美緒と狐とあやかし語り〜あなたのお悩み、解決します!〜

星名柚花

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87:誰?(2)

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「あのお、廊下に出て来てもらえないでしょうか……お渡ししたいものがあるんですが」
 気弱そうな男性の声が聞こえた。
 攻撃的な意思は感じないが、しかし油断は禁物である。

「……。はい」
 歩み寄って障子を開けると、眼鏡をかけた細身の優男が立っていた。
 外見年齢は二十かそこら。
 目は新緑のように鮮やかな緑で、髪は白。
 眉の上から生えた角は茨よりも控えめで、なんとなく書斎が似合いそうだ。間違っても荒事向きには見えない。

 着物は落ち着いたモスグリーン。
 襟を合わせ、きちんと帯を締めているが、姿勢は極端に前かがみの猫背だ。
 彼は左手にビニール袋を提げていた。

 全ての印象において茨と対極なその鬼は、目が合うと気まずそうに伏せた。どこかおどおどした、怯えたような態度。

「これ、飲み物です。食事のときに飲み物がないと大変でしょう? すみません、うちの使用人たちが隠したようで、とんだ失礼を」
「え、いえ」
 頭を下げられ、反射的に頭を下げる一方、大いに混乱していた。
 敵だらけのこの屋敷において、美緒に敬意を払う鬼がいるとは露にも思わなかった。

(『うちの』使用人って、どういうことだろう?)
「どうぞ」
「ありがとうございます」
 不思議に思いつつも、美緒は差し出されたビニール袋を受け取った。

「ではそういうことで」
 鬼は踵を返した。

「えっ。あの、せめてお名前を」
「いえ。名乗るほどのものではありませんので」
 鬼は逃げるように早足で廊下を歩いていった。これではどちらが鬼なのかわからない。

 美緒はぽかんとした後、ビニール袋を開いてみた。
 五百ミリリットルのお茶と水のペットボトルが一本ずつ入っていた。
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