美緒と狐とあやかし語り〜あなたのお悩み、解決します!〜

星名柚花

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17:再びヨガクレへ(2)

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(――ああ、わたし、似たようなことをしたことがある)

 小学生の頃のことだ。
 美緒は家の庭に一人立ち、空を仰いで、降り注ぐ雪を見ていた。
 ずっと眺めていると、自分が雪の降る速度に合わせ、ゆっくりと空を上っていくような錯覚に陥った。

 重力の楔から解き放たれて、高く、どこまでも高く――あの灰色の空の彼方まで昇っていけるような気がした。

 瞼の裏に、あの日見た雪が降る。
 無限に降り注ぐ小さな雪が、全てを白く染めていく。

 美緒の雑念も、焦りも、全てを等しく飲み込んでいく――

「――よし、もう目を開けていいぞ」
 その言葉を受け、美緒は夢から覚めたような心地で目を開けた。

 瞬間、見上げる夜空を何かが横切った。

 目を凝らして見れば、星を散りばめた空の下、何かがのんびり飛んでいる。
 人間ではない。あれは――

「……ねえ、朝陽くん。布に乗った猿が空を飛んでるように見えるんだけど、幻覚かな?」
 呆然と呟く。

「いや、幻覚じゃない、現実だ。正しくは布じゃなくて一反木綿。一反木綿の一族は運輸業を営んでるんだ。頼めばあやかしでも物でも運んでくれる」
「へえ……って、ここ、ヨガクレなの?」
 慌てて辺りを見回せば、すぐ傍にあったはずの鳥居はなく、風景そのものが一変していた。

 例えるならどこかの城下町、だろうか。
 通りの両脇には趣ある木造の家屋が立ち並び、満開の桜が洒落た形の外灯に照らされていた。

 外灯の中では火が揺れている。上下左右に、ふらふらと。

(七年前の夏祭りのときもそうだったけど、ヨガクレの火は踊るものなのかな)

 下駄を鳴らしながら、着物姿の女性二人組が通りを行く。
 談笑する彼女たちの頭には角が生えている。鬼だ。

 鬼の他にも、鳥の頭を持つもの、曲がった角やまっすぐな角を持つもの、鱗を持つものに、服を着て人語を話す動物たち。

 道行く全てがあやかしだった。

 がさっと音がして、振り返れば、茂みの向こうから伺うように何かがこちらを見ていた。
 ウサギのように長い耳を生やした、全体的に丸く、可愛らしい小動物。
 体毛は灰色と白の二色で、つぶらな目をしている。
 これもまたあやかしの一種だろう。

(あ、可愛い)
 相好を崩し、近づいて屈んだ途端、小動物は茂みの裏に隠れてしまった。

 諦めて朝陽のもとに引き返した美緒の目に、空を飛ぶ二匹の鯉のぼりが映った。
 暗いのでわかりにくいが、色は黒と赤のようだ。
 さしずめお父さん鯉のぼりとお母さん鯉のぼりというところか。

(あ、二匹の真ん中にもう一匹小さい鯉のぼりがいた。子どもかな?)

 鯉のぼりは空を泳ぎながら、家族で会話していた。
 黒い鯉のぼりが何か面白いことを言ったらしく、赤い鯉のぼりがのけ反って笑っている。
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