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70:大鬼の招待(2)
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ふと辺りが暗くなった。
視線だけ上げて見れば、大きな鳥に乗った猿や狐が何匹か空を飛んでいる。
たすき掛けにした赤い鞄。
赤い帽子を被る彼らは新聞配達員で、帽子と鞄に入ったマークが新聞配達員の印なのだと朝陽に聞いた。
ちなみに朝陽も小さい頃、あの鳥に乗って新聞配達員のバイトをしたことがあるらしい。
新聞配達員に郵便配達員に町中の掃除、ベビーシッター等々、とにかく雇ってもらえるならどこでも働いたという。銀太を養い、育てた苦労が窺い知れる。
「それじゃ今日の担当区ですが、ほとんどの人は昨日と一緒です。蘇芳、薄紅、銀朱《ぎんしゅ》を寛爾《かんじ》さん。瑠璃、青藍《せいらん》、紺碧《こんぺき》を義経《よしつね》さん――」
黒田が言っているのは町の名前だ。
ヨガクレの町は全て色の名前なのである。
「――金色《こんじき》、金糸雀《かなりあ》、山吹《やまぶき》を朝陽くん。茜、真紅、臙脂《えんじ》を姫子ちゃん。で、美緒ちゃんなんだけど」
「はい?」
担当区域は正体の色にちなんで決まったんだろうな、と呑気に考えていた美緒は、急に名前を呼ばれて目を瞬いた。
「今日は違うところに行ってもらいたいんだ。どんな桜も見事に咲かせる君の高い評価を聞きつけた方がおられてね。是非君を招き、屋敷の花を咲かせてほしいとのご依頼だ。依頼料は前払いで頂いていて、今日の手当ては2倍になる」
「わあ」
美緒は胸の前で手を合わせて喜んだ。
収入が増えれば姫子の願いの実現がそれだけ近くなる。
いままで「時間をかけすぎ」だの「ただ粉を撒けばいいだけなのになんでいちいち木の一本一本に祈るのか」だの「なんで小便臭い人間の小娘なんぞが儂らに混じって働いとるんじゃ。花祈りは儂らの仕事じゃぞ」と烏天狗に陰口を叩かれてきたが、真面目に仕事していて良かった。
同時に、担当区域のあやかしたちと会えなくて残念だなとも思う。
この三週間で顔見知りも増えた。
気難しい山姥のおばあさんも挨拶を返してくれるようになったし、担当区域に住むあやかしの子どもたちも朝の散歩がてら、花を咲かせて回る美緒の後をついてきて、一緒に桜に祈ったりもする。
(あの子たちもそうだけど、綿ウサギたちも、わたしがいないと少しは気にするかな)
一週間ほど前、美緒はウサギのような長い耳を持つ小動物に粉の入った籠を奪われた。
朝陽にヨガクレに連れて来てもらった日、茂みの向こうから伺うようにこちらを見ていたあの小動物だ。
正式名称は綿ウサギ。
綿のようにふわふわな毛を持っていて、ウサギのような長い耳を持つから。
何の捻りもない、わかりやすいネーミングだ。
大慌てで綿ウサギを追いかけると、綿ウサギは路地裏で小さな三匹の綿ウサギ、恐らく子どもに粉を食べさせていた。
粉の原料はヨガクレの大地を流れる霊脈なので、あやかしが食べれば霊力の回復効果が見込めると黒田が言っていた。
ただし超まずいし苦い。要するに全然美味しくない、とも。
視線だけ上げて見れば、大きな鳥に乗った猿や狐が何匹か空を飛んでいる。
たすき掛けにした赤い鞄。
赤い帽子を被る彼らは新聞配達員で、帽子と鞄に入ったマークが新聞配達員の印なのだと朝陽に聞いた。
ちなみに朝陽も小さい頃、あの鳥に乗って新聞配達員のバイトをしたことがあるらしい。
新聞配達員に郵便配達員に町中の掃除、ベビーシッター等々、とにかく雇ってもらえるならどこでも働いたという。銀太を養い、育てた苦労が窺い知れる。
「それじゃ今日の担当区ですが、ほとんどの人は昨日と一緒です。蘇芳、薄紅、銀朱《ぎんしゅ》を寛爾《かんじ》さん。瑠璃、青藍《せいらん》、紺碧《こんぺき》を義経《よしつね》さん――」
黒田が言っているのは町の名前だ。
ヨガクレの町は全て色の名前なのである。
「――金色《こんじき》、金糸雀《かなりあ》、山吹《やまぶき》を朝陽くん。茜、真紅、臙脂《えんじ》を姫子ちゃん。で、美緒ちゃんなんだけど」
「はい?」
担当区域は正体の色にちなんで決まったんだろうな、と呑気に考えていた美緒は、急に名前を呼ばれて目を瞬いた。
「今日は違うところに行ってもらいたいんだ。どんな桜も見事に咲かせる君の高い評価を聞きつけた方がおられてね。是非君を招き、屋敷の花を咲かせてほしいとのご依頼だ。依頼料は前払いで頂いていて、今日の手当ては2倍になる」
「わあ」
美緒は胸の前で手を合わせて喜んだ。
収入が増えれば姫子の願いの実現がそれだけ近くなる。
いままで「時間をかけすぎ」だの「ただ粉を撒けばいいだけなのになんでいちいち木の一本一本に祈るのか」だの「なんで小便臭い人間の小娘なんぞが儂らに混じって働いとるんじゃ。花祈りは儂らの仕事じゃぞ」と烏天狗に陰口を叩かれてきたが、真面目に仕事していて良かった。
同時に、担当区域のあやかしたちと会えなくて残念だなとも思う。
この三週間で顔見知りも増えた。
気難しい山姥のおばあさんも挨拶を返してくれるようになったし、担当区域に住むあやかしの子どもたちも朝の散歩がてら、花を咲かせて回る美緒の後をついてきて、一緒に桜に祈ったりもする。
(あの子たちもそうだけど、綿ウサギたちも、わたしがいないと少しは気にするかな)
一週間ほど前、美緒はウサギのような長い耳を持つ小動物に粉の入った籠を奪われた。
朝陽にヨガクレに連れて来てもらった日、茂みの向こうから伺うようにこちらを見ていたあの小動物だ。
正式名称は綿ウサギ。
綿のようにふわふわな毛を持っていて、ウサギのような長い耳を持つから。
何の捻りもない、わかりやすいネーミングだ。
大慌てで綿ウサギを追いかけると、綿ウサギは路地裏で小さな三匹の綿ウサギ、恐らく子どもに粉を食べさせていた。
粉の原料はヨガクレの大地を流れる霊脈なので、あやかしが食べれば霊力の回復効果が見込めると黒田が言っていた。
ただし超まずいし苦い。要するに全然美味しくない、とも。
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