竜の生贄になった僕だけど、甘やかされて幸せすぎっ!【完結】

ぬこまる

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プロローグ

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  魔界にある獣人旅館は、
  古より人間と動物が混血した獣人が集まるお宿。
  風情ある館内。和室から望む美しい庭園。
  食事は四季折々の魔界野菜を主役とした懐石料理。
  湯は魔界の地下深層から汲み上げたヒノキ風呂。
  和の情緒ある癒しのひとときに、暗澹たる魔界でさえ、
  心穏やかな滞在をかなえることでしょう。
  そんな獣人旅館には、このような噂がある。
  百年に一人、主人の欲望を解消させるため、
  人間界から美少女の“ 生贄 ”を召喚しているらしい。
  今宵は美少女がいるかなと思いを馳せながら、
  獣人旅館に泊まってみてはいかがでしょうか。

         『 一度は泊まりたい 魔界のお宿 』







 リュウ様……。

 リュウ様……。

「リュウ様、そろそろ起きてください。今日は召喚する日ですよ」

 夢のなかの美しい声が、現実の声に変わった。
 ぼんやりと眠気が覚めてくる。
 身体を起こし、のびをしながら欠伸あくびをひとつ。
 
「ふああ、イナリ……おはよ」
「おはようございます、リュウ様。ぐっすりと惰眠だみんを貪っておられましたね」
「……ううむ」
「あまりにも可愛いリュウ様の寝顔に、私はつい見惚れてしまいました」
「朝から見事なまでの饒舌じょうぜつっぷりだな、イナリ」
「畏れ入ります」

 ぺこりと頭を下げるのは、獣人旅館の執事であるイナリ。
 今は人の姿をしているが、元は狐だ。
 彼は垂れた金髪をふわりとかきあげ、居住まいを正した。
 目を細め、慈愛に満ちた笑みを浮かべている。
 頭についている耳を、ぴくりと動かすと語り始めた。
 
「恒例の魔法陣を描きましたゆえ、いつでも人間界から美少女を召喚できます。着替えましたら祭壇まで降りて来てくださいませ」

 そう告げるイナリは立ち上がる。
 まだ、寝ぼけ眼の俺を見つめ、

「起きてくださいね」

 と念を押してから踵を返し、部屋から出ていった。
 彼の綺麗な着物姿を見つめながら、俺は納得する。
 
「なるほど、イナリのやつ、いつもよりめかしていると思えば、今日は召喚する日だったわけか……ん? 召喚だと!?」

 びっくりして声が裏返った。
 秒で布団を吹っ飛ばし、立ち上がる。
 壁に掛けられたカレンダーを見ると、確かに今日の日付に赤丸がついていた。
 
【 二〇二〇年十月二三日 】

 そうだ、今日は待ちに待った召喚の日だ。
 どうして忘れていたのだろう。
 くしゃくしゃ、と寝癖頭を掻きむしる。
 ふいに、身体の火照りや下半身の疼きが、今更にして感じられてきた。
 そうか、そうだよな、肉体と本能が欲しているのだ。
 
「人間の女を……」

 そう呟くほど、待ち焦がれていた。
 なぜなら百年に一人、生贄として人間の女、しかも絶世の美少女が獣人旅館に召喚されるのだ。
 というのも、神が俺の健康に気を使って、そのように決めていた。
 どうやら、俺にストレスが溜まると……。
 
“ 人間界に不吉な災いをもたらす ”
 
 というのだ。
 正確にいうと、俺のストレスが日本列島に地震、台風、山の噴火、といった自然災害を引き起こす原因となっている。
 もっとも、俺はそのことに関して無自覚だから、どうすることもできない。
 だが、幸いなことに、生贄と過ごすことでストレスが解消できることは、自分でもわかる。
 
 美少女と過ごす日々は、かけがえのないものだ。
 俺の長い余生において、唯一の楽しみでもある。
 百年に一人という条件付きだが、それでも俺は満足していた。
 あんまり頻繁に来られても、逆に困る。
 なぜなら、好きな人が死んでいく辛さは、出会った喜びを相殺するほど、悲しい。
  
「相手は人間。かたや俺は竜人……」
  
 そんな言葉が漏れるほど、前回の女性は素晴らしかった。
 ああ、今でも忘れない。
 美しい顔、可愛らしい笑い声、白い肌に華奢な身体、彼女の名は、
 
和香わか……」

 彼女と会った日から、もう百年が経っているのかと思うと、時の流れは残酷なまでに、恐ろしい。
 と同時に、儚く散る人間の美しさに、羨ましいとさえ感じる。
 
「俺は……」

 俺はまた恋をすることが、できるのだろうか。
 人間の女を愛することが、できるのだろうか。
 俺が恋をすれば、人間界の災害が減少する。
 だったら、百年に一人だけ娘を生贄に出すくらい可愛いもの、おそらく人間たちも理解しているだろう。
 
「さて、生贄を見にいくとするか……」

 はらりと寝衣を脱いで床に落とす。
 裸体のまま立ち尽くした。
 ここは獣人旅館。
 主人はこの俺、竜人のリュウである。
 
「おい!」

 と呼べば、従者の巫女が秒でやってくる。
 手には白い着物と銀の帯を持っていた。
 俺は腕を伸ばし、着物を袖に通しやすくしてやる。
 巫女たちは俺の着替えを、談笑しながらやっていた。
 その内容は生贄のこと、彼女たちも召喚してくる人間の娘に、興味があるのは隠しきれない。

「リュウ様、どんな子が召喚してくるか楽しみですにゃ」

 猫人のミミが言う。

「まあな」

 と返してやる。
 すると、帯を巻いていたもう一人の巫女、豚人のブーコが、

「笑顔で話すブヒよ。黙っているとリュウ様は怖いブヒから」

 と忠告をしてくる。
 大きなお世話だ、と思いながら着替えを終えた。
 部屋を出る手前で、俺は自分の心境が浮かれていることに気づき、ふいに心の声が漏れる。
 
「今日は特別な日になりそうだ」
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