薄氷の屋敷はすざまじく広く、しかも似たような部屋ばかりなのでいまだに迷ってしまう。
今日も自室に帰ろうと思っているのに案の定、迷ってしまって困り果てた。
「もう、ここは一体どこなの」
多分、キイロの人生で一番おおきなお屋敷に違いない。
どこだ、と考えながら歩いていると、通りすがりの女中が頭を下げた。
「あ、あの、すみません!」
「はい、なんでしょうかムーラン様」
「えーと、……私の部屋はどこなのでしょう?」
「ご案内いたします」
さっとキイロにそう告げてくれるが、キイロはまたやってしまったとやや自己嫌悪だ。
薄氷の屋敷で働く女中は当然仕事中なわけであって、毎日のように迷子になるキイロの面倒をみるわけにはいかないというのに。
「本当にすみません。なかなか覚えられなくて」
「いえ、ムーラン様のご希望は全て通せと言われておりますので」
「はは……」
思わず力なく笑ってしまった。
これまでの生活が嘘のようだと思うのだけど、今の生活も逆の意味で嘘のようだ。
毎日お腹がすいてどうしようもなかった生活から、なんでも好きなものが食べられる生活だ。
(贅沢すぎて逆についていけないわ)
ありがたいのはありがたいけど、どうやって過ごせばいいのか困ってしまう。
毎日の仕事と言えば、りんの面倒を見る事くらいなのだが。
「キイロ―!丁度良かった!探してたのよ」
「梅花」
梅花がいれば安心だ。
もう部屋まで帰れると、キイロは女中に「下がって大丈夫です」と伝えると、女中は頷き、その場を去った。
梅花は風呂敷包みを抱えていた。
風呂敷の中には、瓶が包まれている。
「それなに?」
キイロが尋ねた。
「さっき青白さんがソーダを持ってきてくれたの!りんちゃんにって」
ほら、と梅花が抱えてみせた。
お酒かな、と思ったがソーダが入っているらしい。
「本当に毎日、持ってきてくれるのね」
ソーダ水が気に入ったりんは、毎日のみたい!と駄々をこね、結局朧の親友である青白が毎日、持ってきてくれている。
「できたての瓶詰ソーダ!とってもしゅわしゅわしてるの。キイロも飲みましょうよ!」
「そうねえ。うん、飲みましょうか」
そういって二人で部屋に戻ると、すでにりんが椅子に座って待っていた。
「届いたか!」
「ええ。お待ちかねのソーダですよ」
「待っておったぞ!」
うきうきしながらりんが喜んでいる。
あれから、りんの外見は大人のままだ。
ソーダをグラスに注いで、「いただきます!」と喜んでごくごく飲んでいる。
「ぷはあー!うまい!やはりたまらんな!」
キイロも梅花もソーダを貰い、ちょっとずつ飲んでいく。
「青白さんのソーダはとてもおいしいわね。っていうか、わたし、あんまりソーダってそこまで知らないけど」
貧乏暮らしの長いキイロが言うと、梅花が頷く。
「間違いなく青白さんのソーダが世界で一番おいしいわよ!こんなに炭酸がたくさん入って、ほのかな甘みと上品な香り、人気店なのわかるわ」
ほう、と梅花も満足そうに頷く。
「朧様のおかげで、毎日こんな贅沢をさせて貰って。なんだか申し訳ないわ」
キイロが言うと梅花が「なに言ってんの」と呆れた。
「素直に受け取っていればいいのよ。キイロ、あなたって物凄く苦労していたもの。このくらい当然よ」
「うーん、確かに苦労はそこそこしてると思うけど」
でも、似たような貧乏暮らしの子は、まわりにいくらでもいた。
キイロは家がそれなりの規模なのに、一人だけ、という点はおかしかったが、キイロに子守をさせてくれ、小遣いをわけてくれた近所の若い奥さんらだって決して生活は楽じゃなかった。
「私の場合は、苦労がむくわれたっていうより、本当にたまたま朧様が居たから、でしかないし」
「もう、いいかげんもっと贅沢に慣れなさいよ」
梅花は笑っていたが、ふと、あることを思い出した。
「そういえば、あなたに言おうと思っていたんだけど」
95
あなたにおすすめの小説
無能令嬢、『雑役係』として辺境送りされたけど、世界樹の加護を受けて規格外に成長する
タマ マコト
ファンタジー
名門エルフォルト家の長女クレアは、生まれつきの“虚弱体質”と誤解され、家族から無能扱いされ続けてきた。
社交界デビュー目前、突然「役立たず」と決めつけられ、王都で雑役係として働く名目で辺境へ追放される。
孤独と諦めを抱えたまま向かった辺境の村フィルナで、クレアは自分の体調がなぜか安定し、壊れた道具や荒れた土地が彼女の手に触れるだけで少しずつ息を吹き返す“奇妙な変化”に気づく。
そしてある夜、瘴気に満ちた森の奥から呼び寄せられるように、一人で足を踏み入れた彼女は、朽ちた“世界樹の分枝”と出会い、自分が世界樹の血を引く“末裔”であることを知る——。
追放されたはずの少女が、世界を動かす存在へ覚醒する始まりの物語。
【完結】奇跡のおくすり~追放された薬師、実は王家の隠し子でした~
いっぺいちゃん
ファンタジー
薬草と静かな生活をこよなく愛する少女、レイナ=リーフィア。
地味で目立たぬ薬師だった彼女は、ある日貴族の陰謀で“冤罪”を着せられ、王都の冒険者ギルドを追放されてしまう。
「――もう、草とだけ暮らせればいい」
絶望の果てにたどり着いた辺境の村で、レイナはひっそりと薬を作り始める。だが、彼女の薬はどんな難病さえ癒す“奇跡の薬”だった。
やがて重病の王子を治したことで、彼女の正体が王家の“隠し子”だと判明し、王都からの使者が訪れる――
「あなたの薬に、国を救ってほしい」
導かれるように再び王都へと向かうレイナ。
医療改革を志し、“薬師局”を創設して仲間たちと共に奔走する日々が始まる。
薬草にしか心を開けなかった少女が、やがて王国の未来を変える――
これは、一人の“草オタク”薬師が紡ぐ、やさしくてまっすぐな奇跡の物語。
※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。
侯爵家の愛されない娘でしたが、前世の記憶を思い出したらお父様がバリ好みのイケメン過ぎて毎日が楽しくなりました
下菊みこと
ファンタジー
前世の記憶を思い出したらなにもかも上手くいったお話。
ご都合主義のSS。
お父様、キャラチェンジが激しくないですか。
小説家になろう様でも投稿しています。
突然ですが長編化します!ごめんなさい!ぜひ見てください!
『悪役令嬢は、二度目の人生で無言を貫く。~処刑回避のために黙っていただけなのに、なぜか冷徹宰相様から「君こそ運命の人だ」と溺愛さています~』
放浪人
恋愛
「もう、余計なことは喋りません(処刑されたくないので!)」
王太子の婚約者エリスは、無実の罪を着せられた際、必死に弁解しようと叫び散らした結果「見苦しい」と断罪され、処刑されてしまった。 死に戻った彼女は悟る。「口は災いの元。二度目の人生は、何があっても口を閉ざして生き延びよう」と。
しかし、断罪の場で恐怖のあまり沈黙を貫いた結果、その姿は「弁解せず耐え忍ぶ高潔な令嬢」として称賛されてしまう。 さらに、人間嫌いの冷徹宰相クラウスに「私の静寂を理解する唯一の女性」と盛大な勘違いをされ、求婚されてしまい……!?
「君の沈黙は、愛の肯定だね?」(違います、怖くて固まっているだけです!) 「この国の危機を、一目で見抜くとは」(ただ臭かったから鼻を押さえただけです!)
怯えて黙っているだけの元悪役令嬢と、彼女の沈黙を「深遠な知性」と解釈して溺愛する最強宰相。 転生ヒロインの妨害も、隣国の陰謀も、全て「無言」で解決(?)していく、すれ違いロマンティック・コメディ! 最後はちゃんと言葉で愛を伝えて、最高のハッピーエンドを迎えます。
追放された宮廷薬師、科学の力で不毛の地を救い、聡明な第二王子に溺愛される
希羽
ファンタジー
王国の土地が「灰色枯病」に蝕まれる中、若干25歳で宮廷薬師長に就任したばかりの天才リンは、その原因が「神の祟り」ではなく「土壌疲弊」であるという科学的真実を突き止める。しかし、錬金術による安易な「奇跡」にすがりたい国王と、彼女を妬む者たちの陰謀によって、リンは国を侮辱した反逆者の濡れ衣を着せられ、最も不毛な土地「灰の地」へ追放されてしまう。
すべてを奪われた彼女に残されたのは、膨大な科学知識だけだった。絶望の地で、リンは化学、物理学、植物学を駆使して生存基盤を確立し、やがて同じく見捨てられた者たちと共に、豊かな共同体「聖域」をゼロから築き上げていく。
その様子を影から見守り、心を痛めていたのは、第二王子アルジェント。宮廷で唯一リンの価値を理解しながらも、彼女の追放を止められなかった無力な王子だった。
乙女ゲームに転生したら不遇ヒロインでしたが、真エンドは自分で選びます
タマ マコト
ファンタジー
社畜のように他人の期待に応える人生を送り、事故で命を落とした朝霧玲奈は、かつて遊んでいた乙女ゲームの世界に“不遇ヒロイン”として転生する。
努力しても報われず、最終的に追放される役割を知った彼女は、誰かに選ばれる物語を拒否し、自分の意志で生きることを決意する。
さて、物語はどう変化するのか……。
失恋までが初恋です。
あんど もあ
ファンタジー
私の初恋はお兄様。お兄様は、私が五歳の時にご両親を亡くして我が家にやって来て私のお兄様になってくださった方。私は三歳年上の王子様のようなお兄様に一目ぼれでした。それから十年。お兄様にはルシンダ様と言う婚約者が、私にも婚約者らしき者がいますが、初恋は続行中ですの。
そんなマルティーナのお話。
オネエ伯爵、幼女を拾う。~実はこの子、逃げてきた聖女らしい~
雪丸
ファンタジー
アタシ、アドルディ・レッドフォード伯爵。
突然だけど今の状況を説明するわ。幼女を拾ったの。
多分年齢は6~8歳くらいの子。屋敷の前にボロ雑巾が落ちてると思ったらびっくり!人だったの。
死んでる?と思ってその辺りに落ちている木で突いたら、息をしていたから屋敷に運んで手当てをしたのよ。
「道端で倒れていた私を助け、手当を施したその所業。賞賛に値します。(盛大なキャラ作り中)」
んま~~~尊大だし図々しいし可愛くないわ~~~!!
でも聖女様だから変な扱いもできないわ~~~!!
これからアタシ、どうなっちゃうのかしら…。
な、ラブコメ&ファンタジーです。恋の進展はスローペースです。
小説家になろう、カクヨムにも投稿しています。(敬称略)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる