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83:枝垂桜の不穏な警告(3)
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「……枝垂桜の精さん。では、姿を表さなくても構いませんので、どうかこれを受け取ってください。大地を流れる霊脈から抽出した粉です。不足する栄養があるのなら、これで補えるはずなので」
美緒は精霊との直接対話を諦め、枝垂桜の根元に粉を撒いた。
この粉は触れたもの全てを活性化するため、丁寧に撒かなければならない。
烏天狗は空を飛びながら撒くので非常に仕事が早いが、桜と同時に周囲の雑草まで茂らせている。
でも、美緒はこうして腰を曲げ、なるべく桜だけを咲かせるように心がけていた。この丁寧さこそ、仕事ぶりが高く評価されることになった所以だ。
「それ、いいわねえ」
右手から声がして、顔を向けると、着物姿の美しい女性がいた。
「もっともっと美しく咲き誇って茨様に褒めていただきたいの。私にも振りかけてちょうだいな」
「私にも」
「私にも」
あちこちから声があがった。
見回せば、桜の精たちがそれぞれの木の前に姿を現していた。
皆、薄紅色の着物を着た二十歳前後の美女の姿だ。
「はい」
美緒は要求に応えて粉を撒いていった。
元々三つの町をカバーできるほどの粉があるので、ストックには十分に余裕がある。
「ありがとう。これで茨様も私の虜よ」
「馬鹿ね、私のほうが美しいわ。茨様の目を釘付けにするのは私」
粉を撒きながら、周囲で言い合う桜の精たちの声を聞き、茨は大人気なんだなぁと思い知った。
鬼も桜の精も茨に夢中らしい。ここにいるあやかしは皆そうなのだろうか。
「あー、身体中に力が漲るっ。生き返るわー!」
最後に粉を撒いた桜の精は一人だけ様子が違った。
髪を結い上げた、見るからに活発そうな桜の精は、茨を讃える他の桜の精たちを無視して大きく伸びをした。
淑やかで上品な桜の精しか見たことのなかった美緒はびっくりして手を止めた。
「あらやだ。ごめんあそばせ」
美女はほほほと笑って着物の袖で口元を隠した。
曖昧に笑って応じ、そそくさと粉を撒く作業に戻る。
「もういいわ、十分よ。粉のお礼と失礼のお詫びにいいこと教えてあげる。お探しの新入りちゃんならあっちにいるわよ。ほら、あそこ。池の橋の上をよーく御覧なさい。あの子、気配が薄いから目を凝らさないと見えないわよ」
桜の精は池を指した。
言われた通りにじっと目を凝らせば、ぼんやりと人の影がある。
赤い髪をおかっぱにした、周囲の桜の精よりも濃いピンク色の着物を纏った、小さな背中。
外見年齢は十歳かそこらだ。
美緒はその子に駆け寄った。
「枝垂桜の精ちゃん?」
「馴れ馴れしくちゃん付けするな」
その子は俯いて池を見下ろしたまま、幼子特有の高い声で即座に注意してきた。
気が強く、扱いが難しそうな子だと思った。
美緒は精霊との直接対話を諦め、枝垂桜の根元に粉を撒いた。
この粉は触れたもの全てを活性化するため、丁寧に撒かなければならない。
烏天狗は空を飛びながら撒くので非常に仕事が早いが、桜と同時に周囲の雑草まで茂らせている。
でも、美緒はこうして腰を曲げ、なるべく桜だけを咲かせるように心がけていた。この丁寧さこそ、仕事ぶりが高く評価されることになった所以だ。
「それ、いいわねえ」
右手から声がして、顔を向けると、着物姿の美しい女性がいた。
「もっともっと美しく咲き誇って茨様に褒めていただきたいの。私にも振りかけてちょうだいな」
「私にも」
「私にも」
あちこちから声があがった。
見回せば、桜の精たちがそれぞれの木の前に姿を現していた。
皆、薄紅色の着物を着た二十歳前後の美女の姿だ。
「はい」
美緒は要求に応えて粉を撒いていった。
元々三つの町をカバーできるほどの粉があるので、ストックには十分に余裕がある。
「ありがとう。これで茨様も私の虜よ」
「馬鹿ね、私のほうが美しいわ。茨様の目を釘付けにするのは私」
粉を撒きながら、周囲で言い合う桜の精たちの声を聞き、茨は大人気なんだなぁと思い知った。
鬼も桜の精も茨に夢中らしい。ここにいるあやかしは皆そうなのだろうか。
「あー、身体中に力が漲るっ。生き返るわー!」
最後に粉を撒いた桜の精は一人だけ様子が違った。
髪を結い上げた、見るからに活発そうな桜の精は、茨を讃える他の桜の精たちを無視して大きく伸びをした。
淑やかで上品な桜の精しか見たことのなかった美緒はびっくりして手を止めた。
「あらやだ。ごめんあそばせ」
美女はほほほと笑って着物の袖で口元を隠した。
曖昧に笑って応じ、そそくさと粉を撒く作業に戻る。
「もういいわ、十分よ。粉のお礼と失礼のお詫びにいいこと教えてあげる。お探しの新入りちゃんならあっちにいるわよ。ほら、あそこ。池の橋の上をよーく御覧なさい。あの子、気配が薄いから目を凝らさないと見えないわよ」
桜の精は池を指した。
言われた通りにじっと目を凝らせば、ぼんやりと人の影がある。
赤い髪をおかっぱにした、周囲の桜の精よりも濃いピンク色の着物を纏った、小さな背中。
外見年齢は十歳かそこらだ。
美緒はその子に駆け寄った。
「枝垂桜の精ちゃん?」
「馴れ馴れしくちゃん付けするな」
その子は俯いて池を見下ろしたまま、幼子特有の高い声で即座に注意してきた。
気が強く、扱いが難しそうな子だと思った。
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