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22:執事の登場
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椿はゆっくり空を飛んでくれた。
優しい春の夜風を全身に浴びながら、満天の星空の下、桜に彩られた街並みを見下ろす。
眼下に広がる風景の中には中華風の宮殿もあり、楼閣もあり、ヨーロッパ風の薔薇園もある。
しかし不思議と調和が取れ、独特の情緒を醸し出していた。
遊覧飛行中、椿はヨガクレについて教えてくれた。
ヨガクレは常春で、一年中桜が咲いていること。
朝には陽が上るが現世ほど強い光ではなく、大抵のあやかしは眠ること。
祖母との一件により権威が失墜し、いまではすっかりなりを潜めた大鬼の一派。南の山を縄張りにしている烏天狗、川に棲む河童、旅館を経営している狐、商店街の会長をしている狸、等々。
椿の話はどれも興味深いものばかりだった。
「着いたっす。ここがアマネ様のお屋敷っす」
やがて椿は大きな屋敷の前に下りた。
立派な石垣に囲まれたその屋敷は、旅館か何かかと見間違えるほどに大きな三階建てだ。
屋敷は山の中腹にあり、反対側に神社があるのが上空から見えた。
「そんじゃオイラはここでオサラバするっすね。もしまたオイラの背に乗って空を飛びたいときは、合図に火の玉で三回円を描いて止まってを繰り返してほしいっす。見つけたら最優先で運んであげるっす」
椿の左目が上向きに弧を描き、右目が横線一本になった。
これは一反木綿流のウィンクなのだろう。美緒は頬を緩めた。
「ありがとうございます。お話もとっても楽しかったです。また会いましょう、椿さん」
「はいっす。そんじゃまたっす」
しゅび、と右手で敬礼のポーズを取り、椿は空を上って行った。
その姿を見守る美緒の耳に、朝陽の「うわ」という驚きの声が飛び込んできた。
振り返れば、屋敷の門の前に、背広を着た細身の男性がいた。
月明りに照らされたその姿は、オールバックにした銀髪をうなじで結い、口髭を蓄えた老紳士。瞳は炎のように赤く、夜に煌いている。
彼の頭からは銀色の猫耳が突き出していた。
「驚かせてしまったようで失礼。わたくしはアマネ様に仕える執事でございます。名をご所望でしたらカガリとお呼びください。篝火の篝と書きます」
篝は優雅に一礼した。
「前触れもなきご訪問でした故、用件を伺いに参りました。して、あなた方はどうしてここにおられるのですかな?」
優しい春の夜風を全身に浴びながら、満天の星空の下、桜に彩られた街並みを見下ろす。
眼下に広がる風景の中には中華風の宮殿もあり、楼閣もあり、ヨーロッパ風の薔薇園もある。
しかし不思議と調和が取れ、独特の情緒を醸し出していた。
遊覧飛行中、椿はヨガクレについて教えてくれた。
ヨガクレは常春で、一年中桜が咲いていること。
朝には陽が上るが現世ほど強い光ではなく、大抵のあやかしは眠ること。
祖母との一件により権威が失墜し、いまではすっかりなりを潜めた大鬼の一派。南の山を縄張りにしている烏天狗、川に棲む河童、旅館を経営している狐、商店街の会長をしている狸、等々。
椿の話はどれも興味深いものばかりだった。
「着いたっす。ここがアマネ様のお屋敷っす」
やがて椿は大きな屋敷の前に下りた。
立派な石垣に囲まれたその屋敷は、旅館か何かかと見間違えるほどに大きな三階建てだ。
屋敷は山の中腹にあり、反対側に神社があるのが上空から見えた。
「そんじゃオイラはここでオサラバするっすね。もしまたオイラの背に乗って空を飛びたいときは、合図に火の玉で三回円を描いて止まってを繰り返してほしいっす。見つけたら最優先で運んであげるっす」
椿の左目が上向きに弧を描き、右目が横線一本になった。
これは一反木綿流のウィンクなのだろう。美緒は頬を緩めた。
「ありがとうございます。お話もとっても楽しかったです。また会いましょう、椿さん」
「はいっす。そんじゃまたっす」
しゅび、と右手で敬礼のポーズを取り、椿は空を上って行った。
その姿を見守る美緒の耳に、朝陽の「うわ」という驚きの声が飛び込んできた。
振り返れば、屋敷の門の前に、背広を着た細身の男性がいた。
月明りに照らされたその姿は、オールバックにした銀髪をうなじで結い、口髭を蓄えた老紳士。瞳は炎のように赤く、夜に煌いている。
彼の頭からは銀色の猫耳が突き出していた。
「驚かせてしまったようで失礼。わたくしはアマネ様に仕える執事でございます。名をご所望でしたらカガリとお呼びください。篝火の篝と書きます」
篝は優雅に一礼した。
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