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106:一世一代の大勝負(2)
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「うむ」
茨はどかりと座布団に腰を下ろした。
「しかしこれはなんだ?」
茨が顎で示したのは、茶器の隣に置かれた鳥籠。
鉄製の鳥籠は花や蔦で華やかに飾り付けられ、周囲に果物がちりばめられていた。
「装飾です。ただ果物を置くのも味気ないかなと愚考しまして……お気に召さないようであればいますぐ撤去しますが」
「ふん。やはり下賤よの、感性を疑うわ」
「申し訳ございません」
「まあ良かろう。許す」
茨はリンゴを手に取って齧った。茨が果物の中でリンゴが好きだというのもリサーチ済みである。
「さっさと花を咲かせろ。花見会に愛でるべき花がないなどお笑い種だろうが」
「はい。それでは始めさせていただきます。よろしくお願いしますね、皆さま」
使用人たちに一声かけてから、美緒と朝陽はそれぞれ右手に扇を、左手に粉の入った籠を下げ、美緒は桜の木々の左手に、朝陽は右手へと移動した。
美緒がすっと右手に持った扇を上げると、使用人たちが音楽を奏で始めた。
曲の名は知らない。
ただ、ヨガクレに古くから伝わる民謡だと聞いた。
きっと茨を始め、他の鬼たちも知っているだろう。全く知らない曲よりも知っている曲のほうが客も乗りやすい。
美緒と朝陽は曲に合わせ、左右対称の動きで踊りながら籠に扇を差し入れ、扇を跳ね上げて桜の木に粉を振りかけた。
桜の木は曲と美緒たちの踊りに合わせて次々と花を咲かせていく。
ゆっくりとした曲調のときは枝葉の先から幹に向かってゆっくりと一つずつ花が開いていき、激しい曲調のときは美緒たちが一気に粉を振りかけるのに合わせて六つの木が満開に。
つぼみも何もつけていなかった桜が一瞬で花開く様は圧巻だ。
扇を振り、回し、舞い踊りながら横目で見れば茨も満足そうである。
いよいよクライマックス、残すのは桜の木々の中央にある枝垂桜だけとなった。
二ヵ月もの間、頑なに咲かなかった枝垂桜――紅雪。
ここが山場とばかりに音楽が盛り上がる。
ドラムロールのように激しい旋律が鳴り響く中、傍まで来た朝陽が狐へと変化し、籠の中に突っ込んで全身に粉を浴びた。
何が始まるのかと観客が興奮気味に見守る中、美緒は狐となった朝陽を胸に抱え、回転をつけて空高く放り上げた。
朝陽がくるくると回転し、全身から光の粉をまき散らす。
(紅雪ちゃん、お願い!)
光り輝く粉を浴びて、枝垂桜はついに花開いた。
周りの木々よりも色濃い花が満天の星の下、夢のように美しく咲き誇る。
朝陽は落下途中で人へ戻り、膝を折り曲げ、地面に片手をついて着地した。
そして満開の枝垂桜を背景に立ち上がり、優雅に一礼。
見守る鬼たちから、おお、と感嘆の声と拍手が起きた。
茨はどかりと座布団に腰を下ろした。
「しかしこれはなんだ?」
茨が顎で示したのは、茶器の隣に置かれた鳥籠。
鉄製の鳥籠は花や蔦で華やかに飾り付けられ、周囲に果物がちりばめられていた。
「装飾です。ただ果物を置くのも味気ないかなと愚考しまして……お気に召さないようであればいますぐ撤去しますが」
「ふん。やはり下賤よの、感性を疑うわ」
「申し訳ございません」
「まあ良かろう。許す」
茨はリンゴを手に取って齧った。茨が果物の中でリンゴが好きだというのもリサーチ済みである。
「さっさと花を咲かせろ。花見会に愛でるべき花がないなどお笑い種だろうが」
「はい。それでは始めさせていただきます。よろしくお願いしますね、皆さま」
使用人たちに一声かけてから、美緒と朝陽はそれぞれ右手に扇を、左手に粉の入った籠を下げ、美緒は桜の木々の左手に、朝陽は右手へと移動した。
美緒がすっと右手に持った扇を上げると、使用人たちが音楽を奏で始めた。
曲の名は知らない。
ただ、ヨガクレに古くから伝わる民謡だと聞いた。
きっと茨を始め、他の鬼たちも知っているだろう。全く知らない曲よりも知っている曲のほうが客も乗りやすい。
美緒と朝陽は曲に合わせ、左右対称の動きで踊りながら籠に扇を差し入れ、扇を跳ね上げて桜の木に粉を振りかけた。
桜の木は曲と美緒たちの踊りに合わせて次々と花を咲かせていく。
ゆっくりとした曲調のときは枝葉の先から幹に向かってゆっくりと一つずつ花が開いていき、激しい曲調のときは美緒たちが一気に粉を振りかけるのに合わせて六つの木が満開に。
つぼみも何もつけていなかった桜が一瞬で花開く様は圧巻だ。
扇を振り、回し、舞い踊りながら横目で見れば茨も満足そうである。
いよいよクライマックス、残すのは桜の木々の中央にある枝垂桜だけとなった。
二ヵ月もの間、頑なに咲かなかった枝垂桜――紅雪。
ここが山場とばかりに音楽が盛り上がる。
ドラムロールのように激しい旋律が鳴り響く中、傍まで来た朝陽が狐へと変化し、籠の中に突っ込んで全身に粉を浴びた。
何が始まるのかと観客が興奮気味に見守る中、美緒は狐となった朝陽を胸に抱え、回転をつけて空高く放り上げた。
朝陽がくるくると回転し、全身から光の粉をまき散らす。
(紅雪ちゃん、お願い!)
光り輝く粉を浴びて、枝垂桜はついに花開いた。
周りの木々よりも色濃い花が満天の星の下、夢のように美しく咲き誇る。
朝陽は落下途中で人へ戻り、膝を折り曲げ、地面に片手をついて着地した。
そして満開の枝垂桜を背景に立ち上がり、優雅に一礼。
見守る鬼たちから、おお、と感嘆の声と拍手が起きた。
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