美緒と狐とあやかし語り〜あなたのお悩み、解決します!〜

星名柚花

文字の大きさ
4 / 127

04:夏祭りの夜に(4)

しおりを挟む
 あれは四ヵ月ほど前の春、小学校からの帰り道のことだ。
 花見をしようと通りがかった公園の道端にカラスが集まっていた。
 近寄ってみれば、小さな白い狐が突っつかれて傷だらけになっていた。
 美緒はランドセルを振り回してカラスを撃退し、おかげであちこち引っかかれたり突っつかれた。

 いまでも右眉の上、額には小さな傷痕がある。
 でも、腕の中で震える子狐を助けられたのだと思えば痛みも何もかも平気だった。額の傷は勲章だ。

「うん、そう」
 美緒が覚えていたことが嬉しかったらしく、男の子は笑った。
(あ、八重歯)
 笑った拍子にほんの少しだけ八重歯が見えた。

「元気そうで良かった。傷だらけのまんまいなくなっちゃったから心配したんだよ。傷痕とか残らなかった?」
「うん、傷跡は残ってないし、元気……かな。うん。いまは大丈夫」
 男の子は妙に歯切れの悪い言い方をした。

「いまは?」
「ああ、ええと。なんでもないの。元気だよ」
 男の子は両手を振った。

「なんでここにいるの? 迷い込んだの?」
「うん。おばあちゃんと一緒に屋台を見てたら、いつの間にか」
「そっか。今日はここもお祭りだから、空間が歪んで繋がったのかな。一緒に来て。現世《うつしよ》に帰してあげる」
 男の子が右手を差し出してきた。

「本当? ありがとう!」
 喜んで手を取ると、男の子は美緒の手を引いて歩き出した。
 迷いなく、大勢のあやかしたちが闊歩する通りをまっすぐに。

 繋ぐ手の感触と温もりが、もう一人ではないことを教え、それまで感じていた心細さや不安を溶かしてくれた。

「わたし、美緒っていうの。芳谷美緒。あなたの名前は?」
 弾んだ声で言って、男の子の狐の耳を見つめる。
 狐の耳はふわふわの毛に覆われていて、触り心地が良さそうだ。
 頼めば撫でさせてもらえないだろうか。
 名前を尋ねながら、美緒はそんなことを考えていた。

「銀太《ぎんた》だよ」
「銀太くん。苗字はあるの?」
「苗字?」
 銀太は可愛らしく小首を傾げた。
 どうやらあやかしに苗字という概念はないようだ。

「ううん、なんでもない。さっきのあやかしはなんで退散したんだろうね。わたしの後ろを見てたみたいだけど、苦手なあやかしがいたりしたのかな?」
「あれはねえ、多分ぼくのお兄ちゃん。前にぼくがいじめられてたとき、銀太を泣かせる奴はおれが許さないって怒ってくれたから。後ろから見てて、怒ってくれたんだと思う。すっごく頼りになるんだよ、ぼくのお兄ちゃん。ぼくよりずうっと頭も良いし、喧嘩も強いし、格好良いんだ」
 銀太が顎を上げ、自慢げに言うので、美緒はくすっと笑みを零した。

「お兄ちゃんのこと大好きなんだね」
「うん。大好き! 美緒はお兄ちゃんいる?」
「ううん、一人っ子。だから羨ましいな」
 手を繋いで歩きながら、銀太がいかに自分の兄が素晴らしいか、どれほど尊敬しているかを語っているうちに、目的地に着いたようだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

後宮の手かざし皇后〜盲目のお飾り皇后が持つ波動の力〜

二位関りをん
キャラ文芸
龍の国の若き皇帝・浩明に5大名家の娘である美華が皇后として嫁いできた。しかし美華は病により目が見えなくなっていた。 そんな美華を冷たくあしらう浩明。婚儀の夜、美華の目の前で彼女付きの女官が心臓発作に倒れてしまう。 その時。美華は慌てること無く駆け寄り、女官に手をかざすと女官は元気になる。 どうも美華には不思議な力があるようで…?

高塚くんの愛はとっても重いらしい

橋本彩里(Ayari)
恋愛
時期外れ、しかも偏差値の高い有名校からなぜかわざわざやってきた話題の転校生。 「どこに隠れていたの?」 そんな彼に、突然探していたと莉乃は背後から抱きしめられ、強引に連れて行かれる。 その日から莉乃は高塚くんに振り回される毎日。 この関係は何? 悩みながらもまるで大事な恋人のように莉乃を扱う彼に絆されかけていた、あの言葉を聞くまでは……。 高塚くんの重愛と狂愛。 すれ違いラブ。 見目がいいだけの男ではないのでご注意ください。 表紙イラストは友人のkouma.作です。

芙蓉は後宮で花開く

速見 沙弥
キャラ文芸
下級貴族の親をもつ5人姉弟の長女 蓮花《リェンファ》。 借金返済で苦しむ家計を助けるために後宮へと働きに出る。忙しくも穏やかな暮らしの中、出会ったのは翡翠の色の目をした青年。さらに思いもよらぬ思惑に巻き込まれてゆくーーー カクヨムでも連載しております。

一億円の花嫁

藤谷 郁
恋愛
奈々子は家族の中の落ちこぼれ。 父親がすすめる縁談を断り切れず、望まぬ結婚をすることになった。 もうすぐ自由が無くなる。せめて最後に、思いきり贅沢な時間を過ごそう。 「きっと、素晴らしい旅になる」 ずっと憧れていた高級ホテルに到着し、わくわくする奈々子だが…… 幸か不幸か!? 思いもよらぬ、運命の出会いが待っていた。 ※エブリスタさまにも掲載

10年引きこもりの私が外に出たら、御曹司の妻になりました

専業プウタ
恋愛
25歳の桜田未来は中学生から10年以上引きこもりだったが、2人暮らしの母親の死により外に出なくてはならなくなる。城ヶ崎冬馬は女遊びの激しい大手アパレルブランドの副社長。彼をストーカーから身を張って助けた事で未来は一時的に記憶喪失に陥る。冬馬はちょっとした興味から、未来は自分の恋人だったと偽る。冬馬は未来の純粋さと直向きさに惹かれていき、嘘が明らかになる日を恐れながらも未来の為に自分を変えていく。そして、未来は恐れもなくし、愛する人の胸に飛び込み夢を叶える扉を自ら開くのだった。

子供にしかモテない私が異世界転移したら、子連れイケメンに囲まれて逆ハーレム始まりました

もちもちのごはん
恋愛
地味で恋愛経験ゼロの29歳OL・春野こはるは、なぜか子供にだけ異常に懐かれる特異体質。ある日突然異世界に転移した彼女は、育児に手を焼くイケメンシングルファザーたちと出会う。泣き虫姫や暴れん坊、野生児たちに「おねえしゃん大好き!!」とモテモテなこはるに、彼らのパパたちも次第に惹かれはじめて……!? 逆ハーレム? ざまぁ? そんなの知らない!私はただ、子供たちと平和に暮らしたいだけなのに――!

理想の男性(ヒト)は、お祖父さま

たつみ
恋愛
月代結奈は、ある日突然、見知らぬ場所に立っていた。 そこで行われていたのは「正妃選びの儀」正妃に側室? 王太子はまったく好みじゃない。 彼女は「これは夢だ」と思い、とっとと「正妃」を辞退してその場から去る。 彼女が思いこんだ「夢設定」の流れの中、帰った屋敷は超アウェイ。 そんな中、現れたまさしく「理想の男性」なんと、それは彼女のお祖父さまだった! 彼女を正妃にするのを諦めない王太子と側近魔術師サイラスの企み。 そんな2人から彼女守ろうとする理想の男性、お祖父さま。 恋愛よりも家族愛を優先する彼女の日常に否応なく訪れる試練。 この世界で彼女がくだす決断と、肝心な恋愛の結末は?  ◇◇◇◇◇設定はあくまでも「貴族風」なので、現実の貴族社会などとは異なります。 本物の貴族社会ではこんなこと通用しない、ということも多々あります。 R-Kingdom_1 他サイトでも掲載しています。

俺様上司に今宵も激しく求められる。

美凪ましろ
恋愛
 鉄面皮。無表情。一ミリも笑わない男。  蒔田一臣、あたしのひとつうえの上司。  ことあるごとに厳しくあたしを指導する、目の上のたんこぶみたいな男――だったはずが。 「おまえの顔、えっろい」  神様仏様どうしてあたしはこの男に今宵も激しく愛しこまれているのでしょう。  ――2000年代初頭、IT系企業で懸命に働く新卒女子×厳しめの俺様男子との恋物語。 **2026.01.02start~2026.01.17end**

処理中です...