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さらば愛しい我が子よ
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ルークはカルガモのオスの雛鳥でした。兄弟の中で一番身体が小さく、でも元気一杯でカルガモ一家の引っ越しが決まると新しい土地に思いを馳せていました。
ところが移動を始めて数日後、今まで愛情たっぷり注ぎ込んで育ててくれた母鳥が「ごめんなさい、許して」と謝り急にルークに襲いかかってきたのです。戸惑いながら「お母さん、どうしたの!?痛いよ!やめてよ!」とルークは懸命に逃げ回りました。でも母鳥は執拗にルークを傷めつけてきました。
その時、一羽の大きな初老のカラスがやってきました。母鳥は慌てて残りの雛鳥を匿い、やがてカラスやルークの前から去って行きました。
カラスが振り向くと、身体をピクピクさせながら水面に浮いているルークの姿がありました。
「さては、カルガモの子殺しに遭ったんだな?でも悪いがワシも空腹でな、お前を喰わせてもらうぞ」
カラスがルークを咥え飛び立ちました。
縄張りに着きルークを草の上に置きました。
「…おじさんがボクを助けてくれたの…?」
身体をピクピクさせながら不意にルークが聞いてきました。
(何を勘違いしてんだ)
苦笑しながらカラスが「そうじゃ、ワシが助けてやったんじゃ。感謝するんじゃぞ」と答えると「ありがとう、おじさん」とルークが何度もお礼を言ってきました。
カラスは嘘をついた自分が恥ずかしくなりました。ルークを見るとかなりの深傷を負っていました。カラスは何だかこの雛鳥が急に可哀想になってきました。母鳥に捨てられ傷つけられ一羽ぼっちになってしまったルーク。実はこの初老のカラスも幼い頃親鳥に捨てられずっと一羽ぼっちで生きてきたのです。
「今、手当てしてやるからな」
カラスはそこらじゅうの花や雑草を擦り合わせ、それをルークの身体に塗りました。
「痛い!痛いよおじさんっ!!」
「我慢するんじゃ、ぬりぬり」
「痛いよっ!!」
それでも手当ての効果があったのか、少しずつルークの身体が回復していきました。
それからルークとカラスは一緒に過ごし始めました。カラスは自分を慕ってくれるこの雛鳥が愛しくなってしまいました。毎日餌を与え懸命に傷の手当てをしました。でも母鳥に相当に傷めつけられてしまっていたルーク、一時回復に向かっていた身体も再び弱っていきました。
「おじさん、それ何?」
小さな赤い実を咥えていたカラスに寝込んでいたルークが訊ねました。
「これは、あの人間どもが作っているトマトという食い物じゃ、美味いからルークも食うんじゃ」
カラスが分け与えると「本当だ、すごく美味しいよ!」と食べながらルークが感嘆しました。
「そんなに美味かったか?それならこれからたくさん食わせてやるから早く元気になるんじゃぞ」
「ありがとう、おじさん、ボク元気になるよ」
でもカラスはもうルークがそんなに長くはない事を悟っていました。夕焼けの空に初老のカラスの鳴き声が何度も響き渡りました。
弱りきっていたルークに「これを食って元気になれ」とカラスが咥えていた生きた小魚を与えようとしました。小魚は哀願するような顔をしてルークを見つめてきました。
「おじさん、その魚さん逃がしてあげて…」
カラスはルークの言うことを聞き魚を逃がしました。
「おじさんごめんね、せっかくボクの為に捕まえてくれたのに…」
「気にするな、ルークお前は優しい奴じゃな」
「おじさん、あのトマト本当に美味しかったなぁ、他の鳥さん達にも食べてもらいたいなぁ…」
そして数日後、カラスがトマトを3粒咥えて縄張りに帰ってくると、ルークの命の灯が消えかかっていました。
「ルーク!行くなよ!お前の大好きなトマトを持って来たぞ!!」
「…ありがとう…おじさん…」
ルークにはもうトマトを食べる力は残っていませんでした。そして「お母さん…」と言い残し旅立ちました。
カラスは冷たくなっていくルークの身体をギュッと抱きしめ「お前はワシの子じゃ!さらばじゃ我が子よ!!」と鳴き叫びました。
ルークを失ったカラスはトマトを造り始めました。人間を観察し、種まきから苗の育成まで学び一心不乱に栽培に力を注ぎました。他の鳥達にも美味しいトマトを食べさせたがっていたルークの望みを叶えたかったのです。
カラスが栽培した大量のトマトは何羽もの鳥や他の生き物達のお腹を満たし命を救いました。でもカラスの心はぽっかりと穴が開いたままでした。ルークを失ってからカラスは動物を一切口にしなくなりました。栄養が偏り段々と身体が弱っていきました。やがて彼は自身の命運を悟りました。
「…さん…おじさん…」
今際のカラスの目の前に光が差し一羽の立派なカルガモの成鳥が姿を現しました。
「…お、お前はルークか?」
「そうだよ!おじさんのお陰でこんなに立派な身体になれたよ!トマトもあんなにたくさん作ってくれてたんだね、ありがとう!」
「良かったな…これでワシももう思い残す事はない…」
「これからはずっとボクが支えるからね!一緒に行こう、お父さん」
カラスは大粒の涙を流し喜び、ルークと共に光の中に消えて行きました。
そしてカラスが造ったトマトは今でもたくさんの実を鳴らし多くの生き物達の命を繋いでいます。
ところが移動を始めて数日後、今まで愛情たっぷり注ぎ込んで育ててくれた母鳥が「ごめんなさい、許して」と謝り急にルークに襲いかかってきたのです。戸惑いながら「お母さん、どうしたの!?痛いよ!やめてよ!」とルークは懸命に逃げ回りました。でも母鳥は執拗にルークを傷めつけてきました。
その時、一羽の大きな初老のカラスがやってきました。母鳥は慌てて残りの雛鳥を匿い、やがてカラスやルークの前から去って行きました。
カラスが振り向くと、身体をピクピクさせながら水面に浮いているルークの姿がありました。
「さては、カルガモの子殺しに遭ったんだな?でも悪いがワシも空腹でな、お前を喰わせてもらうぞ」
カラスがルークを咥え飛び立ちました。
縄張りに着きルークを草の上に置きました。
「…おじさんがボクを助けてくれたの…?」
身体をピクピクさせながら不意にルークが聞いてきました。
(何を勘違いしてんだ)
苦笑しながらカラスが「そうじゃ、ワシが助けてやったんじゃ。感謝するんじゃぞ」と答えると「ありがとう、おじさん」とルークが何度もお礼を言ってきました。
カラスは嘘をついた自分が恥ずかしくなりました。ルークを見るとかなりの深傷を負っていました。カラスは何だかこの雛鳥が急に可哀想になってきました。母鳥に捨てられ傷つけられ一羽ぼっちになってしまったルーク。実はこの初老のカラスも幼い頃親鳥に捨てられずっと一羽ぼっちで生きてきたのです。
「今、手当てしてやるからな」
カラスはそこらじゅうの花や雑草を擦り合わせ、それをルークの身体に塗りました。
「痛い!痛いよおじさんっ!!」
「我慢するんじゃ、ぬりぬり」
「痛いよっ!!」
それでも手当ての効果があったのか、少しずつルークの身体が回復していきました。
それからルークとカラスは一緒に過ごし始めました。カラスは自分を慕ってくれるこの雛鳥が愛しくなってしまいました。毎日餌を与え懸命に傷の手当てをしました。でも母鳥に相当に傷めつけられてしまっていたルーク、一時回復に向かっていた身体も再び弱っていきました。
「おじさん、それ何?」
小さな赤い実を咥えていたカラスに寝込んでいたルークが訊ねました。
「これは、あの人間どもが作っているトマトという食い物じゃ、美味いからルークも食うんじゃ」
カラスが分け与えると「本当だ、すごく美味しいよ!」と食べながらルークが感嘆しました。
「そんなに美味かったか?それならこれからたくさん食わせてやるから早く元気になるんじゃぞ」
「ありがとう、おじさん、ボク元気になるよ」
でもカラスはもうルークがそんなに長くはない事を悟っていました。夕焼けの空に初老のカラスの鳴き声が何度も響き渡りました。
弱りきっていたルークに「これを食って元気になれ」とカラスが咥えていた生きた小魚を与えようとしました。小魚は哀願するような顔をしてルークを見つめてきました。
「おじさん、その魚さん逃がしてあげて…」
カラスはルークの言うことを聞き魚を逃がしました。
「おじさんごめんね、せっかくボクの為に捕まえてくれたのに…」
「気にするな、ルークお前は優しい奴じゃな」
「おじさん、あのトマト本当に美味しかったなぁ、他の鳥さん達にも食べてもらいたいなぁ…」
そして数日後、カラスがトマトを3粒咥えて縄張りに帰ってくると、ルークの命の灯が消えかかっていました。
「ルーク!行くなよ!お前の大好きなトマトを持って来たぞ!!」
「…ありがとう…おじさん…」
ルークにはもうトマトを食べる力は残っていませんでした。そして「お母さん…」と言い残し旅立ちました。
カラスは冷たくなっていくルークの身体をギュッと抱きしめ「お前はワシの子じゃ!さらばじゃ我が子よ!!」と鳴き叫びました。
ルークを失ったカラスはトマトを造り始めました。人間を観察し、種まきから苗の育成まで学び一心不乱に栽培に力を注ぎました。他の鳥達にも美味しいトマトを食べさせたがっていたルークの望みを叶えたかったのです。
カラスが栽培した大量のトマトは何羽もの鳥や他の生き物達のお腹を満たし命を救いました。でもカラスの心はぽっかりと穴が開いたままでした。ルークを失ってからカラスは動物を一切口にしなくなりました。栄養が偏り段々と身体が弱っていきました。やがて彼は自身の命運を悟りました。
「…さん…おじさん…」
今際のカラスの目の前に光が差し一羽の立派なカルガモの成鳥が姿を現しました。
「…お、お前はルークか?」
「そうだよ!おじさんのお陰でこんなに立派な身体になれたよ!トマトもあんなにたくさん作ってくれてたんだね、ありがとう!」
「良かったな…これでワシももう思い残す事はない…」
「これからはずっとボクが支えるからね!一緒に行こう、お父さん」
カラスは大粒の涙を流し喜び、ルークと共に光の中に消えて行きました。
そしてカラスが造ったトマトは今でもたくさんの実を鳴らし多くの生き物達の命を繋いでいます。
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みんなの感想(3件)
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