聖女じゃなかったので、カフェで働きます

風音悠鈴

文字の大きさ
5 / 9

5.インスピレーションと、甘い再来店

しおりを挟む
フルーツパラダイスから帰ってきて、数日が経った。
頭の中は、あのいちごパフェのことでいっぱい。
下のパウンドケーキが飽きさせない工夫……
それをヒントに、次は「和風フルーツスイーツ」を作ってみようかなって思ってる。
小豆のあんこにフルーツを合わせたら、雪みたいなメレンゲと相性いいかも。

(……サミュエルさんに食べてもらいたいな)

そんなこと考えてるだけで、顔が熱くなる。

(あー、もう! 私、何考えてんの!?)




今日もカフェリテールは賑わってる。
snow Jewelはすっかり人気メニューで、
「snow Jewelください!」って注文が飛ぶようになった。
リノさんが「アイリちゃんのおかげよ」って褒めてくれて、私も毎日接客が楽しくなってきた。
ミスも減ったし、常連さんたちの名前も覚え始めた。
夕方、カランカラン。
いつもの音。
私はカウンターの向こうで準備を始める。

「お待たせしました、snow Jewelです」

サミュエルさんがフードを取る。
今日は少し疲れた顔してる。

「ありがとう」

一口食べて、目を細める。

「……今日も、癒される」
(癒される……?)

胸がきゅんってなる。

「サミュエルさん、今日はお疲れみたいですね」
「ん? わかるか」
「目が少し赤いし、肩が固そうで……」

サミュエルさんが小さく笑う。

「騎士団の訓練が長引いてな。
でも、ここに来ると、肩の力が抜ける」
(……私の作ったスイーツで、そんな風に思ってくれてるんだ)

嬉しい。
すごく嬉しい。

「じゃあ、次はもっと癒されるメニュー作りますね。
フルーツパラダイスで見たパフェ、インスピレーションもらったので……」

サミュエルさんが興味深そうに顔を上げる。

「どんなの?」
「まだ秘密です。でも、完成したら一番に食べてもらいたいなって……」

言葉が勝手に出ちゃった。
サミュエルさんの目が少し大きくなる。

「……楽しみだ」

その後、少しの沈黙。
サミュエルさんが紅茶を一口飲んで、

「アイリさん」
「はい?」
「次は、俺が何かお返ししたい」
「お返し……?」
「君が毎日作ってくれるスイーツに、俺は何も返せてない。
だから……今度、城の庭園を見せたい。
花が綺麗な時期で、君のsnow Jewelみたいな白い花が咲いてる」
(城の庭園……? 二人で?)

心臓がまたうるさい。

「え、でも……私みたいなのが行っていいんですか?」
「大丈夫。城の庭園の一部は手続きしとけば基本簡単に入れるようになってるから。」

サミュエルさんがまっすぐ見てくる。

「それに、君の笑顔が見たい。
……それが、俺のお返しだ」
(……笑顔が見たいって)

目が熱くなって、俯いちゃう。

「わかりました……楽しみにしてます」

声が小さくなった。
サミュエルさんが満足そうに頷く。

「じゃあ、来週の休み。迎えに来る」

店を出て行くサミュエルさんの後ろ姿を見送って、
私はカウンターに突っ伏した。

「はぁ……」

リノさんが奥から出てきて、
「またデートのお誘い? 今度は城の庭園?」
「ち、違いますって! お返しですよ、お返し!」
「ふふっ、藍里ちゃんの顔、にやけまくりよ」

夜、部屋でベッドに座って、今日のことを思い出す。
サミュエルさんの疲れた顔。
癒されるって言葉。
城の庭園の約束。

(……もっと知りたいな)

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

悪役令嬢だけど、私としては推しが見れたら十分なんですが?

榎夜
恋愛
私は『花の王子様』という乙女ゲームに転生した しかも、悪役令嬢に。 いや、私の推しってさ、隠しキャラなのよね。 だから勝手にイチャついてて欲しいんだけど...... ※題名変えました。なんか話と合ってないよねってずっと思ってて

帰国した王子の受難

ユウキ
恋愛
庶子である第二王子は、立場や情勢やら諸々を鑑みて早々に隣国へと無期限遊学に出た。そうして年月が経ち、そろそろ兄(第一王子)が立太子する頃かと、感慨深く想っていた頃に突然届いた帰還命令。 取り急ぎ舞い戻った祖国で見たのは、修羅場であった。

モブが乙女ゲームの世界に生まれてどうするの?【完結】

いつき
恋愛
リアラは貧しい男爵家に生まれた容姿も普通の女の子だった。 陰険な意地悪をする義母と義妹が来てから家族仲も悪くなり実の父にも煙たがられる日々 だが、彼女は気にも止めず使用人扱いされても挫ける事は無い 何故なら彼女は前世の記憶が有るからだ

悪役令嬢、隠しキャラとこっそり婚約する

下菊みこと
恋愛
悪役令嬢が隠しキャラに愛されるだけ。 ドゥニーズは違和感を感じていた。やがてその違和感から前世の記憶を取り戻す。思い出してからはフリーダムに生きるようになったドゥニーズ。彼女はその後、ある男の子と婚約をして…。 小説家になろう様でも投稿しています。

うっかり結婚を承諾したら……。

翠月 瑠々奈
恋愛
「結婚しようよ」 なんて軽い言葉で誘われて、承諾することに。 相手は女避けにちょうどいいみたいだし、私は煩わしいことからの解放される。 白い結婚になるなら、思う存分魔導の勉強ができると喜んだものの……。 実際は思った感じではなくて──?

婚約破棄された伯爵令嬢ですが、国の経済を掌握しました

鍛高譚
恋愛
「経済を握る者こそ、世界を動かす――」 前世、日本の証券会社で働いていた**瑞穂紗羅(みずほ さら)**は、異世界に転生し、サラ・レティシア伯爵令嬢として生まれ変わった。 貴族社会のしがらみや婚姻政策に巻き込まれながらも、彼女はひそかに動き始める。 「まずは資金を確保しなくちゃね」 異世界の為替市場(FX)を利用し、通貨の価値変動を読み、巨額の富を得るサラ。 次に狙うは株式投資――貴族の商会やギルドに出資し、国の経済に食い込んでいく。 気づけば彼女は、両替所ネットワークと金融システムを構築し、王国の経済を裏から支配する影の実力者となっていた。 そんな中、彼女に公爵令息との婚約話が舞い込む。 しかし、公爵令息は「格下の伯爵令嬢なんて興味がない」と、一方的に婚約破棄。 それを知った公爵は激怒する―― 「お前は何も分かっていない……! あの女は、この国の経済を支配する者だぞ! 世界すら掌握しかねないのだ!」 サラの金融帝国の成長は止まらない。 貴族たちは彼女にひれ伏し、国王は頼り、王太子は取り込もうとし、帝国は彼女の影響力に戦慄する。 果たしてサラは、異世界経済の頂点に立ち、さらなる世界の覇権を握るのか――?

婚約者が不倫しても平気です~公爵令嬢は案外冷静~

岡暁舟
恋愛
公爵令嬢アンナの婚約者:スティーブンが不倫をして…でも、アンナは平気だった。そこに真実の愛がないことなんて、最初から分かっていたから。

春告竜と二度目の私

こもろう
恋愛
私はどうなってもいい。だからこの子は助けて―― そう叫びながらも処刑された王太子の元婚約者カサンドル。 目が覚めたら、時が巻き戻っていた。 2021.1.23番外編追加しました。

処理中です...