日本一のイケメン俳優に惚れられてしまったんですが

９

　言葉がうまく出てこない。
　頭の中で、彼が芸能界のトップスターだという事実が駆け巡るだけだった。

　玲央は一瞬、少しだけ楽しげに笑った後、ゆっくりと目を閉じた。その動作や所作の全てが美しく、この世のものとは思えないほど神秘的だった。

　彼に目を奪われていると、ふと玲央は口を開いて。

「あの姿、どうだった？」
「じょ、女装の？」
「うん、驚いたでしょ」
「誰でも驚くよ……」

　僕の言葉に満足そうな表情をして、彼は髪をかきわける。その仕草だけでも目を追ってしまう。もはや同じ人間とは思えないほどの美しさだった。白銀玲央は少し目を伏せると、ゆっくりと口を開いた。

「俺がこんな姿をしていた理由には、ちょっとした事情があるんだ。普通の姿だとサングラスをかけても帽子を被っても、すぐにバレちゃうんだ。テレビに出ているからだろうね、困ったものだよ」

　その言葉に、僕は驚きとともに、少し納得した。彼は日本でも最も有名な俳優の一人だ。　
　どんなに目立たない格好をしても、少しでも気をつけないとすぐに気づかれてしまうのだろう。

「だから、プライベートで外出する時には、どうしても女装をするしかなくて。これが一番バレない方法だからさ」

　玲央は小さく肩をすくめ、少し照れくさそうに笑った。その表情には、どこか柔らかさがあって、普段の彼の冷徹さとはまた違った一面が垣間見えた。

　僕はその言葉を聞きながら、少しだけ胸が締め付けられる思いがした。芸能人というのは、こんなにも普通の生活すら制限されてしまうのか。外に出ることすら一苦労だなんて、やっぱり大変なんだなと思った。

「あぁでも、それが嫌ってわけじゃないんだよ。普段とは違った景色が見えるからね。これはこれで楽しいものさ。あぁ、俺のことは玲央って呼んでくれ。言いやすくて気に入ってるんだ」
「わ、わかった……」

　とにかく相手の言葉に合わせるような形で僕は頷いた。
　怖さなどはまったくない。玲央は本当に優しそうだ。
　ただ、本当にこれは現実なのかと未だに驚いていた。グルグルと困惑の渦が頭で回るも、少しずつ落ち着きを取り戻していく。ふぅ、と息を吐いて一呼吸して。

　よし、だいぶ落ち着いてきたぞ。

「君の名前、教えてもらってもいい？」

　心臓が、ドクン、と鳴った。
　玲央の美しい瞳が僕をじぃ……と見つめていた。僕の心すら、見ているようだった。