竜の生贄になった僕だけど、甘やかされて幸せすぎっ!【完結】

ぬこまる

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「イナリ、あとの説明は頼む。俺はデートプランを練ってくるから」

 そう言った男の顔は笑っていた。
 純白の長い袖を翻すと、颯爽と歩き去っていく。
 横に流れる視線が僕と絡みあい、さらさらと揺れる銀髪が、美しい川の流れを思わせた。
 あまりにも衝撃的な出来事に、僕は放心状態で、ぽかんとした顔のまま、ただ立ち尽くすのみ。頭のなかは真っ白で、

「はじめまして……」

 と、もう一人の男から声をかけられるが、なかなか返す言葉が浮かばず、吐息だけが漏れる。

「……あ、あ」

 とにかく状況を飲み込もうと、残された男を観察する。
 優雅な立ち振る舞いをする面長のイケメン、肩まである長い髪は黄金色で頭には、なんと耳が生えていた。
 
「耳、耳……!?」

 僕は思わず指をさして連呼した。
 ああ、これ? と訊き返す男はつづけて語り始める。
 
「私は、ここ獣人旅館の執事を務めているイナリと申します。元は狐なのですよ。以後お見知りおきのほどを」
「は、はあ……」
「この度は、召喚して頂きありがとうございます。もっとも強制的ではございましたが、まずはお礼を申し上げます」

 深々と頭を下げるイナリと称する金髪の男。
 口調が女性っぽくて、所謂、ゲイ、なのかなと察したが、きちっとしたはかまかみしもが折り目正しく、律儀さから醸し出されるものとも思えた。
 さらに元は狐というだけあって、話すことがしたたかというか、掴み所がないというか、とにかく胡散臭い。
 眉をひそめた僕は、首を傾けて訊いた。
 
「あの……ここはどこですか? 獣人旅館とは?」
「えっと、簡単に申しますと、ここは魔界です。人間界からは見えない場所にある混沌とした世界です」
「……地獄ってこと? 僕は死んだの?」
「いいえ、そうではありません。召喚したのです」

 しょうかん? と僕は聞き返した。
 
「はい。百年に一人、生贄を人間界から召喚しているのです」

 いけにえ? と僕はまた訊き返した。
 
「はい。先ほどいたリュウ様の生贄となってもらいます」
 
 ……!?
 
 稲妻のような衝撃が走り、身が震えた。 
 ありえない非現実的な事象に頭がついていかない。
 いったい、なにが起こっているのか、まるでわからない。
 やがて、冗談だろ?
 という結論に達し、これは夢だとも思った。
 すると、イナリと名乗る男が、やおら口を開く。
 
「生贄と言っても安心してください。私どもに協力して頂ければ、いつでも人間界に戻れますゆえ」

 僕は首を振って狼狽えた。
 言葉では何とでも言える、本当は僕を殺すつもりかもしれない。

「嘘だっ、ぼ、僕をどうするつもりだ? どうやってここまで連れてきた? 僕はおばあちゃんの家でお参りしてたんだ。それなのにいきなり、こんなところにいるなんてありえないだろ? そのあげくに召喚って、ラノベでもあるまいし、アハハハ」

 人って混乱すると、勝手に笑いが込み上げてくることがわかった。僕は狂ったように首を振り、

「ありえない、ありえない」

 と連呼する。
 あらあら、といったイナリは肩をすくめると、説明をつづけた。
 
「いいですか。人間界はあらゆる自然災害で悩まされていますよね。それは、リュウ様の欲望が溜まって起きる現象なのです」
「はあ? 欲望が溜まる? それに生贄が必要?」
「はい。ちゃんとリュウ様の欲望というストレスが解消されれば、人間界に平和と安泰がもたらされるでしょう。よって、あなたはそのための生贄なのです」
「はあ?」

 僕はだんだんイラついてきた。
 イナリの説明に納得がいかない。
 なぜなら僕は一応、理数系の商業高校を卒業しているので、こういう非科学的でありえない話は、まったく信用できない。
 だが、ほとんど受け入れられないかといえば、そうではなく。子どものような好奇心は、いまだに健在なので、僕は腕を組み、金髪の優男に訊き返してやる。
 
「で、具体的に僕になにをやれと?」

 すると、イナリはにっこりと笑って答えた。
 
「まずはリュウ様とデートして欲しいのです」
「え? デート?」
「はい、仲良くなってほしいのです」
「冗談だろ?」
「いいえ、本気です。それでも、その衣装ではいささかムードがないですねえ。なんなんですか、その英国紳士のような衣装は?」
「これはスーツだけど?」

 僕はジャケットを摘んで広げて見せる。
 コンコン、とキツネっぽい鳴き声をあげるイナリは口元を手で隠しながら、

「公爵でもあるまいし、西暦二〇二〇年の日本女性のファッションは、まさか男装が流行っているのですか?」
 
 と訊いた。
 僕は強烈な違和感を覚え、眉間に皺が寄った。

「ちょっと待って! 僕は男なんだけど」
「……!?」
 
 イナリは目を剥いた。と同時に、
 
「……ミスった」

 という言葉が漏れていた。
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