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58:思わせぶりな烏天狗(2)
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「ううん。だから、ヨガクレでは毎月一度、縁日を行うの。中央広場に櫓が立って、皆が櫓の周りに集まって祈りを捧げ、その祈りを受けてアマネ様が舞うんだよ。一回だけ見たことがあるんだけど、本当に綺麗だよ。舞とともに瘴気が吹き飛んで、満天の星が輝くの!」
銀太は座ったまま、興奮気味に何度も前足を振った。
おとなしい銀太がこうも強く訴えるとは、よほどのことだ。
「そうなんだ。見てみたいなぁ。人間の見学って許されるのかな?」
「アマネ様に頼めば参加させてもらえると思うよ。今日会ったらついでに聞いてみようよ」
「うん」
「お待たせしました」
と、門番が一羽の烏天狗を連れて戻って来た。
「あ」
美緒と銀太が異口同音に唱えたのは全く同じ短い言葉。
涼しげな目元、夜風にさらさらと揺れる黒髪、柔らかな弧を描く唇――この美青年は知っていた。
「黒田さん!」
歓喜して歩み寄る。
「やあ、美緒ちゃん。昨日ぶりだね。また会えて嬉しいよ。烏丸様に志願して、これからは俺が君を運ぶ担当になったから、次からは遠慮なく俺を指名して。この翼でどこまででも運んであげる」
黒田は美緒の手を取り、唇を落とすふりをした。
中世の騎士と姫の真似事だろうか。
「え、えっと、ありがとうございます。よろしくお願いしますね」
美緒は内心の狼狽を隠し、どうにか笑みを作った。
なんだか背中がむず痒い。
(おかしいな、昨日の黒田さんは話し上手な近所のお兄さんって感じで、こういうキャラじゃなかったはずなのに。からかってるなら勘弁して……)
黒田は大人の余裕たっぷりだが、異性との交際経験ゼロの美緒には上手な対処方法がわからない。
「じゃあ行こうか。目的地はアマネ様のお屋敷だね?」
美緒の心境を見抜いたのか、あっさり黒田は手を離してくれた。
「はい、お願いします。できれば急いでいただけると助かります」
「了解。銀太くんはいったん下りて」
「はい」
銀太が地面に飛び降りると、黒田は美緒の背中に腕を回した。
「ひゃあ!?」
足が地面から離れ、浮いた。
何がなんだかわからないうちに視界が滑り、気が付けば黒田に横抱きにされていた。
俗に言うお姫様抱っこ状態である。
「え、え、あの」
すぐ傍に整った顔があり、顔が燃え上がるほど熱くなった。
心臓が急激に鼓動を早めている。
「なにを驚いてるの。可愛い女の子を抱えて運ぶならお姫様抱っこ一択でしょう? それとも米俵みたいに肩に担いだり、後ろに回り込んで両脇を抱えるほうがいい?」
想像してみる。
結論は一秒で出た。
どれも嫌だ。激烈に格好悪い。
「こ……このままでお願いします」
「でしょ?」
敗北を認めると、黒田は気さくに笑い、足元の銀太に目をやった。
「銀太くんも乗って。そうだな、美緒ちゃんのお腹の上がいいかな。落ちないように抱えてて」
「はい」
幽霊なので触れはしないのだが、美緒はショルダーバッグとともに、腹の上に飛び乗って来た銀太を抱えるようなポーズを取った。
「じゃあ行くよー」
緊張感のない声で言い、黒田は背中の黒い翼を羽ばたかせて、ヨガクレの空を飛翔した。
銀太は座ったまま、興奮気味に何度も前足を振った。
おとなしい銀太がこうも強く訴えるとは、よほどのことだ。
「そうなんだ。見てみたいなぁ。人間の見学って許されるのかな?」
「アマネ様に頼めば参加させてもらえると思うよ。今日会ったらついでに聞いてみようよ」
「うん」
「お待たせしました」
と、門番が一羽の烏天狗を連れて戻って来た。
「あ」
美緒と銀太が異口同音に唱えたのは全く同じ短い言葉。
涼しげな目元、夜風にさらさらと揺れる黒髪、柔らかな弧を描く唇――この美青年は知っていた。
「黒田さん!」
歓喜して歩み寄る。
「やあ、美緒ちゃん。昨日ぶりだね。また会えて嬉しいよ。烏丸様に志願して、これからは俺が君を運ぶ担当になったから、次からは遠慮なく俺を指名して。この翼でどこまででも運んであげる」
黒田は美緒の手を取り、唇を落とすふりをした。
中世の騎士と姫の真似事だろうか。
「え、えっと、ありがとうございます。よろしくお願いしますね」
美緒は内心の狼狽を隠し、どうにか笑みを作った。
なんだか背中がむず痒い。
(おかしいな、昨日の黒田さんは話し上手な近所のお兄さんって感じで、こういうキャラじゃなかったはずなのに。からかってるなら勘弁して……)
黒田は大人の余裕たっぷりだが、異性との交際経験ゼロの美緒には上手な対処方法がわからない。
「じゃあ行こうか。目的地はアマネ様のお屋敷だね?」
美緒の心境を見抜いたのか、あっさり黒田は手を離してくれた。
「はい、お願いします。できれば急いでいただけると助かります」
「了解。銀太くんはいったん下りて」
「はい」
銀太が地面に飛び降りると、黒田は美緒の背中に腕を回した。
「ひゃあ!?」
足が地面から離れ、浮いた。
何がなんだかわからないうちに視界が滑り、気が付けば黒田に横抱きにされていた。
俗に言うお姫様抱っこ状態である。
「え、え、あの」
すぐ傍に整った顔があり、顔が燃え上がるほど熱くなった。
心臓が急激に鼓動を早めている。
「なにを驚いてるの。可愛い女の子を抱えて運ぶならお姫様抱っこ一択でしょう? それとも米俵みたいに肩に担いだり、後ろに回り込んで両脇を抱えるほうがいい?」
想像してみる。
結論は一秒で出た。
どれも嫌だ。激烈に格好悪い。
「こ……このままでお願いします」
「でしょ?」
敗北を認めると、黒田は気さくに笑い、足元の銀太に目をやった。
「銀太くんも乗って。そうだな、美緒ちゃんのお腹の上がいいかな。落ちないように抱えてて」
「はい」
幽霊なので触れはしないのだが、美緒はショルダーバッグとともに、腹の上に飛び乗って来た銀太を抱えるようなポーズを取った。
「じゃあ行くよー」
緊張感のない声で言い、黒田は背中の黒い翼を羽ばたかせて、ヨガクレの空を飛翔した。
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