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85:枝垂桜の不穏な警告(5)
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(……なんだ。なにもないじゃない)
そのうちに朝陽が立ち上がり、茨に一礼してから客間を出て行った。
まさか美緒を置いて帰ることになったのでは。
顔色を青ざめさせた美緒は、玄関へと走った。
敵だらけの屋敷に一人ぼっちなんて恐ろしすぎる。
どれだけ朝陽の存在が精神的支柱になっていたのかを思い知りながら、息を切らして玄関へ行くと、ちょうど朝陽が出てきた。
「朝陽くん、帰っちゃうの!?」
朝陽は突然の叫びに面食らった顔をして、噴き出した。
よっぽど美緒は酷い顔をしていたらしい。涙目になっていた自覚はあった。
「いや。話はつけたよ。おれも美緒がいる間はここにいていいってさ」
安堵のあまり腰が砕けた。
へなへなと座り込むと、朝陽が慌てて「大丈夫か?」と屈み、手を差し伸べてくれた。
「うん、大丈夫……でも、本当に良かった」
ふにゃりと気の抜けた笑みを浮かべ、朝陽の手を借りて立ち上がると、彼は笑った。楽しそうに。
「おれが帰ったら寂しい?」
「えっ。そ、それは……もちろん」
「素直でよろしい」
朝陽は美緒の頭を撫でた。
完全に子ども扱いだ。
美緒は頬を膨らませたが、それどころではないと表情を改めた。
「難しい顔してたけど、茨さんに何か言われた? 大丈夫だった?」
茨は朝陽に随分な暴言を吐いた。いまだに根に持っている。
さらなる暴言を吐かれたのなら今度こそ怒ろう。
失礼極まりない鬼の枝垂桜なんて知るかと仕事を放棄してやる。
烏丸や黒田は一度引き受けた仕事を投げ出すとは何事かと怒り、罰として減俸されるかもしれないが、姫子は許してくれるだろう。
銀太は大変だったねお兄ちゃんと、あの可愛い姿と声で兄を慰めるはずだ。
「大丈夫。どっちかっていうとおれが喧嘩を売ったかな」
「えええ!? なんでそんなことに!? さっきは怒らなかったじゃない、やっぱり……もっと酷いこと言われたの?」
最後はトーンを落とし、心持ち頭を下げ、窺うように尋ねる。
朝陽は何故か美緒をじっと見つめてから、かぶりを振った。
「大したことじゃないよ。それよりそっちはどうだ? 花は咲かせられたのか?」
「それが……」
顛末を話すと、朝陽は顎に手を当てて考え込んだ。
紅雪が最後に吐き捨てた謎の言葉は話さなかった。
ただでさえ緊張している朝陽をいたずらに不安にさせるだけだと思ったから。
「……そっか。まあ、焦らず気長に行こう。といっても、土日で終わらせような。おれも長居はしたくないし。どうも客間だけじゃなくて色んな部屋で香を焚いてるみたいだ。臭くてかなわない」
朝陽は辟易したような顔で嘆いた。
「そんなに苦手なの? 花の匂い」
首を傾げる。
「……。鼻が利かない奴はいいよなぁ……」
朝陽は本当に恨めしそうだった。よっぽど辛いらしい。
「わ、わかった。またすぐ紅雪ちゃんと話してみるよ」
励ましを込めて、美緒はぽんぽんと朝陽の腕を叩いた。
「早く帰れるように頑張るから。そうだ、帰ったらココア淹れてほしいな」
「ああ、任せとけ」
笑い合う二人の頭上で、星が流れた。
そのうちに朝陽が立ち上がり、茨に一礼してから客間を出て行った。
まさか美緒を置いて帰ることになったのでは。
顔色を青ざめさせた美緒は、玄関へと走った。
敵だらけの屋敷に一人ぼっちなんて恐ろしすぎる。
どれだけ朝陽の存在が精神的支柱になっていたのかを思い知りながら、息を切らして玄関へ行くと、ちょうど朝陽が出てきた。
「朝陽くん、帰っちゃうの!?」
朝陽は突然の叫びに面食らった顔をして、噴き出した。
よっぽど美緒は酷い顔をしていたらしい。涙目になっていた自覚はあった。
「いや。話はつけたよ。おれも美緒がいる間はここにいていいってさ」
安堵のあまり腰が砕けた。
へなへなと座り込むと、朝陽が慌てて「大丈夫か?」と屈み、手を差し伸べてくれた。
「うん、大丈夫……でも、本当に良かった」
ふにゃりと気の抜けた笑みを浮かべ、朝陽の手を借りて立ち上がると、彼は笑った。楽しそうに。
「おれが帰ったら寂しい?」
「えっ。そ、それは……もちろん」
「素直でよろしい」
朝陽は美緒の頭を撫でた。
完全に子ども扱いだ。
美緒は頬を膨らませたが、それどころではないと表情を改めた。
「難しい顔してたけど、茨さんに何か言われた? 大丈夫だった?」
茨は朝陽に随分な暴言を吐いた。いまだに根に持っている。
さらなる暴言を吐かれたのなら今度こそ怒ろう。
失礼極まりない鬼の枝垂桜なんて知るかと仕事を放棄してやる。
烏丸や黒田は一度引き受けた仕事を投げ出すとは何事かと怒り、罰として減俸されるかもしれないが、姫子は許してくれるだろう。
銀太は大変だったねお兄ちゃんと、あの可愛い姿と声で兄を慰めるはずだ。
「大丈夫。どっちかっていうとおれが喧嘩を売ったかな」
「えええ!? なんでそんなことに!? さっきは怒らなかったじゃない、やっぱり……もっと酷いこと言われたの?」
最後はトーンを落とし、心持ち頭を下げ、窺うように尋ねる。
朝陽は何故か美緒をじっと見つめてから、かぶりを振った。
「大したことじゃないよ。それよりそっちはどうだ? 花は咲かせられたのか?」
「それが……」
顛末を話すと、朝陽は顎に手を当てて考え込んだ。
紅雪が最後に吐き捨てた謎の言葉は話さなかった。
ただでさえ緊張している朝陽をいたずらに不安にさせるだけだと思ったから。
「……そっか。まあ、焦らず気長に行こう。といっても、土日で終わらせような。おれも長居はしたくないし。どうも客間だけじゃなくて色んな部屋で香を焚いてるみたいだ。臭くてかなわない」
朝陽は辟易したような顔で嘆いた。
「そんなに苦手なの? 花の匂い」
首を傾げる。
「……。鼻が利かない奴はいいよなぁ……」
朝陽は本当に恨めしそうだった。よっぽど辛いらしい。
「わ、わかった。またすぐ紅雪ちゃんと話してみるよ」
励ましを込めて、美緒はぽんぽんと朝陽の腕を叩いた。
「早く帰れるように頑張るから。そうだ、帰ったらココア淹れてほしいな」
「ああ、任せとけ」
笑い合う二人の頭上で、星が流れた。
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