美緒と狐とあやかし語り〜あなたのお悩み、解決します!〜

星名柚花

文字の大きさ
68 / 127

68:ハッピーエンドを愛する幽霊(3)

しおりを挟む
「……そんなこともできるんですね」
「ええ。幽霊だもの」

(そっか。幽霊は憑依できるんだ。ってことは、銀太くんも誰かに乗り移ったりできる……?)

 もし銀太が朝陽に乗り移って、美緒と抱きしめ合えたら、朝陽の心残りも少しは晴れるだろうか。

 帰ったら銀太に聞いてみようと考えていると、隣のテーブルにいた男子生徒たちがこちらを見ていた。
 さっきからこいつは何を一人で喋っているのだろう。そんな顔をしている。

「あらら。これじゃ美緒ちゃんが変人扱いされてしまうわね。私はこれでお暇するわ。またお話しましょう」
 空気を読んだ幽子は長い髪を翻し、歩いて行った。
 彼女が幽霊らしく消え去るか、人間のように歩き去るかはそのときの気分次第だ。

 美緒は荷物をまとめて鞄に入れた。
 図書室へ行き、幽子に言われた本を探す。

 一番上の右端から三番目、赤い背表紙の『西洋哲学史』――これだなと思って手を伸ばすが身長が足りない。
 幽子に身体を貸した生徒は背が高い女子か、あるいは男子だったのかもしれない。

 美緒は爪先立ちし、指の爪を本に引っ掛け、どうにか取り出した。

 表紙を開いてすぐに挟まっていたルーズリーフを抜き取り、苦労して本を押し入れる。

 書架の間でルーズリーフを開き、美緒は硬直した。

 ルーズリーフには制服姿の姫子と優が描かれていた。
 見慣れた学校の椅子に座る姫子に優が手を差し伸べ、姫子が手を重ねている。

 二人とも幸せそうな笑顔だった。

 画材はシャープペンらしく、黒の濃淡をつけて描き出されたイラストは生き生きとして鮮やかで、いまにも動き出しそうな躍動感があった。

 イラストの上には文字。

『人魚姫がハッピーエンドでありますように』

 少々癖のある、丸みを帯びた文字でそう書いている。

「………………」
 心臓が早鐘を打ち始めた。
 イラストから目が離せない。口内が渇く。ルーズリーフを持つ手が震える。

 物凄い勢いで銀太や朝陽たちから教えられた幽子の情報が、自分が手に入れた情報が、脳内に展開されていく。

 読書が好き。中でも特に好きなのは童話。
 この学校にいる間も、生徒が童話の本を開けば横で見て、世界中の童話を読んだ。

 ――私、人魚姫って悲しいお話だからあんまり好きじゃないのよね。でも、姫子ちゃんの物語はハッピーエンドで締めくくれそうで嬉しい。

(わたしも、ハッピーエンドが好き)
 それは母の影響だ。

 母はハッピーエンドが好きだった。
 だから、わざわざ自作の絵本まで作り、人魚姫の物語をハッピーエンドに改変して娘に聞かせた。

 母の絵本の中では、人魚姫はシンデレラのように、王子様と結ばれた。

 小学校低学年の頃、読書好きだった友達との何気ない会話から人魚姫の本当の結末を知り、美緒は大変なショックを受けた。

 文句を言いたかったけれど、小学生になる前に母はいなくなっていた。
 幽子がこの学校にいたのは十年。

 ちょうど十年前、美緒の母は病気で死んだ。

(そんな)
 イラストのタッチ、人魚姫という文字の書き方。

 それはいまでも大切に取ってある、母手作りの『人魚姫』と同一だった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

後宮の手かざし皇后〜盲目のお飾り皇后が持つ波動の力〜

二位関りをん
キャラ文芸
龍の国の若き皇帝・浩明に5大名家の娘である美華が皇后として嫁いできた。しかし美華は病により目が見えなくなっていた。 そんな美華を冷たくあしらう浩明。婚儀の夜、美華の目の前で彼女付きの女官が心臓発作に倒れてしまう。 その時。美華は慌てること無く駆け寄り、女官に手をかざすと女官は元気になる。 どうも美華には不思議な力があるようで…?

高塚くんの愛はとっても重いらしい

橋本彩里(Ayari)
恋愛
時期外れ、しかも偏差値の高い有名校からなぜかわざわざやってきた話題の転校生。 「どこに隠れていたの?」 そんな彼に、突然探していたと莉乃は背後から抱きしめられ、強引に連れて行かれる。 その日から莉乃は高塚くんに振り回される毎日。 この関係は何? 悩みながらもまるで大事な恋人のように莉乃を扱う彼に絆されかけていた、あの言葉を聞くまでは……。 高塚くんの重愛と狂愛。 すれ違いラブ。 見目がいいだけの男ではないのでご注意ください。 表紙イラストは友人のkouma.作です。

芙蓉は後宮で花開く

速見 沙弥
キャラ文芸
下級貴族の親をもつ5人姉弟の長女 蓮花《リェンファ》。 借金返済で苦しむ家計を助けるために後宮へと働きに出る。忙しくも穏やかな暮らしの中、出会ったのは翡翠の色の目をした青年。さらに思いもよらぬ思惑に巻き込まれてゆくーーー カクヨムでも連載しております。

一億円の花嫁

藤谷 郁
恋愛
奈々子は家族の中の落ちこぼれ。 父親がすすめる縁談を断り切れず、望まぬ結婚をすることになった。 もうすぐ自由が無くなる。せめて最後に、思いきり贅沢な時間を過ごそう。 「きっと、素晴らしい旅になる」 ずっと憧れていた高級ホテルに到着し、わくわくする奈々子だが…… 幸か不幸か!? 思いもよらぬ、運命の出会いが待っていた。 ※エブリスタさまにも掲載

10年引きこもりの私が外に出たら、御曹司の妻になりました

専業プウタ
恋愛
25歳の桜田未来は中学生から10年以上引きこもりだったが、2人暮らしの母親の死により外に出なくてはならなくなる。城ヶ崎冬馬は女遊びの激しい大手アパレルブランドの副社長。彼をストーカーから身を張って助けた事で未来は一時的に記憶喪失に陥る。冬馬はちょっとした興味から、未来は自分の恋人だったと偽る。冬馬は未来の純粋さと直向きさに惹かれていき、嘘が明らかになる日を恐れながらも未来の為に自分を変えていく。そして、未来は恐れもなくし、愛する人の胸に飛び込み夢を叶える扉を自ら開くのだった。

子供にしかモテない私が異世界転移したら、子連れイケメンに囲まれて逆ハーレム始まりました

もちもちのごはん
恋愛
地味で恋愛経験ゼロの29歳OL・春野こはるは、なぜか子供にだけ異常に懐かれる特異体質。ある日突然異世界に転移した彼女は、育児に手を焼くイケメンシングルファザーたちと出会う。泣き虫姫や暴れん坊、野生児たちに「おねえしゃん大好き!!」とモテモテなこはるに、彼らのパパたちも次第に惹かれはじめて……!? 逆ハーレム? ざまぁ? そんなの知らない!私はただ、子供たちと平和に暮らしたいだけなのに――!

理想の男性(ヒト)は、お祖父さま

たつみ
恋愛
月代結奈は、ある日突然、見知らぬ場所に立っていた。 そこで行われていたのは「正妃選びの儀」正妃に側室? 王太子はまったく好みじゃない。 彼女は「これは夢だ」と思い、とっとと「正妃」を辞退してその場から去る。 彼女が思いこんだ「夢設定」の流れの中、帰った屋敷は超アウェイ。 そんな中、現れたまさしく「理想の男性」なんと、それは彼女のお祖父さまだった! 彼女を正妃にするのを諦めない王太子と側近魔術師サイラスの企み。 そんな2人から彼女守ろうとする理想の男性、お祖父さま。 恋愛よりも家族愛を優先する彼女の日常に否応なく訪れる試練。 この世界で彼女がくだす決断と、肝心な恋愛の結末は?  ◇◇◇◇◇設定はあくまでも「貴族風」なので、現実の貴族社会などとは異なります。 本物の貴族社会ではこんなこと通用しない、ということも多々あります。 R-Kingdom_1 他サイトでも掲載しています。

俺様上司に今宵も激しく求められる。

美凪ましろ
恋愛
 鉄面皮。無表情。一ミリも笑わない男。  蒔田一臣、あたしのひとつうえの上司。  ことあるごとに厳しくあたしを指導する、目の上のたんこぶみたいな男――だったはずが。 「おまえの顔、えっろい」  神様仏様どうしてあたしはこの男に今宵も激しく愛しこまれているのでしょう。  ――2000年代初頭、IT系企業で懸命に働く新卒女子×厳しめの俺様男子との恋物語。 **2026.01.02start~2026.01.17end**

処理中です...