異世界で魔族が全滅してるらしいが、俺は普通にゴルフしてるだけ ~無能扱いされた男が 、距離だけで世界を変える話~

ぬこまる

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8 風を読む妖精と、完璧な一振り

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ガルドの家での朝は、相変わらず静かだ。

家の裏手にある小さな空き地。  
芝域ほど整ってはいないが、踏み込んだときの反発は悪くない。  
地面は少し乾き、昨日よりも風が軽い。

――素振りには、ちょうどいい。

俺は木製クラブを構え、ゆっくりとアドレスに入った。  
足幅は広すぎず、狭すぎず。  
膝は柔らかく、背筋は伸ばすが力は抜く。

ぶん。

トップで一瞬、止める。  
慌てない。  
手で上げない。  
体の回転に、ただ任せる。

肩の上で、妖精シルフィがふわりと浮き直した。

「風、みぎから」  
「つよくない」  
「いま、いい」

「了解」

妖精が風を読む声は、いつも短い。  
でも、無駄がない。  
ゴルフ雑誌のコラムを、三語に圧縮したみたいだ。

ガルドが少し離れた位置から、じっとこちらを見ている。  
いつも通り、距離と立ち位置を確認する目だ。

「……問題ない」

一言だけ。  
それで十分だ。



そこへ、私服の女性が庭の入口に立った。

フードを深く被っているが、立ち姿で分かる。  
あの気品は隠しきれない。

ガルドが一瞬、目を見開いた。

「……!?」

「し、静かに……!」

フードが外れる。

「……リリアーナです」

「姫様?」

「今は……リリアーナで」

完全にお忍びだ。

リリアーナは、俺の構えをじっと見ていた。

「……その姿勢、とても落ち着いていますね」

「ありがとうございます」
「急がないようにしてるだけです」

「力を入れていないのに……」
「遠くまで届きそうです」

「力を入れると、だいたい失敗するんですよ」

リリアーナは小さく笑った。

「……不思議です」

肩の上でシルフィが首を傾げる。

「トップ、きれい」

「それ、どこで覚えたの?」

「ちょっと、しらべた」

「研究してたんだ?」

「うん」  
「いいと、おもって」

ガルドが腕を組んだまま言う。

「……理解できない」

「まあ、妖精だし」

ガルドは納得していないが、これ以上は突っ込まない。



その空気を、破る声が響いた。

「……たすけてください……!」

庭に駆け込んできたのは、泥だらけの若い女性だった。  
息は切れ、膝をつき、涙で顔がぐちゃぐちゃだ。

「大丈夫」
俺はすぐにしゃがみ、水を渡す。

「ここまで来た時点で、十分です」

「……ミアです」
「村の娘……ミアです……」

「村に……魔族が……」
「男の人たちは……みんな、残って戦ってます……!」

ガルドが即座に立ち上がる。

「……行く」

シルフィがふわっと前に出る。

「いこ」

リリアーナは一瞬だけ唇を噛み、すぐに頷いた。

「……お気をつけて」

「はい」



村は、小さかった。

畑、低い柵、納屋。  
戦う場所じゃない。  
守るための場所だ。

畑の向こうで、男たちが必死に踏ん張っている。

そこに、見慣れた顔があった。

「……また会ったな、芝の人」
剣士ブロック・ザインだ。

「今度は村ですね」

「相変わらず、いいところに来る」

エルネスが息を整えながら言う。

「ナオキさん……結界、張ります」
「前より薄いですが……」

「十分です」
「時間があれば、後ろは任せてください」

高台を探していたカイが、渋い顔をする。

「角度が悪い」
「畑と納屋で、矢が通らん」

「了解」
俺は短く返す。

ガルドが地面を見て、距離を測る。

「……この位置」
「完璧だ」

完璧。  
それだけで、十分だ。

シルフィが風を読む。

「かぜ、ひだりから」  
「すこしだけ」  
「いま、のせる」



工房ドランが用意した、金属の玉を取り出す。

丸く、均一で、重さも揃っている。  
表面は磨かれ、光を反射している。

――いい玉だ。

アドレスに入る。

足裏で地面を感じ、  
腰を回し、  
肩を遅らせ、  
手首は最後まで我慢。

シルフィが囁く。

「インパクト、まっすぐ」

ガルドが言う。

「……距離、ちょうど」

振る。

カンッ――!

澄んだ、乾いた音。  
木製クラブと金属玉が、完璧に噛み合った音だ。

玉は一直線に飛ぶ。

風に、わずかに乗る。

――そして。

「グハッ!!」

魔族の頭に直撃。  
大袈裟なくらい後方へ吹き飛び、畑を転がる。

「なっ……!?」

二体目。

カンッ!

「グオォッ!」

三体目。

カンッ!

「ギャアッ!!」

同じ間隔。  
同じ軌道。  
同じ結果。

魔族が、次々と **頭から倒れていく**。

冒険者たちが唖然とする。

「……おい」
カイが呟く。
「全部、頭だぞ」

「狙ってます」
俺は淡々と言う。
「一番、分かりやすいので」

ブロックが笑った。

「分かりやすすぎるだろ!」

シルフィが満足そうに言う。

「いい、おと」

「ありがとう」

ガルドが短く言った。

「……完璧だ」

最後の一体。

カンッ!

「グハァッ!!」

地面に倒れ、ぴくりとも動かなくなる。

エルネスが息を吐く。

「魔力反応……ゼロです」

カイが矢筒を下ろす。

「逃げたやつはいない」
「……全滅だ」



次の瞬間だった。

「助かった!!」
「生きてる!!」
「すごいぞ!!」

冒険者たちが一斉に叫ぶ。

ブロックが俺の肩を叩く。

「お前……」
「反則だろ、あれは!」

エルネスが深く頭を下げる。

「ありがとうございます……!」
「命拾いしました……!」

カイが興奮気味に言う。

「遠距離で!」
「しかも、再現性ありで全滅だぞ!?」

村人たちが集まり、口々に礼を言う。

「英雄だ!」
「村を救った!」

ミアが震える足で近づく。

「……ありがとうございます……」
「お父さんも……みんなも……」

「村を守っただけだよ」
俺は頭をかいた。

「普通にゴルフしてるだけなんだけど……あはは」

温度差がひどい。



その夜、ガルドの家に戻った。

簡単な祝勝会だ。  
スープと、村の野菜。

リリアーナが湯気を見つめて言う。

「……見事でした」

「そうですか?」

「はい」
「でも……とても、静かでした」

「ゴルフなので」

そのとき、外が少し騒がしくなる。

「リリアーナ様!」
「どこにおられますか!」

家来たちの声だ。

リリアーナが小さく肩をすくめる。

「……そろそろ、帰らないと」

「また来てください」
俺が言うと、リリアーナは少しだけ微笑んだ。

「……はい」

肩の上で、シルフィが首を傾げる。

「……あれ」

ガルドが言う。

「……我々、邪魔か?」

「やめてください!!」

リリアーナの声が響いた。

その夜、村は燃えなかった。  
魔族は全滅した。

俺は、ただゴルフしていただけなのに。
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