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31:耐え難い誤解
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校門を通ってしばらく歩くと、昇降口の前にちょっとした人だかりができていた。
新入生たちが見上げているのはクラス割り発表の掲示だ。
姫子が駆け足でそちらへ向かった。
天野優と同じクラスかどうか。彼女の関心事はそれ一点だろう。
朝陽と美緒も遅れて彼女の後に続いた。
(芳谷、芳谷……あった! 一年二組!)
偶然にも、朝陽も姫子も二組だった。
天野優も同じクラスだ。
姫子を見れば、彼女は何かを噛み締めるような表情で小さくガッツポーズしていた。
良かったねぇ、と微笑んでいると、姫子が急に目を見開き、ツインテールを大きく揺らして昇降口のほうを向いた。
「天野くん!」
名前を叫んで、昇降口へ駆けていく。
朝陽と顔を見合わせ、早足で追ってみれば、姫子は昇降口の隅っこで一人の男子生徒と向き合っていた。
どこか草食動物を思わせる、温和そうな顔立ちの少年である。
(彼が天野くん?)
親が成長を考慮したのかブレザーは大きめで、背は165くらいか。
姫子が格好良いと絶賛するので、果たしてどれほどの美少年なのかと思っていたのだが、正直に言って――失礼ながら――美少年、というほどではない。
朝陽とどちらが格好良いか、とアンケートを取れば、確実に朝陽が勝つだろう。
「あの、あたし……あの……えっと……」
優を前に、姫子は顔を赤らめていた。
意味もなく髪の先端を指に巻きつけ、もじもじしている。
ちらっと上目遣いに優を見てはまた床に視線を落とし、恥ずかしそうにしたり。
落ち着きなく身体を小刻みに揺らしたり。
恋する乙女モード全開である。
「……あいつ悪いものでも食べたのか? おれ、何か変なもの入れたかな」
「朝陽くん」
美緒は苦笑してたしなめた。
しかし、気持ちはわからなくもない。
姫子は気が強く、言いたいことははっきり言うタイプで、この数日、朝陽と激しく口喧嘩することも多々あった。
その彼女が別人のようにしおらしくなれば戸惑うのも当然だろう。
美緒もこの豹変っぷりは正直、かなり意外だった。
普段の彼女からして「あたしあんたのことが好きなの! 付き合いなさい!」くらいは言うかと思っていた。
「恋は女の子を変えるものなんだねぇ」
肩に乗っている銀太がしみじみとした口調で言う。
「?」
顔をトマトのように真っ赤に染め、ただひたすら「あの」とか「その」とかを繰り返す姫子を見て、優は不思議そうだ。
何が言いたいのか全くわからないらしい。
場慣れしていなくとも、普通は雰囲気で察するだろう。
恐らく彼は天然だ、と美緒は判断した。
「あの、あたし、その……ええと……」
「ああ」
ようやく姫子の言いたいことに気づいたらしく、優は何か思いついたような顔をして、ぽんと手を打った。
(来たぁー!!)
さて優はどんな答えを返すのだろう。
美緒は思わず拳を握った。
朝陽も銀太も前のめりになっている。
「女子トイレなら廊下をまっすぐ行って左手にあるよ」
ピシッ、と音を立てて、姫子が凍った。
どうやら優は姫子が顔を赤くしてもじもじしていた理由を『猛烈な尿意を我慢してるから』と解釈したらしい。
(天然どころじゃない! 天野くんはド天然だ! 超ド天然だぁぁ!?)
これは耐え難い誤解だ。
美緒だったら泣くかもしれない。
「我慢するのは身体によくないから、早めに行ったほうがいいよ。じゃあ」
優は微笑んで立ち去り、氷像と化した姫子はガラガラと崩れ落ち、美緒と朝陽はその後、姫子の心のケアに全力を尽くしたのだった。
新入生たちが見上げているのはクラス割り発表の掲示だ。
姫子が駆け足でそちらへ向かった。
天野優と同じクラスかどうか。彼女の関心事はそれ一点だろう。
朝陽と美緒も遅れて彼女の後に続いた。
(芳谷、芳谷……あった! 一年二組!)
偶然にも、朝陽も姫子も二組だった。
天野優も同じクラスだ。
姫子を見れば、彼女は何かを噛み締めるような表情で小さくガッツポーズしていた。
良かったねぇ、と微笑んでいると、姫子が急に目を見開き、ツインテールを大きく揺らして昇降口のほうを向いた。
「天野くん!」
名前を叫んで、昇降口へ駆けていく。
朝陽と顔を見合わせ、早足で追ってみれば、姫子は昇降口の隅っこで一人の男子生徒と向き合っていた。
どこか草食動物を思わせる、温和そうな顔立ちの少年である。
(彼が天野くん?)
親が成長を考慮したのかブレザーは大きめで、背は165くらいか。
姫子が格好良いと絶賛するので、果たしてどれほどの美少年なのかと思っていたのだが、正直に言って――失礼ながら――美少年、というほどではない。
朝陽とどちらが格好良いか、とアンケートを取れば、確実に朝陽が勝つだろう。
「あの、あたし……あの……えっと……」
優を前に、姫子は顔を赤らめていた。
意味もなく髪の先端を指に巻きつけ、もじもじしている。
ちらっと上目遣いに優を見てはまた床に視線を落とし、恥ずかしそうにしたり。
落ち着きなく身体を小刻みに揺らしたり。
恋する乙女モード全開である。
「……あいつ悪いものでも食べたのか? おれ、何か変なもの入れたかな」
「朝陽くん」
美緒は苦笑してたしなめた。
しかし、気持ちはわからなくもない。
姫子は気が強く、言いたいことははっきり言うタイプで、この数日、朝陽と激しく口喧嘩することも多々あった。
その彼女が別人のようにしおらしくなれば戸惑うのも当然だろう。
美緒もこの豹変っぷりは正直、かなり意外だった。
普段の彼女からして「あたしあんたのことが好きなの! 付き合いなさい!」くらいは言うかと思っていた。
「恋は女の子を変えるものなんだねぇ」
肩に乗っている銀太がしみじみとした口調で言う。
「?」
顔をトマトのように真っ赤に染め、ただひたすら「あの」とか「その」とかを繰り返す姫子を見て、優は不思議そうだ。
何が言いたいのか全くわからないらしい。
場慣れしていなくとも、普通は雰囲気で察するだろう。
恐らく彼は天然だ、と美緒は判断した。
「あの、あたし、その……ええと……」
「ああ」
ようやく姫子の言いたいことに気づいたらしく、優は何か思いついたような顔をして、ぽんと手を打った。
(来たぁー!!)
さて優はどんな答えを返すのだろう。
美緒は思わず拳を握った。
朝陽も銀太も前のめりになっている。
「女子トイレなら廊下をまっすぐ行って左手にあるよ」
ピシッ、と音を立てて、姫子が凍った。
どうやら優は姫子が顔を赤くしてもじもじしていた理由を『猛烈な尿意を我慢してるから』と解釈したらしい。
(天然どころじゃない! 天野くんはド天然だ! 超ド天然だぁぁ!?)
これは耐え難い誤解だ。
美緒だったら泣くかもしれない。
「我慢するのは身体によくないから、早めに行ったほうがいいよ。じゃあ」
優は微笑んで立ち去り、氷像と化した姫子はガラガラと崩れ落ち、美緒と朝陽はその後、姫子の心のケアに全力を尽くしたのだった。
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