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1937年12月ドイツ第三帝国 オーストリアに対して国民投票を要求
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「1938年はオーストリアと共に迎えよう。」
そう題された演説にドイツ第三帝国国内だけでなく、オーストリアのドイツ系住人たちは熱狂的であった。
「総統。オーストリアに対して国民投票の最後通牒を送り付け、1ヶ月。ハンガリーよりも先手を打てましたね。」
「ああ、年内に決着が着くことに間違いはない。本当にオーストリア併合をオーストリア国民が認めるのかが不安材料であるな…。」
「その点は大丈夫です。確実にオーストリアは我らに併合されるでしょう。それはもう民主主義によって。」
ゲルトの言葉にヒトラーは苦笑いのひとつも出なかった。世界で最も民主主義的憲法とでも言われるヴァイマル憲法は最も民主主義では無い自分達を生み出し、その我らが最も民主主義な行為によって他国を侵略しているのだから。
「総統。アンシュルスを案じても仕方ありません。我々は立ち止まるわけには行かないのです。」
「ゲルト、お前に言われるまでもない。我々は既に狂気の道へと両足を突っ込んでいる。今更引き返すなどできるわけなどない。」
「いくら狂気の道であろうとも、今はそれが我々にとっての正義なのです。」
二人の間に沈黙が降りる。ヒトラーの机にゲルドは一冊の資料を置いて部屋を出ていった。
「悪魔に魂を売るだけで済めばいいがな…」
外の夕焼けを眺める。流れる最後の雲が夕焼けに飲まれて消えていった。
どれほどそうしていたのか。ヒトラーは自身の机の上に置かれた資料に気付いたのは外が暗くなってからであった。
資料の入った封筒には、もう見なれた最重要機密の文字。知るものが少ない秘密ばかりが増えていく。それが澱の様に溜まっていく。
ため息一つに封筒を開ける。そこには赤い背景に白抜きに題が書かれてあった。
極東と西の巨人、と。
以下は資料の内容である。
極東、大日本帝国中国と開戦後2ヶ月で南京を獲得。和平交渉まで秒読み段階に移る。ただし和平交渉時に大日本帝国、広西軍閥、中国共産党間の摩擦は避けられない状況になると予測される。中国大陸は大東亜共栄圏、コミンテルン、そして東南アジア諸地域に領地を持つ連合国の入り乱れる三つ巴の泥沼化の恐れあり。休戦、停戦時に義勇軍を引き揚げ、被害の拡大を避けるのが得策である。
機甲師団の戦闘データは十分なほど集まった。近接航空支援と機甲師団の整合を測った作戦は想像を絶する突破力を証明した。渡河、丘、平地、市街地といった各戦闘地域で有効なドクトリンの構築が可能となった。この度の義勇軍派遣は非常に有意義であった。
眠れる西の巨人、アメリカは議会の紛糾の末レンドリース法、別称介入法を可決。これは事実上の我々に対する警告であると考えられる。アメリカは世界のあらゆる争いにおいて、自由と平和の名の元に戦争の早期解決を目指して介入するとの事。しかし、軍隊を派遣するのではなく武器貸与による金銭的見返りを求めている。これはレンドリースなどではなく、武器売却法である。立ち直りの遅い経済を立ち直させるきっかけとしての起爆剤としたい本音が透けて見える。交渉次第では本格的な介入、具体的に言えばアメリカ軍の介入は避けられるのではないかと推測される。
資料にざっと目を通したヒトラー。もう彼はこの状況を笑うしかなかった…。
そう題された演説にドイツ第三帝国国内だけでなく、オーストリアのドイツ系住人たちは熱狂的であった。
「総統。オーストリアに対して国民投票の最後通牒を送り付け、1ヶ月。ハンガリーよりも先手を打てましたね。」
「ああ、年内に決着が着くことに間違いはない。本当にオーストリア併合をオーストリア国民が認めるのかが不安材料であるな…。」
「その点は大丈夫です。確実にオーストリアは我らに併合されるでしょう。それはもう民主主義によって。」
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「総統。アンシュルスを案じても仕方ありません。我々は立ち止まるわけには行かないのです。」
「ゲルト、お前に言われるまでもない。我々は既に狂気の道へと両足を突っ込んでいる。今更引き返すなどできるわけなどない。」
「いくら狂気の道であろうとも、今はそれが我々にとっての正義なのです。」
二人の間に沈黙が降りる。ヒトラーの机にゲルドは一冊の資料を置いて部屋を出ていった。
「悪魔に魂を売るだけで済めばいいがな…」
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極東と西の巨人、と。
以下は資料の内容である。
極東、大日本帝国中国と開戦後2ヶ月で南京を獲得。和平交渉まで秒読み段階に移る。ただし和平交渉時に大日本帝国、広西軍閥、中国共産党間の摩擦は避けられない状況になると予測される。中国大陸は大東亜共栄圏、コミンテルン、そして東南アジア諸地域に領地を持つ連合国の入り乱れる三つ巴の泥沼化の恐れあり。休戦、停戦時に義勇軍を引き揚げ、被害の拡大を避けるのが得策である。
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