聖女じゃなかったので、カフェで働きます

風音悠鈴

文字の大きさ
9 / 9

9.甘い日常と、少しの不安

しおりを挟む
付き合ってから1週間が経った。
カフェリテールの日常は、変わったようで変わっていない。
朝起きて、リノさんと一緒に開店準備。
snow Jewelとフルーツあんみつパウンドが飛ぶように売れて、常連さんたちが「今日は新メニューある?」って笑顔で聞いてくる。
でも、一番変わったのは、私の心の中。
サミュエルが来る時間が近づくと、胸がドキドキして、接客中もついカウンターの入り口をチラチラ見てしまう。
今日も夕方、カランカラン。
サミュエルが入ってきた。
今日は騎士団の制服じゃなくて、私服。
シンプルなシャツにベストで、いつもより柔らかい雰囲気。

「お待たせしました……今日はフルーツあんみつパウンドと、新しく試作した抹茶ラテです」

私はトレイを持って、カウンターへ。

サミュエルさんが席に座って、
「ありがとう、アイリ」

名前で呼ばれるだけで、顔が熱くなる。
一口食べて、サミュエルさんが目を細める。

「抹茶ラテ、いいな。
苦味が甘さを引き立ててる」
「よかった……サミュエルに合わせて、少し苦めに調整したんです」

サミュエルさんが紅茶じゃなくてラテを飲む姿を見て、胸が温かくなる。
リノさんが奥から「今日は私が閉店までやるから、二人は奥でゆっくりしてて~」
って、いつものようにニヤニヤ。
私たちはカウンターの奥の小さなテーブルへ。
二人きりになると、サミュエルさんが私の手を握る。

「アイリ、最近忙しそうだな」
「うん……でも、楽しいです。
サミュエルが毎日来てくれるから、もっと作りたくなる」

サミュエルさんが優しく笑って、
「俺も、毎日ここに来るのが楽しみだ。
君の顔を見るだけで、騎士団の疲れが飛ぶ」

(……疲れが飛ぶ、って)

嬉しい言葉だけど、心のどこかで小さな棘が刺さる。

「サミュエル……」
「ん?」
「私、毎日カフェで働いてるだけなのに……
サミュエルみたいにすごい人に、毎日来てもらってていいのかなって……」

サミュエルさんが少し眉を寄せて、
「また、そんなこと考えてるのか?」
「ごめん……でも、庭園の時から、ずっと。
特別って言ってくれたけど、私みたいなのが……騎士様の彼女でいいのかなって」

サミュエルさんが私の手を強く握って、
「いいに決まってるだろ」
声が少し低くなる。

「俺は、君を選んだ。
異世界から来たこと、聖女じゃなかったこと、全部関係ない。
俺が好きなのは、君だ。
君の笑顔、君の作るスイーツ、君の優しさ……全部」

(……全部)

涙がにじむ。

サミュエルさんがハンカチを差し出して、
「泣くな。
俺が毎日来るのは、君がいるからだ。
それだけ覚えておけ」

私は頷いて、
「うん……信じる。
サミュエルが好きだから、信じたい」

サミュエルさんが私の額に軽くキスをして、
「ありがとう。
明日も来るから」

店を出て行く背中を見送って、
私はカウンターに突っ伏した。

(……信じよう。
少しずつ、信じられるようになる)

リノさんが奥から出てきて、
「藍里ちゃん、また不安になってた?」
「うん……でも、サミュエルがそう言ってくれるから」

リノさんが抱きついて、
「それでいいのよ。
恋は、毎日少しずつ信じていくものだから」

夜、部屋でベッドに座って、今日のことを思い出す。
サミュエルが握ってくれた手の温かさ。
「俺が好きなのは、君だ」って言葉。
(……私も、サミュエルが好き。
だから、もっとがんばろう。
カフェを、もっと素敵な場所に。
サミュエルが帰りたくなる場所に)
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

悪役令嬢だけど、私としては推しが見れたら十分なんですが?

榎夜
恋愛
私は『花の王子様』という乙女ゲームに転生した しかも、悪役令嬢に。 いや、私の推しってさ、隠しキャラなのよね。 だから勝手にイチャついてて欲しいんだけど...... ※題名変えました。なんか話と合ってないよねってずっと思ってて

帰国した王子の受難

ユウキ
恋愛
庶子である第二王子は、立場や情勢やら諸々を鑑みて早々に隣国へと無期限遊学に出た。そうして年月が経ち、そろそろ兄(第一王子)が立太子する頃かと、感慨深く想っていた頃に突然届いた帰還命令。 取り急ぎ舞い戻った祖国で見たのは、修羅場であった。

モブが乙女ゲームの世界に生まれてどうするの?【完結】

いつき
恋愛
リアラは貧しい男爵家に生まれた容姿も普通の女の子だった。 陰険な意地悪をする義母と義妹が来てから家族仲も悪くなり実の父にも煙たがられる日々 だが、彼女は気にも止めず使用人扱いされても挫ける事は無い 何故なら彼女は前世の記憶が有るからだ

悪役令嬢、隠しキャラとこっそり婚約する

下菊みこと
恋愛
悪役令嬢が隠しキャラに愛されるだけ。 ドゥニーズは違和感を感じていた。やがてその違和感から前世の記憶を取り戻す。思い出してからはフリーダムに生きるようになったドゥニーズ。彼女はその後、ある男の子と婚約をして…。 小説家になろう様でも投稿しています。

うっかり結婚を承諾したら……。

翠月 瑠々奈
恋愛
「結婚しようよ」 なんて軽い言葉で誘われて、承諾することに。 相手は女避けにちょうどいいみたいだし、私は煩わしいことからの解放される。 白い結婚になるなら、思う存分魔導の勉強ができると喜んだものの……。 実際は思った感じではなくて──?

婚約破棄された伯爵令嬢ですが、国の経済を掌握しました

鍛高譚
恋愛
「経済を握る者こそ、世界を動かす――」 前世、日本の証券会社で働いていた**瑞穂紗羅(みずほ さら)**は、異世界に転生し、サラ・レティシア伯爵令嬢として生まれ変わった。 貴族社会のしがらみや婚姻政策に巻き込まれながらも、彼女はひそかに動き始める。 「まずは資金を確保しなくちゃね」 異世界の為替市場(FX)を利用し、通貨の価値変動を読み、巨額の富を得るサラ。 次に狙うは株式投資――貴族の商会やギルドに出資し、国の経済に食い込んでいく。 気づけば彼女は、両替所ネットワークと金融システムを構築し、王国の経済を裏から支配する影の実力者となっていた。 そんな中、彼女に公爵令息との婚約話が舞い込む。 しかし、公爵令息は「格下の伯爵令嬢なんて興味がない」と、一方的に婚約破棄。 それを知った公爵は激怒する―― 「お前は何も分かっていない……! あの女は、この国の経済を支配する者だぞ! 世界すら掌握しかねないのだ!」 サラの金融帝国の成長は止まらない。 貴族たちは彼女にひれ伏し、国王は頼り、王太子は取り込もうとし、帝国は彼女の影響力に戦慄する。 果たしてサラは、異世界経済の頂点に立ち、さらなる世界の覇権を握るのか――?

婚約者が不倫しても平気です~公爵令嬢は案外冷静~

岡暁舟
恋愛
公爵令嬢アンナの婚約者:スティーブンが不倫をして…でも、アンナは平気だった。そこに真実の愛がないことなんて、最初から分かっていたから。

春告竜と二度目の私

こもろう
恋愛
私はどうなってもいい。だからこの子は助けて―― そう叫びながらも処刑された王太子の元婚約者カサンドル。 目が覚めたら、時が巻き戻っていた。 2021.1.23番外編追加しました。

処理中です...