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45:烏天狗の楼閣(4)
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「なんじゃ」
烏丸が引き返してきた。不愉快さを隠そうともしていない。
「死闘などお止めください! どうか、お願いでございます!!」
烏丸の猛烈な怒気に晒されながら、姫子は再び平伏した。
「ほう。ワシの楽しみを邪魔するか。では、鳳仙草は要らぬということじゃな」
「――はい。あの人の妻となる夢は、諦めます」
血を吐くような声で姫子は言った。
「おい! 何言ってんだお前――」
「狐は黙っとれ!!」
烏丸に一喝されて、朝陽が悔しげに口を閉ざす。
銀太は事態の急変におろおろしている。それは美緒も同じだった。
烏丸は下駄を荒っぽく脱いで姫子に歩み寄り、冷酷な表情で見下ろした。
「本当に諦めるのじゃな? 諦めたと見せかけてワシの領地に入り込み、盗みを働く不届き者は掃いて捨てるほどおったが」
「わたくしに二言はありません」
顔を伏せたまま、きっぱりと姫子は言い切った。
「大事な友達を犠牲にして人になったところで、あの人は喜びません。喜ぶどころか軽蔑することでしょう。元より、魚が人と添い遂げるなど、過ぎた夢だったのです――」
突然烏丸が跪き、喋っている途中だった姫子を大根でも引っこ抜くように引っ張り上げ、顎を掴んだ。
吐息がかかるほどの至近距離から見つめられて、姫子がぎょっと目を剥く。
暴挙に怯んだのもつかの間、姫子は持ち前の気丈さで烏丸を見返した。
「……ふむ。泣いて同情を引くようであれば、叩き出してやろうと思っておったが。泣いてはおらんか。その強気な目、気に入ったわ」
烏丸は愉快そうに笑って手を離し、言った。
「3枚じゃ」
「へ」
三本立てた指を眼前に突きつけられ、姫子が目をぱちくりさせる。
「天狐金貨3枚で売ってやろう。採算なんぞ度外視じゃ。こんな値で売っておったら商売なんぞ成り立たん、店が潰れるわ。決して他のあやかしに言うでないぞ」
烏丸は中指と薬指を折り曲げ、残った人差し指を自身の分厚い唇の前に近づけた。
「……3枚って……3枚ぃぃ!? 鳳仙草が金貨3枚でいいんですか!?」
姫子は大いに慌てた。
「ガハハハ。お前さんと狐と人間、3人じゃから3枚じゃ。狐の幽霊の分はまけてやろう。集めたら持って来い。人になる薬を調合しておいてやる」
「え。あ……あ、あり、ありがとうございます……!!」
姫子はあたふたした後、深く深く頭を下げた。
「ああ、よいよい。堅苦しいのは好かぬ。良い友を持ったな、魚よ」
烏丸はその場にどかりと座って胡坐をかき、朗らかに笑った。
「はい!」
姫子は顔を上げて破顔した。
目に涙が浮かんでいる。頬は上気し、本当に嬉しそうだ。
烏丸が引き返してきた。不愉快さを隠そうともしていない。
「死闘などお止めください! どうか、お願いでございます!!」
烏丸の猛烈な怒気に晒されながら、姫子は再び平伏した。
「ほう。ワシの楽しみを邪魔するか。では、鳳仙草は要らぬということじゃな」
「――はい。あの人の妻となる夢は、諦めます」
血を吐くような声で姫子は言った。
「おい! 何言ってんだお前――」
「狐は黙っとれ!!」
烏丸に一喝されて、朝陽が悔しげに口を閉ざす。
銀太は事態の急変におろおろしている。それは美緒も同じだった。
烏丸は下駄を荒っぽく脱いで姫子に歩み寄り、冷酷な表情で見下ろした。
「本当に諦めるのじゃな? 諦めたと見せかけてワシの領地に入り込み、盗みを働く不届き者は掃いて捨てるほどおったが」
「わたくしに二言はありません」
顔を伏せたまま、きっぱりと姫子は言い切った。
「大事な友達を犠牲にして人になったところで、あの人は喜びません。喜ぶどころか軽蔑することでしょう。元より、魚が人と添い遂げるなど、過ぎた夢だったのです――」
突然烏丸が跪き、喋っている途中だった姫子を大根でも引っこ抜くように引っ張り上げ、顎を掴んだ。
吐息がかかるほどの至近距離から見つめられて、姫子がぎょっと目を剥く。
暴挙に怯んだのもつかの間、姫子は持ち前の気丈さで烏丸を見返した。
「……ふむ。泣いて同情を引くようであれば、叩き出してやろうと思っておったが。泣いてはおらんか。その強気な目、気に入ったわ」
烏丸は愉快そうに笑って手を離し、言った。
「3枚じゃ」
「へ」
三本立てた指を眼前に突きつけられ、姫子が目をぱちくりさせる。
「天狐金貨3枚で売ってやろう。採算なんぞ度外視じゃ。こんな値で売っておったら商売なんぞ成り立たん、店が潰れるわ。決して他のあやかしに言うでないぞ」
烏丸は中指と薬指を折り曲げ、残った人差し指を自身の分厚い唇の前に近づけた。
「……3枚って……3枚ぃぃ!? 鳳仙草が金貨3枚でいいんですか!?」
姫子は大いに慌てた。
「ガハハハ。お前さんと狐と人間、3人じゃから3枚じゃ。狐の幽霊の分はまけてやろう。集めたら持って来い。人になる薬を調合しておいてやる」
「え。あ……あ、あり、ありがとうございます……!!」
姫子はあたふたした後、深く深く頭を下げた。
「ああ、よいよい。堅苦しいのは好かぬ。良い友を持ったな、魚よ」
烏丸はその場にどかりと座って胡坐をかき、朗らかに笑った。
「はい!」
姫子は顔を上げて破顔した。
目に涙が浮かんでいる。頬は上気し、本当に嬉しそうだ。
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