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第十一章
77・大型客船
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大型客船の中で、船員らがせわしく働いていた。
その中のあるグループがひっそり集まって、こそこそ動き回っていた。
「まったく、大金持ちのお嬢さんの考えはわからんな」
「本当に結婚式なんかするのかい?その、こんな客船の中で?」
「さあなあ。わしらは言われた通りに運ぶだけで」
そんなふうにぶつくさ言いながら、大きな箱を運び込んでは文句を言っていた。
大型の船の中は当然警備も手薄になる。
その関係もあり、港では軍が配備されていた。
その中のひとつが、朧の部隊である。
少数でありながら精鋭を揃えたのは、万が一の時に対応するためだ。
(一応、用心はさせているが)
いまのところおかしな様子はないが、かといって全てのチェックが住んでいるわけでもない。
朧は用心をおこたらず、しかし情報も集めながら船の警備にあたっていた。
その時である。
立派な馬車が現れ、警察の警備隊がぞろぞろと並び始めた。
(何だ?)
朧が覗き込むと、馬車から降りて来たのは―――――なんと宿敵の橡局長だった。
(橡!)
朧に気づくと、手をあげた。
「これは、薄氷のぼっちゃんではありませんか。お仕事がお忙しいのかね?」
わざわざ、そんな風に朧を坊ちゃん扱いして皮肉に笑う。
朧は忌々しく思いながらも「はい」と頷いた。
「橡様にも、ご健勝で」
「なに、年を取ると面倒も多くてな」
そう言いながら馬車を降りた。
「ところで、坊ちゃんは結婚されるそうですな」
とっくに情報は届いているくせに、わざとらしくそう言う橡に朧は答えた。
「いえ、すでに結婚しましたので」
すると橡は一瞬表情をゆがめた。
「ああ、これは失敬。愛人さんとの結婚式を先にされたのですかな?」
「私に愛人はおりません。妻一人で充分です」
「これはこれは、軍人らしからぬ」
「そうかもしれませんが、この上なく私らしいと思っております」
「ほう、随分とやせ我慢なことだ」
「いえ、本気でわたしのような『坊ちゃん』では妻一人がせいぜいでして」
わざわざ、『坊ちゃん』扱いされた腹いせに逆にそう言ってやると、橡は露骨に不機嫌になった。
「あまり調子にのるなよ。こっちが用意してやった女では不満か」
「いえ、ご立派すぎるのも困りものでして」
「図々しい口をきくものだ」
「橡様には負けますよ」
そうにっこりと微笑む朧に、そこにいた橡以外の人々はついあっけにとられてしまう。
微笑んだ朧は、まるで神のように美しいからだ。
「―――――、まあいい。式を楽しみにしておく!」
そう言い放って橡は船内へと向かった。
橡が去ったあと、舛花が朧に言った。
「随分とお怒りでしたね」
「放っておけ。どうせ何もできん」
「いえ、橡様の事ではなく」
そう言われて朧は舛花を見返した。
「そんなにか?」
「他の人は気づきにくいでしょうね」
ちょっと自慢げな舛花にそう言われて朧は「気をつける」とため息をついた。
「朧様は、奥様の事になるとすぐに本気で怒られるので」
「仕方ないだろう。そういうものだ」
「ええ、わかっています」
だから、余計なことはしないでくれ、と舛花は思う。
自分も含め、朧は能力者だ。
日常では押さえていても、本気で怒ったときにどうなるのか。
(あまり見たくはないなあ)
ここが戦場であるなら、朧の能力はこの上なく心強いのだが、もしいまここでそんな喧嘩になろうものなら、どんな地獄絵図になるか。
(そんなことが判らない橡局長でもないだろうに)
年を取ると意固地になってしまうのかな。
舛花はこれ以上面倒がおこらなければ良いのだが、と思った。
「ね、キイロ、こっちよ!」
そういって手を引っ張るのは梅花だ。
だが、いつもの娘らしい着物ではなく、モダンな流行りの黒のワンピース姿だった。
「ちょっと待って。りんちゃん、こっち」
「うむ」
そういってりんの手を引くキイロも、今日は着物ではなくお洒落なレースのワンピース姿だった。
三人、正しくは二人と自称龍神は、大型客船のなかに、偽名で潜り込んでいた。
その中のあるグループがひっそり集まって、こそこそ動き回っていた。
「まったく、大金持ちのお嬢さんの考えはわからんな」
「本当に結婚式なんかするのかい?その、こんな客船の中で?」
「さあなあ。わしらは言われた通りに運ぶだけで」
そんなふうにぶつくさ言いながら、大きな箱を運び込んでは文句を言っていた。
大型の船の中は当然警備も手薄になる。
その関係もあり、港では軍が配備されていた。
その中のひとつが、朧の部隊である。
少数でありながら精鋭を揃えたのは、万が一の時に対応するためだ。
(一応、用心はさせているが)
いまのところおかしな様子はないが、かといって全てのチェックが住んでいるわけでもない。
朧は用心をおこたらず、しかし情報も集めながら船の警備にあたっていた。
その時である。
立派な馬車が現れ、警察の警備隊がぞろぞろと並び始めた。
(何だ?)
朧が覗き込むと、馬車から降りて来たのは―――――なんと宿敵の橡局長だった。
(橡!)
朧に気づくと、手をあげた。
「これは、薄氷のぼっちゃんではありませんか。お仕事がお忙しいのかね?」
わざわざ、そんな風に朧を坊ちゃん扱いして皮肉に笑う。
朧は忌々しく思いながらも「はい」と頷いた。
「橡様にも、ご健勝で」
「なに、年を取ると面倒も多くてな」
そう言いながら馬車を降りた。
「ところで、坊ちゃんは結婚されるそうですな」
とっくに情報は届いているくせに、わざとらしくそう言う橡に朧は答えた。
「いえ、すでに結婚しましたので」
すると橡は一瞬表情をゆがめた。
「ああ、これは失敬。愛人さんとの結婚式を先にされたのですかな?」
「私に愛人はおりません。妻一人で充分です」
「これはこれは、軍人らしからぬ」
「そうかもしれませんが、この上なく私らしいと思っております」
「ほう、随分とやせ我慢なことだ」
「いえ、本気でわたしのような『坊ちゃん』では妻一人がせいぜいでして」
わざわざ、『坊ちゃん』扱いされた腹いせに逆にそう言ってやると、橡は露骨に不機嫌になった。
「あまり調子にのるなよ。こっちが用意してやった女では不満か」
「いえ、ご立派すぎるのも困りものでして」
「図々しい口をきくものだ」
「橡様には負けますよ」
そうにっこりと微笑む朧に、そこにいた橡以外の人々はついあっけにとられてしまう。
微笑んだ朧は、まるで神のように美しいからだ。
「―――――、まあいい。式を楽しみにしておく!」
そう言い放って橡は船内へと向かった。
橡が去ったあと、舛花が朧に言った。
「随分とお怒りでしたね」
「放っておけ。どうせ何もできん」
「いえ、橡様の事ではなく」
そう言われて朧は舛花を見返した。
「そんなにか?」
「他の人は気づきにくいでしょうね」
ちょっと自慢げな舛花にそう言われて朧は「気をつける」とため息をついた。
「朧様は、奥様の事になるとすぐに本気で怒られるので」
「仕方ないだろう。そういうものだ」
「ええ、わかっています」
だから、余計なことはしないでくれ、と舛花は思う。
自分も含め、朧は能力者だ。
日常では押さえていても、本気で怒ったときにどうなるのか。
(あまり見たくはないなあ)
ここが戦場であるなら、朧の能力はこの上なく心強いのだが、もしいまここでそんな喧嘩になろうものなら、どんな地獄絵図になるか。
(そんなことが判らない橡局長でもないだろうに)
年を取ると意固地になってしまうのかな。
舛花はこれ以上面倒がおこらなければ良いのだが、と思った。
「ね、キイロ、こっちよ!」
そういって手を引っ張るのは梅花だ。
だが、いつもの娘らしい着物ではなく、モダンな流行りの黒のワンピース姿だった。
「ちょっと待って。りんちゃん、こっち」
「うむ」
そういってりんの手を引くキイロも、今日は着物ではなくお洒落なレースのワンピース姿だった。
三人、正しくは二人と自称龍神は、大型客船のなかに、偽名で潜り込んでいた。
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