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46:烏天狗の楼閣(5)
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「ところで魚。なにゆえ人に恋情を抱くことになったのだ?」
「はい。あれは去年の夏――」
さっきまでの張り詰めた空気はどこへやら、二人は向かい合って和気藹々と話し始めた。
緊張の糸が切れ、美緒は崩れるように座り込んだ。
「おい、どうした。大丈夫か?」
朝陽が茣蓙に上がって来て、隣に跪く。
「美緒?」
銀太も膝の上に乗り、つぶらな目で見上げてくる。
「どうしたって、朝陽くんのせいじゃない。本当に、どうなるかって……わたしの気も知らないで」
じわりと視界が滲み、美緒は八つ当たり気味に朝陽の肩を叩いた。
「姫子ちゃんの味方をしたいけど、金貨を100枚稼ぐなんて現実的に考えて難しいし、朝陽くんが闘って勝ってくれたほうがそりゃあ手っ取り早くて簡単かもしれないけど、それで朝陽くんが傷つくなんて嫌だし、だからって他に解決方法も見つからないし、もう頭の中ぐちゃぐちゃで、なんでわたしは何もできないんだってもう、もう、ほんとに」
涙が零れ、茣蓙に落ちて跳ねた。
「ああ、ああ、わかった。とにかく落ち着け。もう終わった、烏丸さんが金貨3枚で妥協してくれた。全部解決したから。な?」
大きな手で頭を撫でられ、美緒は目を手の甲で拭った。
「……なんでわたしはおばあちゃんみたいに闘えないんだって、後悔した。いまからでも格闘術習おうかな……」
「ばか。しなくていいよ、そんなこと」
背中に朝陽の腕が回った。
え、と思う暇もなく抱き寄せられて、心臓が跳ねる。
「必要なときはおれが闘うから。美緒はそのままでいいんだ」
幼子にするように、朝陽は一定のリズムで美緒の背中を叩いた。
もしかして、銀太にもこうしてあげていたのだろうか。
たとえば銀太が怖い夢を見たときとか。
虐められて、泣いて帰ってきたときに。
「…………」
羞恥心が頭をもたげる。
狐とはいえ、朝陽は人の姿を取っている。
それもとびきりの美形。照れるなというほうが無理だ。
でも、背中を優しく叩く手の感触が気持ち良くて、甘えることにした。
目を閉じて朝陽の胸に頬を寄せる。
「……一時はどうなることかと思ったけど、一件落着だよね。朝陽くんが烏丸さんと闘わずに済んで、本当に良かった」
「本当だよお兄ちゃん。もー、心配したんだから」
銀太の声が朝陽の肩の上から聞こえる。頬ずりでもしているようだ。
「ごめんごめん。でも、一件落着って言うにはまだ早いだろ。金貨3枚だって稼ぐのは大変だぞ」
「そうだね。何かバイト見つけなきゃだね」
人間のときも、狐のときも同じで、朝陽の身体からは良い香りがする。
心を落ち着かせてくれる香りと、陽だまりのような温もりを感じながら、美緒は微笑んだ。
もしも彼が落ち込むようなことがあれば、今度は自分が抱きしめてあげたいと、そう思った。
「はい。あれは去年の夏――」
さっきまでの張り詰めた空気はどこへやら、二人は向かい合って和気藹々と話し始めた。
緊張の糸が切れ、美緒は崩れるように座り込んだ。
「おい、どうした。大丈夫か?」
朝陽が茣蓙に上がって来て、隣に跪く。
「美緒?」
銀太も膝の上に乗り、つぶらな目で見上げてくる。
「どうしたって、朝陽くんのせいじゃない。本当に、どうなるかって……わたしの気も知らないで」
じわりと視界が滲み、美緒は八つ当たり気味に朝陽の肩を叩いた。
「姫子ちゃんの味方をしたいけど、金貨を100枚稼ぐなんて現実的に考えて難しいし、朝陽くんが闘って勝ってくれたほうがそりゃあ手っ取り早くて簡単かもしれないけど、それで朝陽くんが傷つくなんて嫌だし、だからって他に解決方法も見つからないし、もう頭の中ぐちゃぐちゃで、なんでわたしは何もできないんだってもう、もう、ほんとに」
涙が零れ、茣蓙に落ちて跳ねた。
「ああ、ああ、わかった。とにかく落ち着け。もう終わった、烏丸さんが金貨3枚で妥協してくれた。全部解決したから。な?」
大きな手で頭を撫でられ、美緒は目を手の甲で拭った。
「……なんでわたしはおばあちゃんみたいに闘えないんだって、後悔した。いまからでも格闘術習おうかな……」
「ばか。しなくていいよ、そんなこと」
背中に朝陽の腕が回った。
え、と思う暇もなく抱き寄せられて、心臓が跳ねる。
「必要なときはおれが闘うから。美緒はそのままでいいんだ」
幼子にするように、朝陽は一定のリズムで美緒の背中を叩いた。
もしかして、銀太にもこうしてあげていたのだろうか。
たとえば銀太が怖い夢を見たときとか。
虐められて、泣いて帰ってきたときに。
「…………」
羞恥心が頭をもたげる。
狐とはいえ、朝陽は人の姿を取っている。
それもとびきりの美形。照れるなというほうが無理だ。
でも、背中を優しく叩く手の感触が気持ち良くて、甘えることにした。
目を閉じて朝陽の胸に頬を寄せる。
「……一時はどうなることかと思ったけど、一件落着だよね。朝陽くんが烏丸さんと闘わずに済んで、本当に良かった」
「本当だよお兄ちゃん。もー、心配したんだから」
銀太の声が朝陽の肩の上から聞こえる。頬ずりでもしているようだ。
「ごめんごめん。でも、一件落着って言うにはまだ早いだろ。金貨3枚だって稼ぐのは大変だぞ」
「そうだね。何かバイト見つけなきゃだね」
人間のときも、狐のときも同じで、朝陽の身体からは良い香りがする。
心を落ち着かせてくれる香りと、陽だまりのような温もりを感じながら、美緒は微笑んだ。
もしも彼が落ち込むようなことがあれば、今度は自分が抱きしめてあげたいと、そう思った。
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